5後後後-10 土産
そして、繁華街まで戻ってきた一行。
既に太陽は頂点にあり、街は昼食を求める人々の姿でごった返していた。
そんな中を皆で行動するには少々人数が多かったので、ワルツ達は、別れて散策することにする。
ちなみに、ワルツの隣にはいつも通りにルシア、カタリナ、そしてテンポが付いて歩いていた。
・・・いや、ルシア達にワルツが付いて歩いていると言うべきか。
他、テレサには水竜とシラヌイが護衛のために。
狩人にはユリアとシルビアが付いて行っている。
なお、狩人達は今頃冒険者ギルドに赴いていることだろう。
アイテムボックスが無くなった以上、狩った魔物を簡単に持ち運べなくなったので、余分な素材を売りに行っているのである。
逆にユリアとシルビアは、皆の分の秋物の服装を作るために、魔物の毛皮を調達していることだろう。
自分たちで魔物を狩って、その毛皮で服を作ってもいいのだが、せっかくエンデルシアに来たので、何か変わったものがあるのではないか、というわけで狩人に同行してギルドに出かけていったのである。
(みんな、お金があるのね・・・)
懐の寒さを感じながら、そんなことを思うワルツ。
アイテムボックスに貴重品を保管していたのは彼女だけなので、他の者達は皆、問題なかったりする。
さて。
「お土産、何にしようかなぁ・・・」
ルシアが嬉しそうにウィンドウショッピングを続ける姿を、後ろから眺めるカタリナとテンポ(そしてワルツ)。
(あの様子は服を選ぶ時と同じね・・・)
何時間もかかるルシアの服選びを思い出しながら、内心げんなりするワルツ。
エネルギアは待っててくれるかしら・・・と思いながら彼女が空を見上げると、
ブンブンブン・・・!!
エネルギアが横方向に回転しながら飛んでいった。
・・・先程から回ってばかりいるのだが、そんなに回ることが好きなのだろうか。
「・・・お姉さま?エネルギアは誰が操縦しているのでしょうか?もしかして愚弟ですか?」
ワルツと同じように、空を見上げたテンポが問いかける。
「うーん・・・その辺、説明するとややこしいんだけど・・・まぁ、新しい弟(妹?)って言えばいいかしらね」
「ほう?お造りになられたと?」
「いや・・・うーん・・・」
自分でも理解できないできないことを、説明できないワルツ。
「そういえば、一昨日の晩、何か無線で皆を招集されていましたよね?」
「そう、それが原因なんだけど・・・ま、折をみて説明するわ」
そして未来永劫、説明されないのである。
「・・・」
無表情の中に、どこか不機嫌そうなテンポ。
結局説明されないことを察しているらしい。
「あ、そうそう。カタリナ?その件でエネルギアに戻ったら、ちょっと手伝って欲しいんだけど」
「はい。構いませんけど・・・。何かあったんですか?」
「えーと・・・うん・・・」
またも返答に困るワルツ。
端的に言うなら、
1、魔法金属を使ってエネルギアを修復したら未知の思念が宿った
2、未知の思念体はワルツにしか見えない
3、その思念体がエネルギアを操縦している
4、その思念体のためにロボットの身体を用意した
5、そのロボットに生体部品を付けて欲しい
といったところだろうか。
特に2の部分がワルツにとっては鬼門であった。
テンポの前で言えば、間違いなく弄るネタにされるに違いない。
(・・・ま、カタリナと2人きりになった時にでも説明しましょうか)
幸いなことに、ワルツの言いにくそうな言葉から何となく内容を察したカタリナは、それ以上問い詰める事はしなかった。
実に、よく出来た弟子といえるだろうか。
恐らくテンポも、カタリナ経由で何があったのかを聞くのではないだろうか。
そんなやり取りをしていると、
「あっ・・・」
ルシアが、とある店の前で立ち止まった。
「何、あれ?」
コックが店の中で金属製の棒に何やら乳白色の液体をかけてグルグルと回しながら遠火で加熱している様子に、彼女は眼を奪われていた。
いや、コックではなくパティシエと言うべきだろうか。
「あれはバームクーヘンね。生地を塗って焼いて、塗って焼いて・・・って繰り返して、木の年輪みたいなケーキを作るのよ」
透明のままのワルツが答える。
「ふーん・・・美味しいの?」
と、問いかけつつも、甘い香りに思わず喉を鳴らするルシア。
「そうね・・・モノにもよるけど、フワッフワなのにシットリとしていて私は好きね」
「なら、アトラス君のお土産はこれでいいかなぁ・・・」
(ミッドエデンにもありそうだけど・・・)
使われている材料は基本的にケーキと同じである。
ケーキがあるのなら、どこでも作れそうだが・・・
「良いのではないでしょうか?バームクーヘンはエンデルシアの名物の一つですから」
と、カタリナ。
「うん、決めた。あれ買ってくるね」
カタリナの言葉で即決したのか、ルシアは店の中へ消えていった。
「実はあのケーキの中心を貫いている金属の棒は、飛行艇の部品だったものなんですよ」
そう言いながら、パティシエがグルグルと回しているバームクーヘンの原木(?)に眼をやるカタリナ。
「えっ・・・そんなの口の中に入れても大丈夫なの?まぁ、ちゃんと洗ってるんだろうけど・・・」
「もちろんですよ。ちなみに、エンデルシアではバームクーヘンではなく、フライングロールと呼ばれています」
「ふーん・・・」
(それで名物ってわけね)
ワルツとカタリナがそんなやり取りをしていると、
「おや・・・これは皿屋でしょうか?」
テンポがケーキ屋の斜め向かいに、陶器ばかりを揃えた店を見つけた。
「皿屋って何よ・・・」
食器店、あるいは陶器店とも言うだろうか。
「では私は皆様へのお土産として、湯呑みでも購入することにしましょうか」
「いや、ちょっと待って。食器ならミッドエデンでも買えるじゃない・・・」
「・・・分かってないですね、お姉さま」
そう言って無表情のまま、ジト目をワルツに向けるテンポ。
「こういうのは、気持ちが重要ですよ」
「それ、選ぶのが面倒だっただけじゃないの?」
「・・・気持ちが重要です」
否定をしないところを見ると、やはり面倒だったらしい。
流石はワルツの妹、といったところだろう。
テンポはそんな言葉を残して、食器店へと入っていった。
「実は食器もエンデルシアの名物なんですよ」
テンポを眼で見送りながら、カタリナが呟く。
「いや、流石にどこにでもあるでしょ?」
「いえ、違うんですよ。実はこの街で作っているお皿の材料は、アレなんです」
そう言いつつ空を指すカタリナ。
「まさか、クレストリング・・・」
カタリナの指の先では、太陽を背に浮かぶ巨大なリングが中に浮いていた。
「はい。定期的なメンテナンスの際に生じる廃材を再利用して、粘土にした後、再び焼き固めているみたいです」
「ふーん」
(なんか、そう言われれば、セラミックっぽかった気がしてくるわね・・・)
エネルギアから降り立った際のクレストリングの質感を思い出すワルツ。
どうやら、この街は様々な廃棄物を資源として再利用しているらしい。
「もしかして、エンデルシアって、資源が少なかったりする?」
日本みたいに、である。
「そうですね・・・ミッドエデンに比べたら、少ないと言えるでしょうね」
(ということは、エンデルシアが発達したのは、飛空艇技術だけでなく、リサイクル技術もあったからなのね・・・)
カタリナの言葉に一人納得するワルツ。
そんなやり取りをしていると、
「買ってきたよー?」
・・・何故か、バームクーヘンの原木を持って、ルシアが戻ってきた。
「みんなで食べよ?」
どうやら、全員分、ということらしい。
「全員分にしては多すぎない?」
(っていうか、重くないの?)
ルシアが持っているバームクーヘンの原木は、40人分と言ったところだろうか。
それを軽々と持ち上げているところを見ると、重力を無視する魔法を行使しているのかもしれない。
「えっとねー・・・」
そう言ってワルツ・・・がいるだろう空間を見上げるルシア。
「お姉ちゃんの分」
「いや、そんなに食べれないって」
「えっ・・・」
どうやらルシアは、機動装甲=大きい=大喰い、と思ったらしい。
「今朝もそうだけど、私そんなに食べてないじゃない・・・」
「えっと・・・うん・・・」
すると、どこか悲しそうな表情を浮かべるルシア。
「いや・・・怒ってるわけじゃないわよ?そうね・・・ちょっと冷蔵庫を作らないと処理しきれなさそうだけど、みんなで食べましょうか」
「冷蔵庫?」
「そ。前に、サウスフォートレスの地下に設置したエアコンの技術を応用して・・・って、言っても分からないわよね。帰ったら一緒に作りましょうか」
「うん!」
姉の言葉に、何やら嬉しそうに頷くルシア。
そして、しばらくの後、
「皆様、お待たせいたしました」
と、テンポも返ってきた。
「で、結局湯呑みにしたわけ?」
「はい。お土産だけではなく、パーティー全員分の湯呑みを買ってきました」
「ふーん」
(忘れられてる人とかいたら可哀想ね・・・)
ふと剣士の姿を思い出すワルツ。
「もちろん、お姉さまの分も買ってきたので楽しみにしていてください。お代は後で請求しますけど」
「じゃぁ、テンポの分の謝金から差っ引いておくわね」
ゴゴゴゴゴ・・・
ワルツとテンポの間で、見えない何かが衝突しているのは・・・まぁ、いつものことである。
というわけで一行は、その後も暫くの間、ウィンドウショッピングに興じるのであった。
主に、ルシアに引っ張られながら。
なお、ワルツとカタリナが(共同で)買った土産は・・・その内、明らかになることだろう。
そして次話は妾のターン。




