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5中-06 王都への帰還

夏の日差しが容赦なく降り注ぐ正午過ぎ。

ワルツ達は急ぎ、サウスフォートレスへと移動していた。


移動しながら、ワルツが口を開く。


「ねぇ、王都と連絡を取るためにの伝令ってサウスフォートレスにも配備してあるわよね?」


要は、転移魔法を使って王都と連絡を取る術者がいるかどうかを聞いたのである。


「うむ。議決で決まったからのう」


「はい。伯爵邸まで行けばいますよ?」


と返答するテレサとユリア。


以前、王城が襲われた際、国全体に情報が行き渡るまで相当の時間を費やしたので、国の要所要所に一瞬で伝令が届くように人員を配置したのである。


「そう。なら、到着し次第、王都が無事か連絡を取って確認して」


「は、はひぃ。分かりました」


普段とは違うワルツの様子にたじろぐユリア。


「急いで王都に戻るけど問題ない?もう少しゆっくりしていたいなら、サウスフォートレスに残っていてもいいのよ?」


皆、苦笑いを浮かべていたが、サウスフォートレスに残るという者はいなかった。


「・・・多忙で、ごめんなさい」


「何、心配するな。ワルツと共に行動していると飽きないからな」


と狩人。


「そう言ってもらえると助かるわ」


そして一呼吸置いてから、ワルツは言った。


「王都が無事でも無事じゃなくても、とりあえず帰るわよ?それで、連絡を取って無事が確認された場合は、すぐにルシアの転移魔法(?)で皆のことを王城へ送るわ。そうじゃなかったら・・・戻り方はその時考えましょう」


その言葉に神妙な面持ちで頷く仲間達。


もしも連絡が取れない状況なら・・・王城、そして王都は再び悲惨なことになっていることだろう。




彼女たちがサウスフォートレスに到着すると、町は勝利の歓喜に満ち溢れていた。

やはり、80万の敵兵と戦うことは皆にとって絶望的なことだったのだろう。

それでも逃げ出さなかったのは、彼らのプライドが許さなかったからなのか、それとも皆を率いていた伯爵(リーダー)のことを信じていたからなのか・・・。


そして、正門にある検問を顔パスで通過するワルツ達。


なお、ワルツは狩人がいたから顔パスで通過できたと思っているが、もちろん、伯爵令嬢である狩人であっても手続きは必要である。

では何故通過できたのか。

・・・ワルツの顔を見た兵士たちが敬礼していた、とだけ言っておこう。


伯爵邸の玄関ホールに到着した後、ワルツは皆に指示を飛ばす。


「じゃぁ、ユリア。お願いね」


「はい!」


すると、階段を急いで登って行くユリア。


「ユリアが戻ってくるまで、皆はここで待機。お手洗いは移動前に済ませてね」


すると、


「父様に挨拶をしておきたいんだが・・・」


と狩人。


「えぇ、もちろんよ。私も行こうかしら?」


「すまんな。そのほうが父様も喜ぶと思う」


というわけで、ワルツは仲間をその場で待機させたまま、伯爵の元へと向かった。




伯爵は、ユリアが来ていた部屋、即ち、伝令室兼司令室で何やらユリアと話し込んでいた。


「伯爵」


ワルツは伯爵に声をかけた。


「ワルツさんか・・・。ユリアさんから話は聞いた。今、王都と連絡を取っているところだからもうしばらく待ってくれ」


王都との連絡、それは手紙の転移によって行われる。

転送先と転送元に転移魔法の術者が必要という制約はあるが、一瞬で手紙の伝達が完了するという点では、非常に優れた連絡手段だった。

現代世界でいうEメールの魔法版、といったところだろう。

ただ、転移魔法を使える術者の数が絶対的に少ないため、全ての町や村に人員を配置しているわけではなく、東西南北の要塞(フォートレス)と大きな街道のある国境、あとは防衛上(かなめ)となりそうな地域を選んで、限定的に配置という形を取っていた。


さて、伯爵を前にして何を話そうかとワルツが考えていると、


「ワルツさん。今回の件、本当にありがとう。流石に80万人を相手に私達だけで戦っていたなら、間違いなく勝てなかったはずだ」


先ほど狩人にされたように、伯爵も頭を下げてきた。


「いえ、私達は、私達の目的があって、サウスフォートレスを守ったまでのことです。あまり気になさらないでください」


「だが、この借りは必ず返させていただきたい」


と頭を下げたままで口にする伯爵。


そんな伯爵にワルツは、


「・・・分かりました。なら、何れ、返して頂ける範囲でのお願いをすることになるかもしれません」


と、含みを持たせて返答した。


「えぇ、私達に出来る範囲のことなら」


頭を上げた伯爵がそう返した時のことだった。


「返信が届きました!王都に特に変わった様子は無いようです」


伝令役の転移魔法術者から手紙を受け取ったユリアが声を上げた。


「・・・そう。ならいいんだけど・・・」


一応、安堵した様子を見せるワルツ。


「ま、向こうに戻ってみて皆が無事なことを確認すればいいさ」


そう言いながら、狩人はワルツの肩に手を載せてきた。


「そう、ですね。転移先の安全が確認できたので、とにかく王都に戻りましょう」


そしてワルツ達は伯爵達に別れを告げた後、皆が待つ玄関ホールまで降りていった。




仲間達を連れて、伯爵邸の庭まで出てきたところで、ワルツは声を上げる。


「みんな、準備はいい?」


「準備が悪くても送るんですよね」


と言いながらワルツに笑みを送るカタリナ。


「よく分かってるじゃない?」


「えぇ、慣れましたから」


そして、まるで随分と長い間、付き合ってきた様なことを口にした。

ちなみに、2人は出会ってから、まだ4ヶ月である。


「ま、突然お腹が減ってきたとかお花摘みに行きたいとか急ぎの用事ができたら、向こうで方付けて」


「分かりました。・・・今のところ、何もないですけどね」


と苦笑するカタリナ。


すると今度は狩人が口を開く。


「なぁワルツ。何か気を這ってる様に見えるんだが、あまり細かいことを気にし過ぎると・・・寿命が縮むぞ?」


狩人の言葉に変な間があったが、特に深い意味は無いようだ。


「えぇ、見た目以上には気にしてないんで、大丈夫です」


「そうか?ならいいんだが、何か思い詰めてるように見えてな・・・」


「・・・」


狩人のその言葉に沈黙するワルツ。


そしてテンポが口を開く。


「お姉さま。私、この転移が終わったら・・・」


・・・それがワルツの限界だった。


「もう、何でみんなしてフラグ立てるの?!さっさと行きなさいよ!ルシア。送っていいわよ」


「えっ、うん・・・」


すると、眼の前から、皆の姿が消えた。

その際、皆、笑みを浮かべていたのはきっとワルツの見間違いだろう。


「えっと、よかったの?」


「あんな、今生の別れみたいな会話してたら、王都に何もなくても、豆腐の角に頭をぶつけて死んでしまうわよ!」


正真正銘イラッとしながら、ワルツは愚痴をこぼすのだった。


「じゃぁ、()()()行くわよ?それも超特急で」


「うむ」

「うん」

「はい、お願いします」


というわけで、ワルツは、再び、ルシア、テレサ、ユリアの3人を送ることになったのだった。




ドゴォォォォンッ!!!


そんな音を立てて、ワルツは王城の広場へと着地した。


「は、速過ぎですぅ・・・」


急速な旋回をしたわけではないのに、眼を回しているユリア。


「うむ。快適な空の旅じゃった」


「やっぱり不思議だよね。どうして太陽が出てるのにお空が暗くなるんだろ・・・」


各々に感想を述べながら、透明になったワルツの機動装甲から降りる(おろされる)3人。


サウスフォートレスからここまでの時間はおよそ8分。

ちょっとコンビニに行ってくる、というレベルである。


皆を降ろした後、透明になったまま、ワルツは近くの物陰に隠れ、その後、何事もなかったかのようにメイドの姿で現れた。

なお、身元不明であるルシアとユリアも、王城に到着する前からユリアの変身魔法でワルツと同じようなメイドの姿になっている。

全員、立場上は議長の専属メイドだ。


「で、みんなは?」


機動装甲のカーゴコンテナに仕舞ってあった非常食に齧り付きながら、メイド服姿のワルツは口を開いた。


「・・・おらぬな。先に王城内へ入っていったようじゃ」


テレサの言う通り、普段ならワルツたちのことを待っているはずの仲間達の姿は近くに無かった。


「いやーな感じね」


だが、派手に着陸した辺りからワルツ達を取り囲んで警戒している兵士を見る限り、王城で何か事件が起ったという雰囲気では無さそうだ。

但し、派手に帰還した自分たちを除いてだが。

この後、この兵士たちは、テレサのハンドサインを見て即座に解散していった。


「とりあえず、コルテックスのところに行きましょう」


「うむそうじゃな」


「あ・・・お土産・・・」


「・・・また、戻ればいいだけだから大丈夫よ。きっと」


やはりお土産のことをすっかり忘れていたワルツ。

というより、急いでサウスフォートレスを出発したために、お土産を用意する時間が無かったと言うベきか。


こうして、ワルツ達は議長室にいるだろう3人に会いに向かうのだった。

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