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13.8-06 事象の地平線6

 考えている間にも、1個2個と増えていくマイクロブラックホールを見て、ワルツは内心で焦りを感じていた。逃げるにしろ、アルタイルとの戦闘に終止符を打つにしろ、マイクロブラックホールで周囲を囲まれれば、にっちもさっちもいかなくなるからだ。


 一方、ワルツに抱えられていたルシアはルシアで、悩んでいる事があった。自分がアルタイルのクローンである可能性。それを告げたエデンの消滅。思い出せない親の顔……。何が正しくて、何が間違っているのか、不明な事があまりに多すぎて、ルシアの中では整理が付けられなかったのだ。


「(私って……何なのかなぁ……)」


 機動装甲の手に握られたまま、ルシアは静かに考え込んだ。幸い、どんなに揺さぶられようとも、ワルツの重力制御システムの影響下にあったルシアの身体に加速度が掛かることはなく、彼女は考える事に集中出来たようだ。


 そして彼女は一つの結論に辿り着く。


「(あれ?この機会を逃したら、私の過去って分かんなくなっちゃう?)」


 すべてを知っていそうなエデンはもういない。大賢者もマイクロブラックホールの彼方に消えた。元勇者をしていたエンデルシア国王や元女神のデプレクサ辺りなら何かを知っている可能性もあったが、長い間アルタイルたちと交流の無かった2人が真実を知っているとは限らず……。あとすべてを知っているとすれば、アルタイル本人だけ。


 問題は、アルタイル本人の言うことが、真実か否か分からない事。それでもルシアは、アルタイルに事情を聞いてみたいと思ったようだ。本当か否か、判断するのは後でゆっくり考えても良いのだから。


「ねぇ、お姉ちゃん」


『ん?』


「この戦いって一旦止められないのかなぁ?」


『ちょっと難しいと思うけど……何かあった?』


「アルトちゃんとお話ししてみたい」


『?!そ、それは——』


「アルトちゃんがどんな事を言うのかは分からないけど、でもアルトちゃんがお姉ちゃんに退治されちゃった後じゃ話が出来ないと思うから、今のうちに話を聞いておきたいと思ったの。それに……私の出生もよく分かってないし……」


『アル○○(ピー)ルが本当の事を言うか分からないわよ?』


「それでも聞いてみたい。もう、本当の事を知ってるのは、アルトちゃんしかいないと思うし。それに、もしもアルトちゃんが嘘を言ったとしても……お姉ちゃんが見抜いたり、支えてくれたりするでしょ?」


『……そうね。そうよ。だけど……』


 ワルツはルシアの問いかけに首肯する。しかし、現状、アルタイルから話を聞くにあたり、どうにもならない問題があった。ワルツには、アルタイルを押さえつけて話を聞くほどの余裕が無かったのである。


 しかも今、ワルツの機動装甲は手負いの状況。ナノマシンによる修復も進んではいるが、完全修復までにはしばらく時間がかかり、戦闘中に修復を終わらせられる見込みはかなり薄かった。


 そして何より、アルタイルが刻一刻とマイクロブラックホールを生成しているのである。このままだとアルタイルに話を聞く以前に周囲をマイクロブラックホールで埋め尽くされるというタイムリミットを迎える方が確実に早いのだ。そればかりは、攻撃を受ける側のワルツにはどうにもならないことだった。


 ゆえに、ワルツはルシアに告げる。


『話をするにもマイクロブラックホールがこのまま増えるとどうにもならないわ?ルシアがアルタイルに呼びかけて、話に応じるようなら良いけど、ダメなら……』


「……うん」


 周囲の景色が段々と黒い色に染め上げられつつある状況をルシアも理解していた。ゆえに彼女は短く頷いて——、


「アルトちゃん!ちょっと戦うのをやめてお話しよ?」


——アルタイルへと急いで呼びかけたのである。


ゆっくりと会話を始めた後で、じゃぁ戦おうか?的な展開というのは、実際、無いのではないかと思っておるのじゃ。

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