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5後後-15 エラー

「ワルツ?ちょっといいじゃろうか。伯爵達が目覚めたようじゃが・・・どうする?」


夕食が終わった後、王城から大工房に降りてきたテレサが水竜と共に報告に来た。


「会えるとか会えないとか以前に、この姿じゃね・・・」


「ふむ・・・難儀じゃのう」


「儂には、主様はこちらのお姿でおられる方がしっくり来るのですが、やはり人々の中では少々目立ちますかの・・・」


温度の見える水竜にとって『ワルツ』は、ホログラムの方ではなく、機動装甲の方がメインらしい。


目立つ、といえば、人間になって2日目の水竜は、王城では無事に手伝いをできたのだろうか。


「ところで水竜。貴女は今日一日、どうだったの?うまく手伝いできた?」


「申し訳ありませんが、自分の事ゆえ分かりませぬ・・・。テレサ様、いかがでしたでしょうか?」


水竜自身としては、可もなく不可もないといった調子だったのだろう。


一方、監督者(?)としての評価を求められたテレサは、


「そうじゃなぁ・・・軽食の用意以外は良かったと思うぞ?」


辛口(?)の評価を下した。


「・・・やはり、お口には合わなかったようですな・・・」


どうやら秘書には料理スキルも求められるらしい。


「大体どんな軽食が出たのか、想像は付くわね・・・」


恐らくは皿の上に、(あじ)のような小魚が生のままで置かれていたのだろう。

カタリナなら、結界魔法を使って背開きにした後、火魔法を使って加熱して、何も無かったかのように食べるかもしれない。


「・・・流石はワルツじゃな・・・妾には予想がつかんかったのじゃ・・・」


そう言いながら、斜め下の方に光のない視線を向けるテレサ。

・・・単に小魚が出てきた割には、随分な反応ではないだろうか。

実は魚が嫌いだったりするのだろうか・・・。


「ふーん・・・まぁ、これからも頑張ってね」


「承知いたしました。主様」


コルテックスか誰かに教え込まれたのか、ほぼ45度の角度で礼をする水竜。


「それで、伯爵達が目を覚ましたって話よね・・・」


「うむ。じゃが、その姿では仕方あるまい。妾達だけで見舞いをしに行ってくるのじゃ」


「・・・ごめんね、頼めるかしら?あと、ちゃんと何があったか事情も聞いてきてね?」


「分かったのじゃ!」


「お任せくだされ」


そう言うと、いろいろな意味で凸凹なコンビは、王城へと戻っていった。




「さてと。あとは動いていた炉のオーバーホールが終われば、火が入れられる(再起動できる)わね」


独り言を呟きながら、黙々と作業を続けるワルツ。


なお、先ほどまで手伝いを続けていたルシアとシラヌイは、


zzz・・・


夕食で満腹になったためか、2人とも、作業台兼食卓になっている机に突っ伏して眠っていた。

最初に眠ったのはルシアで、その後を追うようにシラヌイも夢の世界に旅立ったようである。


そんな折、


Error


ワルツのとあるシステムが異常を表示した。

とはいっても、特に何か危機的な状況が生じた、というわけではないのだが・・・。


(ん?認知システムに異常?)


カメラ、レーダー、触覚、温度、匂い・・・。

機動装甲には様々なセンサーが搭載されているのだが、それらのセンサーで知覚した情報の整合性が取れない、というエラーが生じたのである。


(嫌ねぇ・・・老朽化かしら・・・)


センサーの老朽化による認識障害というのは、本来、自己再生機能のあるワルツではありえないことであった。

日々の行動で生じた衝撃や劣化などで生じた欠陥は、生物の身体のように、ナノマシンが勝手に修復してしまうのである。

耐久度0%になるとナノマシンでは修復しきれないという但し書きは付くのだが、今のところセンサー関連が故障している、ということは無かった。


では、一体何が、彼女の認識システムのエラーを引き起こした原因なのか。


ワルツは、意識の中で認知できなかったセンサーの情報を探るべく、エラーを起こした瞬間のログを確認し始めた。

もちろん、カメラで認識した画像を含めて、である。


すると、


「えっ・・・男の子?」


・・・ワルツのカメラの画像だけに、何故か少年の姿が映っていたのである。

それも、外装を外したエネルギアの中に。


「ちょっ・・・エネルギアに入り込んだ?!」


工房に入ってくる事自体、生体認証システムなどがあって困難であるというのに、ずっとワルツ達が作業をしていたエネルギアの中に入り込むことなど可能なのだろうか。

・・・確かに、夕食時には眼を外していた機会も無くはなかったが、つまり、その瞬間を狙って入り込んだ、ということだろうか。


「ルシア、シラヌイ!ちょっと、起きて!」


2人に声を掛けるワルツ。


「んぁ・・・?寝てた・・・」


ルシアが寝ぼけ(まなこ)を擦りながら眼を覚ました。

同時に、


ガタン!


「・・・はっ!いつの間に・・・」


座っていた椅子を倒しながら急に起きるシラヌイ。


(・・・相当血圧が上がっていそうね・・・)


まぁ、ルシアみたいに低血圧よりはいいのかしら・・・、と思いつつもワルツは、2人に先ほど見た少年の話をする。


「休憩しているところごめんね。何か、知らない男の子がエネルギアに紛れ込んだみたいなんだけど、探すの手伝ってくれない?」


「えっ?!」


ことの重大さ(?)に眠そうだったルシアの眼がまん丸に開かれる。


そんな彼女の様子に、


「・・・やっぱりこの工房って、普通の人は入ってきてはダメなんですね」


そう呟くシラヌイ。

自分の祖父が経営していたという鍛冶屋の工房のことでも思い出しているのだろうか。


「もちろん、関係者以外立ち入り禁止よ?だって、技術や情報が漏れるとか拙いし、姿を見られるとか嫌だし・・・」


・・・恐らく、後者が大きな理由なのだろう。


「それで、2人には、私が簡単には入れないような狭い所を探して欲しいのよ」


そう言いながら、外装が外れて配管が露出している部分にカメラを向けるワルツ。


すると、


「・・・あれ、お姉ちゃんって、生き物を探す魔法とか使ってなかった?」


生体反応センサーのことを指摘するルシア。


「・・・うん、そのはずなんだけど・・・」


だが、生体反応センサーでは、ルシアとシラヌイ、それに医務室で寝ているリア(と剣士)の反応しか検出できなかった。


「もしかして、ホムンクルス?!」


アルタイルが関係するホムンクルスは、何故かワルツの生体反応センサーでは反応しないのである。

可能性としては十分に考えられるだろう。


「そうだとするなら拙いわね・・・」


残るは主機のオーバーホールを残すのみとなったエネルギアだったが、何らかの破壊工作をされたなら、間違いなく出発の予定日が後ろにずれ込んでしまうことだろう。


まぁ、エネルギアを狙うならまだ問題は少ない。

これが仲間たちを狙ったものだとするなら大問題である。


「・・・リアが危険ね・・・。様子を見に行きましょう」


そんなワルツの言葉に、


「・・・あれ?飛行艇の中を探さなくてもいいの?」


エネルギアの外装の隙間から覗く暗闇に怪訝な表情を向けながら、ルシアが問いかける。

どうやら彼女は、外装の裏側に広がっている暗く狭い空間の中で人探しをする・・・というより、そもそもそのような場所に入ること自体が嫌いらしい。


「えぇ。もしもアル○○(ピー)ルのホムンクルスが侵入しているとするなら、そんな狭いところに2人を入れるのは心配だから・・・」


「えっと、うん・・・分かった」


と言いつつ、安堵の表情を見せるルシア。


一方、シラヌイは、


「分かりました。そのホムンクルスとかアル『ピー』ルっていう人たちは危険な人たちなんですね」


と、そもそも、アルタイルの事を知らないようであった。


(そういえば、アルタイルって名前を出してまだ説明してなかったわね・・・ま、それは今度時間のあるときでいっか・・・)


そして、結局忘れて説明しないのである。


それはさておき。


「じゃぁ、ついてきて」


そして、ワルツ達はエネルギアの船内へと足を進めた。




「・・・廊下に人影は無しっと」


十分に警戒をしながら、医務室に向かって歩みを進めていくワルツ達。

その際、すべての部屋の中を確認していたのだが、今のところ何の異常も無かった。


そして、医務室の前まで来て・・・、


ガッ!


・・・自動ドアの開く速度を越えて、ワルツはドアをこじ開けた。


「うわっ?!ば、化け物?!」


部屋の中から聞こえてくる声。


それに対して、


「・・・化け物とはレディーに失礼ね。一応、気にしてるんだからもう少し言い方を考えてくれない?」


ワルツはどことなく安堵した様子で言葉を返した。

・・・相手が剣士だったからである。


ベッドの上にベルトで雁字搦めに固定された彼にとっては、突然、ドアを無理やりこじ開けて入ってきた機動装甲(ワルツ)が、化け物にしか見えなかったようだ。


「・・・なんだ・・・ワルツ殿か」


そう言うと、彼は脱力して、大人しくベッドで横になった。


「・・・どのくらい寝ていた?」


「1日半ってところじゃないかしら」


「そうか・・・何があったんだっけ・・・」


「ゾンビになってたわよ?」


「えっ・・・」


首だけ起こしてマジか?!といった視線をワルツに向ける剣士。


その際、


「おっ、リティアちゃんも眼を覚ましたみたいだな」


シラヌイの元気そうな姿を見た剣士がそんな言葉を口にした。

なお、彼の記憶はおよそ2日前で止まっているので、リティアがシラヌイに憑依したアルタイルだったことを知らない。


そんな剣士に、難しい表情を浮かべるシラヌイ。


「あの・・・私、リティアではないです。シラヌイって言います」


「えっ・・・もしかして、そっくりさん?」


他人のドッペルゲンガーを見た、といった様子の剣士。


「えーと、その辺の詳しい説明は後日ね。申し訳ないけど、もうすこしここでじっとしていてもらえない?」


とワルツが口を開く。


「ん?何かあったのか?」


「何者かが、エネルギアに紛れ込んだみたいなのよ」


「エネルギア・・・あぁ、飛行艇か。そういえばここ、飛行艇の医務室だったっけ?」


「えぇ、そうよ。それで、病み上がりで申し訳ないんだけど、ちょっとルシアやシラヌイと一緒に、リアを守っててくれない?」


と言いつつ、隣にあったカーテンを開けて、リアを剣士に見せるワルツ。


「・・・えっ」


剣士はその光景に絶句した。


なぜなら、


「・・・まだ、目が覚めないのよ。それで、栄養供給とか、生命維持のための点滴をしているだけよ。まぁそれだけじゃないけどね・・・」


リアに、沢山のチューブが繋がっていたからである。


「・・・大丈夫なのか?」


「・・・それも含めて、後日詳しい説明をするわ。今は、その紛れ込んだ者が何者なのかを明らかにするのが先決よ」


そう言って、表情を見せないようにして、剣士たちを背にして、医務室を出ていこうとするワルツ。

・・・もちろん、機動装甲には表情は存在しなかったが、習慣的なものがそうさせたようである。


「お姉ちゃん?」


「船内を一通り見てくるだけだから、その間、皆を守っていてあげてね?」


私も行く!、と言いそうなルシアにそんな言葉をかけるワルツ。

彼女がここに残るだけで、随分な戦力になるはずである。


「えっと・・・うん、それなら・・・」


どうやら、ルシアはワルツの言葉に納得したようであった。


「じゃぁ、行ってくるわ。何かあったら無線機で連絡してね」


そして、ワルツは医務室を後にした。




そしてエネルギア内の部屋という部屋を見て回ったワルツだったが、


「いないわね・・・」


最後の部屋を残して、結局誰もいなかった。


「・・・やっぱり、外装の裏側とかとんでもないところに潜んでるのかしら・・・」


その場合、ワルツが入り込むことは出来ないので、ルシア達に頼むことが出来ない以上、エネルギアの外装を全て外さなくてはならなくなるだろう。


「面倒ね・・・」


そんな独り言を呟きながら、ワルツは最後の部屋・・・艦橋に入った。

なお、テレサは魚嫌いではない模様。

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