5後-04 神(?)
その後、ワルツは、地面にうつ伏せに倒れている神(?)へと近づき、何か情報が得られないかと調べ始めた。
(死因は何か鋭い物で|急所を刺されたことによる失血死ね)
男性をひっくり返して、検死する。
その際、顕になった男性の顔を見てワルツは感想を口にした。
「それにしても、神さまって自称してるのに、見た目は普通の人よね・・・」
『えっ?!』
ワルツの何気ない一言に驚く仲間達。
中でも最初に声を上げたのはシルビアである。
「こ、この方が普通の人間に見えるというのですか?!」
「・・・一体どんな風に見えてるの?」
なお、ワルツの眼からは、多少老け気味の50代前後の男性のように見えていた。
確かに身につけている服装はきらびやかで、どこかの国の王といった様子であったが、だからといって、神々しいわけでもなければ、物理的に光っているわけでもなく、ましてや全身から触手を生やしているわけでもない。
どこにでもいそうな普通の男性だった。
だが、シルビアや仲間達の眼には、違う姿に映っている(?)ようだ。
「すごく、神さまっぽいです」
神についての感想を述べるシルビア。
「・・・うん、全然説明になってないわ」
そんな彼女にジト目を向けるワルツ。
すると、
「いや、それ意外に説明しようがないと思うんだが・・・」
「そうですね。見た瞬間に神さまだと分かる、としか言いようが無いですね」
狩人とカタリナが指摘する。
(・・・えっと・・・認識を上書きする幻影魔法か何かしら?)
「・・・なら、テンポにはどう見える?」
変身魔法や幻影魔法が効かないテンポに問いかけるワルツ。
「痩せこけていて見窄らしくて小汚い普通の男性ですね」
・・・どうやら、テンポの眼にも、ワルツが見たものと同じような姿の男性が映っているようだ。
「いや、そこまで言わなくても・・・まぁいいけど。なら、変身魔法とか幻影魔法の類ってことかしら?」
すると、
「えっと、痩せた男性というのは間違いないのですが・・・なんというか・・・神さまだって理解しなくても分かるというか・・・」
と、表現に困った様子を見せながらユリアが言った。
「じゃぁ、見た目は変わっていないのね・・・なら、思考に直接影響を及ぼすタイプの魔法かしら・・・」
(今も効果を及ぼし続けているってことは・・・魔法が今も効いているってことよね。ということは魔道具?)
そう当たりを付けたワルツは、
「・・・これね」
男性が身につけていた王冠に手をかけた。
そして、彼の頭から外した瞬間、
『えっ・・・』
皆から声が上がった。
「・・・誰?」
神(?)の死に一番驚いていたはずのシルビアが、手のひらを返したかのような反応を見せる。
「えっと・・・これは、もしかして・・・」
ワルツ自身は冠ることが出来ないので、試しに近くにいた狩人に王冠を被せてみた。
すると、
『・・・?!』
一様に驚愕の視線を狩人に向ける仲間達。
そして・・・狩人に対し跪いた。
テンポも跪いていたが、皆よりワンテンポ遅れていたところを見ると、わざとやっているのだろう。
(ふーん・・・人の印象を変える魔道具なんてものもあるね・・・)
仲間達の反応に、一人納得するワルツ。
だが、装備させられた狩人は、納得できなかったようだ。
「・・・おいワルツ。なんだこれは?」
皆が自身に頭を垂れてくる状況に、げんなりとした様子を見せる狩人。
だが、どこか慣れた様子があるのは、やはり伯爵令嬢だからだろうか。
そんな彼女の様子にどことなく納得しながら、ワルツは返答した。
「・・・一言で言うなら、神さまになれる魔道具でしょうね」
「は?」
「つまり、狩人さんは今、神さまです」
「・・・えっと・・・うん。ごめん。意味がわからない」
ワルツの言葉に困惑の色を見せる狩人。
「私も知りませんでしたが、世の中にはそんな意味不明なものもあるんです」
そう言いながらワルツが狩人から王冠を外すと、
『・・・誰?』
狩人は影が薄くなりすぎて、遂に仲間からも認知されなくなったようだ(?)。
「失礼な!」
「いや、狩人さんっていうのは分かりますけど・・・なんというか・・・喪失感というか・・・」
とカタリナが眉間に皺を寄せながら説明する。
そんなカタリナの言葉に、理解したような、理解していないような、そんな微妙な表情を浮かべながら、狩人は警戒のために視線を周囲へと戻していった。
「神になれる魔道具のう・・・。他の神達も皆、同じような魔道具を使用しているのじゃろうか?」
狩人と違って、王冠の効果を理解したらしいテレサが呟く。
もしもそうだとするなら、この世界の『神』とは一体何なのか、ということになるのだが・・・。
テレサはそれに気づいたのか、眉を顰めていた。
「この1件だけじゃ、情報が足りないわね・・・」
分からないことだらけの現状に、頭を抱えるワルツ。
すると、
「ですが、こうしてまた世界の真実に近づいたのですね。お姉さま」
テンポは目を輝かせながらも無表情でそんなことを口にした。
「謎が謎を呼ぶことはあっても、明らかになったことなんて何も無いわよ・・・っていうか、その言い方だと、まるで私が世界の謎を解き明かし回っているみたいじゃない」
「まぁ、似たようなものではないですか」
「私自身が世界の謎っていうのなら自覚はあるけど、解き明かしている自覚はないわね」
そう言いながらも、男性の装備品を探っていくワルツ。
だが、結局、シークレットブーツを履いていることくらいしか目新しい発見は無かった。
やはり単なる早老の男性が、神として化けていたのであろう。
「うーん・・・情報がほしいけど、何もないわね・・・」
例えば、天使をどうやって作り出していたのか。
魔法なのか、それとも特殊な能力なのか・・・。
「曲がりなりにも、神を名乗っていたのですから、そう簡単には情報は得られないでしょう」
と、ワルツの呟きにカタリナが応える。
男性の所持品を探る他に、彼の部屋や王城の中を探るという方法もあったが、エネルギアが王城の上半分を破壊してしまったので、探るための部屋は既に無かった。
「・・・やっぱり、魔王を探すみたいに、神さまの情報も足で探さなくちゃならないのかしら・・・」
ワルツが面倒そうな表情を浮かべていると、
「まぁ、なんだ・・・」
狩人が少し恥ずかしそうに口を開く。
「また皆で旅をしてもいいんじゃないか?行くんだろ?カタリナの故郷へ」
「・・・えぇ(でも、カタリナの故郷へ行くことが旅の目的じゃないような気が・・・)」
「なら、前みたいに、皆で歩きまわって探してもいいんじゃないか?」
それだけ言うと、顔を赤らめてそっぽを向く狩人。
特に恥ずかしいことは無かったようだが・・・狩人本人としては、何か思うところがあったのだろう。
まぁ、それはさておきである。
本来、ここにいる仲間達は、旅の中で様々な知識を身につけたり鍛錬したりして、自分の夢に近づくために集まった者達なのである。
最近は王城の一件や神と戦いのために旅ができていないが、ワルツとしては今でもその方針を変えるつもりは無かった。
だが、
「そうですね・・・」
狩人の言葉に対するワルツの返事にキレは無い。
実は、自分が皆を振り回しているのではないかと、未だに悩み続けていたのである。
故に、『旅にでよう』と言った狩人の言葉にも素直に応じることができなかったのだ。
だが、仲間たちは皆、気にしていなかった。
そもそも、知識の収集や鍛錬という意味では、旅に出なくとも、王都にいてワルツと行動しているだけで勝手に仕事が振ってくると言う形で、滞り無く進んでいるのである。
その上、ホムンクルスを造ったり、戦艦に乗って飛行したりするなど、普通に生活を送っていたのでは経験できなかった様々な事柄を、その身を持って体験出来るのだ。
それも、比較的自由に。
そんな日々の生活に、束縛を感じるはずが無かった。
まぁ、ワルツはそんな簡単なことにも気づいていなかったのだが。
「そうじゃな。また旅がしたいのう」
今度はテレサが旅をすることに賛意を示してきた。
他にも、
「私も!」
「私は冒険者なので・・・」
「エネルギアの旅だと、身体が鈍りそうですからね」
「ワルツ様の行くところが私の行くところですっ!」
そんな様子で皆が賛成した。
・・・どうやら、王城や王都での生活に飽きてきていたらしい。
「まぁ、皆がそういうなら・・・」
彼女達の様子を見て、呟くワルツ。
(せっかく造ったエネルギアだけど、しばらくはタクシー代わりに使うしか無いわね)
そう思いながらワルツは肩を竦めるのであった。
・・・そんな者たちの中に一人だけ表情が冴えない者がいたのだが・・・。
殆どの者がそれに気づけなかったのは、仕方の無いことだろうか。