5後後後-08 包容力ではない
「ったく、なんでどいつもこいつも俺の話を聞かないんだ・・・」
と恨めしそうにルシアやルシア、そしてルシア・・・とカタリナに視線を送る国王。
ここにワルツがいたなら、彼女にも視線を送っていたことだろう。
もちろん、見えないだけで目の前にはいるのだが。
「それに何だか訳の分からない魔法で攻撃してくるし・・・」
そう言いながら、彼は頬を擦った。
まるで、ちょっとぶつけた、といった様子であるが、自動車程度なら簡単に吹き飛ばしてしまうような強さでワルツにぶたれたのである。
最早、生物として生命活動を維持していること自体、不思議である。
所謂、自動回復魔法や、瀕死になったら発動するタイプの魔法でも展開しているのだろうか。
「国王様」
独り言(?)のように愚痴を零している国王に、言葉を向けるカタリナ。
だが、先程までの弱り切った表情では無く、目に光が戻っているのは、
「ゾンビたちを救った、というのは本当ですか?」
諦めていた患者たちが助かっているかもしれない、そんな希望を取り戻したからなのだろう。
「あぁ。昨日、処理すると伝えたはずだが?」
処理する・・・であって、掃討と言う意味ではなかったらしい。
そんな国王の言葉に、一瞬だけ表情を崩して『よかった・・・』と小さく呟くカタリナ。
だが、すぐにキリッとした表情に戻ると、国王に対して質問を始める。
「・・・それは、ゾンビになった者たちを助ける方法を元から知っていた、ということでしょうか?」
「あぁ、そうだ。そもそも、ゾンビたちは・・・まぁ、本物のゾンビではなく、天使たちの操り人形にするための魔法の一種なのだから、天使たちを使役しているこの俺に操れない道理は無いな」
「・・・では、元に戻す方法を知っていて黙っていたのですね?」
彼女を筆頭に、仲間たちは必死になってゾンビたちを元の人間に戻す術を探していたのである。
エンデルシア国王はそんなカタリナ、そして皆のことを知っていて、黙っていた、ということだろうか。
すると国王は、
「あぁ。カタリナには悪いが、その通りだ」
あっさりと認めた。
「もちろん、何か理由があってそうしたのですよね?」
「あぁ。意味もなく、そのような事はせぬ」
「では、一体何のために?」
まるで用意された台本の通りに喋るかのようにして会話が進んでいく。
この台本に不明な点があるととすれば、国王が何故今の今までカタリナ達にそれを話さなかったのか、その理由だろうか。
(まぁ、理由なんて大体想像つくけどね・・・)
最初からゾンビたちを処置していたら起こらなかったこと。
即ち、
「それは貴女等に・・・まぁ用があったからだ」
ということだろう。
つまり、ゾンビ達をダシに、ワルツ達をおびき寄せた、というわけである。
クレストリングでワルツ達を閉じ込めようとしたのもの、彼が駆けつけるまでの間の時間稼ぎだったのかもしれない。
ところが・・・
「だが、この策も不発でおわりそうだが、な・・・」
と、一同に視線を向けて残念そうに呟く国王。
彼の策略通り、ワルツパーティーがここに集っているというのに、一体何の不満があるというのか。
「・・・ワルツとかいったな。あの女史はここには来ていないのか?」
彼は、空でありえない軌道をしているエネルギアを見上げながら、そう問いかけた。
もしも人が乗っていたなら、中では色々と酷いことになっているに違いない、そう思っているに違いない。
・・・なお、剣士の安否は不明である。
それはそうと、どうやら国王は、仲間たちではなく、どちらかと言うとワルツの方に用事があったようだ。
彼の言葉に、
ビクッ!
機動装甲の身体が小さく跳ねる・・・。
(うわぁ・・・何でそこで私の名前が出てくるのよ・・・)
そんなワルツの疑問を代弁するかのように、
「えっと・・・ワルツさんに何か用事でも?」
カタリナが問いかけた。
すると国王はいつも通りの表情のまま、特にワルツパーティーの前で言ってはならないことを口にした。
「いや、求婚しようかと」
・・・
「すみません、よく聞こえなかったのですが・・・」
「何度も言わせるな、恥ずかしい。ワルツ女史に正式に結婚の申し込みを『パァンッ!』ぶはっ!!」
国王に対して、光のない目をしながら、無言でサイコキネシスのような無属性魔法を行使するルシア。
「・・・戦じゃ・・・いくさじゃぁぁぁぁ!!!!」
眼が赤く光り輝いた上に、尻尾が3本に増え、何やらドス黒いオーラが染み出してきているテレサ。
どうやら、彼女は、ミッドエデンをあげてエンデルシアに宣戦布告する気のようである。
「・・・ワルツ様に付くゴミ虫・・・そうゴミ虫なんですね!分かります」
人間に変身するのも忘れて、サキュバスの姿のまま、この上なく冷たい視線を国王に送るユリア。
「可哀そうな人だとは思っていましたが・・・でもまさか、ここまでとは・・・」
そう言いつつ、口元に手をやりながら、まるで汚物を見たような表情を浮かべるシルビア。
・・・そして、そんな仲間たちに取り囲まれる国王。
「ちょっ・・・何だ、お前ら・・・」
貴族の令嬢や、普通の町娘なら、国王からの誘いを無下に出来ずアタフタするのかもしれない。
だが、彼女達はワルツパーティーなのである。
・・・そう、パーティーの内情を知らない彼には理解できなかったことだろう。
このパーティーが腐りきっている(?)ことに・・・。
「く、来るな・・・!やめ・・・やめろぉぉぉ!!」
ドゴォォォ!!
バキッ!!
グシャッ!!
そして処刑は始まった・・・。
一方、ワルツは、
(うーん、好みじゃないわね)
と、ボロ雑巾のような姿へと変わっていく国王を眺めながら、黙ってそんなことを思うのであった。
ただ一言、好みじゃない、と言うだけで、この理不尽な暴力が止まることを分かっておきながら・・・。
そんな一方的な暴力に参加しなかった他の仲間達は・・・
「い、良いんですか?皆さんを止めないと、なんか死んじゃいそうですよ?」
「日頃の行いなので仕方が無いでしょうね」
「儂は腹が減った・・・」
「そろそろ、昼時か・・・。ちょっと狩りに行ってくる」
「私は、お姉さまの結婚相手としてはお誂え向きだと思いますが・・・」
『えっ!?』
・・・そんなやり取りをしているのであった。
国王が、文字通り、肉塊になった頃・・・
「あー、すっきりした」
と満面の笑みを浮かべるルシア。
「うむ。世のため人のためにかく汗は悪いものではないのう」
ふぅ、と息を吐きながら、額から滴る液体を拭うテレサ。
なお、その液体は汗ではなく返り血である。
「馬鹿なオトコ・・・」
指先に付いた国王の血液をペロリと舐めるユリア。
「あはは・・・」
・・・精神が壊れた様子のシルビア。
何か発症していけない精神病を発症しているのではないだろうか・・・。
そんな彼女達が、滴る血を振り払ったり、拭いたりしながら、肉塊に背を向けてワルツのところへと戻ってきた。
(なんか、怖いわね・・・この狂信者集団・・・)
なお、ワルツはそんな彼女達を止めていない。
そう、止めることが出来たはずなのに、である。
そんな、皆が地面に転がる国王から視線を逸らした瞬間のことであった・・・。
「全く・・・神である俺を殺せると思っているのか?」
・・・瞬時に国王(自称神)が復活した。
『うわぁ・・・』
心底イヤそうな視線を向ける仲間たち。
「ふん、どうだ?俺の包容力は?」
そう言ってニヤリと笑みを浮かべる国王。
例え集団リンチに遭っても、その全てを受け止める。
そんな俺様かっこいい!・・・などと思っているのだろうか・・・。
「うざっ!」
「ん?今ワルツ女史の声が・・・」
「・・・」
最早、国王を吹き飛ばそうとも思わないワルツ。
面倒なものには関わらない。
そんないつも通りのスタンスを突き通すことに決めたらしい。
・・・まぁ、それでも愚痴を我慢できなかったらしいが・・・。
「・・・ここにはワルツはおらぬ。お引き取り願うのじゃ」
エネルギアから降りる前にワルツに頼まれていた言伝をテレサが告げる。
「・・・そうか・・・」
すると、見て分かる程に凹む国王。
彼は、『まぁ、分かっていたさ』といった哀愁とも取れるような表情を浮かべた後に、
「じゃぁ、ミッドエデンに行こうか」
・・・そんな突拍子もない事を口にするのであった。
買ってきたゲームが積みゲーになる前に処理しておるのじゃが、なんかこの話と変な所で似ておって、妾の性格が上書きされそうじゃ・・・。
ま、させないがの。




