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13.8-10 事後処理1

 ワルツとルシアは作戦指令本部があったアクイレギアの町の外まで戻ってきた。


 アクイレギアの町は、作戦行動開始時点で、ルシアが転移魔法を使って移動させたために、周囲を砂漠に覆われているはずだった。作戦行動開始前には、黄色い砂と青い空がどこまでも続くという荒涼とした世界が広がっていたのだが、今となっては見る影も無く……。アクイレギアの町があった場所を中心に広がっていたのは、岩石が溶けて固まった——まるで冷えた溶岩のようなもので覆われた黒い盆地の姿だった。


 変化はそれだけではない。砂漠とはいえ独自の生態系があって、サンドワームやサンドフィッシュ、あるいは砂漠に生息する大きなムカデであるジャイアントサンドピードなど虫の魔物などが砂野中に生息していたのだが、ルシアたちの人工太陽によって砂漠の砂で蒸し焼きになり……。ある者は地上に出てきて焼けて死に、ある者は砂の中で蒸し焼きになって死んで、アクイレギアの町の一帯は、異様な臭いと煙に包まれていた。


 高温に曝されたのは、アクイレギアの町からほど近い場所に設置された連合軍の作戦指令本部も同じだった。優に300度を超える熱波が襲い掛かってきていたので、陣は焼けて地面は融解していたようである。


 それでも、死人は出なかったようだ。アルタイルとの本格的な戦闘が始まる前に、コルテックスを経由して、全部隊に避難指示や特別防御の指示が出ていたので、みな慌てながらも()()通りに対応したのである。彼らがいったい何の訓練をしてきたのかは皆まで言わずとも分かって貰えるかもしれないが、敢えて言うなら——ルシアやコルテックス()()が暴走したときに、皆で自分の命を守るための訓練である。


 基本的には、転移魔法を使える魔法使いが輸送係となって、可能な限り遠くに逃げるか、あるいは十分な強度があるシェルターに逃げ込むというルールになっていた。エンデルシア大砂漠の最寄りのシェルターは、ミッドエデン国内にあるサウスフォートレスで、部隊の半分ほどの者たちはサウスフォートレスの町に逃げ込んだようだ。


 一方、捕虜にしたエクレリアの者たちや、彼らを管理しなければならない兵士たち、あるいは重要な役割があってその場から離れられない者たちは、また別の方法で身を守ったようである。サウスフォートレスに捕虜たちを大量に連れていくわけにはいかなかったので、その場に簡易的なシェルターを作ったのだ。


 防壁は合計で500層を越えていた。カタリナ式の結界魔法を使える者たちが寄って集って結界魔法を展開し、もしものために持ち込んだ都市結界を全開稼働させ、特殊合金製の物理防壁を何枚も並べて……。そして、その後ろに縦に並んで人工太陽やマイクロブラックホールからの衝撃に備えたのである。


 捕虜になったエクレリアの者たちからすれば、馬鹿馬鹿しいとしか言えない光景だった。屈強に見える連合軍の兵士たちが、見るからに取り乱して、何かを怖れるように壁の内側で小さくなっているのである。どれだけ臆病なのか……。事態が始まる前は、皆がそう思っていたようだ。元が現代世界出身者で、所謂大量破壊兵器になど近代兵器についての知識を持っていたことも、彼らに事態を甘く見させていた理由だったと言えるかも知れない。


 尤も、それも光に包まれるまでの話。その場に本物の太陽が現れたかのようにすべてを融解させて、ジリジリと肌を焼くその極限の状況に置かれたとき、捕虜たちはようやく連合軍の兵士たちが恐怖に慄いていた理由を嫌が応でも知ることになった。目の前で砂が溶け、サンドワームたちが一瞬で灰になっていくその光景を、彼らは死ぬまで——いや死んでも忘れないことだろう。一部には、展開した500層もの壁が残り30枚になっていた光景を見て、思わず失禁してしまった者もいたようである。


 そんな人々がいる場所へと、ワルツとルシアは戻ってきたのだ。彼女たち——特にルシアを見た兵士と捕虜たちが、揃いも揃って硬い表情を浮かべながら硬直してしまったことを誰が諫められようか。


そのうち、ルシア嬢に恐怖した者たちが決起して反乱を起こすような気がするのは気のせいかのう……。

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