5後-02 突入
ドゴォォォォ!!
エネルギアの船体ごとメルクリオの中心に建てられた城へと突入した。
傍から見ると、城に飛行艇が突き刺さっているように見えなくもないが、もちろん墜落したわけではない。
エネルギアの防御力を活かして、無理矢理に乗り付けたのである。
エネルギアのタラップを降りた後、目の前に広げる光景を目の当たりにし、カノープスは思わず呟く。
「無茶苦茶だ・・・」
城の様子が、ではない。
ワルツ達の行動が、である。
「何?もう来たことを後悔してるの?全く・・・だらしないわね」
とカノープスの肩を叩いて城の中へと進んでいくワルツ。
「カノープス殿。我が婿殿・・・あ、いや、ワルツはあのような者なのじゃ。諦めてくれぬじゃろうか」
そんな言葉を残して、テレサもワルツの後を追った。
「あっ、お姉ちゃん待って!」
パァンッ!
ルシアの視線の先にあった障害物が消し飛ぶ。
「ちょっ、お前たち。まだ敵が隠れているかもしれないんだから、注意して進まないと危ないぞ!」
と言った直後、狩人の気配が完全に消えた。
更にその後ろを、白衣姿のカタリナと彼女を護衛するという形でテンポが機動装甲の腕を浮かべながら歩いて行く。
「ここが神の住む城ですか・・・。まるで瓦礫の山ですね」
「えぇ。でも瓦礫の山に住んでいるわけではないと思いますよ」
特段警戒した様子を見せるわけでもなく、普段通りに進んでいくカタリナ達。
殿はサキュバスと堕天使だ。
ちなみに、意図して彼女たちが殿を務めているわけではない。
「って、出遅れた!後輩ちゃん、急ぎましょ!」
「先輩早く!」
「えっ・・・あ、置いてかないで〜!」
すると2人とも飛んで行った。
・・・と言った様子で、ワルツ一行は城の中へと足を進めていった。
そんな様子を見て、
「俺、失礼なことをしたかもしれんな・・・」
と呟くカノープス。
ワルツ達の力を試すようなことをしたことを後悔しているらしい。
そんな彼に、更に後ろから来た剣士が声を掛ける。
「あ、どうしますカノープス様?俺たちは、これからここで勇者を探すつもりなんですが、一緒に行きます?それとも、ワルツ殿と一緒に?」
まるで、ここで魚釣りを始めるかのような口調の剣士。
どうやら剣士は、ワルツ達の行動に染まりつつあるようだ。
「・・・俺は・・・いや、俺もここで、勇者たちではないが神を探してみるよ。その辺に死体くらいは転がってるだろう」
「分かりました。では一緒に行きましょう。あ、でも気を付けてください。ワルツたちの攻撃の流れ弾が飛んでくるかもしれないんで」
「・・・」
・・・というわけで、ワルツたちと剣士たちの2手に分かれて行動することになった。
ワルツ達が迷うこと無く最初にやってきたのは地下牢である。
だが、
「捕らえられているといえばここだと思ったんだけど・・・いないわね」
牢の中には勇者、リア、僧侶の姿は無かった。
そもそも、捕らえられているものなど誰もいなかったのである。
城の牢屋に閉じ込められるなど、神に目をつけられるほどの相当のことをやらない限り、ありえないだろう。
例えば、ルシアのように、である。
さて、ここではないとすると・・・
「ねぇ、シルビア。勇者たちがどこにいるかとか分かる?」
「そうですね・・・捕えているとは言っても、流石に勇者様にひどい扱いをするとは思えませんので、貴賓室ではないでしょうか」
「そう・・・なら、案内してくれる?」
「分かりました」
というわけで、貴賓室へとやってきたワルツ達。
しかし・・・
「ここにもいない・・・」
「あれ?おかしいですね・・・ここ以外には私もちょっと思い付かないです」
とシルビア。
「おかしいといえば、ここまで誰にも会わなかったけど、こういうものなの?」
本来なら城の中に数多くいるはずの執事、メイド、騎士などの人々。
誰にも会わないというのは、流石にありえないのではないだろうか。
「えっと・・・お城に来て、誰かに会った記憶ってあまりないです。神さまのことや間取りは覚えてるんですけど・・・」
記憶操作されているのか、思い出せない様子のシルビア。
「そう・・・まぁいいわ。私が探してみる」
そう言って、生体反応センサーを作動させるワルツ。
(えっと・・・この2人は剣士と賢者で、これは・・・カノープスね。で、これは留守番してるストレラで・・・って、本当に天使たちがいないわね)
どうやら、城の中に隠れている天使はいないようだ。
そもそも、メイドや執事などといった一般人もセンサーには検出されなかったところを見ると、逃げたか、あるいは天使たちだけで城が管理されていたらしい。
その後も、城全体に渡ってスキャンしていくワルツ。
すると、地下室でも貴賓室でもないところに、複数の生体反応を発見した。
「うん、大体わかったわ」
「えっ・・・凄いです。流石ワルツ様!」
(うん・・・なんか、普段からすごいって言われると、あんまり嬉しい気がしないのよね・・・)
シルビアの言葉に苦笑いを浮かべながら、
「・・・こっちよ」
そう言ってワルツは再び先行して歩いて行った。
「で、ここなんだけど・・・」
「・・・いや、それは無いんじゃないですか?」
「私も、それは無いと思う」
「むしろ、無いと思いたいですね」
仲間達が口々に否定的な考えを述べた。
なぜなら、
「でも、宗廟の中から反応があるのよ・・・ちょうど3人分の反応が・・・」
そう、生者の反応が巨大な石造りの墓の中にあったのだ。
「でも、いやーな感じよね・・・」
「全くですね・・・」
ワルツの隣にいたカタリナも同意見のようである。
尤も、ワルツの『いやーな感じ』とは、宗廟の中から反応があることに対してではない。
むしろ、生体反応が3人であることに嫌な予感を抱いていたのである。
「・・・まぁ、いいわ。中に入って確認しましょう」
こうしてワルツ達は宗廟の中に足を踏み入れるのであったが・・・。
「・・・誰よ、墓の中をダンジョンにしたやつ・・・」
墓の中で彼女たちを待ち受けていたのは、様々な罠やギミックであった。
「もう、面倒臭いわね」
と言いつつ、片っ端から全ての罠を作動させていくワルツ。
至るところから飛んでくる吹き矢や火球、そして落下する天井に地面から飛び出す針、更には突如として流れてくる大量の水や怪しげな魔法陣・・・。
それら全てを重力制御を駆使して、動作させていったのだ。
普通のダンジョンと違う点は、魔物の類が出てこないところだろうか。
「私もやる!」
そう言ってワルツの作業に参加するルシア。
「気をつけてね。何が起こるか分からないから」
「うん!」
すると・・・
ゴウッ!
辺りの壁や床、天井など、見える景色全てが赤熱する。
そして、徐々に融解し始めた。
だが、次の瞬間には、急に熱が奪われて冷たくなる。
氷魔法を行使したらしい。
その間、およそ10秒。
「終わったよ」
「・・・うん、おつかれさま」
目の前に広がるガラスが解けたような景色に、ワルツは内心で引き攣りながら、言葉を口にした。
恐らくは、罠ごと焼失してしまったことだろう。
「いつもに比べたら、全然大丈夫だよ?」
ルシアにとってはエネルギアの部品を作る方が大変らしい。
そんな2人の様子を見て、
「(ワルツさんとルシアちゃんの前では、ダンジョンも形無しですね・・・)」
カタリナは、勇者たちと共に探索したダンジョンのことを、遠い昔のことであるかのように、思い出すのであった・・・。
そして、ダンジョン最深部にやってきた一行を待ち構えていたものは・・・
「うわぁ・・・面倒ね・・・」
どこかで見たことのある大きな扉であった。
そんな扉に見覚えがあるのはワルツだけではなかったらしく、特にテレサとユリアは顔色が真っ青である。
「またこのパターン・・・」
彼女たちの目の前にある扉、それは嘗て、ミッドエデンの王城の地下で見かけたものにそっくりなものだったのだ。