5後後後-03 手の内
ここから4話、あまりの忙しさに剣士の存在を忘れていた模様。
・・・斯くなる上は・・・
ゴォォォォォ!!
爆音と白煙を上げながらクレストリングに向かって飛行する|エンデルシア軍の飛行艇。
他の飛行艇が煙を吹いていない所を見ると、相当の無理をしているのだろう。
所謂、最大戦速ではないだろうか。
一方、
キィィィィィィン・・・
前方を飛行する空軍機と比べて、極めて静かなタービン音を上げて飛行するエネルギア。
ほぼアイドリング状態のためか、地上にいる者たちには全く音が聞こえなかった。
・・・ただし、アイドリングでも300km/hは出ているのだが。
「うん。着陸態勢、って感じね」
兄と一緒に(半強制的に)遊んだゲームのフライトシミュレーターで旅客機を着陸させた際の様子を思い出しながら、そんなこと口にするワルツ。
ただ、その兄は、管制官役だったので、全くゲーム機のコントローラを持っていなかったのだが。
・・・ゲームの楽しみ方は人それぞれなのだろう。
まぁ、それはさておき。
パンパンパンパン・・・
といった様子で、クレストリングから空港にある誘導灯のような光が、何もない空中をエネルギアに向かって走ってきた。
魔法で映し出した幻影のようなものだろうか。
但し、幻影魔法と違う点は、ワルツにも見えたことである。
どうやら、光魔法を応用したものらしい。
「ふーん・・・なんか、着陸って言うよりも、宇宙ステーションとドッキングするときみたいね」
などと呟くワルツ。
なお、彼女のいた現代世界では、宇宙ステーション・・・という名の小型の宇宙コロニーが各国ごとにいくつも存在していた。
ただし、ワルツ自身は直接見たわけではなく、TVやネットで見た知識だったが。
その中に似たようなシチュエーションがあったようだ。
ところで・・・
「・・・なんか速すぎない?」
見る見るうちに迫ってくるクレストリングの巨大な壁。
停泊するだろう桟橋の姿もハッキリと見え始めていた。
「これ、普通の船なら止まれないわよね・・・。え?何?突っ込めってこと?」
別に構わないけど・・・、と内心思いつつも前を飛ぶ空軍機の事を考えるワルツ。
(煽られて恐慌状態になってるとか?軍人なんだから、まさかこの程度のことを怖がるとか無いわよねぇ・・・)
なお、サイズを例えるなら、空軍機が小型の漁船サイズ、そしてエネルギアは戦艦サイズである。
全力で逃げようとしている釣り船の後を得体のしれない巨大な戦艦・・・あるいは空母のような巨大な構造物がつかず離れず追ってくる・・・。
果たして、それでも正気でいられるのだろうか・・・。
一方、そんなエネルギアの艦橋から見える光景に、
「やっぱり、クレストリングっておっきいですねー」
「あの中ってどうなってるんでしょうか。意外にハリボテだったりして・・・」
「サウスフォートレスにも同じものが浮いていたんじゃろ?鹵獲できれば今頃は我が国にもあったんじゃろうか・・・」
鼻を真っ赤にしながら、そんな感想を呟いている仲間たち。
そんな中で、
「ちょっ・・・ワルツさん!ぶつかります!ぶつかりますって!!っていうか、なんで皆さん冷静なんですか!!」
そんな声を上げて、顔を青くしながら、シラヌイは後退りを始めていた。
「あ、シラヌイ?大丈夫よ?例えエネルギアがぶつかったとしても墜ちることはないから。ま、ぶつかることもないけどね〜」
「いや、そんなこと言われても・・・!」
ワルツがそう言ってもシラヌイには信じられない様子であった。
「百聞は一見にしかずね。エネルギア?どこに止まればいいか、何となく分かるでしょ?」
「うん。あの、はしみたいのが、とびでてるぶぶんに、とめるんだよね?」
「そうそう」
そして次の瞬間、
「・・・はい停止」
ガン!
・・・という音は鳴らなかったが、エネルギアと空軍機の速度が一瞬にして0km/hになった。
エネルギアは、エネルギア少年が。
空軍機のことは、ワルツが重力制御で強制的に停止させたのである。
恐らく、そのまま放置していたなら空軍機はクレストリングに大穴を開けていたことだろう。
あるいは、空軍機の方が空の藻屑と化していただろうか。
(全く、エネルギアに煽られたくらいで取り乱すとか、ちっさい軍人ね)
もう少し(50m)でクレストリングにぶつかっていただろう空軍機に対して、そんなことを思うワルツ。
・・・恐らく、巨大なエネルギアに煽られて動じないのは、この世界ではワルツと他数名くらいしかいないのではないだろうか。
エネルギアを所定の港(?)に停泊させた後、重力制御を使った擬似スラスターで微調整を行い、タラップを上手く桟橋に載せたエネルギア少年。
そんな彼に礼を言った後に、ワルツは仲間たちに対して口を開いた。
「さてと、降りましょうか」
そして、ワルツは腕以外を不可視にした。
・・・エンデルシア国王対策である。
「というわけで、テレサ?あの面倒な国王が来たら対応はお願いね?」
するとテレサは、少し考えた後に口を開く。
「それは構わぬが・・・何故ワルツがおらぬ、と聞かれた場合、何と答えればよいのじゃ?」
不可視状態になって、ここにはいないことにするつもりのワルツのことを、エンデルシア国王にどう説明していいのか。
下手な言い訳をすると、後日面倒なことになりかねないので、テレサは決めかねたようである。
「んー、そうね・・・魔王集めて神さまに喧嘩を売る準備してる、とでも答えてくれればいいかしらね」
「うむ。分かったのじゃ」
「・・・冗談よ」
『えっ・・・』
「冗談よ」
『・・・』
何故か仲間たちが皆、疑問の声を挙げたので、言葉を繰り返すワルツ。
「全く。勇者を派遣した国の偉い人達に、そんなこと言えるわけないじゃない。そうね・・・適当に言ってくれて構わないけど・・・まぁ、流行病を患ったって言えば良いんじゃないかしら。でも、死にそうとか、不治の病とか言ったらダメよ?なんかおしかけてきたり、変なもの送りつけてきても嫌だから」
「う、うむ。では、その方向で行くのじゃ」
というわけで、ワルツは仮病を発病した。
ワルツ達がタラップの出入り口まで来ると・・・
『ミッドエデン代表団様の御成りー!』
そんな掛け声とともに、エネルギアとクレストリングの間にかけられた桟橋の上をレッドカーペットのロールが走った。
そして、エネルギアのタラップ直前で、ピタッとロールの展開が終わる。
「?!」
その様子に思わず狼狽えるワルツは、透明になっているというのに、エネルギアの昇降口の陰に隠れた後、外をゆっくりと覗き見た。
・・・すると、
「どうしてこうなるのよ・・・」
いつの間に展開したのか、レッドカーペットの左右には正装姿の空軍兵士が並んでいた。
そして、ワルツ達一同の姿を確認した瞬間、
バッ!!
一斉に敬礼する兵士たち。
そんなワルツとっては最悪な光景の中に向かって、
「ふむ。ご苦労じゃ」
そう言いながら、まるでいつも通りの事のように、テレサがタラップを降りていった。
その先では、
「これはこれは・・・議長閣下自らエンデルシアにお越しくださるとは、恐悦至極にございます」
そう言って恭しく礼をする小太りの男性が待ち構えていた。
どうやら、ワルツが危惧していたように、エンデルシアの国王が待ち構えていた、ということは無いようである。
黒い燕尾服のような服装を着ていることから予想すると、大臣か何かなのだろうか。
「ふむ、キュムラス宰相。お久しぶりなのじゃ。じゃが、今回は公務ではなく、忍び扱いにしてもらえると助かるのじゃが?」
そう言って周りの兵士たちに視線を向けるテレサ。
その視線は嫌悪を含んだものではなく、苦笑を浮かべながらのもので、出迎える必要はない、といった意味合いを含んでいた。
これがワルツなら、無表情で対応するか、眉間にしわを寄せるか、回れ右をしてミッドエデンに帰っていたことだろう。
「左様でございますか。では、テレサ様。後ほど国王陛下がお会いになられる予定なので、それまではご用意いたしましたお部屋の方でお寛ぎください」
まるでテレサ達が来ることを知っていて準備していたかのような対応をする宰相。
そんな彼の反応に、
「・・・宰相?妾達はここに来ると通達はしていないはずじゃが?」
そんな当然の疑問をぶつけるテレサ。
彼女の疑問に対して宰相は、
「ふむ・・・国王から、本日午前中に貴女様方の入国があると承っておりましたが・・・?」
と返してきた。
・・・ワルツ達がエンデルシア首都へ来ることは、国王の計算の内、ということだろうか。
やりきった・・・やりきったのじゃ・・・。
時間が無さ過ぎ・・・。
修正したのじゃ。
主に最後の部分が。




