5後-13 艦橋破壊?
ワルツ達と国王が艦橋内で追いかけっこ(戦闘?)をしていたために、今まで気づかなかったことがある。
『白き飛行艇に告ぐ!ただちに国王を解放し、乗員は投降せよ!』
・・・いつの間にか、200隻を超える軍艦に囲まれていたのだ。
その中には、まだ黒煙を上げたままの旗艦レオナルドも含まれていた。
自国の王を誘拐されたとなっては、形振りを構っていられなくなったのだろう。
「ほほう?俺を助けにこんなにも集まってくれたのか!・・・いつも、皆、構ってくれないのに・・・」
『・・・』
そんな国王の発言に、思わず閉口する一同。
所謂、お察し状態である。
恐らく普段から、エンデルシア空軍の飛行艇のドッグに出入りして、整備兵や乗員達の妨害をしているのだろう。
「・・・いかが致しましょう、お姉さま?全機撃墜ですか?」
といつも通りにテンポが口を開く。
「・・・撃墜はないけど、沈黙くらいなら。・・・そもそも、陛下が下船なされれば、私達も戦う必要はないのですが・・・」
ちらっ、と国王の方を見るワルツ。
すると、
「構わん!全機撃墜しろ!」
『えっ・・・』
どうやら、エンデルシア国王は、ワルツ達が思っているよりも随分な暴君らしい。
「・・・とは言っても、撃墜はしないのだろう?精々、足を止める位と見たが?」
一応、ワルツ達の戦いの様子を見ていたらしい国王。
「いや、足を止めるのは簡単ですが・・・降りてくれません?そっちのほうが簡単なんで」
降りてくれたらそのまま逃げられるのに・・・、と思うワルツ。
「ふむ・・・ならば、その足止めとやらを見せてくれれば降りることを考えても良い」
「・・・ソレって、後で『考える』とは言ったが『降りる』とは言ってないって言うパターンですよね」
「・・・よく解ってるじゃないか」
「・・・はぁ・・・」
無駄に精神的ダメージが、ワルツの中に蓄積していく・・・。
そんな時、
『止むをえん!本艦が突撃する!』
そんな声が旗艦レオナルドの方から聞こえてきた。
船体のサイズの差を考えれば、エネルギアを沈められると考えたのだろう。
だが、その程度でエネルギアが墜ちることはない。
「・・・陛下も巻き込むって考えないのかしら・・・」
これが普通の飛行艇であれば、国王を巻き込んで墜落することだろう。
ワルツがそんなことを呟いていると、
『貴様!抜けが掛けか!』
『いや、私達のほうが近い、任せてもらおう』
『何を言ってる!陛下の首は私が・・・』
どうやら、皆、国王をドサクサに紛れて暗殺するつもりらしい。
「・・・一体何をしたら、こんなことになるのよ」
「・・・まぁ、アレだ。普段の行いってやつだな」
国王に自覚はあるらしい。
もしかすると、サウスフォートレスに80万の兵士を派遣したことにも関係があるのかもしれない。
「・・・はぁ・・・いいわ。でも、このままだと、全ての艦が、エネルギアを中心に衝突して大変なことになりそうだけど・・・」
「ふむ。もちろん、なんとかなるのだろう?」
「この艦は、ね。だけど、追突してくる他の艦同士でぶつかることについては話は別よ」
「そうか・・・短い間だったが世話になったな・・・兵士たちよ・・・」
「・・・たぶん、そういうところが、兵士から命を狙われる原因になってると思うんだけど・・・。ルシア、対処を任せるわ」
「えっ・・・う、うん。分かった!」
急に役割を振られたこともそうだが、先程まで敵対していたはずの国王の尻拭いをするようなことを頼んでくる姉に困惑するルシア。
だがそれでも、姉からの頼みなので、どうにかすることにした。
「じゃぁ、いくよー?」
そして彼女が魔法を行使すると・・・視界から次々と艦船が消えていった。
ルシアが敵艦に向けた手をスナップさせると1隻、また1隻とその姿を消していったのだ。
どうやら、転移魔法でどこか遠くへ送られていっているようである。
全方位が見渡せる艦橋の中心で、周囲の船に対して指示を出すかのように振る舞うルシアは、まるでオーケストラの指揮者か、あるいは巨大な空港の管制官といった様子だった。
「・・・すさまじいな・・・」
そんな彼女の様子を見て、国王は眼を輝かせていた。
ルシアは彼に完全に眼を付けられた、と言っても過言ではないだろう。
「・・・終わったよ?お姉ちゃん」
数分と経っていないが、作業終了を宣言するルシア。
エネルギアに近づこうとしていた飛行艇は、見事に全ていなくなっていた。
一体、どれだけの量の転移を行ったのかは定かではないが、質量を考えるなら、80万の兵士を転移させるよりも遥かに重かったはずである。
だが、顔色一つ変えずに転移させてしまうルシアは、やはり魔力の化け物なのだろう。
「ふむふむ。実に興味深い。是非、貴女方がどういった者達なのか、聞かせてもらいたい所だ」
「全力でお断りします」
国王の言葉に、即答するワルツ。
「・・・逃げる様に去っていく貴女方の様子を見ていてそう答えると分かっていたが・・・そのために晩餐会を開いてもか?」
「絶対に嫌です」
「国賓扱いで招いてもか?」
「尚更嫌です」
「側室に加え「この国を滅ぼしましょう。お姉さま」」
側室という言葉に反応したのか、テンポが割り込んできた。
言ってはならない一線を越えたらしい。
「そうね。とりあえず、この脳内ピンク色の国王様から滅ぼしましょうか」
するとワルツのレーザーが、容赦なく、国王の足首を貫通する。
ついでに艦橋のモニターをレーザーが貫いて破損させたが、ワルツ製の船体修復用ナノマシンが自動的に修復していくので、大した問題ではないだろう。
ちなみに、先程ルシアに釘を刺した理由は、彼女の場合、何も言わないと、修理できる範囲を超えて破壊するためである。
「ぐはっ!?」
「これ以上無駄口叩くようなら、容赦なく貴方ごと国を滅ぼしますけど、どうします?っていうか、さっさと下船してくれない?」
そう言いながらも、国王の両足、そして両腕に容赦なく無数のパルスレーザーを浴びせかけていくワルツ。
なお、彼女が放つレーザーは針のようなものなので、致死性は無い。
だが、それでも身体を貫通するものなので、相当な痛みを伴っているはずである。
猿のようにワルツたちから逃げ続けていた国王なら簡単に避けられるようにも思えるが、ビームなどと違って光速で飛んでいくレーザーをから逃げられるわけもなく、彼はただただ2人の攻撃を受け続けなければならなかった。
唯一逃げる手段があるとすれば、ワルツ達を倒すか、この艦橋から撤退することくらいだろう。
もちろん、前者は不可能なことだが。
「ちょっ・・・止め・・・」
国王が何と言おうと、問答無用である。
「くっ、やむを得ん!」
するとようやく、艦橋から国王の姿が消えた。
どうやら撤退したようだ。
彼を追い払う代償に、艦橋内のモニターを約2割程度犠牲にしたが、10分もあれば修復が完了することだろう。
「・・・この世界のためにトドメを刺すべきだったかしら・・・」
「では、次に出会った時は私が・・・」
「まったく、今日出会った女性に求婚を持ちかけるなど、無粋な王じゃ」
『・・・』
・・・テレサの脳内の構造について、色々と疑ったのは、ワルツだけではないようである。
どうやらこの世界の王たちは、自分の発言に責任を持たないらしい。
「・・・まぁいいわ。とりあえずは、帰りましょうか」
疲れた様子でワルツは呟いた。
すると、
「勇者たちはどうするんだ?」
果たして勇者のことなのか、それとも剣士のことなのか。
彼らのことを思い出した狩人が、そんな疑問を口にした。
と、ここで、ワルツはとあることを失念していたことに気づく。
「・・・まぁ、自力で戻ってくるでしょ?きっと」
・・・勇者たちと、帰りの方法について話し合っていなかったのだ。
恐らく彼らは王城に王に会いに行ったはいいが、結局会えなくて、クレストリングへと戻ってくることだろう。
だが、そこには既にエネルギアに姿は無いのである。
つまりこのままだと、帰りはミッドエデンの王都まで徒歩で戻ってこなくてはならないというわけである。
距離にして、約1000km程度といったところだろうか。
具体例を上げるなら、大体、青森から名古屋くらいの道程である。
こういうことが起こらないようにワルツはいつでも相談できるよう無線機を作ったのだが・・・。
「・・・つまり、無線機を渡すのを忘れていたのですね?」
「それ、テンポの役目だと思ってたんだけど」
「そう言われればそうでした。私としたことがすっかり忘れていましたよ」
「・・・わざとね」
「いいえ、偶然ですよ、偶然」
「・・・」
・・・間違いなく、故意である。
「ま、いいけど・・・ってことは、やっぱりここで待ってたほうがいいのかしら・・・」
するとワルツのそんな呟きに答えるようにして・・・
「何。私に任せておけ。というか、その間にうおっ?!」
チュウィィィィーーン
チュウィィィィーーン
・・・再び国王が現れた。
まるでGを見たかのような視線を向けながら、ワルツが、そして今度はルシアも、国王に向けて極小のレーザーを発射する。
「ちょっ?!増えてる!!・・・だが、今の俺には効かないがな」
どうやら、艦橋の外に出て、治療をした後、結界魔法を張って、再度突撃してきたらしい。
魔王との最終決戦で勝てなかったので、一旦撤退して装備を整えてから再びアプローチを掛けた、そんなシチュエーションに近いのかもしれない。
「たぶん、聞いてたと思うんだけど、世界平和のためにあなたには消えてもらうことになったから」
今ならワルツには理解することが出来た。
・・・彼が自軍の兵士から狙われている理由を。
『さようなら』
『ばいばい』
そう言ってワルツとルシアが1発ずつではなく、一度に1000発を超えるレーザーを発射しようとした時だった・・・。
ドゴォォォン!!
爆発音が聞こえた。
エネルギアの船体からではない。
首都の方角からである。