5中-10 拷問3?
朝食後。
ワルツ達は、王城と地下大工房の中間に位置する牢屋へと足を運んだ。
この牢屋は、以前の地下崩落の際に監獄が潰れてしまったため、ワルツ達が新たに設置したものである。
その際、防音設備だけでなく、対魔法設備、さらにはアルタイルなどにによる転移魔法攻撃を避けるために都市結界(予備その2)を設置するなど、王城の修復の中でも特に手間を掛けていた。
つまり、牢屋とは名ばかりの拷問部屋に仕上がっていたのだ。
今、この部屋に来ているのは、カタリナ、ルシア、テレサ、それにワルツの4人である。
狩人は日課の鍛錬に、そしてテンポとユリアは天使たちに荒らされた地下大工房の清掃をしているため、ここにはいない。
男性陣がいないのは言わずもがなである。
「さてと、じゃぁ、話を聞かせてもらおうかしら?」
煤けた金属製の椅子(実は金塊)に無理やり座らされた天使の前に、自前のパイプ椅子を持ってきて座ったワルツが口を開いた。
今の天使の口には猿轡を着けていないので、今度は話が出来るはずだ。
「・・・一体何から話せ「あっ、そうだ」」
天使が喋ろうとした時、ワルツは彼女の言葉を遮って、声を上げた。
「早速、カタリナが作った蟲を試してみましょうか」
「えぇ、いいですよ」
すると、再び、バッグの中から小瓶を取り出すカタリナ。
「えっと、耳から?」
「いえ、鼻ですね」
なので、天使の頭を押さえて上を向かせるワルツ。
「ちょ・・・いや、お願い!何でも話すから、変なもの近づけないで!」
身体が動かせないので、声と視線だけで反応を示す天使。
「そうね・・・じゃぁ、カタリナが自白剤(蟲)を入れる前に、重要な情報から話して頂戴」
「じゅ、重要な情報・・・はっ!」
天使が何を話そうか迷っている間にも、カタリナが小瓶を開け、中から蟲を取り出そうとしていた。
そんな彼女の様子を見て、何でもいいから重要な情報を喋ろうとする天使。
「い、言います!重要な情報!私達天使は、実は天使じゃなくて普通の人間なんです!」
と、その瞬間だった。
どこか神々しかった彼女の金色の髪と翼に色が付き、最終的には真っ黒になってしまった。
ついでに身長も低くなる。
「堕天・・・?」
ワルツがそんなことを口にすると、
「う、うぅ・・・」
涙を流し始める(元)天使。
そして、
「神さまとの約束を破ったらこうなっちゃうんですよぉぉ・・・うわぁぁん!」
本格的に泣き始めた。
「・・・どうします?」
蟲をピンセットで掴んだままのカタリナがワルツに問いかけた。
「・・・なんか、単に虐めてる気分になってきたから、止めとこうか・・・」
とは言っているものの、ワルツには最初から蟲を使う気は無かったのだが・・・。
「そうですか・・・残念です・・・」
獣耳と尻尾をシュンとさせて、蟲を小瓶に仕舞うカタリナ。
彼女の方はやる気満々だったようだ。
(・・・うん、今度、アルタイルみたいなどうしようもない奴を捕まえたら使ってみましょう)
カタリナの雪辱を晴らす機会を用意しようとワルツは決意するのだった・・・。
というわけで、堕天して泣きだしてしまった天使が落ち着くまで待ってから、ワルツは質問した。
「それで、どうして私達を狙ったの?」
今の元天使には、昨日のような何処か自信を持った天使の雰囲気は無かった。
代わりに、『鬱色』とも呼べる暗い雰囲気を身に纏いながら、彼女は俯いて言葉を放ち始める。
「神さまのお告げがあったんです・・・」
「お告げ?どんな?」
「『邪な魔女たちが占拠するミッドエデンから民を開放せよ』、と・・・」
「・・・なら、どうしてコルテックス・・・そうね、この国の議長達が攻撃されなければならないの?」
コルテックスでは分からないと思ったので、議長という言葉に言い換えたワルツ。
彼女には、魔女認定されている自分たちが攻撃されるならともかく、見ず知らずのコルテックス達が襲われる理由が理解できなかった。
確かに、コルテックスの場合はテレサと瓜二つではある。
だが、そのテレサもワルツの知っている限り、魔女認定を受けていないはずだった。
もしも彼女を狙って攻撃したとすれば、テレサも魔女認定されているということになるのだが・・・。
「お告げには『ミッドエデンの代表を排除せよ』というものもありました・・・」
やはり、テレサ、あるいはコルテックスも魔女として認定されているようだ。
「そう・・・他には?」
彼女はワルツの言葉に、ピクン、と反応した後、少し間を置いてしゃべり始めた。
「あと3つあります。1つは、敵飛行艇の破壊。そしてもう2つは・・・」
するとワルツ、そしてルシアに視線を合わせ、すぐに逸らす元天使。
どうやら、言いにくいことらしい。
「・・・そのお告げの通りに言って」
「・・・はい」
すると天使は深呼吸をした後に言った。
「『魔神ワルツを排除せよ』と、『獣人ルシアを御下に召還せよ』・・・です」
(・・・神さまのご指名頂きましたっ!)
脳内で、ヤケクソになって、てへぺろをするワルツ
それはそうと、
(・・・ルシアを連れて来い?どういうこと?)
ワルツは、自分が神に眼を付けられる覚えはあっても、ルシアが眼を付けられる覚えはなかったため、顔を顰めた。
(魔力が強すぎた・・・から?)
ワルツにはそれ以外に考えつくものがなかった。
・・・もちろん、ルシアがやってきたことの中に、神に呼び出されるほどの問題行為(?)があったのだが、それが明らかになるのはまだ先のことである。
それはさておき、
「・・・神さまって会えるの?」
そんな無垢な子供のようなことを口にするワルツ。
「・・・はい。メルクリオ神国首都、カロリスにおいでになります」
「そう・・・」
(・・・実体はあるのね・・・。なら、最悪の自体では無いわね)
彼女の想定した最悪の事態、それは四六時中監視されることである。
この場合、ワルツが何かやる度に妨害を受ける可能性があり、現代世界に帰ることは困難になる。
だが、相手に実体があるなら話は別だ。
「・・・なら、打ちのめしにいきましょうか」
『・・・は?』
そこにいたほぼ全員から声が上がった。
唯一、
「うん!行こう、お姉ちゃん!」
ルシアだけはやる気のようだが。
「・・・絶対にゆるさないんだから・・・」
ゴゴゴゴゴ・・・
地響きと振動、それにラップ音が辺りから伝わってくる。
「うん、分かった。分かったから落ち着こうルシア?耐震構造になってないから、お城が崩れちゃうわ」
「えっ?・・・う、うん」
『耐震構造』とは一体何なのか分からない様子のルシアだったが、城が崩れるというところから察したらしい。
すぐに、魔力の暴走を止めた。
「・・・ワルツ。遂に神さまにも手を出すのじゃな?」
呆れながらも、どこか羨望の眼差しをワルツに向けながら、テレサは口を開いた。
「えぇ。降りかかる火の粉は何とやら、ってやつよ」
この時、ワルツは意外なことに、
(まぁ面倒だけど、神さまをどうにかしないと元の世界に帰れそうにないしね・・・。放っておいても攻撃を仕掛けてくるなら、さっさと方つけちゃったほうが楽よね・・・)
などと、普段の面倒くさがりの彼女と180度真逆のことを考えていた。
諦めの境地、というやつだろうか。
(あとは、勇者達をどうするかよね・・・)
可能であれば同時並行で事を進めたい所だが、果たしてそのようなことが可能なのだろうか。
・・・いや、むしろ、ワルツには確信があった。
なので、彼女は天使に聞いてみた。
「あと、聞きたいのは、勇者のことね。何か知ってる?例えばどこにいるとか」
「はい。勇者レオナルドは、現在、御下におられるかと」
(・・・結局そうなるのね)
・・・つまり、勇者達だけ救いに行っても、結局神と対峙しなくてはならないのだ。
あるいは、一石二鳥とも言えるだろう。
「・・・これも神さまの思し召しってやつでしょうね・・・」
「?」
ワルツの言葉に疑問の表情を浮かべる元天使。
もしも、このことが本当に神の手の内のことだとするなら、おそらくは罠ということになるだろう。
「まぁいいわ。最初から避けられないことだったんでしょうから」
(世の中、儘ならないわね・・・)
ワルツは深く溜息を・・・吐かずに我慢して、代わりに苦笑を浮かべるのだった。
人知れず、賢者に言われた『幸せが逃げる』という一言を気にしていたのだ。
それはそうと、ワルツにはどうしても聞きたいことがあった。
「最後の質問」
「・・・はい」
最後の質問という言葉に、この問に答えられなかったら酷いことをされるのではないかと、身構える元天使。
だが、飛んできた質問は、
「貴方、何歳?」
「・・・え?」
彼女にとって予想外のものだった。
「いや、貴女達天使が、古代の魔法が何だとか、懐かしいとかって言ってたから、実際は何歳なのかなって思って」
「・・・16歳です」
そう言いながら、顔を赤らめる元天使。
どうやら、見た目(身長)が年齢に追いついていかないことにコンプレックスを持っていたらしい。
ワルツが、ふとテレサの方を振り向くと、
「ん?」
と言った様子で自分のことを見上げてきた。
どうやら、テレサは身長のことをそれほど気にしていないようだ。
(あるいは、同胞の行動が理解できなかった可能性もあるが)
それはそうと、
「・・・16歳なら何であんなことを言ったの?」
あんなこと、とは『重力魔法ね・・・懐かしいわ』という発言である。
厨二(高二?)病がなせる業だろうか。
「実は私、この姿が元の姿なんです」
と、天使からは、ワルツが質問した内容とは全く関係ない答えが帰ってきた。
だが、続きがあった。
「でも、天使の姿に変身すると、何か聞こえてくるというか、口走ってしまうというか・・・気づいたら自分の意思とは無関係に話してしまっているんです。もちろん、言葉だけではありません。行動もです」
(・・・厨二病じゃなさそうね・・・洗脳かしら・・・)
以前出会った天使も同じように変貌していたことを思い出すワルツ。
「・・・もう変身出来ないのよね?」
念のため確認する。
「はい。神さまとの約束を破ってしまったので、すべての力を没収されて、単なる人になってしまいました・・・ぐすっ・・・」
だがその言葉で納得出来なかったのか、ワルツは更に質問した。
「・・・何度も追加で質問して悪いけど、もう一個だけ。変身した時の記憶は残ってる?例えば、仲間の記憶とか」
「・・・はい、一応。でも、顔までは思い出せません・・・」
その言葉にワルツは顔を眉を顰めた。
元天使もそんなワルツの表情に気づいたのか、言葉を追加する。
「でも神さまは、天使になるとそういうことがあるけど問題ないって・・・」
彼女がその言葉を発した瞬間、辺りの様子が一変した・・・。
・・・王城から聞こえていたはずの音が消え、
「お姉ちゃん?!」
・・・部屋全体が闇に包まれ、
「わ、ワルツ?!」
・・・部屋の中央に赤く光る二重丸が2つ浮かび上がり、
「・・・怒ってますね。それも本気で」
・・・そして、光すら逃さない真っ黒な髪の女性が言葉を放った。
「・・・罪も無き人の心を弄ぶ、それのどこが神か?」
「ひ、ひぃぃ・・・?!」
そしてそのまま元天使は気絶してしまった。
「・・・ワルツさん?怒りの矛先を間違えていはいませんか?」
カタリナが呆れた様子で、声をかけてきた。
「・・・許せないわ」
「えぇ、分かってます。でも、彼女は被害者なのですから、殺意を向けていい相手ではありませんよ」
「・・・そうね。大人気なかったわね」
すると、普段の様子に戻るワルツ。
「・・・自分が嫌になるわ・・・」
過度な殺意を浴び、気絶してしまった元天使を重力制御で浮かべながら、ワルツは毒づいた。
「人なんてそんなものですよ。私だって、この前まではそんな反吐が出るような神を崇めていたんですから」
と、僧侶の時のことなのか、それとも、今のワルツに対する皮肉としてなのか、カタリナは苦笑を浮かべながら言った。
「・・・ありがとう、カタリナ。それにルシアも、テレサもね」
ワルツは目を伏せながら、恥ずかしそうに呟いた。
「お姉ちゃん、一緒に神さまを倒しに行こう!」
「・・・凄まじい迫力じゃな・・・流石、我が婿殿。どこまでもついて行くぞ?」
「そうね。じゃぁ、その神ってやつを倒しに行きましょうか!(婿じゃないけど)」
「えぇ、行きましょう」
こうしてワルツ達は、(自称)神との戦いに向けた準備を始めるのである。
明日から更新が1週間止まる予感・・・飽くまでも予感
地球の裏側から更新できればいいのにな〜
・・・するけど。