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5後-06 お爺ちゃん

デブリーフィング(反省会)

即ち、今持っている情報を整理するための会である。

なお、剣士たちを罠に嵌められなかったことについての反省会は、別途有志だけが集まって開かれる予定である。


「面倒だと思うから、余計に面倒になる。誰かがそんなことを言っていたような気がするけど、やっぱり面倒事は面倒以外の何物でもないわよね・・・」


城に45度程度の角度で突き刺さったままのエネルギア。

その艦橋にある艦長席に座りながら、ワルツは口を開いた。


なお、艦橋の床面には、ワルツに内蔵されているものと同じ原理の反重力リアクターによる重力制御が掛かっているので、例え逆さになっていたとしても、常に水平に感じられるように作られている。

なので、45度という急斜面であっても、仲間達はいつも通りに、自分のために用意された座席に座りながら会議に参加していた。


「神のいなくなったこの国をどうするか、ということじゃな?」


メルクリオの現状が、2ヶ月前のミッドエデンに酷似しているためか、直ぐにワルツの言いたいことに気づいたテレサ。


「そう。まずはそれよね・・・」


この大陸(?)においてメルクリオ神国は、ミッドエデン王国、それにエンデルシア王国と並ぶ大国なのである。

面積はミッドエデンの半分程度ではあるが、その国力は、魔道具が随分と発達していることもあって、ミッドエデンよりも大きいと言っても過言ではなかった。


そんな国のトップがいなくなってしまったのだ。

王国のように王族のいる国であれば、王位継承権を持っている者たちの中から順番に選ばれるだろう。

だが、城内部に誰もないところを見る限り、神や天使の他に王族関係者と言えるような者はおらず、自動的に次の者を選ぶというのは困難であった。


恐らく本来なら、国内の者達ではなく、他の神達(?)によって選ばれた新しい神(?)が国の統括に就くのだろう。

それも、平和な状態なら、という但し書きが付くのだが。


「でもやっぱり、状況的に判断すると、他の神たちに眼を付けられたって言ってもいいのよね・・・」


つまり、ワルツ達によって落とされたこの国に、新しい神(?)が派遣されてくる可能性はあまり高くはないということだ。

場合によっては、全世界の神から、宣戦布告を受ける可能性もあるだろう。


(あれ・・・なんでこんなことになっちゃったのかしら・・・)


ちなみにその原因は、神がこの世界の人々の頂点である、と仮定して行動していたからである。

それも人間ではないものとして。

神の横の繋がりが全く無いか、あるいは希薄なものとして考えていたのだ。


「・・・お姉さま。冗談じゃなく、本当に魔神になるつもりなのですか?」


「いやいや。それは無いわよ」


テンポの指摘に、頭をブンブンと振りながら否定するワルツ。

そしてその姿に何故か残念そうな視線を向ける仲間達。


「それに今回の神殺しだって、私がやったわけじゃないし・・・」


なお、城に対するレールガンや地対空ミサイルによる攻撃、そしてエネルギアによる強襲などの決定を行ったのはワルツである。

直接的に殺してはいないかもしれないが、口封じ(?)されるような状況に追い込んだのは間違いなく彼女であろう。


「まぁ、そんなこと言ってても仕方が無いから、とにかく今はこの国をどうするのか、そしてこれからどうするのかを決めちゃいましょう」


とワルツが自己責任をどうにか有耶無耶にしようとした時だった。


「あ!!」


突如として勇者が声を上げる。

なお、彼は、今ではシャワーを浴びたため、()()()()キレイになっていた。

だがまだ所々に赤い塗料が残っているところを見ると、簡単には取れないタイプの塗料だったらしい。

テンポは洗い流しても取れない赤い染料を常日頃から持ち歩いて、一体何をしようとしていたのだろうか。


それはさておき、


「エンデルシア!」


「・・・ごめん、勇者。頭の打ち所が悪かったのね・・・」


勇者に残念な視線を向けるワルツ。

そんな彼女に対して、(いたずら)の顛末をテレサから聞かされたカノープスは、遣りどころのない憤りを感じているのであった。


「いや、頭は正常だ」


どうやら、頭がおかしくなった訳ではないらしい。


「なら、何なのよ。エンデルシアがどうかしたの?まぁ、想像はつくけど」


むしろ、分かっていて考えないようにしていたワルツ。


「エンデルシアが天使たちに乗っ取られたんだ!」


目覚めてからしばらく経つが、今更になって思い出したようだ。

やはり、3週間近く眠らされていたためか、意識がはっきりとしていなかったのだろうか。


「まぁ、そうでしょうね。80万も兵士を送り込むとか、どう考えても正気の沙汰じゃないし」


「80万!?」


「えぇ、サウスフォートレスがエンデルシアの兵士に襲われたんですよ」


とカタリナがワルツの代わりに答える。


「ありえん・・・」


「ですが、全員お帰りになっていただいたんですけどね」


「・・・やっぱり、ありえん」


80万人が派遣されたことも、そしてそれを全員撃退したことも、勇者にとっては直ぐに理解できないことのようだ。


「まぁ、でもエンデルシアの件は、神が死んだんだしなんとかなるでしょ」


神(?)が死んだことによって、天使たちは堕天したはずだ。

ならば、エンデルシアを占拠しているという天使たちも一般人に戻っていることだろう。


そんな時、


「・・・すまない。神が死んだと言っていたが、彼の死体を確認したのか?」


カノープスが口を挟んできた。

そもそも彼がワルツ達と行動を共にしているのは、神(?)に用があったからである。


すると、


「この人ですね」


そう言って、アイテムボックスから何かを取り出すテンポ。

すると、


『うおっ?!』


突如として現れたビニール袋入り冷凍神(?)。


「なんてところに仕舞ってる・・・」


「いや、だって、ずっと浮かべておきたくなかったし、この艦に死体安置室なんて無いし・・・」


思わず呟いた勇者に、言い訳を口にするワルツ。

勇者が自分の指に装備した指輪を触っているところを見ると、アイテムボックスから出てきたということを理解しているようだ。


そんな急に現れた神(?)に対し、


「・・・すっかり姿が変わってしまいましたね・・・師匠」


と、懐かしいものを見るかのような視線を向けるカノープス。


『し、師匠?!』


「あぁ。俺の魔法は、この人から教わったんだ。まぁ、随分と昔の話になるがな」


どうやらこの世界はワルツ達が思ってるよりも狭いようだ。


(なら、神が俺よりも強い、って言ってたのって・・・)


師匠だから、だったのだろう。

そして、ワルツたちに同行した理由も・・・。


「・・・それは、申し訳ないことをしたわね。でも言っておくけど、()ったのは私達じゃないわよ?」


「あぁ、それはどちらでも構わないさ。例えワルツがトドメを刺していたとしても、強者に負けるのが弱者の勤めのような世界だ。致し方あるまい」


そう言って眼を伏せるカノープス。


そんな彼の言葉にワルツはしばらく口を閉ざして考えた。

そして、熟慮した上で告げた。


「そう・・・なら、この人の埋葬は貴方に任せてもいいかしら?」


「・・・うん?それは、メルクリオ国民に任せるべきではないのか?」


「でも、メルクリオの国民はこの人を神・・・というか国のリーダーとして認識できないでしょう。だから、国葬とか無いと思うのよ・・・」


王冠を外した際のシルビアの反応から、予想するワルツ。


「・・・テンポ、王冠と旧バングルを出してもらえる?」


「はいどうぞ」


そしてワルツは、その2つをカノープスに手渡した。


「・・・ワルツ。もしやお主・・・」


テレサにはワルツがカノープスに何をやらせようとしているのか、予想が付いたようだ。


「えぇ。じゃぁ、カノープスさん。この国の王をお任せしますね」


『はぁ?』


そんな言葉が周囲から上がった。


「おいおい、どういうことだ?」


ワルツの言葉の真意を思わず聞き返すカノープス。


「つまり、神の後釜になってほしいんですよ。あ、その王冠は魔道具なので、冠ると民の認識上は神になれます。あと、そのバングルを着けると最強になれるんで、他の神や天使に襲われそうになったら使ってください」


「・・・」


そんなワルツの言葉にカノープスは閉口した。

どうやら聞き間違えでは無かったらしい。


「まぁ、いつまでも、というわけではないんです。多分なんですけど、今回もホムンクルスを用意するので、完成までの間でいいので、努めてもらえないでしょうか。多分、全部で1ヶ月くらいですかね」


「はぁ?ホムンクルス?!」


ワルツがテンポ達のことを説明していなかったので、怪訝な表情を浮かべるカノープス。

彼は現在のミッドエデンがホムンクルスであるコルテックスによって管理されていることを知らないのである。


「あ、人を犠牲にする様な方法じゃないんで安心してください。ちなみに・・・ここにいるテンポとストレラもホムンクルスですよ?」


そう言いながら2人に視線を向けるワルツ。


「・・・そんな馬鹿な・・・」


そう言いながら、カノープスがテンポに視線を向けると、


「失礼な人ですね。いかがわしい視線を女性に向けるなど、死刑に値しますね」


と言いつつ、ワルツの機動装甲から奪った腕を顕現させてシャドーボクシングを始めるテンポ。


「いや、そんなつもりでは・・・」


だが何故か、酒場の店主と同じように赤面するカノープス。

そんな彼の様子にワルツは気づいていないようだ。


「あ、いつも通りの反応なので気にしないでください。で、そんなことより、ホムンクルスを用意するためでの間、神さまを務めてもらえないでしょうか?」


「・・・拒否権は無いのだろ?」


「・・・弱者の勤めです。冗談ですけど」


そう言って微笑を浮かべるワルツ。


「はぁ。分かったよ。・・・テレサ様。またしばらくお暇をいただくことになりそうですが、よろしいでしょうか?」


カノープスはテレサではなくワルツがパーティーのリーダーであることを理解したようである。


「うむ。我が婿殿の決定は絶対なのじゃ。それに、今メルクリオに倒れてもらっては、ようやく軌道に乗ってきた我がミッドエデン共和国にも、少なからぬ影響があるじゃろうしな」


とテレサ。

どうやら、ミッドエデンは共和国になったらしい。


「婿・・・?あ、いや、すみません。ありがとうございます」


「うむ。むしろ礼を言うのはこちらの方じゃ」


と言った様子で、主従関係のやり取りが終わった。


そんな折、


「ところでカノープスさん」


ワルツが再び話しかける。

だが、先程までとは異なり、真剣な表情を浮かべながらだ。


「一つ考えを聞きたい話があるんですが・・・」


ワルツはそう言ってから、嘗てシルビアから聞いた話をカノープスに話した。

・・・神が人々を騙して天使にし、戦場へと送り出しているという話である。


話を聞いたカノープスは、目を瞑って考えた後、言葉を紡ぎ始める。


「・・・昔は、そんなことをやる人ではなかった。これだけは断言できる。だがもしも、そんなことをするようになったきっかけがあるとするなら、やはりこの国の神として持ち上げられた時からではないだろうか」


「その瞬間には立ち会わなかったんですか?」


「あぁ。師匠がこの国の神を始めたと聞いたのは、師匠と離れてから60年も経った頃の話だからな」


「そう、60年ですか・・・は?」


ざわざわ・・・


仲間達が小さい声で何かを話し合っているようだ。

時折、『お爺ちゃん』という単語が聞こえてくるのは気のせいではないだろう。


「・・・年齢を聞いてもよろしいですか?」


「162歳だが?」


「・・・すみません、人間ですよね?」


すると、


「失礼な!こう見えても竜人だ!」


と、口から炎のようなものが見え隠れするカノープス。


「・・・師匠やお兄さん(酒場の店主)も?」


「あぁ、もちろんだ」


「・・・そうですか。何かすみません」


そう謝ってからワルツは急に振り向いて、テレサに近づいて小声で言った。


「(カノープスさんが竜人だったって知ってたの?)」


「(いや、妾だって、今の今まで知らなかったのじゃ)」


「(・・・そう、他にも年齢を詐称してそうな人がいそうね・・・伯爵とか)」


「(いや、それはさすがにないじゃろ・・・)」


そもそも、年齢を詐称しているつもりは誰にもないはずである。


まぁ、それは追々、本人か狩人に尋ねるとしてだ。


「・・・じゃぁ、とりあえずはお願いしますね」


ワルツは再び振り向いて、カノープスに言った。


「・・・あぁ。だが、1ヶ月だけだぞ?俺だって、神たちを相手にしたら勝てるかどうか分からないんだからな」


実は、ワルツがカノープスにメルクリオの国王を頼んだのは、いつ神たちの報復を受けるか分からないという理由もあったからなのだ。

どうやら、カノープスはそのことに気づいているようである。


「・・・なら、1ヶ月で神にも負けないようなホムンクルスを用意しますね」


と再びカタリナがワルツの代わりに応えた。

どうやら、彼女の魂に炎が宿ったようである。


「・・・程々にね」


いつもなら自分が言われるセリフをカタリナに向けるワルツ。


そしてついでに、


「あと、カノープスさんだけだと心配だから、ストレラも付いててもらえる?」


「えっ・・・いや、そう言うと思ってたけど・・・」


「まぁ、無線機渡しておくから、何かあったら連絡して」


「・・・私にも拒否権は無いのね」


「非常事態みたいなものよ」


「・・・1週間よ?それまでに代替の人員がこなかったら、雲隠れするから」


「分かったわ。というわけだから頑張ってね、カタリナ」


「1週間ですか。問題ありませんね」


というわけで、ストレラも残ることになった。


こうしてカノープスが半強制的に、メルクリオの国王(代理)になるのである。

さて、今週1週間は忙しい・・・

果たして毎日更新できるのだろうか・・・

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