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5後後後-13 剣士とエネルギア1

ドゴォォォン!!


エネルギアの表面を激しい衝撃波が伝搬する。

それも1度ではない。


ドゴォォォン!!

ドゴォォォン!!


着弾と共に爆発する砲弾・・・いわゆる榴弾が、幾度と無く、エネルギアの外装を叩いたのだ。


同じ場所に留まっていては、単なる的になってしまう。

そう考えたかどうかは定かではないが、一度はクレストリングへと接岸しようとしていたエネルギアは、再び離岸して、緊急回避行動をとるのであった。


そんなエネルギアの中で・・・


「・・・・・・うぅ・・・」


艦橋で一人(?)留守番をしていた剣士から、うめき声が漏れる。

ただでさえ、エネルギアの超機動のために、喉まで上がってきていたものを押しとどめるのに必死だというのに、突如として爆音が艦内を襲ったのである。


限界まであと一歩、といったところだろうか。


「うっぷ・・・」


思わず口を抑える剣士。


「んぁ・・・!!我慢・・・我慢だっ・・・!!」


男のプライドをかけながら(?)、眼を瞑って、耳を塞いだ。

すると、


「(・・・ん?揺れてない?)」


断続的に爆発音は響いてきていたものの、エネルギアが全く揺れていないことに今更になって気づく剣士。

そう、重力制御が効いている艦内では、本来、揺れることは無いのである。

彼もまた、狩人のように、見える景色だけで酔っていた一人のようである。


「ふぅ・・・」


艦橋で仰向けに寝転びながら、剣士がそんな一時(ひととき)の安らぎ(?)を感じていると、


『いたい・・・』


そんな声が、耳をおさえていた手をすり抜けて、どこからともなく聞こえてきた。


「・・・ん?誰かいるのか?」


声の主を探そうと、剣士が眼を開けると・・・


「うっぷ・・・」


ブンブンと回る景色に、再び、プライドの危機が訪れた。

そんな光景に、即座に眼を瞑る剣士。


だが、彼の声は相手に届いていたようで、


『・・・だれ?』


誰何(すいか)を問う小さな子どものような声が返ってきた。


「いや、先に聞いたのは俺なんだが・・・まぁいい。俺の名はビクトールだ」


目を瞑ったまま答える剣士。


「で、貴殿は誰なんだ?」


彼が再び問いかけると、


『ぼくは、エネルギア・・・っておねえちゃんがいってた』


まるで自分の名前ではないかのように答えるエネルギア少年。

どうやら、彼は、艦橋のスピーカーとマイクロフォンをハッキングして会話しているらしい。


「そうか・・・ワルツ殿の言っていたシネンタイ(思念体)とか言うやつだな」


剣士は、ワルツにしか見えないという少年の話を思い出す。


『よくわかんないけど・・・』


思念体と言われても・・・といった様子でエネルギア少年が言葉を返した。

そんな時である。


ドゴォォォン!!


再び、凶弾がエネルギアの表面で炸裂した。


『いたい・・・』


「・・・もしかして、貴殿は攻撃を受けると痛みを感じるのか?」


今にも泣き出しそうなエネルギア少年の声に、心配そうに問いかける剣士。


『・・・こうげき?』


「さっきから爆発しているやつのことだ」


『うん、いたい・・・いたいんだけど・・・』


何やら訳ありの様子のエネルギア少年。


「なんだ?何か言いたいことがあるなら、話だけ聞くぞ?」


自分の事を修理してくれ、と言われても剣士にはどうすることもできないので、相談だけ乗ってみることにした。


すると、


『おなかがいたい・・・』


攻撃のせいで痛いのかと思いきや、そうではない理由で痛い、と答えるエネルギア少年。


「腹が痛い・・・?何か変なものでも食べたのか?」


人間ベースで考える剣士。

だが、相手は人間ではなく、戦艦(エネルギア)なのである。

ワルツのように拾い喰いして腹をこわす魔神(マシン)もいるのだが、エネルギア少年が補給するのは核融合炉の燃料になる海水のみなので、その他の食事を摂らない以上、原理的に腹痛にはならないはずであった。

そもそも、壊せる腹は存在しないのである。


『こうげきをうけると、おなかのなかが、ちぎれるみたいにいたくなるの・・・』


「・・・なら、攻撃してくる相手の飛行艇を落としてしまえばいいんじゃないか?そうすれば、しばらく攻撃を受けることも無くなると思うが?」


そんな剣士の言葉に、


『おねえちゃんとのやくそくだから・・・』


だから、攻撃できない、と答えるエネルギア少年。

そんな彼の言葉に、考えこむ剣士。


「(放っておいても問題ないと思うんだが・・・。それに、こういう難しいことは苦手だからな・・・)」


だが、悲痛な声を上げるエネルギア少年のことを無視して、船酔い(?)が治まるまで寝そべり続けるほど、彼の精神は図太くはなかった。

何より、彼もまた、弱き者を助ける勇者パーティーの一員なのだから。


「・・・分かったよ。貴殿の痛みの原因を調べる手伝いをしよう。だが、俺にどうしようもないことだったら、ワルツ達が帰ってくるまで我慢してくれ」


『・・・ありがとう』


そして剣士は、エネルギアの相談に乗るのであった。


・・・まぁ、その前に、


「・・・でも、すまない・・・。できれば、真っ直ぐ飛んでくれないか?・・・うっぷ・・・」


必要以上にグルグルと回る景色をどうにかしないと、先に剣士の方に限界が来そうであった。




エネルギアがまるでジムカーナでもしているかのような細かい回避機動から、クレストリングを高速で周回するような機動に変わり、剣士のプライドにも大分余裕が生まれてきた頃。


「・・・つまり、胸の下あたりで、何かムカムカする・・・というか痛みが走るんだな?」


症状を細かく説明してくるエネルギアに、それは船酔いじゃ・・・と思う剣士。

飛んでいる本人(エネルギア)が酔うというのもおかしな話である。


『ムカムカ?んー、よくわかんないけど、いたいの・・・』


どうやら、船酔いしているというのは、剣士の思い過ごしのようである。


「んー。難しいな・・・せめて場所が別れば、直接行って確かめることもできるんだが・・・」


剣士は、これまでのエネルギアの話から、痛みの原因が船内にあるのではないか、と予想していた。

人の身体をエネルギアの船体に置き換えて考えてみたのである。


『・・・なら、これでわかる?』


エネルギア少年がそう言うと、艦橋上部に設置されていたステータスモニターに、子供の落書きのような映像が表示され、問題のありそうな箇所にバツ印が付けられていた。


「んー・・・分かりにくい絵だが、この飛行艇(エネルギア)で間違いなさそうだな」


バツ印の付けられていた部分は、船体中央より少し前の部分。

人とエネルギアを同じサイズで書いたなら、胸部より下の部分ということになるだろうか。


『・・・わかりにくくて、ごめんなさい』


「いや、気にするな。じゃぁ、ちょっと様子を行ってくる」


そして剣士は、艦橋の外に出て、エネルギア少年が説明した場所へと向かうのであった。




ダンジョン探索などで冒険者達に必須とされる技能である方向感覚。

剣士はそれを駆使して、窓が一切ないエネルギアの中を目的地へ向かってまっすぐに進んでいった。


そして、艦橋から出て居住区画を過ぎ、30mほど進んだところで、


ビーッ・・・


・・・閉ざされた扉に行き当たる。


「あれ?開かない・・・」


以前、ワルツに船内を紹介された時は勝手に開いた自動ドアだったが、どういうわけかビープ音が鳴って開かなかったのである。

・・・まぁ、言うまでもなく、セキュリティ、というやつである。


「・・・この扉が開かないと、先に進めないんだが・・・。仕方が無い。エネルギア殿には悪いが戻るか」


剣士が扉の前でそう呟いた時だった。


『このさきに、いきたいの?』


エネルギア少年の声が、壁にあった(スピーカー)から聞こえてきた。


「おわっ?!・・・驚いたな・・・。貴殿は、どこからでも会話できるのか・・・」


『うん。だって、ぼくのからだだし』


「そっか・・・。なら、この扉も開けられるのか?」


『うん』


エネルギア少年がそう告げると、


ガシャン!


扉が勝手に開いた。


「おぉ・・・凄いな」


『えへへ・・・』


剣士の言葉に、嬉しそうなエネルギア少年。


「それじゃ、先に進むぞ?」


『うん』


そして、剣士は目的地に向かってどんどんとエネルギアの深部へと足を進めていった。




剣士がエネルギア少年のサポートを受けて、同じような扉を3枚ほど抜けると、急に大きな空間へと出る。

どうやら、ここが目的地らしい。


「ほう・・・これはまた・・・」


剣士の眼に飛び込んできたもの。

それは、エネルギアに搭載されている3つの核融合炉の内の1つ、第1核融合炉であった。

まぁ、剣士にはそれが何なのか理解できなかったが、数多くの配管とそこから伝わってくる熱から、それがエネルギアの心臓部であることを理解する。


「・・・ここが問題のある部屋か?でも、これだけ複雑だと、何が悪いとか全然分からんぞ・・・」


剣士がそんな事をつぶやくと、


ドゴォォォン!!


という船体外部からの爆発音が聞こえてきた。


それとともに、


ベキン!


剣士のいた部屋の中から金属同士がぶつかり合うような音が聞こえてくる。


「ん?」


剣士が音の聞こえた方へと歩いて行くと、


ガタガタガタ・・・


細かく振動している50cm角の部品と、今にも外れそうな4本のボルトの姿が眼に入ってきた。

どうやら、ボルトが緩んだために、装置が床から外れそうになっているらしい。


「原因はこれか?」


何気なく、そんな部品に手を伸ばそうとする剣士。

だが、すぐに思いとどまる。

・・・なぜなら、


「・・・この毒々しい線って・・・やっぱり危険だから、って意味なんだろうな・・・」


目の前にあった装置を取り囲むようにして、黄色と黒の縞模様の線が床に描かれていたのである。

その線の手前には、


『No Gravity Control Area』


と書かれていた。

・・・まぁ、剣士には読めなかったみたいが。

それでも、(すんで)の所で手を引いたのは、これまで何度も死線をくぐり抜けてきた経験のおかげだろうか。


「その辺に棒か何か無いか・・・無いな。まぁ、剣でいいか」


直接触るのが怖かったので、剣で突っついてみることにする剣士。


「エネルギア殿?聞こえてるか?」


『うん、きこえてるよ?』


剣士の問いかけに直ぐさま返事を返すエネルギア。


「貴殿の言っていた痛いところって、ここのことか?」


そう言って剣士は自分の得物を使って、今もなお振動し続けている装置に触れてみた。

ボーダーラインを剣が越えた際、何やら不自然な感覚が伝わってきたが、弾き飛ばされるようなことはなかったので、安堵する剣士。


そして、剣が、装置に触れた瞬間のことであった。


カツン・・・


『うん、それだとおもう』


どうやら、エネルギアにとっても触れられた感覚があったらしく、剣士の問いかけに肯定した。


「そうか・・・なら、すこし待ってくれ」


剣で問題なかったので、直接触れてボルトを閉めなおそうとする剣士。

彼は、シラヌイとは違って、ワルツたちのエネルギアの建造を手伝っていたので、ネジの締め方は分かっていた。

まぁ、手元に工具は無かったので、手で締めることになったのだが、ワルツ達が帰ってくるまでなら問題はないだろう。


「何となく嫌な予感がするが・・・」


そう言いながら、ボーダーラインを超えて、剣士が手を差し出した。

すると、強烈、とまでは言わないが、相当な力が剣士の腕を襲う。


「くっ!・・・やっぱりな・・・」


ボーダーラインの内側は重力制御の効かないエリアなのである。

つまり、その内側に手をいれると、エネルギアの飛行で生じた本来の振動や加速度が加わってくるのである。

幸いなことに、現在エネルギアは定常飛行に近い状態なので、それほど大きな力は掛かっていなかったが、重力制御の効いた空間とくらべて幾許(いくばく)かの加速度変動があるのは致し方ないことであった。


ちなみに、剣士が固定しようとしている装置は、艦内の重力制御を行うためのセンサーが搭載されているボックスであった。

つまり、これが床から外れると・・・剣士や、医務室で寝ているだろうリアは、エネルギアの機動でとんでもないことになってしまうだろう。

尤も、剣士はそのことに気づいていないのだが。


「さっさと終わらせるに限るな・・・」


たまに腕を襲う不気味な加速度を我慢しつつ、一本ずつネジを締めていく剣士。


「ワルツ殿が返ってきたら、ちゃんと整備してくれって頼むんだぞ?」


『えっ・・・うん』


剣士から飛んできた言葉をすぐに飲み込めなかった様子のエネルギア少年。

飛行艇(エネルギア)自身が自分の体だということは分かっていても、それと整備という言葉がすぐにつながらなかったらしい。

自分のことを生物(いきもの)だと思っているのかもしれない。


「さて、あと一本だ」


そう言って剣士は、殆ど抜けきったボルトを掴み、ゆっくりと着実に回していった。


その時、


ドゴォォォン!!


・・・エネルギアを爆音が支配した。


『いた・・・くない?なおった!』


スピーカーの向こう側で嬉しそうな声を上げるエネルギア少年。


『ビクトールおにいちゃん、ありがと!』


彼は、治してくれた剣士に対して礼を言った。


・・・だが、


『・・・おにいちゃん?』


いくら待っても剣士からの返事は無かった。


お礼を言いたかったのに、もう帰ってしまったのか・・・。

音だけでは判断できなかったので、部屋にあった監視カメラをハッキングして様子を覗いてみると、


『・・・えっ』


・・・部屋の中が血の海になっていた。

そしてその中心では、


『おにいちゃん!!』


剣士が言葉もなく横たわっていたのである。

・・・それも右肩から先を大きく失いながら・・・。

妾の話より長い・・・じゃと?!

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