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5中-07 掃除

ガチャッ・・・


コルテックス達に会いに来た一行はノックもせずに扉を開いた。


「あっ、鍵が開いてる・・・」


どこかのドラマでありそうなシチュエーションを再現しながら、ワルツは議長室へと足を踏み入れた。

なお、議長室の扉に鍵は付いていない。


「・・・誰もいない・・・」


「・・・ぬ?可怪しいのう?今日は議会が無いはずじゃから、執務室(議長室)におるはずなのに・・・」


「抜けだした?」


そんなルシアの言葉に、目を泳がせるテレサ。

身に覚えがあるらしい。


「どこに行ったんでしょうね。コルテックス様方だけじゃなくて、皆さんも」


机の下やソファーの陰、さらにはクローゼットを勝手に開けて、中に誰も隠れていないことを確認したユリア。

トレジャーボックスがあれば、間違いなく開いていたことだろう。


「・・・あとは地下ね。ちょっと探してみる」


そう言って、生体反応センサーを用いて、地下を確認するワルツ。


「うん、みんな地下にいるみたいね・・・えっ・・・」


センサーから入ってきた情報に、緩みかけていた彼女の表情が固まった。


「・・・3人多い?」


転送した仲間と剣士・賢者の人数と、地下にいる人数が合わないのだ。

コルテックス達を合わせると、8人のはずだが、センサーに映った人数は11人。


「人数からすると、勇者たちが帰ってきたってことかしら・・・」


そんなことを呟くワルツ。

しかし、どうしてか、悪い予感しかしなかった。


「どうしたのお姉ちゃん?」


状況を把握できない様子のルシア達は、そんなワルツの様子に、心配そうな表情を向けた。


「えっと、地下にみんないるみたいなんだけど、様子が可怪しいのよね・・・ちょっと見てくるわ。みんなは私が戻ってくるまでここで待っていて」


「えっ、お姉ちゃん!?」


ワルツはルシアの声を振り切り、議長室の窓を開けた後、


「とうっ!」


4階テラスから飛び降りた。

そして、


ドゴォォォォッ!!


落下したそのままの勢いで、中庭の地面を数百m貫き、


ガシャンッ!!


地下大工房の底まで落ちていった。

重力制御を使って、地表に機動装甲の人型の穴を開けながら・・・。




「・・・みんながフラグを立ててたからまさかとは思ったけど、本当にこうなるとはね・・・」


大工房まで落ちてきたワルツの目に映ったもの。

それは、


「わ、ワルツ、か・・・うぐっ!!」


つい先ほどまで元気だったはずの狩人。


「す、すみません・・・ワルツさ・・・っ!!」


痛みを堪えている様子のカタリナ。


「・・・」


そしてボロボロになって物言わぬテンポ。

それに気絶しているのか、ぐったりとした剣士と賢者。

この5人が、太い釘のようなものに手足を貫かれ、十字架のようなものに(はりつけ)にされていた。


中でも、危険なのはテンポである。

通常眠らないはずの彼女が意識を失っているのは、生命維持が困難であるというサインであった。


さらに、


「・・・バラバラね・・・」


ホムンクルス3人組は口にするのも(はばから)れるような無残な姿に変わっていた。

生体反応はあるようだが、既に手遅れであることがハッキリと分かるレベルだ。


ワルツはそんな彼らに、遅れて申し訳ない、と視線だけで謝罪を送った後、目の前にいた見知らぬ3人の者たちに声をかける。

そう、勇者たちが戻ってきたわけでは無かったのだ。


「・・・一応、人間様は丁重に扱われている、といったところかしら?」


すると、ワルツの言葉を一切無視して、内々で相談を始める3人。


「・・・奴が報告にあった抹殺対象か?」


「・・・ヨウシ ガ イッチシテイマス。オソラク ハ マチガイナイカト」


「・・・なら、早く済ませましょう。次の仕事が待っているのですから」


3人とも、頭から真っ白なローブを被っており、表情を窺い知ることは出来ない。

だが、これだけは言えた。


「天使ね」


そんなワルツの言葉に反応することなく、


「・・・我ら神の代行者(エクセキューショナー)が、貴様に永久(とわ)の安らぎを授けよう」


と、3人の内、唯一男性と分かる者が戦いを一方的に宣言してきた。


「だが、貴様を葬る前に・・・」


そう言って男天使は、地下大工房に駐機(駐艦?)してあった航空戦艦に向かって手をかざし、


ドゴォォォン!!


無数のビームのようなものを撃ちだして破壊した。


艦体中央から真っ二つに分かれ、大破する航空戦艦。

結局、一度も飛行すること無く、その生涯を終えたのだった・・・。


「ちょっ?!何するのよ!っていうか、作るのにどれだけ手間と時間とお金がかかってると思ってるのよ!」


「ふん、この世界にあってはならぬものを葬ったまで。ではもう一つの方も・・・」


そう言って、男天使は、ワルツが自分たちのために作っていたフレームだけの航空戦艦(?)のほうに手をかざした。


ドゴォォォン!!


同じようにして爆煙を上げるフレームだけの航空戦艦。


・・・だが、どういうわけか、何事もなかったかのように鎮火してしまうのだった。


「ちょっと、そういう無駄なこと止めてくれない?っていうか作業場を荒らさないでよ。掃除が面倒なんだから」


自分たちが丹精込めて作ってきたものを破壊されたというのに、意味ありげな笑みを浮かべるワルツ。


「・・・なんだこれは・・・まぁいい。貴様を消せば済む話だからな」


「うん、それも無駄なことね」


と言葉を交わした瞬間、


ガンッ!!


彼女の背後で、何かがぶつかったような音が聞こえた。


「・・・いきなりとか、レディーに失礼よ?」


「・・・ば、馬鹿な・・・」


ワルツの後頭部を狙った男天使の蹴りは、見事に彼女の首筋を捉えていた。

だが、ワルツにとって人間の急所など、実体をもった単なるホログラムの一部にしか過ぎない。


直後、一撃で倒せなかったためか、ワルツから一旦距離を取る男天使。

動きを見る限り、肉弾戦を得意とする天使のようだ。


「・・・簡単に壊わ(ころ)されないようにコルテックス達を作ってもらったつもりだったんだけど・・・流石に天使相手じゃ分が悪かったわね」


ワルツは溜息を吐いた後、天使たちを無視して、カタリナ達の手や足を貫いている鉄杭を重力制御で抜き取った。


「ぐあっ!」


杭を抜き取られた際の痛みで、苦悶の声を上げる狩人。


「っ!!」


カタリナの方は、声を上げることはなかったが、それでも痛みに顔を顰めていた。


そして、意識のないテンポ、剣士、賢者から杭を抜いてゆっくり地面におろした後、ワルツはカタリナに告げた。


「カタリナ?自分の治療が終わったらテンポの治療を再優先で。今なら、まだ体組織は死んでないはずだから、最小限の治療で済むできるはずよ。・・・でも、コルテックス達は諦めなさい」


「・・・は、はい!」


少し間が開いた後に、彼女から返事が戻ってきた。


ワルツが仲間達を助けていた様子をじっと観察していた天使たちは、各々に口を開く。


「報告通りの奇っ怪な術を使う・・・」


「コダイブンメイ ノ チカラ デハナイカ ト」


「重力魔法ね・・・懐かしいわ」


(うわっ・・・この人達何歳なんだろ・・・)


外見では普通の人間に見えるが、ローブの中は皺々の老人だったりするんじゃないか、と想像するワルツ。


だが、すぐに自分が戦闘中であることを思い出し、雑念を捨て、戦い方を考え始める。


(この前の天使は攻撃すればするほど対処法を学習していったから、今度は1撃で仕留めるようにしないと・・・)


するとワルツは、機動装甲のカーゴコンテナから非常食(その2)を取り出して口に入れた。


「死刑執行中に食事とは、我らも随分と舐められたものだ。それとも、その食事に貴様の強さの秘密があるのか、な!」


すると再び男天使が高速で突撃してきたので、ワルツは折角の食事を取られまいと、重力制御を駆使しながら、()高速でサイドステップを踏んだ。

具体的には、ただ1mのステップだけで、音速を超えるレベルである。

移動時間は0.001秒前後だ。


ブースト状態の彼女にとっては大した運動ではなかったが、


「ぶはっ?!!?!」


天使にとってはそうではなかったようだ。


ワルツがステップを踏むことで生じたソニックブームを近距離で受けた後、きりもみ状態になった天使は、直後に頭から地面に落下した。


「もう、何なのよ、人が食事してるのに。貴方邪魔よ」


(《反重力リアクターブースト Y/N y》《CODE:3032 アクセプト》)


そして、地面に寝そべった男天使の身体にワルツが触れた瞬間・・・彼の質量は熱エネルギーへと変化して、この世界から永遠に消え去った・・・。


その際、天井にもう1つ穴が開いたが、王城の中庭の直下だったこともあって、誰かを巻き込むということは無かった。


『?!』


突如として、仲間が消えた様子に、状況がつかめない様子の天使2名。


そしてワルツがそんな2人を排除すべく、彼らの方に足を進めた時だ。


チーン


そんな間の抜けたような音がして、ワルツから見て、天使たちの後ろ側の扉が開いた。

エレベーターの扉だ。


「あ、お姉ちゃ・・・」


目の前に広がる惨事を目の当たりにして、固まる少女。

ワルツが止めたにもかかわらず、ルシアがこの戦場(地下大工房)へとやってきたのだ。


そんな彼女に気付いた天使は、


「あまりこういったことは好まないのですが、致し方ありませんね」


フードから覗かせる口元を釣り上げながら、ルシアの首筋に刃を当てたのだった。

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