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13.7-39 茶会39

『『『アハハハハハ!!』』』


 宙に浮かんでいたのは、人の形をしたブラックホール。それも、意思を持った力の奔流と言うべきものだった。


 その真っ黒な手を伸ばすだけで、その場の重力場が変化する。直前まで上から下に向かっていた重力が、前後方向、さらには左右方向へとめまぐるしく変わり、ワルツたちの事を翻弄する。それも、凄まじい重力加速度で。


 生身の生物なら一瞬で(ひしゃ)げて粉砕されてしまいそうな異常な重力場に曝されていたワルツたちだったが、幸い、その場には重力を操作出来るワルツとルシアがいたことで、どうにか致命的な状況に陥ることは避けられていたようだ。しかし、完全ではなく……。台風の中で大波に揺らされる船の中にいるような凄まじい揺動感が、5人と2体に襲い掛かる。


「う、うっぷ……き、気持ち悪い……」


「ユリアお姉ちゃん、大丈夫?」


「あまり長くは保たないかも知れません……」


 その場にいた5人の中で、重力の変動に一番弱かったのはユリアだった。彼女はすぐさま船酔いのような状況に陥り、顔を青ざめさせる。

 

 他のメンバーは、自力で対策が出来る者たちばかりだったので、大きな問題にはならなかったようだ。皆、真っ黒に変わったアルタイルがいつ直接的な攻撃を仕掛けてきても対応出来るよう身構えながら、どうやってアルタイルを攻略すべきかと思慮を巡らせた。


 この時、皆が共通して持っていた見解がある。アルタイルを攻撃をしても、無駄になる可能性が高いと考えていた事。そして、不用意にアルタイルのことを刺激したくなかったという事だ。アルタイルに攻撃を加えれば、自分が標的になるのは明らか。自身の攻撃が相手に有効打を加えられて、かつ相手の攻撃から身を守れるという確証を誰も持っているなら話は別だったかも知れないが、この状況においてアルタイルを攻撃するというのは、仲間の足を引っ張る行為に他ならないことを皆、理解していたのである。


 ゆえに、事態は始まる前から八方塞がり。カタリナからワルツへと声が飛ぶ。


「ワルツさん!どうするんですか?」


「ほんと、どうしようね……」


 ワルツにも正直どうしていいのか分からなかった。正確には、完全に手段が無いというわけでもなかったが、真っ当な手段は無いというのが本心だった。


 ゆえに彼女は、コルテックスに向かって問いかける。


「コルテックスは何か無い?こう、便利な道具をポケットから出すとか……」


「……確かに私は狐の獣人型ロボットと言えなくはないですが、そんな某猫型ロボットのようにポンポンとチートな道具を出すような事は出来ませんからね〜?」


「あぁ、そう……。コルテックスならどうにか出来ると思ったんだけど……どうにもならないのね」フッ


 ワルツが煽る。それに対し、コルテックスは言ってのけた。


「無理なものは無理です!」


 どうやら煽っても、裏の手は出てこない——いや、そもそも存在しないらしい。


「とりあえず、最大火力が通じるか試してみては〜?」


「それ、相手を無駄に刺激するだけでしょ。っていうか、下手したらこの大陸、無くなるわよ?」


 というワルツの懸念に対し、コルテックスは「はぁ〜」とあからさまに溜息を吐いて、そして呆れた様子でこう言った。


「それはお姉様が一人で攻撃した場合の話ですよね〜?」


 そう言ってコルテックスが視線を向けたのはルシアの方。その視線を追うようにワルツがルシアに目を向けると、その先にいたルシアは、嬉しそうにフサァと尻尾を振った。


 その様子を見て、ワルツは肩を落とす。


「……私かルシアが攻撃と防御に徹して戦え、って言いたい訳ね?」


「えぇ〜、そういうことです。危険ですが、ここでやらなければ、状況はもっと悪化するはずです」


 そう言って、自身もフサリと尻尾を動かすコルテックス。


 そんな妹たちの反応を見たワルツは——、


「……えぇ、分かったわ。逃げられないっていうなら、行けるところまでトコトンやるわよ!」


——ようやく自重と遠慮というべきものを捨て去り、アルタイルと戦う事にしたようだった。


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