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13.8-01 事象の地平線1

 コルテックスの転移用魔道具によって、ワルツとルシアの戦闘で足手まといになるメンバーが急いでその場から退避する。コルテックス本人も同じだ。その他、地上にいたストレラやサクラ、ポチたちも避難しており、町の外側にあった作戦指令本部にいる者たちも、安全な場所まで急いで退避を始めた。アクイレギアの町の中にはごく一部、エクレリア人が残っているが、"神殿"で復活出来る可能性を持った彼らのことを気に掛けて命を賭すほど連合軍側はお人好しではなく……。投降の呼びかけに応じなかった者たちは放置することに決めたようだ。


 そして町の中心部にある大きな壁の内側。そこにいた真っ黒な重力源——アルタイルと、ワルツ・ルシアコンビの戦いが幕を上げた。


 今までアルタイルが放つ超重力から仲間を守るために重力障壁を展開していたワルツが、隣にいた妹に対して呼びかける。


「遠慮無く行くわよ?私がアルタイルからの攻撃を抑えるから、ルシアは攻撃に徹して」


「うん!」


 ルシアがワルツの問いかけに対し首を縦に振った瞬間、周囲が閃光に包まれる。やり場に困るほどに魔力を持て余していたルシアが、身体の外で魔力を溜めておくために展開していた自動魔法(オートスペル)の"人工太陽"を顕現させたのだ。その結果、アルタイルだけでなく、ワルツとルシアの周囲の温度、圧力、光量が急激に上がり、生身の人間なら一瞬で蒸発するほどの環境が辺り一帯を包み込む。


 そんなルシアの魔法だけで、アルタイルの宮殿にあった庭は消滅した。それどころか、アクイレギアの町自体、熱で融解して焼失する。アクイレギアを囲むエンデルシア大砂漠の気温も20度以上上昇し、地中に隠れていたサンドワームたちを蒸し焼きにしてしまうほどの威力。それがルシアの持て余した魔力の成れの果てがもたらした結果だった。


「まずは、1個で良いよね」


「ちょっ……ちょっと待ってルシア?!これ、アル○○(ピー)ルの攻撃じゃなくて、貴女の魔法?!」


「えっ?あ、うん。最近全然魔法を使ってなかったから、随分溜まっちゃってて、こんなになっちゃった。あとどれくらいあったかなぁ……」


「そ、そう……(これ、ルシアに定期的に魔法を撃たせないと、この世界が滅びちゃいそうね……っていうか、何個あるのかしら?これ……)」


 ワルツは一抹の不安を覚えながらも、心の底で安堵した。……ルシアの意識がアルタイルに乗っ取られなくて本当に良かった、と。


「でも、アルトちゃんには効いてないみたい」


「……そうみたいね」


 周囲を焼き尽くすほどのエネルギーを放つ人工太陽の中、アルタイルはまるで太陽に出来た黒点のように、その場に佇んでいた。周囲は眩い光に包まれているというのに、彼女が纏う黒い空間の内側を覗くことは出来ず、状況は不明。ただ、そのシルエットに苦しんでいるような変化が見られないところから、恐らくは問題無いのだろう。


「だったらっ!」


 ルシアはそう口にすると、人工太陽に魔力を通わせ始めた。そして太陽自体の大きさを徐々に小さくしていったのである。とはいえ、ただサイズを小さくしたわけではない。圧縮を始めたのだ。


 その結果、圧力、温度共に急激に高まっていく。ワルツの重力障壁が無ければ、今頃、ワルツとルシアの身体はプラズマ化して、この世界から消え去っていたに違いない。


 それでもアルタイルに変化は見られなかった。影のような彼女の表情を伺い知ることは出来なかったものの、恐らくは涼しい表情を浮かべているのだろう……。それがワルツの予想だった。


「(にしても、なんで向こうからまともな攻撃が飛んでこないのかしら?)」


 ここまでアルタイルは、ワルツたちに対して明確な攻撃はしていなかった。唯一の例外は、身体を動かすことによる重力場の変動があったくらい。それ以上の行動は今のところしていなかった。


 だからこそ、コルテックスやストレラたちは、安全圏に退避することが出来たのである。もしも絶えず攻撃が飛んでくると言うのなら、悠長に逃げる手段を話し合うなど出来るはずが無いのだから。


「本当に何がしたいのよ……」


 特に攻撃するでもなく、ただルシアからの攻撃を受け続けていたアルタイルを前に、首を傾げるワルツ。


 そんな中、アルタイルに変化が生じる。


   グググググ……!


 人型の影のような見た目だったアルタイルが、再び球体状に戻ったのだ。


サブタイトルを何にするかで悩みに悩んだのじゃ。

本当は違う物にしたかったのじゃが、これ以上に適切と思えるタイトルを見つけられなくてのう……

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