1.1-19 村13
「私の……魔法?」
「そっ。今まで、火魔法、水魔法、風魔法って見せてもらってきたけど、その他にも何か使えないのかなー、って思って」
「……実はね」
そう口にしながら、どこか自信有りげな表情を見せるルシア。
それから彼女は、荒れ地に向かって手を翳すと――
「じゃぁ、一通り使って見るね?」
ドドドドドッ!!
――まるでマシンガンが火を噴くかのごとく、強力な魔法を連発し始めた。
「ちょっ、待って!ルシア!そんな連射したら、何やってるか全然分かんないから……」
「えっ……?」チュドォォォォォン
「だって……そうでしょ?火魔法を使った後で水魔法使ったら、水が蒸発して蒸気になるし、それを風魔法で掻き混ぜたら、もう、爆煙なのか湯気なのか、よく分かんなくなるじゃない?」
と、真っ白な煙のようなものが立ち込めて視界が悪くなっていた景色を眺めながら、そんな指摘を口にするワルツ。
その言葉を聞いて、ルシアもようやく、目の前に広がる残念な光景に気がついたらしく――
「えっと……うん……ごめんなさい……」しゅん
彼女は獣耳と尻尾をシュンと倒して、自分の行いを反省するかのように俯いてしまった。
そんなルシアの姿を見たワルツは、苦笑を浮かべながら、彼女を諭すように、こう口にする。
「別に、怒ってるわけじゃないのよ?1つ1つ、ゆっくり見せてもらえると助かるわ?」
「う、うん……分かった……」ぐすっ
「(なにこの罪悪感……)」
ワルツとしては、軽く指摘するつもりだったようだが……。
ルシアにとっては”軽い”ものではなかったらしい。
どうやら、今の彼女にとってワルツの言葉は、本人たちが思っている以上に、大きな意味を持つようになっていたようだ。
「えっとねぇ……じゃぁねぇ……まずは火魔法から行く?」ぐすっ
「う、うん……その辺は任せるわ?」
「うん。じゃぁ……いくね?」
ドゴォォォォォ!!
そして気を取り直したルシアによって行使される魔法の数々。
そんな魔法は、その殆どが、ワルツにとって意外なものだったようである。
というのも、彼女の頭の中にあった魔法は、術者の手から放たれて、それが放物線を描き、対象に当たるという、いわば飛び道具のようなものだったのだが……。
ルシアの使う魔法は、一部の例外を除いて、対象に対し、直接の効果を与えるものだったのだ。
火魔法を使えば、対象が一瞬で赤熱して燃え上がり。
水魔法を使えば、対象が破裂するかのようにして内部から大量の水が吹き出し。
風魔法を使えば、元からそこにあった空気があたかも刃物のように振る舞う。
どれもこれも、見方によっては、凶悪としか言いようのない魔法だったが……。
ワルツはその魔法の姿に目を奪われ……。
そして、表には出さなかったものの、感動すらしていたようだ。
そんな彼女が特に気に入った魔法がある。
「じゃぁ、次、行くよ?」
その時点において機嫌を直していたルシアが、自身の前へと手を翳した、その瞬間――
チュィィィィィン!!
と、彼女の手から飛び出た、真っ白な光の直線。
これまでの魔法とは異なり、ワルツが想像するような形の魔法だった。
「これが光魔法だよ?」
「…………」
「…………?お姉ちゃん?」
「……ねぇ、ルシア?その光魔法なんだけど……色々弄れたりする?例えば、白じゃなくて……真っ赤にするとか」
「うん?出来るよ?」
チュィィィィィン!!
「(これ、もう少し頑張ったら、レーザーになるんじゃない?)」
完全なレーザーとは言えなかったものの、光の成分がレーザーのそれに近いことを計測して、どこか嬉しそうな表情を浮かべるワルツ。
もしもそうだとするなら、強力な攻撃手段への転用できる――のではなく。
科学、その中でも特に”工学”と呼べる分野において、とても便利な魔法となりえたので……。
これから様々な作業をしていかなければならないワルツにとっては、願ったりな魔法だったようだ。
……そう。
彼女はいつか、自分が元いた世界に戻るために、自身の中の壊れた部品を作り直さなくてはならないのだから。
こうして、ルシアによる魔法のお披露目を行った結果……。
彼女は、とにかく多くの種類の魔法を、ほとんど消耗すること無く、大出力で行使できる、ということが分かった。
火魔法。
水魔法。
風魔法。
土魔法。
氷魔法。
雷魔法。
転移魔法。
回復魔法。
そして、光魔法。
ワルツがゲームや小説などで仕入れた知識として知っている魔法の内、重力魔法と闇魔法以外の魔法を、ルシアはあらかた使えるようである。
なお、その2つの魔法がこの世界にあるかどうかについては、ルシアも知らないので、現時点では分かっていない。
とはいえ。
実際には、ワルツもルシアも知らない、もっと多くの種類の魔法が存在していたりするのだが……。
◇
そうこうしている内に、いつの間にか太陽が頭の上を通り過ぎ……。
昼食の時間を少々過ぎてしまったようだ。
「さて。それじゃぁ、そろそろ戻りましょうか?」
小さな魔法が使えないかを練習していたルシアに対し、空を見上げながらそう告げるワルツ。
するとルシアは、嬉しそうに尻尾を振って、ワルツの言葉に首肯しようとするのだが……。
しかしどういうわけか、シュンと獣耳をたたむと。
彼女は、どこか伺うような上目遣いをワルツへと向けながら、こんな質問を口にした。
「お姉ちゃん……。私の魔法……あれでよかった?」
「ん?あれで拙い、なんてことは無いと思うけど……何かあったの?」
「うん……。私、小さな魔法が使えないから、今まで魔法を使うことを禁止されてて……。だから、もしかしたら……お姉ちゃんも、私の魔法が気に入らないんじゃないかって……。でも……もしもそうだとしても……お願いだから――」
と、ルシアがそう口にした時だった。
ポフッ……
ワルツがまるでルシアの言葉を遮るように、彼女の頭の上に手を置いたのである。
「おっと、こんな所に、”泣き虫”が止まってたわ?危なかったわね?ルシア。もう少しで刺されるところだったわよ?」
「えっ……」うるうる
「あー……ちょっと刺されちゃったみたいね?」
そう言って、小さく笑みを浮かべるワルツ。
それから彼女は何も言わずに、ルシアの手を握ると。
踵を返しながら、再び口を開いてこう言った。
「さっ?早く戻らないと、昼食を下げられちゃうわよ?」
「う、うん……」
ドゴォォォォ!!
「…………?!い、今の音、何?!」
「えっ?ルシアのお腹が鳴った音?」
「えっ……鳴ってない……」
「ごめん……今の音、私のお腹の音だったわ……」
「…………」ぐぅ……
ルシアが微妙そうな表情を浮かべて無言になった瞬間、どこからともなく響いてくる小さな音。
その瞬間、彼女が顔を真赤にしたのは、人には言えない何か特別な事情でもあったからなのか。
「え、えっと……帰ろっか、お姉ちゃん!」
「そうね。もしかしたら、商隊の人達も来てるかもしれないしね?」
「うん!」
そう言って、手を握って、村へと歩いていく2人。
こうしてワルツたちは、村の近くに作った更地を後にして、昼食を摂るために、酒場へと戻ったのである。
なお。
この地で放出されたルシアの膨大な魔力を元に、後にダンジョンが発生して、アルクの村を巻き込んだ大騒動へと発展するのだが……。
2人ともこの時点では、想像だにしていなかったようである。
まぁ、想像できていたとしても、すでに放出されたものを回収することなど不可能なのだが……。




