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14.0-02 新天地2

 2人が降りた森の中は、それほど背丈が高くない草が生い茂る場所だった。背の低いワルツたちが歩いても、埋もれてしまわない程度の高さの草が、背の高い針葉樹の隙間にビッシリと生い茂る。そんな場所だ。


「ここって、冬になると雪がそれなりに積もりそうね」


「えっ?どうしてそう思ったの?」


「雪が積もらない場所って、植生がちょっと違うから、もっと鬱蒼と生い茂っていたりして、森の中が暗いのよ。樹海っていうの?それに比べて、ここって毎年冬になると枯れる種類の植物ばかりで背が低いから空が見えてるし、しかも生えてる木って寒さに強い針葉樹でしょ?」


「ふーん。どうしてそんなに詳しいの?」


「故郷がこんな感じの場所だから?」


「……そっか(お姉ちゃん、お家に帰りたいのかなぁ?)」


 ワルツの表情が少しだけ曇った様子を見逃さなかったルシアは、ふとそんな考えに思い至った。ワルツが機動装甲を失った事によって、彼女が自信の故郷に戻る手段を失ってしまったことをルシアは気付いていたのだ。


 だが、ルシアにはそのことを確認する事が出来なかった。聞くのが怖かったのだ。自分が不甲斐ないせいで、ワルツは機動装甲を失い、故郷に帰れなくなってしまったのかも知れないと気にしていたのである。


 結果、ルシアの表情も曇りかける。ただ、その直前で彼女は自分の反応に気付くと、慌てて顔を振って……。そして頭の中の話題を切り替えた。


「私の故郷の村にあった森は、もう少し鬱蒼としてたかなぁ?」


「あー、この世界に来た時、あの村の近くにあった森に落ちてきたけど、確かに鬱蒼……っていうか、深い森だったわね。あれは雪が降らない感じの森だったわ」


「お姉ちゃんが森を見る視点って、なんか変わってるね?」


「えっ?歩きやすいか、歩きにくいか、って重要な事じゃない?それだけで、これから暮らすかも知れない場所の四季の変わりようが予想出来るんだし」


「んー……そう言われればそうなのかなぁ……。あまり気にしたことは無かったかな?」


 ルシアはそう言いつつ、風魔法を使って道を切り開いていく。見えない鎌のごとく左右にブンブンと踊るカマイタチによって、背の低い草木のみならず、背の高い木までが——、


   ズドォォォォン!!


——と倒れてしまうのは最早お約束と言って良いだろう。なお、彼女の後ろを付いていくワルツに、自然が崩壊していく様子を気にしている様子は無い。


「ところで、お姉ちゃん」


「うん?」


「お姉ちゃんが今まで使ってた魔法……じゃなくて、科学の力って使えなくなっちゃったの?」


 ワルツは機動装甲を失って、今や生身の状態なのである。ある程度ワルツの生態(?)を理解していたルシアとしては、色々と疑問に思うことがあったようだ。食事然り、睡眠然り……。中でも、重力制御システムなどを使って発揮していた特殊能力の有無には強い関心があったようである。


 対するワルツは——、


「大部分が使えなくなったけど、一部、使える力は残っているわ?あと、この姿で行動するようになって新しく使えるようになった力もあるわね」


——どうやら完全に力を失ったというわけではなかったようだ。


「例えば?」


 ルシアが問いかける。するとワルツは、おもむろに人差し指を前に向けて言った。


「ちょっと使い道が分からないけど、こんな力が使えるわ?」


 その瞬間だった。


   ドンッ……


 重い物がその場に落ちてきたような振動と轟音を周囲に響かせながら、ワルツの指の先端から黒い何かが射出される。


 その黒点は、周囲の空間を歪めつつ、色々なものを吸い込みながら森の中を真っ直ぐに進んでいき……。しばらく進んだところで——、


   ズゴォォォォン!!


——爆発した。いや、爆縮した。黒い球が一瞬だけ膨張して、周囲のものを吸い込んだ後に収縮し、その場から消え去ったのだ。


「微妙に使い勝手が悪いのよね……この重力弾。威力はいサイズと連動してるから調整出来るけど、形状は球にしかならないし……」


「お姉ちゃん……」


「うん?どうかした?」


「……ううん。なんでもない……」


 ルシアは何かを諦めたかのような表情を浮かべた。ついでに言えば、何かを口にしようとしてそれを飲み込んだ様子だったが、彼女が何を言おうとしていたのかは不明である。


 それからすぐ、2人は街道らしき場所へと出た。そして村があった方向へと歩いて行くのだが……。その先で2人は、ある意味当然と言える状況に遭遇するのである。

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