5後後後-01 土魔法?
初心者(?)が運転する車のように、右往左往しながら最初の目的地へと向かうエネルギア。
それでも速度自体は普段と変わらないので、飛行時間は30分程度といったところだろうか。
ところでワルツ達は、エンデルシアには向かっていなかった。
そもそも、エンデルシアにゾンビたちを回収に行っても、ミッドエデンには彼らを収容するための場所が存在しないのである。
そこでエンデルシアに行く前に、まずは、ミッドエデン-エンデルシアの国境付近、即ち、サウスフォートレス南西部に収容スペースを作る、ということになったのである。
そんな折、
(やっぱり、こういうのって領主に許可とか必要なのかしら・・・)
などとワルツが考えた際、ふとその領主本人であるベルツ伯爵と夫人ことを思い出す。
天使に襲われた際に何があったのかを聞こうと、先日、テレサと水竜が彼らのところへ面会に行ったはずであった。
「そういえば、伯爵達、何か言ってた?」
飛行する方向を間違えないように、少年に細かく指示を出しながら、ワルツはテレサに問いかける。
「おぉ、そうじゃった。報告するのをすっかり忘れておったのじゃ」
エネルギア少年の件があったので忘れていたらしい・・・。
「当人等、当時の記憶が無いらしいぞ?」
「記憶が無いって・・・いつから?」
「朝食を摂ったことは覚えておるようじゃったから、その後に天使が襲ってきた時からじゃないかのう?」
とテレサ。
すると、補足をするように水竜も口を開く。
「ただ、奥方様の方は娘・・・えー、狩人殿ですかな。狩人殿の凛々しい姿が断片的に記憶に残っておる、と申しておりましたの」
「ふーん。完全に意識を乗っ取られていたってわけじゃないみたいね」
まだ天使だった頃のシルビアも、ワルツの拷問(?)を受けていた際は、天使側の人格(?)ではなくシルビア本人の人格が出ていたのである。
ONかOFFかの2択、という訳ではないのだろう。
「そいで?他には何か言ってた?」
「記憶が無いと言っていた以外には・・・特に何も言っておらんかったかのう」
「そうですな・・・そんなところではないですかの」
そんなやり取りをする2人を見て、
(・・・2人とも、お婆ちゃんになっても、同じような喋り方をするんでしょうね・・・きっと)
などと、しみじみ思うワルツ。
尤も、水竜には年齢を聞いていないので、既にお婆ちゃんの可能性もあるのだが・・・。
「あぁ、そういえば・・・まぁ、当たり前のことなんじゃが、狩人殿に会いたいとも言っておったな。それと、ワルツによろしくと」
「・・・分かったわ。ありがとう」
やはり、近いうちに顔を見せなくてはならないのだろう。
問題は、機動装甲の姿をどうするかなのだが・・・
(もうこの際、エネルギアの身体でも借りようかしら)
・・・と、ワルツは色々と考えた挙句、結局面倒がって、彼らに会いに行くことは無かった。
そして眼下に、経由地点であるサウスフォートレスが見えてきた頃、
「うわぁ・・・」
「これは酷いのう」
「空から見ると被害の様子がよく分かりますな・・・」
黒く焦げた部分が斑模様になっているサウスフォートレスを眼にした仲間たちが、口々に感想を漏らす。
恐らく黒い斑点の中心に、マナをリングに転移させていた(?)魔法陣があったのだろう。
「ホント嫌になるわよね・・・何か、神っぽい人が、私に対する贄がなんたらって言ってたけど、何を考えているんでしょうね・・・」
『・・・』
そんなワルツの言葉に沈黙する仲間たち。
何か思うところでもあったのだろうか。
「よってくの?」
「いえ、進路はそのままでお願い」
「わかった」
仲間たちが心配そうにサウスフォートレスを見下ろす様子を見て、エネルギア少年も心配になったらしい。
「さてと、ルシア?そろそろ大穴を開ける準備をしてもらえる?」
「ゾンビさん達を閉じ込めておく穴だよね?エンデルシアの時と同じ感じでいいの?」
「えぇ、構わないわ」
そんなやり取りを交わしてから5分ほどして、目的地上空へと到着した。
ここは、ミッドエデンとエンデルシアの国境を成す2つの山脈、その内のミッドエデン側である。
そこで、一旦、エネルギアを空中で静止させてから、外部ハッチを開いて、ワルツはルシアと共に大空へと飛び立った。
「朝の空は気持ちいいね」
「ルシアと初めて飛んだ時もこんな朝だったわね」
「うん!」
嬉しそうな表情を浮かべながら、ワルツの言葉に頷くルシア。
ワルツ達を迎えた初秋の空は、ワルツとルシアと出会った頃の春の空のように空気が澄んでいて、心地が良かった。
ただ、少々肌寒い空気であることは否めなかったが、ルシアにとっては余り気にならないようである。
「それで、どこに開ければいいの?」
そんなルシアの質問に対して、
「人とか魔物を出来るだけ巻き込まないところがいいと思うから・・・」
ワルツはそう答えた後、周辺の地形を確認し、
「あの一際高い山の麓とかどうかしら?」
機動装甲の指で、何もない草原を指した。
そこは、森も村も畑も無い、ただ開けた草原が広がっているだけの場所であった。
幾つか生体反応はあるが、ワルツのカメラで確認した限りでは、狼系の魔物しか確認できなかったので、人を巻き込むことは無さそうである。
「いいよ。じゃぁ、やるね」
ルシアが徐ろに手を翳す。
「えっ・・・土魔法って直接手を当てなくても出来るの?」
「えっと、多分」
そう言うと、ルシアは手に貯めていた紫色の魔力を開放した。
チュン・・・
直径6〜7cm程度の魔力弾が、勢い良く地面に向かって落ちていく・・・。
「ちょっ・・・これ、何か嫌な予感しかしないんだけど・・・」
その直後であった。
ピカッ・・・ドゴォォォォォ!!!
まるで何か見えないモノに弾かれるかのようにして、直径2km、深さ200mのクレーターが一瞬で出来上がった。
きのこ雲が出来なかったので、爆発系の魔法、というわけではないのだろう。
・・・ただ、どう見ても、土を操作する系の魔法には見えなかったが・・・。
「はい、完成」
朝飯前、といった様子のルシア。
「・・・余り疲れてないかもしれないけど・・・一応、お疲れ様」
(・・・反物質でも撃ち出してるのかしら・・・)
テニスボールサイズの爆発物で同じような穴を開けるためにはどうすればいいのか、内心で悩んでいたワルツ。
そんな時である。
『おねえちゃん。ぼくも、うってみていい?』
そんな声がエネルギア少年から無線通信で飛んで来た。
いや、エネルギア本体から飛んできたと言ってもいいだろう。
『えっとー・・・いえ、貴方がやるととんでもないことになると思うから、今は止めておきましょ?』
『そうかなぁ・・・わかった』
実のところワルツは、とんでもない武装をエネルギアに搭載しているのだが・・・。
まぁ、その話はいずれ。
と、こうして、ゾンビ達を収容するための穴が出来上がったのだが・・・。
一つ問題が生じた。
「あ・・・水が溜まってく・・・」
ルシアが地面に出来たクレーターを眺めながら、そんな言葉を漏らす。
「えっ?・・・あら、ホントね・・・」
徐々に穴の底に溜まっていく水の様子を観察するワルツ。
エンデルシアは乾燥地帯だったためか地下水が穴に流れ込むことは無かったが、普通に雨の降るミッドエデンでは豊富に地下水脈が存在するため、クレーターの至るところから水が染み出してきているようであった。
『・・・エネルギア。少しクレーターから離れてくれるかしら?』
『えっ?うん・・・なにかするの?』
『ちょっとした実験ね』
そしてワルツはルシアに言った。
「ルシア?あのクレーターに、程々に火魔法をかけてくれない?地面が溶ける程度でいいから」
なお、地面が溶ける程の火魔法は、この世界では程々とは言わない。
「えっ・・・それって、もしかして、全力でやっていいってこと?」
何故か、眼を輝かせて尻尾を振りながらワルツを見上げてくるルシア。
「えっと・・・うん。周りに被害がでな「分かった!」い程度に・・・えっ・・・?」
最早、ワルツの言葉など聞いていないルシア。
「ちょっ・・・」
「いっくよー!」
「ダメっ!」
・・・
ドゴォォォォォン!!
・・・そして、クレーターが蒸発した。
諸事情により、短めなのじゃ・・・。
タイトル入れるの忘れてた・・・




