5後後-14 シラヌイの職業?
「・・・一体、何なんです?ルシアちゃんって・・・」
「私に聞かれても分からないわよ。まぁ、神さまに目を付けらているのは確かね」
「えっ・・・」
ルシアの行使している火魔法を眺めながら、そんな内容の会話を交わすシラヌイとワルツ。
今、ルシアが加熱しているものは、傷ついて使い物にならなくなった分子ポンプのケース・・・即ち新しいポンプのための素材である。
チタン、ニッケル、クロム、鉄、パラジウム、コバルト・・・。
その材料のほとんどが、アイテムボックス破損とともに失われてしまったが、工房に残っていた廃材と壊れたポンプをリサイクルすることで、どうにか必要量を確保することには成功した。
だが、もし、今以上にエネルギアが損壊して新しい部品を作り直さなくてはならなくなった場合、原材料を採掘する必要が出てくることは間違いなかった。
そうなると、さすがのワルツでも部品を作りながら採掘をするということは出来ないので、工期(?)の遅延は避けられないだろう。
とはいえ、精錬や移動に時間が掛かるだけで、作業量自体は大したものでは無いのだが。
「できたよー?」
巨大なセラミック製の坩堝を前に、加熱が終わったことを知らせてくるルシア。
最近彼女は、赤熱する金属の温度が分かるようになったらしい。
「・・・早かったわね」
(なんか、極端に早すぎない?)
つい1週間前までは3分ほどかかっていた作業が、今日は1分で終わっていた。
(張り切ってる?・・・それとも何かあった?)
ルシアの身に何が起ったのかを知らないワルツが、心の中で一人、頭を抱えていると、
「これ、そんなに溶けやすい材料なんですか・・・?」
試してみたい、といった様子でシラヌイが口を開く。
「試しにやってみる?」
ルシアの加熱した材料が冷える前に重力制御で成分を分離しつつ、近くにあった手のひらサイズの金属の廃材を宙に浮かべるワルツ。
・・・ただし、彼女が浮かべた廃材はルシアが加熱したものと同じもの・・・ではなかった。
「これを加熱すればいいんですか?」
「えぇ。でも無理しちゃダメよ?」
「はい。やってみます」
そう返事をすると、目をつぶって廃材に手を翳し、加熱を始めるシラヌイ。
どうやら彼女の加熱魔法(?)は、ルシアの火魔法と同じように、火球が飛んでいくタイプでは無いらしい。
・・・しばらく待つと廃材が赤熱を始め、同時にシラヌイの顔も赤くなり始めた。
「ぶはっ!・・・何ですか、この材料は?!」
ずっと息を止めていたのか、大きく息を吐いた後、シラヌイが中々赤熱しない材料に声(根?)を上げる。
彼女の様子からすると、どうやら金属材料の加熱の経験があるらしい。
「ふーん。この材料が普通じゃないって分かるのね・・・」
実はワルツは、溶けにくい材料を渡して、シラヌイの力量を図っていたのである。
火魔法に限って言うなら、強さはカタリナよりは上、リアよりは下と言ったところだろうか。
中々の強さである。
「この廃材は、核融合炉に接続されている熱交換用ナトリウム回路の耐熱パイプ・・・って言っても分かんないわよね。要するに、超高温でも溶けない材料ってことね」
ワルツの説明は万人向けではなかったが、シラヌイにとっては十分だったらしく、
「へぇ・・・こんな材料があったんですね・・・」
そう言いながら、真っ赤に赤熱しつつもまったく溶ける様子のない円筒状の廃材を食い入るように観察していた。
「・・・もしかして、金属を溶かして物を作った経験とかあるの?」
ワルツが、妙に『材料』について興味がありそうなシラヌイに疑問を投げかけると、
「あ・・・すみません。私が里から出て世界を回ってる理由をちゃんと説明していませんでしたね」
そういってシラヌイは、慣れた様子で右手を左腰に手を当てた。
どうやら、普段から腰に何かを身につけていたらしいが・・・
「あっ、そうだ・・・無いんだった・・・」
あるはずのものが無かったようで、悲しそうな表情を浮かべながら、そんな独り言を呟くのだった。
どうやらソレを使ってワルツ達に説明をしたかったようである。
その後、シラヌイは深くため息を付いて、何か諦めた様子を見せながら、自分のことについて追加の説明を始めた。
「実は私、鍛冶屋の孫なんです」
「へぇ・・・」
「かじや?」
ワルツとルシアがそれぞれ反応を返す。
「鍛冶屋は、刃物を作ったり直したりすることを生業にする・・・えっと、お仕事にする人たちのことです」
シラヌイがルシアの疑問に答えた。
「お姉ちゃんみたいに?」
「うーん、ちょっと違うかな。私は・・・まぁ、趣味みたいなものだし」
ルシアの疑問に率直に答えるワルツ。
そんな彼女に対して、
「すごい趣味ですね・・・」
シラヌイは苦笑を浮かべた。
なお、ワルツの場合は、紛うこと無く趣味である。
「えっと・・・それで、お爺ちゃんの跡を継ぐために、世界を回ってもっと色々な武器や材料、それに作り方を学びたいと思って里を出たんですが・・・」
しかし、アルタイルに目を付けられて、良いように使われた、ということだろう。
「本当は私の作った太刀をご紹介したかったのですが・・・無くしちゃったみたいです」
そう言いながら口元を強く結ぶシラヌイ。
相当大事なものだったらしいが、アルタイルに乗っ取られている間に、手放してしまったようである。
「そう・・・。それにしても鍛冶屋が僧侶ね。いったいどうしてそうなったのかしら・・・」
「私にも分かりません・・・」
アルタイルはロザリオでも作りたかったのだろうか・・・。
さて。
話を聞く限り、どうやらシラヌイは、ワルツが待ち望んでいた人材の一人のようである。
「・・・貴女、我が社で働かない?」
「一体何を言って・・・」
「・・・戯言だから気にしないで。それで貴女、金属材料について興味があるのよね?」
「材料・・・確かにそうですけど、鍛冶に関する材料について特に興味がありますね」
「高分子材料とか触媒とかじゃない限りは、みんな似たようなものよ」
「??」
ワルツの口から出た言葉が理解できない様子のシラヌイ。
「ま、それはいいんだけど・・・なら、魔法系の金属を使った材料には興味はある?」
ワルツの守備範囲外である魔法金属系化合物。
即ち、魔力が関係してくる合金について、である。
「魔法系の金属というのは、オリハルコンとかミスリル、あるいはアダマンタイトやダークマターなどでしょうか?」
「んー、たぶん、ダークマターは違うと思う・・・いえ、何でもないわ」
(むしろ、眼に見えるダークマターとか見てみたいけど・・・)
眼に見えるダークマターは果たしてダークマターと言えるのだろうか。
ともあれ、どうやらこの世界には、ワルツが思っているよりも様々な魔法系の金属が存在するらしい。
「・・・そうね。そういう金属のことよ。あなたには魔法系の金属と、普通の金属の合金を使った・・・まぁ武器でもいいけど、何かものづくりをしてほしいのよ」
そして、シラヌイが得た知識をワルツも利用する、というわけである。
ワルツはそう言いながら、カーゴコンテナからなけなしのオリハルコン塊(2kg)を取り出して、シラヌイに渡した。
「こ、これは・・・相当な純度のオリハルコン・・・!」
眼を見開いて、小刻みに震えながらオリハルコン塊をじっくりと観察するシラヌイ。
どうやら、市場価値がどの程度か分かっているらしい。
「あ、ちょっとビーフジャーキー臭がするかもしれないけど、気にしないでね」
「えっ・・・」
「それでどう?素材は私とルシアがいくらでも用意するから、やってみない?」
ワルツがそう言葉を口にすると、眼を輝かせていたシラヌイの顔が一瞬曇る・・・(但し、臭いが原因ではない)。
そして、難しい表情を浮かべて口を開いた。
「・・・実は嘘、ってことは無いですよね?」
アルタイルによって台無しにされた彼女の修練の旅にとっては、ワルツの提案は渡りに船であった。
だが、あまりに都合が良すぎるのではないか。
もしかすると、アルタイルのように良いように利用されるだけではないのか。
彼女はそう危惧しているのだろう。
「もちろん本当よ・・・って言っても証拠にはならないと思うけど・・・」
そんなワルツの言葉に少し考えるシラヌイ。
だが、特にワルツ達に悪意があったり、自分が不利益を被るようなことはなかったので、
「・・・分かりました。では、是非、その仕事、私に任せていただけないでしょうか。よろしくお願いします」
そう言って、シラヌイは頭を下げた。
今もなお、金属の分離・精錬・加工を一度に行っているワルツの作業の様子を見て、好奇心を抑えられなかったらしい。
「むしろ、こっちからお願いしたいくらいよ。私、魔法使えないし・・・魔法材料の合金とか、全然分かんないから・・・」
「えっ・・・ならどうやって部品や金属を浮かべているんですか?」
さっき魔法だって言ってましたよね?、といった様子のシラヌイ。
「これはね・・・科学よ!」
どやっ!、っと心の中でドヤ顔をしてみたものの、機動装甲では表情が出力できないことに、何となく悲しくなってくるワルツ。
「科学?」
「えっと、錬金術をどこまでも発展させたらこうなった、って感じの学問ね」
「・・・はあ」
「要約すると、魔法みたいなものってことよ」
見た目は魔法と余り変わらないので、同じもの、と言っても過言ではない。
・・・というのが、ワルツの言い分であった。
「よく分かりませんが、大変な術なんでしょうね・・・」
「まぁ、そんなところよ」
どうやら、シラヌイには出来ないようだったが、そういうものだ、と思うことにしたらしい。
というわけで、ワルツは、以前の思惑通りに、魔法金属材料に関する研究を行う人員の確保(?)に成功したのであった。
2機の新しい分子ポンプが完成した夕方頃に、地下大工房から王都へと出てきたワルツ(透明)とルシア、それにシラヌイ。
夕食の稲荷寿司の材料を買うついでに、果実水か何かを買おうと市場へ向かっていたのである。
・・・なお、機動装甲であるワルツがどうやって食事を摂っているのか、仲間たちは皆興味津々だったが、その瞬間を目撃した者は未だ誰もいなかった。
まぁ、ワルツが故意に隠蔽しているので、今後も食事の瞬間を仲間たちが見ることは恐らく無いだろう。
それはさておき、大通りの道をワルツ達が歩いていると、
カツン・・・
機動装甲の頭に何か軽いものがぶつかってきた。
『あれっ・・・今何かにぶつからなかった?』
人混みの中からそんな少年の声が聞こえてくる。
ワルツがふと足元を見ると、
(・・・紙飛行機?)
なんてことはないただ折られただけのシンプルな紙飛行機が地面に転がっていた。
恐らく、ワルツに当たって墜ちたのだろう。
(ふーん。この世界にも紙飛行機なんてあるのね・・・)
久しぶりに見た紙飛行機に、ワルツがそんなことを考えていると、
ひゅーーー・・・・
また1機の紙飛行機が飛んでいった。
『ほら、こっちの折り方の方がよく飛ぶでしょ?』
今度は少女の声が飛んでくる。
さらに、
ひゅーーー・・・・
もう1機、2機、3機・・・
気づくと、沢山の紙飛行機が空を飛び交っていた。
「・・・何?紙飛行機大会でもあったの?」
ワルツがそんなことを口にすると、
「何か最近、王都で流行ってるみたいだよ?」
ルシアがそう言葉を返してきた。
「みんな、お姉ちゃんの作った飛行艇を見て作ったみたい」
そんなルシアの言葉を聞いて、ワルツが再び空に眼を向けると、確かに飛んでいる紙飛行機は、皆、エネルギアのように翼端がカールした後退翼のデザインであった。
どうやら、王都周囲を飛行していたエネルギアを人々が目撃したらしく、それを元にして紙飛行機を折った、ということらしい。
「・・・そう・・・」
ルシアの言葉に、短く返事をするワルツ。
表情は伺えなかったが、どこか嬉しそうな様子を見せていたのは、気のせいだろうか。
その後ワルツ達は、多くの紙飛行機の飛び交う大通りで、嬉しそうに燥いでいる子どもたちの邪魔にならないよう周囲に注意しながら、黄昏れた空の下を市場に向かって歩いて行くのであった。
結界を張っていれば、紙飛行機が目に入っても痛くないのじゃ!
というわけで頼むのじゃ、カタリナ殿!




