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5中-13 テスト

艦内は未だマトモな電装を施されておらず、ところどころに設置されたLEDのお陰でようやく足元が見える程度の明るさだった。

その上、窓が一切無いので、外からの明かりが入ってこないことはもちろん、外の景色を望むことすらできない作りになっていた。

これは、ワルツが設計を失敗したわけではなく、船体の強度を優先した結果である。


ワルツは船内の光源として、窓の代わりにパネルモニターを床や壁に敷き詰めるつもりでいたが、メルクリオの件には差支えが無いので、しばらくは薄暗いままの船内になることだろう。


そんな船内の艦橋に用意した即席の座席に腰を下ろすワルツとテンポ。

大方の準備を終え、いつでもテストできるといった状態になった時、


『転移するよ〜?』


航空戦艦の艦橋のスピーカーからルシアの声が聞こえてきた。

すると、


ブン・・・


コンソールに表示された景色がガラリと変わる。


(やっぱり、リアの転移魔法と同じ気がする・・・)


ワルツにとって、ルシアの転移魔法を受けることは初めての事だった。

なので、注意深く観察するつもりでいたのだが・・・結局、普通の転移魔法との違いを見出すことは出来なかった。


・・・というわけで、ワルツが乗り込んだ航空戦艦は、王城北側の平地に転移した。

コルテックスの通達があったためか、あるいは、騎士たちを動員して人払いをしたのか。

何れにしても、彼女の根回しのお陰で、周りに人影の姿は無かった。


「じゃぁテンポ?実験を開始するわよ?」


艦長席(即席)に座ったワルツが、操舵席に座っているテンポに対して、言葉を放った。

すると、


「イエス・マム」


と言いながら、主機である3機の核融合炉の内、1機を起動するテンポ。


ちなみに、航空戦艦に乗り込んでいるのは、ワルツとテンポの2人だけである。

テンポは墜落の衝撃などで損傷を受けたとしても、カタリナがいれば元通りになるが、他のメンバーたちはそうはいかない。

なので、安全が確認されるまでは、この2人で実験を行う予定だ。


「補助電力供給確認。DT抽出及びシールドコイル冷却用ヘリウム生成開始。分子ポンプ、スカイフックシステム、レーザー照射システム、オールグリーン。ナトリウム回路、Lv1で加熱及び循環開始・・・」


キュィィィィン・・・


テンポがレーザー核融合炉の起動シーケンスを次々と進めていくに従って、補助機関が甲高い音を上げ始める。


「ペレット生成完了。シールドコイル超電導駆動確認。2次熱交換経路、最低出力で循環開始。ペレットランチャー準備完了。ではお姉さま、第3核融合炉を起動します」


「えぇ。お願い」


そして、音もなく反応を始める核融合炉。

ただ、内部では、莫大なエネルギー放出が行われていることだろう。


「ナトリウム経路及び2次熱交換経路、温度上昇中。分子ポンプ、出力最大。レーザー照射システム、負荷20%。補助電力残量18%・・・ギリギリのようです」


補助電力・・・すなわちバッテリーである。

一連のシステムが起動して発電してしまえば電力は自ら賄えるが、その起動には構造上、大量の電力が必要になる。

サウスフォートレスの地底に設置した固定式の核融合炉とは違い、外部からの電力供給が受けられない航空戦艦にとっては、この最初の起動が大変だったのだ。


一応、計算上は、電力が足りるはずだが、それでも余裕があるわけではなかった。

補助電力用のバッテリーが艦橋の中まで一杯に設置されているほどである。


なお、地下大工房の中で外部からの電力供給を受けながら炉だけ起動しておくという選択肢もあったにもかかわらず、外で実験を行った理由は、密閉空間で予期しない爆発などの事故が起こると、小さな爆発であっても王都ごと吹き飛ぶ可能性があったので、安全のために万全を期したためである。


「・・・仕方ないから、2次熱交換経路の循環止めて、冷却水が沸騰するまで放置したら?ポンプ駆動の分の電力も減るし」


「そうですね。2次熱交換経路、循環停止します」


核融合炉が起動するまで、余計な電力の削減を試みるワルツ達・・・。




・・・そして10分後。


「ぜぇはぁぜぇはぁ・・・て、テンポ?まだ〜?」


ワルツは、機関室に来て、発電用のタービンを機動装甲の腕で回していた・・・。

結局、電力が足りなかったのである。

どうやら、バッテリーの性能が想定したよりも低かったらしい。


『あと、30秒位です』


機関室のスピーカーから聞こえてくるテンポの声。


「なんか・・・その30秒が・・・嫌に・・・長い気がする・・・」


非常に原始的な方法ではあったが、ワルツ自身の出力を考えるなら、タービンを回すことなど、造作もなかった(?)。


「あ・・・でも、だんだん軽くなってきた・・・」


ワルツが回し続けていたタービンは次第に軽くなっていき、遂には自ら回り始めた。


キィィィィィン・・・


『第3核融合炉、起動完了。もういいですよ、お姉さま』


「・・・あと2つもあるのね・・・」


というわけで、ワルツは満身創痍な姿(?)で艦橋へと戻った。




「じゃぁ、次、第1と第2核融合炉ね」


「あ、もう起動を終えてます」


「・・・」


テンポの言葉に、どこかやるせない様子のワルツ。


「なんでそんなに簡単に起動できるのよ・・・」


「第3核融合炉からナトリウム経路をバイパスしたので、全ての核融合炉が一瞬で温まりました」


「・・・あ、そう」


いつものようにテンポに嵌められたのではないか、と思っていたワルツ。

だが、そういうわけではなかったようだ。


「まぁいいわ。どう?ナトリウム漏れとか起ってない?」


「はい。熱交換系は圧力・温度共に異常ありません」


「そう。じゃぁ、次はいよいよ浮遊試験ね」


「えぇ。それも、既に終わっています」


「・・・は?」


窓がないので気づかなかったワルツ。


ピッ・・・


艦橋の仮設メインモニタに映った主機ステータス画面を外観モードに切り替えると・・・


「・・・飛んでるわね」


戦艦は全く揺れることもなく、地上20m程度の場所で静止していた。


「なーんか・・・あっけなさ過ぎ・・・」


「・・・何故か重力子(浮遊)制御システムが動かないとか、ナトリウムが漏れて爆発炎上したとか、タービンの作りが悪くて吹き飛んだ、なんてことになったほうが良かったですか?」


「・・・うん。何事も無くてよかったわ」


と、2人がいつものように会話していた時だった。


『うわぁ・・・すごい!』


『本当にあんな大きなものが飛べるとは・・・さすがワルツ』


『こう見るとかなりデカイ飛行艇だな・・・』


そんな仲間たちの声が、スピーカーから聞こえてきた。

実は、前から作ろうとしていた無線機をようやく作ったのである。


「じゃぁ、テンポ?みんなに本艦のお披露目をするわよ?推進用タービン、推力0.1%でヨーソロー(前進)。あ、高度は維持で。そのまま王都外周を一周して頂戴」


「推力0.1%、ヨーソロー」


復唱するテンポ。


すると、


ゴォォォォォ・・・


という爆音を上げて戦艦が前進を始めた。


「・・・0.1%でも結構、五月蝿いわね」


「排気音の静音対策などしていないですからね」


「推進用タービンだけ、作り直しかしら・・・」


「別にいいのではないですか?雰囲気出てますし・・・。最悪、重力子制御システムのベクトルを前方向に偏向すれば無音で進めますよ?」


「・・・ま、音速まで行けば、スクラムジェット推進が使えるしね」


2人で訳の分からないことを言っているが・・・つまり、問題はないということだ。


操縦桿を握りしめ王都外周をゆっくり(100km/h程度)と移動していく戦艦。

その姿を見た王都民や旅人達は、


『もしかして、テレサ様が(国策で)作った飛行艇か?』

『ずげぇ迫力・・・』

『私も一度は乗ってみたいな〜』


と言った様子で、余り驚いた様子は見せていたかった。

もしかすると、コルテックスが王都民に通達を出す必要も無かったのかもしれない。


が、そんな王都民達の反応を他所に・・・


「これ、絶対みんな、卒倒してるわよね・・・」


地球外生命体の侵略に市民が逃げ惑う様子を描いた映画を思い出しながら、ワルツは混乱している王都民達の様子を想像しているのであった。


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