5後後-01 サウスフォートレスの上空で
チュン・・・
チュドーーーーンッ!!!
・・・スズメが鳴いた後に爆発したわけではない。
サウスフォートレスから超高エネルギー飛翔体が飛んできたので、ワルツがそれを避けると、背後で大爆発が起ったのである。
・・・まぁ、光だけで、音は聞こえなかったが。
ここは、エネルギアから50kmほどの地点である。
サウスフォートレスからはおよそ100kmといったところだろうか。
そんな場所を、沈み行く月を背にしながら、ワルツは狩人とルシアを連れて、超音速で飛行していたのである。
「反撃する?」
ルシアが飛んで来る魔力弾(?)に対して、対抗するかどうかをワルツに問いかけた。
「ここからだとサウスフォートレスに当たるかもしれないから止めておきましょ」
「・・・うん。なら、魔法で壁を作るね」
そういうと、魔法を使って半透明の壁のようなものを幾つか作り出すルシア。
どうやら、単一属性ではなく複合的な魔法のようである
紫電を輝かせながら、時折水しぶきのようなものをまき散らしているところを見ると、雷魔法と水魔法の混合魔法なのかもしれない。
そんな彼女の魔法は、体の表面を覆うようにして展開されるカタリナの結界魔法とは違って、50cm程度の六角形の盾のような見た目で、ワルツの周囲をまるで意志があるかのように浮遊していた。
所謂、ビット、というやつだろうか。
恐らくは、ルシアが自由に操作することが出来るのだろう。
「これを使えば、辺りの村とかを爆発で巻き込まなくて済むよ?」
そう言うと、早速飛んできた魔力弾(?)を、
パァァンッ!
・・・明後日の方向へ弾き返した。
(ホームラン・・・っていうか、エネルギアの重粒子シールドより硬いのねこれ・・・私も魔法が専門外だからって嫌厭してる場合じゃないわね・・・)
今までワルツは自身の持てる知識と技術だけでエネルギアや王都防衛システムなどを構築してきたのである。
だが、今回、エネルギアが想定外のダメージを受けてから、自分の知識だけでモノを作るという考え方を改めようか、と考えたようだ。
(魔法って、自分が使えないと解析のしようが無いから、どうしても嫌厭しちゃうのよね・・・)
ワルツがそんなことを考えながら、アクロバットな機動で次々と飛んでくる魔力弾を避けていると、
「・・・なぁ、ワルツ」
狩人が青い顔で話しかけてきた。
「・・・気持ち悪いんですね分かります。でももう少しなので、我慢できませんか?というか、眼を瞑れば楽になると思いますよ?」
「・・・普通逆じゃないか?・・・うっぷ」
・・・喉元まで上がってきたらしい。
「ちょっ・・・やめてくださいよ?(機動装甲の)背中で戻すとか・・・。とにかく眼を瞑れば分かると思います。騙されたと思ってやってみてください」
すると眼を閉じる狩人。
「ほう・・・そういうことか」
何かを納得したらしい。
「全く揺れてないんだな・・・」
どうやら、狩人は、視界に映った景色だけで酔っていたようだ。
ワルツの背中には、常にエネルギアと同じような重力制御がかかっていて、振動や揺れは打ち消されていた。
つまり、眼を閉じてしまえば、揺れることのない地面に座っているも同然なのである。
「あと、5分位なので、我慢して下さい」
「いや、これなら何時間でも問題ないぞ」
「・・・私が無理です。そんなに長い間飛べませんよ」
機動装甲の背中に何事もないかのように立っているワルツが、狩人に向かって苦笑を浮かべる。
そんな時である。
チュウィィィィン!!
先程とは打って変わって、単発ではない、連続したビームが飛んできた。
「これって、やっぱり、当たるとエネルギアの時みたいに爆発するのかしら・・・」
まるで飛んでくる射線が分かっているかのように巧みに避けながら、ビームの様子を涼しい顔で観察するワルツ。
すると、そんな野太いビームを、
「これもっ!」
ルシアは自前のシールドで真上に反射した。
そして、ルシアがシールドを傾けると、反射していたビームが徐々に下がってっていき、終いには飛んできた方向に真っ直ぐと戻っていく。
その瞬間、
ドゴォォォォン!!
何かと衝突して大爆発を起こした。
「これなら、サウスフォートレスには当たらないよね?」
「・・・う、うん。そうね」
エネルギアでも耐えられるかどうか分からないようなビームが飛んできたというのに、それを逆に利用して攻撃手段として詰まってしまうルシアに、ワルツは内心、唖然としていた。
その上、彼女はサウスフォートレスの街に危害が及ばないように工夫していたのである。
どうやら、ワルツの知らないところで、妹は順調に成長しているらしい。
そして、ルシアの反撃(?)が当たってから、一切の攻撃が飛んでこなくなった。
先ほどの爆発で、敵は攻撃手段を失ったか、損傷を受けたようである。
・・・一体何に当たったというのか。
そこからさらに2、3分飛行していくと、沈みかけた月の光では見えなかった、とある巨大な物体がワルツ達の眼に入ってきた。
ルシアの反撃(?)で被弾したためか、炎と煙を上げて炎上しており、薄っすらと辺りを照らしていたのである。
「嘘っ・・・」
ルシアが見える光景に思わず呟いた。
「すごい光景だな・・・」
狩人も、本来サウスフォートレスの上空にはあるはずのないソレを見て、唖然としていた。
「・・・あれからビームが飛んできたってこと?・・・ならやっぱりあれは・・・」
何が『やっぱり』なのか?
「粒子加速器・・・」
ワルツ達の眼に映ったモノ。
それは、クレストリング・・・宙に浮く巨大なリングだったのだ。
見た目もサイズもエンデルシアにあったものと同じだが、唯一異なる点は、飛行艇が発着するための桟橋が無いことだろうか。
そんな巨大なものが、身動ぎもせずに空に鎮座していたのである。
暗闇に浮かぶその姿は、突如として飛来した宇宙船のようにも見えていた。
「いつの間にあんなもの作ったのよ・・・」
ワルツ達が同じようなものを作るとするなら、恐らく1年近くは掛かるのではないだろうか。
その上、2日前に、この辺りの上空を通過した際にはエネルギアのレーダーに映ってはいなかったのである。
確かに、雲が多いために直接サウスフォートレスを望むことは出来なかったが、それでも、あのサイズの構造物に気づかないというのはありえないだろう。
つまり・・・
「やっぱり、どこからか移動してきたんでしょうね・・・もしかしてUFO?」
『UFO?』
「|未確認飛行物体《Unknown Flying Object》・・・って言っても分からないわよね。早い話が、空飛ぶ何かよく分からないものってことよ。宇宙人・・・いえ、何でもないわ」
宇宙人の乗り物、と言おうとして、多分理解できないわね・・・、と思うワルツ。
なお、UFOについて言うのなら、
(ん?私も含まれるのかしら・・・)
この世界においては、間違いなくワルツもエネルギアもUFOの一つに数えられるだろう。
「ふーん。なんかよく分かんないけど、アレが無くなっても問題ないんだよね?なら、私がヤっちゃってもいい?」
と、あまり感心できない言葉を使うルシア。
・・・一体、誰の言葉遣いに似たのだろうか。
「・・・ちなみにどうやって?」
「転移魔法?」
「できるの?」
「えっとね・・・多分」
自信があるのか、それとも無いのか。
莫大な魔力を持っているルシアではあるが、直径10kmもの巨大な構造物を転移させた経験は無いのである。
「・・・そうね・・・じゃぁ、例えばあそこに転移させる・・・ていうのは無理よね・・・」
そう言って月を指さすワルツ。
なお、冗談で言ったつもりだったが・・・。
「うん、やってみる」
「えっ・・・」
するとルシアは眼を瞑った後、クレストリング(?)に向かって手を翳した。
「っ!!」
そしてルシアを青白い光が包み込む。
転移のための魔力を練っているためかその光り方に強弱があったため、暗闇の中で浮かびながら輝く彼女は、宛ら大空にポツリと浮かぶ夜光虫、といった雰囲気であった。
そして、しばらく後。
「いくよっ!」
彼女が再び眼を開けた瞬間だった。
サーーーー・・・
・・・まるで、砂が溢れるかのように巨大なリングが消えていく。
『・・・』
そんな光景に、言葉が出てこないワルツと狩人。
流石のワルツであっても、巨大な構造物を跡形なく消すためには、相当な時間を要することだろう。
一方、狩人にとっては、SF映画のワンシーンのように現実味の無い出来事なのかもしれない。
実際、彼女の眼は驚いているというわけではなく、ただ流れていく光を眺めている、といった様子であった。
そして、十数秒後。
「はい!終わったよ!」
何も無くなった空には、自慢気に胸を張るルシアの姿だけが残っていった。
「・・・流石はルシアだな」
驚きが一周すると逆に冷静になれる、といった様子の狩人。
一方、ワルツは、
「・・・もしかして、本当に月に送ったの?」
ルシアに恐る恐る問いかけた。
「えっとね・・・距離感がよく分からないから、とりあえず、あっちの方に思いっ切り飛ばしてみたよ」
どうやら、全力の転移魔法だったらしい。
「えっと、疲れてない?」
「うん・・・少しだけね」
どうやら、流石のルシアでも疲れを感じているようだ。
今朝は、シルビアの様子が気になって殆ど寝ていないのである。
その上、1日中、ゾンビたちを転移させていたのだ。
疲れていても無理は無いだろう。
「そう・・・なら、少し、私の背中で休んでいないさ・・・」
ワルツがルシアに言葉をかけ終える、そんな時のことだった。
ゴゴゴゴゴ・・・
まるで空間を引き裂くような轟音が辺りを支配する。
「・・・う、嘘でしょ・・・?!」
そして急に真っ赤な光が辺りを包み込む。
「・・・何だあれ・・・」
高い場所にあった雲を切り裂きながら突如として、ソレは現れた。
「えっ・・・どうして・・・」
ルシアが空の彼方に飛ばしたはずの巨大なリングが、大気圏に突入するかのようにして、大気を断熱圧縮しながら戻ってきたのである。
巨大な構造物だというのに、相当な速度が出るのだろう。
・・・それだけではない。
「・・・天使・・・」
そう、天使たちがリングから次々と飛び立って出てきたのだ。
「・・・なるほどね・・・エンデルシア国王の言ってたことは、純粋に厚意だったのね・・・」
ワルツがそれに気づいたと気にはもう既に遅かった。
彼女たちの目前には、3000人を超える天使たちが迫ってきていたのである。
5章が終わらないのじゃ!




