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5後-03 シリンダー

「またこのパターン・・・」


そう言いながら、ワルツはカーゴコンテナから非常食(ビーフジャーキー)を取り出して口に含んだ。


「えっと・・・ワルツ様?どうしたんですか・・・急に干し肉なんて咥えて・・・」


周りの仲間達の様子がいつもと違うことや、突然のワルツの奇行に疑問を口にするシルビア。


「そうね・・・貴女にはまだ見せてなかったけど・・・」


そう言って非常食を飲み込んだ後、ワルツは機動装甲を顕現させた。

そして現れる全高3mの巨人。


「・・・えっ?」


その姿を見たシルビアから表情が消える。


「これが私の本当の姿よ」


そう言いながらシルビアを一瞥した後、ワルツは仲間達に対して注意を促した。


「皆、何があるか分からないからこれからのことに備えて。いい?この中にいるのは、みんな敵だと思って。比喩(たとえばなし)じゃないわよ?」


そう告げてから、いつものように、機動装甲(ワルツ)は『金属の塊(とびら)』の質量-エネルギー変換を行った。


そして、広がってきた光景は・・・意外にも、グロテスクなものではなかった。

ワルツとしては、ミッドエデンの王城のように中にいた人々を全て犠牲にしてホムンクルスを作っていると思っていたのだが、今回はそうではないらしい。


50m四方程度の薄暗い部屋の中には、シリンダーが4つ並んでいた。

1つには探していた勇者が。

1つには同じくリアが。

1つには、勇者を幼くした・・・まるでアトラスのような少年が。

最後の1つには胎児のようなものが、それぞれ透明な薄黄緑の液体に一糸纏わぬ姿で浮かんでいるといった様子である。


そして、特筆すべきは、そのシリンダーの前で一人の男性が息絶えていたことだろう。


「か、神さま!」


そう言って男性に駆け寄るシルビア。

どうやら、彼が天使を統べる神らしい。


だが、それだけではない。


「ほう、なるほど。彼が神さまなのじゃな・・・」


「神さまっぽいね・・・」


「ひと目で分かりますね」


一度たりとも髪にあったことのないはずの仲間達が男性を見て納得していた。


そんな様子に怪訝な表情を浮かべるワルツ。


ワルツとしてはそんな仲間達の発言が理解できなかったが・・・それは後で仲間達に問いただすことにした。

今は、眼の前の勇者たち、そしてとある問題を先に解決することにしたのである。


「・・・カタリナ?これについてどう思う?」


機動装甲を不可視にした後、ホログラムの姿に戻ったワルツは、勇者とリアが入っているシリンダーを破壊して、中から2人を助け出しながらカタリナに問いかけた。


「・・・人口子宮とホムンクルス技術を掛けあわせたもの、といったところでしょうか」


「なら、この子()は」


「・・・飽くまでも可能性の話ですが、彼らの子供、ではないでしょうか」


「あるいはクローンね・・・」


シリンダーの中で時折、ピクン、と動く少年や対峙を見ながら考えを口にするワルツとカタリナ。

彼らに生体反応が無いところをみると、彼らもやはり人々を犠牲にして作られたホムンクルスなのだろうか。

何れにしても、真っ当な方法で成長させていないのは確かである。


より多くの情報を得るために、ワルツはこの施設について詳しく調べようと思ったが、その前に、とある面倒な問題を方付けることにした。


ややあってからワルツは口を開く。


「・・・いい加減、出てきたら?」


ワルツの生体反応センサーで検出した人数は3人。

生命活動を停止している男性と、センサーでは検出できないホムンクルスを除けば、もう一人この部屋の中に隠れていることになる。

そして、勇者やリアを含め、行方を眩ましたのは3()()なのだ。


「はわ・・・はわわわ・・・」


そんな声を出しながら怯えた様子で柱の陰から出てきたのは、勇者たちと共に消えた僧侶の少女だった。


「た、助けてくださ」


チュウィーーン


彼女が言葉を言い終わる前に、レーザーが彼女を横に両断した。

・・・ワルツのレーザーが、である。


「おい、何するんだワルツ!」


「・・・まだ終わってないわ」


ワルツは不用意に僧侶に近づこうとしていた狩人を制止する。


「・・・貴女は誰かしら・・・本物の神さまかしらね?」


両断した少女に話しかけるワルツ。

何故、即死状態であるはずの少女に話しかけたのか。

・・・生体反応が消えなかったのである。


すると、


「くふっ・・・くははははは・・・」


切断されたまま突然小刻みに震え、笑い声を上げる僧侶の少女。


「・・・そういうホラーは物語の中だけにして欲しいんだけど?」


そう言ってワルツが追加のレーザーを照射しようとした時だった。


「あれ〜?いいのかしら?この少女がどうなっても」


到底、少女のものとは思えない声で話す僧侶(?)。

ワルツにレーザーを放つためのモーションは一切無かったが、自分に向けられたロックオン(殺意)に気づいたようだ。


「これ以上傷つけたら、元に戻せなくなるわよ〜?」


その言葉に、ワルツは容赦なくレーザーを浴びせかけようかとも思ったが、単に操られている可能性も捨てきれなかったので、(すんで)のところで思いとどまる。


「・・・で、何の用かしら?」


「・・・貴女、だ〜れ?どこからきたの?何しに?どうして?」


首を普通の人間ならありえない角度で曲げて、ワルツに視線を向ける少女。


そんな少女に対して、ワルツは表情を変えること無く言った。


「・・・私が誰かも教えないし、どこから来たのかも言っても理解できないと思うから教えない。もちろん、何しにきたのかも、どうして来たのかも、ね。秘密主義なのよ、私」


「・・・」


ワルツの言葉に不思議なものを見たような視線を向ける少女。


そして、しばらくした後、ワルツが良く聞いたことのある声で僧侶は言った。


「・・・ふーん。秘密が多いんだね。お姉ちゃん」


「!」


その瞬間、可能な限りの移動速度でルシアを庇うワルツ。


「えっ?!」


突然のことに驚くルシア。


ワルツは僧侶がルシアに何かするのではないか、と思ったようだ。

だが、幸いなことに何も起こらなかった。


「すごいすごい!私の言葉と同時に動いてた〜」


「・・・何をするつもり?」


「ううん、何もしないよ?・・・それとも、そこにいるホムンクルスたちのことを聞いたの?それなら、ただ暇だったから、お友達を作ろうとしてただけだよ、お姉ちゃん?」


ルシアの声のままで喋る少女。

だが、その雰囲気は似ても似つかない異質なものであった。


「・・・手下でも造っているつもり?」


「・・・さぁね。私も秘密主義なの。あ、ルシアって言ったよね?この前は全世界的に馬鹿にしてくれてありがとう」


すると今度は、


ドゴォォォォッ!!


転移魔法で杭が飛んできた。

だが、ワルツがすかさず捕まえる。


「っ!・・・アルタイル!」


「くははははは!!は・・・」


その笑い声を最後に、少女の目から光が失われ、黒い闇のようなものが身体から抜けていった・・・。


「・・・っ!カタリナ!治療を急いで!」


「はいっ!」


すると、胴体が離れ離れになった僧侶の治療を始めるカタリナ。


彼女が治療を始めた辺りで、


バシャーーッ


という水が流れる音が聞こえてきた。


「・・・一体、何を考えているの?」


ワルツが視線を向けた先では、勇者たちを救出した後に残っていた子供と胎児の入ったシリンダーが割れ、中身が忽然と姿を消していた。

どうやら、僧侶から抜けていった黒い霧のようなものが、ホムンクルスの少年に乗り移った後、転移魔法か何かを行使したらしい。

一方、意識のない勇者とリアは、事前に救い出していたためか、無事であった。


「念のため、周囲を警戒して。特に、黒っぽい霧に注意すること」


その後しばらく、生体反応センサー、音響レーダー、熱感知センサーなどを展開して周囲に不審な動きが無いかを確認するワルツ。

そして、ワルツを取り囲むようにして円陣を組み敵からの攻撃に備える仲間達。

だが、しばらく経っても何も起こらないところを見ると、どうやら敵の姿は完全に消えたようだ。

とは言え、まだ敵地の真っ只中なので、仲間達はそれぞれ分担して周りの索敵を続ける。


そんな中、


「カタリナ、どう?」


一通り、部屋の中の様子を確認し終わったワルツが、僧侶の様態を問いかける。


「切断されてすぐだったので、問題はありません」


と、現代医療でも不可能なことを、簡単にやってのけながら、言葉を返してくるカタリナ。


「そう・・・彼女には申し訳ないことをしたわね」


「いえ、お陰で、『彼の者』と戦わなくても済みましたから」


戦闘要員ではないカタリナは、いつ戦闘が起こるのか、とハラハラしていたのかもしれない。

実際、今の彼女の顔からは、張り詰めた様子が薄れていた。


そして続け様に、


「ワルツさんは最初から彼女が怪しいと分かっていたんですか?」


僧侶が出てきたと同時に攻撃した理由を問いかけてきた。


「いや、だって、勇者とリアと僧侶ちゃんの中で天使とか神に繋がりがありそうなのって、勇者と僧侶ちゃんだけじゃない?で、転移するときに勇者が謎の書き置きを残してるんだから、あとは僧侶ちゃんが不審人物ってことになるじゃん。まぁこの部屋に入って、シリンダーの中に僧侶ちゃんがいないのを見た時点で、彼女が真っ黒だってことを確信したけど。でもまさか、アル○○(ピー)ルが乗っ取っていたとは思わなかったけどね・・・」


「・・・どうやって発音して・・・いえ、何でもありません。そうでしたか。そうすると、『彼の者』は神とつながりのある魔王ということになりますね・・・もしかしたら、魔王ではないのかもしれません」


「・・・魔王と神って裏で繋がってたりしないのよね?」


「聞いた事はない・・・というより、分からないですね。そもそも、魔王も神も私達にとっては遠い存在なので」


「そう・・・。まぁ、一番手っ取り早いのは、本人から一番だと思うんだけど、その神はあんなふうになっちゃったし・・・」


息絶えている神(?)に視線を向けるワルツ。


「まぁ、『彼の者(アルタイル)』のバックに付いている神が、そこで息絶えている者と同一とは限りませんけどね」


「・・・つまり沢山神がいるってこと?」


「勇者が契約している神は、女神さまですし・・・」


「あぁ・・・なるほどね・・・」


可能性としては、複数の神や魔王が結託している可能性も否定は出来ないだろう。


「・・・目をつけられたのが、そこに転がってる神だけならいいんだけど・・・」


「そうですね・・・」


ワルツの言葉に同意するカタリナ。

もしも複数の神の間で魔女認定が共有されているようなことがあれば、仲間達の命がこれからも危険に(さら)され続けるのである。


(すべての神をどうにかするとか、面倒でしか無いわ・・・)


ワルツは、どうにかこの神(?)だけで事が終わるように願うのであった。

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