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5後後後-06 500円玉

「えーと、ルシアは?」


エンデルシア首都の町外れの畑に降り立ったワルツたち。

その中に、一緒に降りてきたはずのルシアの姿がどこにもなかった。


「・・・まさか、拐われた?!」


『?!』


仲間たちを軟着地させるためにワルツが重力制御を操作を行った一瞬の隙を狙って、ルシアを誘拐した、ということだろうか。


(・・・だけど、そんな芸当が出来るのなら、何故今になってルシアだけを拐ったの?)


と、ワルツが考えていると、


「お姉ちゃーん!」


ルシアの声が聞こえてきた。

・・・それも頭の上から。


ワルツ達が見上げた先には・・・


「どう?すごい?」


そう言いながら、ゆっくりと落下してきているルシアの姿があった。


「飛んでる?!」


思わず驚きの言葉が口から漏れるワルツ。


「えっとねぇ・・・自由に飛べはしないけど、ゆっくり落ちてくくらいなら出来るかな?」


と言いながら、空中で一回転した後に、


ふわっ・・・


と地面に降り立つルシア。


「いつの間にそんな魔法が使えるようになったのじゃ?」


眼を輝かせながら、ルシアに問いかけるテレサ。

できるなら、自分もやってみたい、といった様子である。


「前に夢に出てきた人が使ってた魔法を真似てみたら、なんかできた?」


『えっ・・・』


そんなことで出来るようになるの?、といった表情を浮かべる仲間たち。

ルシアがフリーフォール中に一人無言だったのは、魔法の詠唱(?)をしていたからなのだろう。


(なんか、この数日、ルシアの魔法の成長が著しい気がするんだけど・・・その夢と何か関係があるのかしら?)


もしかして、皆に同じような夢を見せれば、ルシアみたいに成長するんじゃ・・・などと思うワルツ。


「ま、とにかく、誘拐されたわけじゃなくてよかったわ」


「心配しなくても大丈夫だよ?」


「えーと・・・うん、そうね・・・」


言うまでもないことだが、ワルツとしては、ルシアが誘拐されることが心配なのではなく、誘拐された後に辺り一面が焼け野原にならないか、そちらの方が心配だったりする。


「さてと、何も無かったことだし、先を急ぎましょうか」


そしてワルツ達は、トマト畑の中を、エンデルシア首都にあるという宿屋に向かって歩き始めた。




さて、城壁のないエンデルシア首都において、人の往来はどのように管理されているのか。


ワルツ達が畑エリアを超え、住宅街に入ってくると、所々に衛兵の派出所のような者が目に入ってきた。

その近くの看板には、


『クレストリングにご用の方は、こちらで免税手形をご購入下さい。免税手形が無い場合、店舗ご利用の際に別途税金が発生しますので、紛失にはくれぐれもご注意をお願い申し上げます。』


と書いてあった。

つまり、エンデルシア首都(クレストリング)で無駄にお金を払いたくなかったら入都税を払え、ということなのだろう。


「えっと、お姉ちゃん?あの手形って買ってきてもいい?」


看板を見たルシアが口を開いた。


「・・・お土産を買うの?」


「うん。約束したから」


グサッ・・・


何かが心に刺さった気がしなくもないが、努めて平静を装うワルツ。


「そう。なら、ここで待ってるから行ってきて?・・・皆はいいの?」


「うむ・・・では、せっかくじゃし、妾も行ってくるかのう」

「やっぱり、部下たちにもお土産が必要だと思うので・・・」

「あっ、先輩。点数稼ぎですか?私も行きます」


・・・と言って、テレサ、ユリア、シルビアの3人が、ルシアの後に付いていった。

ワルツの知らないうちに、ユリアとシルビアには部下が出来たらしい。


「私は、遠慮しておきますね・・・お金ないので・・・」


と、シラヌイ。

彼女に憑依していたアルタイルはお金を使うことが無かったようで、彼女の持ち物の中に金品は一切無かったのである。


「あら、奇遇ね。私もよ」


時価にするととんでもない金額になるだろう飛行艇は持っていても、金欠のワルツ。

ゾンビの一件が終わったらお金を稼ごうと、今から金策のネタを考えているのであった。

そんな折、


「お金とは何ですかの?」


人間の姿になってまだ日が浅い水竜が(おもむ)ろにそんなことを口にした。


「そうね・・・それは中々に難しい質問ね・・・」


「えっ・・・そういう意味では・・・」


ワルツの言葉に、思わずつっこむシラヌイ。


「えぇ、冗談よ。えーとね、お金っていうのは、こういうもののことね」


と言いながら、カーゴコンテナから500円玉を取り出すワルツ。

この世界では意味の無いものだが、捨てるわけにもいかないのでずっと持ち歩いていたのである。


「うわぁ・・・すごく精巧ですね」


目を輝かせながら、500円玉に見入るシラヌイ。


「あ、これ、私のいた国のお金よ?」


『・・・は?』


ワルツの言葉に固まる2人。

そう、彼女達には未だワルツが外の世界の住人(?)であることを伝えてなかったのである。


「ワルツさんはミッドエデンの方では無い・・・あ、でもそっか・・・」


ワルツがそもそも人間ではなかったことを思い出すシラヌイ。

どうやら、この異世界のどこかにある異国の出身であると解釈したらしい。

・・・まぁ、神の国出身だと思った可能性もあるが。

水竜も同じような反応だったので、同じことを思っていることだろう。


(外の世界から来たとか説明しなくても・・・ま、いっか)


結局ワルツは、説明するのが面倒になったようである。


その後、水竜に、お金を払うと物が買えたり、サービスが受けられたりすることを説明すると、すんなりと理解していた。

一応、海の世界でも物々交換の概念は存在していたらしく、その拡張版として捉えたらしい。


ワルツ達がそんなやり取りをしていると、


「行ってきたよ」

「ただいまなのじゃ」

「300ゴールドって安くないですか?」

「これ、経費で落ちますかね・・・」


ユリアやシルビアのところには徴税官が来るらしい・・・。


というわけで、皆が帰ってきた。

すると、


「テレサ様」


水竜がテレサに話しかける。


「なんじゃ?」


「儂にも月謝はいただけるのでしょうか?」


「えっ・・・な、なんじゃ、急に・・・」


「さっきまで、お金の話をしてたのよ。マクロ経済モデルってやつ?」


「は?」


「あ、ごめん、水竜個人のことだからミクロかも」


「いや、どちらも分からんのじゃ・・・」


と、そんなやり取りをした結果、水竜にも給料が出ることになった。

ただし、コルテックス経由だと税務署がうるさいらしいので、ワルツからだが。


ちなみに、その面倒な税務署の設置を提唱したのはワルツ本人である。




そして、一行は更に足を進め、街の繁華街までやってきた。

エンデルシア首都周辺の気候が乾燥しているので、町並みもそれに応じた作りになっているのか、と思いきや・・・、


「なんか、フツーの町並みって感じよね」


ワルツはてっきり、中東にあるような白い壁の建物が多いかと思っていたのだが、意外に木造建築が多いようであった。


「ワルツさんの故郷では、木で作った家が多いんですか?」


ワルツの言葉に疑問を持ったシラヌイが問いかけてくる。


「んー、そうね。個人宅は木造が多いわね。たまに鉄筋コンクリート製とかあるけど、冬が寒いからあまり好まれないわね」


「てっきんこん・・・なんですかそれ?」


「鉄筋コンクリート。そうねー・・・細い鉄の棒で作った骨組みを、大量の接着剤で固めて作る建築の材料の一種ね」


「えっ・・・接着剤で家を作るんですか?」


「うーん・・・厳密には違うと思うんだけど、セメントって言うくらいだから、接着剤って言っても間違いではないんじゃないかしら」


「・・・なんか、ベタ付きそうですね」


・・・もしかするとシラヌイは、鳥黐(とりもち)のようなもので作られた家を想像しているのかもしれない。


「まぁ、触った感じは石そのものだけどね。そりゃ、固まる前は柔らかいけど・・・」


「ふーん・・・そんな材料があるんですね・・・」


どうやらシラヌイは、鍛冶で使う材料以外にも興味がありそうである。




「さてと、ここね」


『えっ・・・』


見る限り、両手では数えきれないほどの宿が立ち並ぶ一角で、ワルツ(の腕)は迷うこと無く、1軒の宿屋の前で立ち止まった。

カタリナから聞いていたのは、単に宿にいると言う情報だけだったが・・・


(無線機のビーコンが3つ分出てるから、ここで間違いないでしょ)


というわけである。

つまり、無線機を持っている限りワルツからは逃げられ・・・いや、見失われることがないのである。


「じゃぁ、ルシア?私は入り口が小さすぎて入れないから、カタリナ達を呼んできてくれる」


「うん。ちょっと待っててね」


すると、宿屋の中に消えるルシア。


そしてしばらくした後のことであった。


チュン!


スズメ・・・ではなく、レーザーが宿屋を貫通して、隣の建物を貫いていった。

・・・どうやら、またゴキブリが湧いたようである。


経済学?分からんのじゃ!


エンデルシア王都→エンデルシア首都に統合

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