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5中-12 通達

仲間達が天使に襲われてから1週間後の昼過ぎ。


「なぜカノープス殿は戻ってこぬのじゃ・・・」


議長室にある、自分専用の椅子に腰掛けたテレサが頭を抱えたまま呟いた。


そんな彼女の問に、


「そうですね〜。彼の部下からの報告に『相当に疲れている様子だった』とあったので、人使いの荒い議会が嫌になって逃げ出したのではないでしょうか〜?」


と秘書席に座っていたコルテックスが返答した。


数カ月ぶりに王都に帰還したその日の内に、別の戦場に送られたミッドエデン最強の魔術師カノープス。

彼は、エンデルシアの飛行艇を撃墜した後、ふらっ、と行方を眩ませたのである。

自ら転移する様子を彼の部下が目撃しているので、何か問題に巻き込まれたというわけでは無さそうだが、コルテックスの言う通り、議会が嫌になって逃げ出した可能性は否定できなかった。


「普通そうじゃよな・・・数カ月に渡って一切休みなしで過酷な戦闘に参加させられていたら、好待遇じゃとしても、モチベーションは落ちるじゃろう。もしそれでも喜んで仕事に向かってる者がいるなら、見てみたいものじゃな」


と苦笑いを浮かべるテレサ。


「そうですね〜・・・」


コルテックスの脳裏には、眼の前にいる自分そっくりの少女の他に5人ほどの少女たちの顔が浮かんできたが、それを口にすることはなかった。

・・・彼女自身とアトラス、ストレラの姿は浮かばなかったようだが。


コルテックスがそんなことを考えていると、


「2人とも?今、時間ある?」


良くも悪くも皆が忙しくなる原因(ワルツ)が現れた。

それも何故か、クローゼットの中から。


「うむ。コルテックス達が殆ど仕事を終わらせてくれたからのう」


ワルツの登場の仕方に、特に変わった様子を見せず、いつも通り返答するテレサ。


(・・・いい加減、慣れちゃったかしら。次からはもう少し工夫したほうが良さそうね・・・)


普段から普通に扉から入ること自体無いというのに、更にエクストリーム入室を画策するワルツ。


「何か用事じゃろうか?」


「えぇ。・・・ただ、すごく頼みにくい用事なのよ・・・」


ワルツのその言葉に、とんでもない頼みなのではないかとテレサは身構えた。


一方、


「・・・もうその段階なのですね〜?」


コルテックスはワルツが何を頼みに来たのか、分かっていたようだ。


「えぇ。戦艦の飛行試験をするわよ?」


「!」


テレサは、自身の予想とは異なる明るいニュースに驚き、そして尻尾を振りながら、ワルツに問いかける。


「完成したのじゃな!?」


だが、そんな期待いっぱいといった表情の彼女とは裏腹に、


「うーん、細かい部分とかテストとかが残ってるからまだ完成とは言えないわね」


と言いながら、苦笑を浮かべるワルツ。


「じゃが、飛べるのじゃろ?」


テレサにとっては、戦艦が戦えるかどうかではなく、飛べるかどうかが問題のようだ。

余程、乗りたいらしい。


「・・・残念だけど、今回の飛行試験は、まだ危険だから乗れないわよ?」


そうワルツが答えると、あからさまにテンションが落ちていくテレサ。

そんな彼女の姿を見て、


「・・・あと1週間待てば、乗れるようになるわ」


ワルツはフォローした。


「うむ・・・仕方あるまい。完成を楽しみにしておるぞ?」


「えぇ。待っててくれると助かるわ」


テレサが精神的に復活したことを確認した後、ワルツは本題を切り出す。


「それで、飛行試験をしたいから、戦艦を外に出したいのよ・・・」


「つまり、戦艦を外に出す際、王都民にあらぬ心配を掛けないように、通達を出して欲しいということですね〜?もう終わってます」


『・・・』


コルテックスの行動の早さに、思わず閉口するワルツとテレサ。


「・・・どういった通達を出したの?」


「『近日中に、王都北側で騎士団魔法分隊による大規模な召喚実験が行われる予定』・・・といった感じですね〜」


つまり、航空戦艦は名目上、召喚されることになるのだろう。


「なら、王都の北側ね」


「・・・ん?何がじゃ?」


「戦艦離発着用の空港の建設場所よ」


元々、人が乗るためのエレベータと非常出口以外に出入口のない地下大工房。

戦艦を出すためには、新しく戦艦用の出入口を作るか、あるいはルシアの転移魔法を使うか・・・。

まともな方法としてはこの2つしか方法が無かった。


ただ、ルシアに頼んだ場合、彼女自身が戦艦に乗り込むと戦艦を転移できなくなるので、工房への出入りの度に彼女に降りて転移魔法を行使してもらう必要が出てくる。

飛行テスト程度なら問題はないが、頻繁に出し入れをする可能性や、今後ルシアに何かあった時のことを考えるなら、専用の入出口を用意したほうがいいだろう。

そもそも、ワルツ達が空港を作るのにそんな手間はかからない(?)のだから。


「空港・・・とは何じゃ?」


現代世界の飛行機を知らないテレサが首を傾げる。


「そうね・・・この世界で言うなら、飛行艇に人が乗ったり降りたりするための場所といった感じかしら」


「ふむ・・・エンデルシアのクレストリングにあるクレストリングみたいなものじゃな」


「・・・うん、ごめん。ちょっと意味がわからない」


「クレストリングというのは、飛行艇の発着場の名前なのじゃが、それがそのまま首都の名前でもあるのじゃ。あるいは、混同を避けるために、発着場のことをタイタンリングと呼ぶ者もおるがのう」


どうやら、飛行艇技術の発達したエンデルシア特有の事情のようだ。

土地の名前がそのまま空港の名前になったということらしい。


「ふーん。まぁ、飛行艇の発着場と同じと考えても問題無いと思うわ」


「ふむ・・・」


テレサはワルツの言葉で納得したようだ。

だが、そのわりに表情は余りすぐれない。


「・・・空港ができるついでに、このミッドエデンでも飛行艇技術が発達しないかのう・・・」


空を飛んで移動することの有用性を十分に理解していたテレサは、折角王都近くに空港を作るなら、自国民が利用できる施設としても活用できないかと考えたようだ。

尤も、今回ワルツが作ろうとしている空港は、地下大工房と外を繋ぐための単なる巨大なハッチでしか無いのだが。


(この世界の飛行機(飛行艇)って、航空力学とか考えてるのかしら・・・まぁ、順当に考えれば、重力を無視して飛行するための魔道具があるんでしょうけど・・・)


かつて薄っすらと見かけた勇者の飛行艇や兵站輸送用の飛行艇のサイズ、そして移動速度(空中でほぼ停止)を考えるなら、ワルツの反重力リアクターのように何でもかんでも宙に浮かべてしまうような便利な装置があるのだろう。

そう考えると、その魔道具さえあれば、飛行艇など簡単に作れそうなものだが、


「飛行艇技術を研究している機関って、ミッドエデンには無いの?」


「飛行艇に関する情報はエンデルシアの機密扱いじゃから、残念ながら無いのう・・・」


メルクリオ神国が保有する都市結界技術のように、完全なブラックボックスになっているようだ。


どこか残念そうに話すテレサの姿を見て、ワルツは何気なしに言葉を放った。

そう、何気なしに。


「ふーん・・・。まぁ、気が向いたら、空飛ぶ機械(ひこうき)の事を教えてあげるわ」


すると、彼女のその言葉に、


「うむ。すまんの・・・?」


そう言った後、5秒ほどフリーズするテレサ。


そして、


ガタン!


「んな?!な、な、なんじゃと!?」


彼女は、座っていた座席や机の上の書類などに気にすることなく、急に立ちあがって、驚愕の視線をワルツに向けた。


「お、教えてくれると?!」


そして、相当な勢いでワルツの方に駆け寄って、彼女の肩を揺さぶるテレサ。


「えっ?!いや・・・う、うん。いいけど・・・」


そんな彼女に、ワルツは困惑しながら返答する。


するとテレサは、


「よしっ!」


はち切れんばかりに尻尾を振り回しながら、小さくガッツポーズを取った。

ワルツが思っていた以上に、彼女は飛行艇に興味があったようだ。


「・・・ということだから、後は任せるわね、コルテックス」


師事することを許諾した直後に、全てコルテックスに丸投げするワルツ。


「・・・否やはありませんが〜、よろしいのですか〜?」


「まぁ、無人の動力付きグライダー程度なら問題はないんじゃない?流石に、人が乗るっていうのはどうかと思うけど」


「わかりました〜。ということですのでテレサ様〜。私がお姉さまに変わって教授を務めさせて頂きます」


「うむうむ!是非、お願いするのじゃ!」


どうやら、ワルツに直接教えてもらわなくてもいいらしい。


(・・・なんだろう。頼られないと、なんか寂しいわね・・・)


とは言え、「婿に〜」などと来られても困るのだが。


まぁ、何はともあれ、この日からテレサによる航空技術の習得が始まった・・・。




用事を果たしたワルツが地下大工房に戻ってくると、


「新人ちゃん!もっと早く運ばないと、ワルツ様に嫌われちゃいますよ?」


「えっ?は、はい!」


ユリアと堕天使(?)が、走って擬装用の部品を戦艦へと移送していた。

2人とも、翼を使わない意味でもあるのだろうか・・・。


「精が出るわね」


「あ、ワルツ様!」


「こんにちわ、ワルツ様」


ワルツが声を掛けると、2人とも足を止めた。


「随分、馴染んだんじゃない?シルビア?」


シルビア、それが堕天使(?)の名前である。


なぜ彼女がここで働いているのか。

実は、堕天してしまうと国に帰っても村八分に遭うらしく、帰るに帰れないのだという。

なので、仕方なく、ワルツたちのもとで雑用(その2)として働き始めたのだ・・・最初は。


「はい!」


仕方無しに働いている割には、ワルツに話しかけられて随分と嬉しそうな様子のシルビア。

拷問紛いの尋問を受けたというのに、随分な変わり様である。


「神さまの元で直接働けるなんて、これ以上幸せなことはありません!」


シルビアはそう言って、


ビシッ!


敬礼した。


「・・・そう」


つまり、これまでの仲間達と同様、ワルツのことを神だと勘違いしていたのだ。

まぁ、メルクリオ神国にいる神に魔()認定はされているので、(あなが)ち間違いとも言えないのだが。


(最近ようやく、ルシアやカタリナや狩人さんから誤解が解けたのに、この娘たちは・・・)


とワルツは思っているようだが、果たして・・・。


「さてと、これから王都北側で試験飛行をするって、みんなに伝えてもらえる?」


『了解ですっ!』


ビシッ!


シルビアだけではなく、ユリアも敬礼した後、2人は飛び去っていった。


(・・・流行ってるのかしら?)


ワルツはそんな彼女たちに首をかしげるのだった・・・。

・・・なお、敬礼の仕方を教えたのは、ワルツ自身である。


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