13.8-02 事象の地平線2
ルシアが人工太陽の魔法を圧縮すると、その中心にいたアルタイルは球状の身体に戻って、そのまま小刻みに震えながらさらに身体を小さくさせていった。その様子はルシアの攻撃に抗えずに身体の形を保てなくなっているかのよう。ワルツもルシアも人工太陽による攻撃が有効だったのではないかと安堵しかけるが——、
ググググ……!
——どうやらそうではなかったらしい。ルシアの人口太陽が、彼女の意思よりも早く収束を始めたのだ。例えるなら——、
「っ?!吸い込まれてる?!」
——シンクに満たした水が、排水溝に吸い込まれていくかのように。
人口太陽はそのまま収束を続け、ついには光を失い、アルタイルの黒い身体と重なって消えてしまった。残るのは、宙に浮かぶ黒い物体だけ。
その状況にワルツとルシアが唖然としていると、黒い物体に再び手足と頭が生えてくる。それと共に、声も飛んできた。
『だめかもって、おもったけど、だいじょうぶだった』
『タエラレルトオモッタ』
『もんだいはない』
『『『このていどのこうげきなら』』』
アルタイルがそう口にした直後、今度は彼女から力の奔流が生じる。
「ちょっ……」
「これ……人工太陽?!」
アルタイルは、ルシアが放ったものと瓜二つの人工太陽を作り出して、ワルツとルシアを包み込んだのだ。圧力も、光量も、熱量も瓜二つ。
幸い、ルシアの攻撃とそう大差の無い威力だったので、ワルツの重力障壁でも耐えることができたようだ。自分たちを圧殺するかのようなエネルギーの中で、ワルツは思考を高速化させながら、対策を考える。
「(相手の人工太陽も、同じようにマイクロブラックホールで吸い込んでやれば消し飛ばせるんでしょうけど、問題はその先よね……。これだけ空間内にエネルギーが漂っている中でも問題無いって言うなら、まず、荷電粒子で撃ち抜いてもダメージなんて与えられないでしょうし……)」
ワルツの荷電粒子砲とは、例えるなら、太陽の一部を切り取って、それを銃口から吹き出すようなものなのである。つまり、太陽そのものを作り出すルシアの魔法の劣化版。人工太陽に耐えられるアルタイルに対して使ったとしても、有効なダメージが与えられる可能性はゼロに等しかった。
その他の兵装も似たようなものである。対消滅弾頭を搭載したミサイル攻撃を繰り出しても、常時高エネルギー状態の人工太陽に耐えられているアルタイルに効く可能性はゼロ。タングステン弾などの質量体をぶつけたとしても、アルタイルの身体を構成するマイクロブラックホールの彼方に消え去るのは自明だと言えた。
「(直接的な攻撃を当てるのは無理ね……)」
周囲を包み込む人工太陽を少しずつマイクロブラックホールで消し飛ばしながら、ワルツは考え続ける。
「(ルシアの魔法なら……?)」
科学の武器でダメージを与えられないのなら、魔法的にはどうなのか……。少なくとも人工太陽ではダメだったので、それ以外の方法を考えたワルツは、一つのアイディアに辿り着く。
「……"ジェット"なら行けるかしら?」
「えっ?」
「ちょっと思い付いたのよ。アルタイルに有効かも知れない攻撃をね」
そしてワルツは、ルシアにとって思いがけない言葉を口にする。
「ルシア?私を攻撃して貰えるかしら?それも遠慮無く」
「えっ……」
一体、姉は何を言っているのか……。戸惑うルシアだったものの、姉に何かアイディアがあることをすぐさま察して——、
「ほ、本当にやるからね?知らないよ?」
ドゴォォォォッ!!
——圧縮した人工太陽を、10個ほど、ワルツに対してぶつけたのである。




