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5中-05 デスクトップ

スマホから編集すると文が切れる・・・・・・

ついでに投稿時間指定も・・・orz

仲間の中で唯一難しい顔を浮かべていなかった者。

それはルシアだった。


「お姉ちゃん?」


皆が難しい顔を浮かべている中で、彼女は徐ろに口を開き、


「たぶん、これくらいの人達なら、私の転移魔法で元の国に戻せると思うよ?」


と、転移魔法使いが聞いたら卒倒しそうなことを簡単に言いのけた。


「・・・できるの?」


「うん。でも、どこに移動させるのか決めないと、変なところに移動させちゃうかもしれないけど」


ルシアのその言葉に、ワルツの脳裏では、石や壁の中に転移させられる兵士たちの姿が過る。


「一度見たことのある場所なら、転移できるんだけど・・・」


やはり、ルシアの転移魔法の場合、転移先に直接足を運ぶ必要はないらしい。


「空の上から景色を見れば、転移できそう?」


「うん、それなら大丈夫だと思う」


そんな自信のない言葉とは裏腹に、彼女の眼には転移できる確信のようなものが浮かんでいた。


「なら、早速・・・って、この人達、全員返しても問題ないですよね?」


と息も絶え絶え(?)な兵士たちを指しながら伯爵に問いかけるワルツ。


「えぇ。是非、返してもらえると助かりますが・・・本当にそのようなことができるのですか?」


80万人を一度に転移させるという常軌を逸した発言に対して、当然の疑問を口にする伯爵。

もしもこれが勇者パーティーのリアであれば、毎日転移させたとしても1年は掛かるだろう。


「まぁ、ルシアが言ってるんですし、多分大丈夫です」


魔力の塊のような彼女のことである。

彼女が出来るといえば、出来るのだろう。


「えっとルシアは大丈夫なの?疲れてない?」


先程まで、彼女が大出力の回復魔法をバンバンと連写していたことを思い出すワルツ。


「うん。全然平気」


一方、平然とした表情で即答するルシア。


(なんか、私なんかより断然チートな気がしてきたんだけど・・・)


一度に80万人の回復と転移の魔法を行使してしまう彼女の力量はワルツとしても驚愕に値するものだった。

とはいえ、彼女の魔力量が化け物じみていることで助かっていることもまた事実である。


「・・・無理しちゃダメよ?」


「うん」


「じゃぁ、行きましょうか」


「ちょっといいじゃろうか」


出発しようとした時、テレサから声が掛かった。


「恐らく分かっておると思うのじゃが、兵士を少し残しておいてもらえると助かるのじゃ。情報が欲しいからのう」


「だって?」


「うん。分かったよ」


その後、仲間達の簡単な送りを受けてから、ワルツとルシアは空へと上がって行くのだった。




ワルツはルシアを機動装甲の背中に座らせた後、超音速で、エンデルシアの領土とサウスフォートレスがあるアレクサンドロス領の境に存在する、2つの山脈近くまでやってきた。


そして上空を通過する際、ワルツは山脈の異常に気づく。


「あれ?山に沢山穴が開いてる・・・・」


「ほんとだ・・・」


山脈には、およそ10kmに渡って、直径100mほどの横穴がキレイに並んで開いていた。

どうやら、罠を作った際、ルシアの魔力粒子ビームが地中を貫通して拡散した後、山脈に当たってできたものらしい。


「・・・もしかして、兵士たちが全力で走ってきて投降しようとしたのって、これが原因じゃ・・・」


進軍していたら、どこからとも無く飛んできた謎の光が、自分たちの頭の上を超えて山脈を次々と貫通していくのである。

いつ自分たちに降り注ぐかと気が気でなかっただろう。


「えっ?」


姉の呟きに対して疑問の声を上げるルシア。

どうやら、目の前にある穴を自分が穿(うが)ったことに気づいていないようだ。


「・・・うん。何でもないわ。それで、どう?ここからなら、エンデルシアの町も見えるけど・・・」


山脈の上からだと、エンデルシアの領土にある町と、ミッドエデンの領土にあるサウスフォートレスの両方が、ワルツの眼でなくても一望することが出来た。


「いけそうだけど・・・でもいいの?あんな小さな町に兵士さん達をまとめちゃっても?」


どうやらルシアは、サウスフォートレスだけで敵兵を収容できない理由を知っているようだ。

テレサ辺りに聞いたのだろうか。


「・・・えっと、ルシアの体力的に大丈夫かなって心配になったのよ。転移魔法って距離が離れていると魔力を余計に消費するって言うし・・・離れていても問題ないの?」


「うん、気にしなくても大丈夫だよ?」


「そう・・・なら、もう少し高度を上げましょうか」


そしてワルツ達は高度20km程度まで上昇してきた。

空は黒く、昼間であっても星が見えるほどの高度だ。


ここまで来て、ワルツは機動装甲の身体を反転させた。


「きゃっ!落ち・・・ない・・・?」


「景色が見えないから見えるようにしただけよ?落ちないから安心して」


機動装甲の背中には常に加速度が一定になるように重力制御が掛かっているので、逆さになっても、急加速しても、急減速しても、背中に乗っている者にとってはただ景色が変わったようにしか見えないのだ。


そして、自分が落ちていかないことに気づいたルシアは、目の前に広がる世界をゆっくりと()()()()


「世界って広いんだね・・・」


見渡す限りの緑の大地と青い海、そして自分たちがいたサウスフォートレスを見比べてルシアは呟いた。


前回の弾道飛行の際は、今のように逆さにならなかったため真下の景色がよく見えなかった。

だが、今回はそれがよく見えたので改めて思ったのだろう。


「どう?ここなら、エンデルシアの国全体が見渡せるけど」


「うん。でも、今度は兵士さん達が見えないから、()()()()


そんな彼女の言葉を『兵士たちを見分けることが出来ない』という意味で捕らえたワルツは、


「これなら見える?」


そう言って重力レンズによる望遠鏡を作り出した。


「うん。これなら大丈夫だよ」


とルシア。


そんな彼女にワルツは疑問をぶつけた。


「・・・もしかして、ここから転移魔法を使うの?」


すると、


「うん、そうだよ?」


さぞ当たり前かのような口ぶりで彼女は言った。


(・・・それ、やっぱり転移魔法じゃない気がする・・・)


どうやらルシアの魔法には射程が存在しないらしい。


「それじゃぁ行くよ」


そして、ルシアの転移魔法が、転移魔法ではないことが証明されることになった。


「はい、終わったよ」


・・・80万人を転移させるのにかかった時間、およそ3秒。

彼らは、エンデルシア領土内にある最も大きな街、恐らくは首都であるクレストリングの側に一瞬で移動させられていた。


(・・・どういうこと?)


問題は転移(?)の瞬間に起ったことだ。

兵士たちが鈍く輝いたかと思うと、そのまま山脈や森、高地などを何もないかのように通りぬけ、移動したのだ。


そう、PCのデスクトップ上で範囲指定したアイコンをドラッグアンドドロップで移動させたかのように・・・。


(・・・やっぱり転移じゃない・・・?)


尤も、正真正銘の転移魔法も同じような様子で移動しないとも限らないのだが。

少なくとも、ルシアの魔法はワルツが思っていたような瞬間移動に類するものではないことがハッキリと分かった。


(何これ。ドラッグアンドドロップ魔法?・・・でもこれなら、自分自身が転移できないっていう理由にも説明が付くわね・・・)


そこまで考えてワルツは嫌な魔法の存在を想像した。


(・・・Ctrl+z魔法とかありそうね)


・・・つまり、『元に戻す』魔法である。

恐らくは現代世界に住む多くの人々が切に所望する魔法の一つではないだろうか。


「えっと、どうしたのお姉ちゃん?」


ワルツが怪訝な表情を浮かべていることを見て、何か拙いことをしたかなぁ、といった表情を見せながらルシアが問いかけてきた。


「あ、ごめんね。何でもないわよ。それじゃぁ、戻りましょうか」


そんな姉の言葉に、少し残念そうな表情を見せるルシア。


そして、彼女は、小さなわがままを言った。


「うん・・・でも、もしも時間があるなら、ここでもう少し世界を見ていたいかも・・・」


2つの太陽が照らす地球と同じような青い星と、地平の彼方から浮かび上がる大きな月、そして昼間なのに輝きを見せる星々の姿。

普段は見ることのできない世界を、彼女はゆっくりと見ていたいようだ。


「そうね。みんなに迷惑をかけないくらいの時間ならいいわよ」


そう言って、ワルツは機動装甲の姿を消した。




「きゃっ!?」


突然、機動装甲の座席から放り出されたルシアは、空中をグルグルと回りながら今日2回目の叫び声を上げた。


「お、落ちるーーー!!」


今度こそ、彼女の身体を浮遊感が襲ったのだ。


何かに咄嗟につかまろうとするルシア。

そんな彼女を、ワルツは右手で捕まえて言った。


「っと、大丈夫よ。そんなに力を入れなくても」


宙に浮いている自分を捕まえてくれたワルツの手に、尻尾をふくらませながら必死になってしがみつくルシア。


「だって、落ちそうなんだよ?!」


そんなルシアの様子に、ワルツは微笑を浮かべて言った。


「・・・本当に落ちてる?」


そしてルシアを捕まえた手を優しく放すワルツ。


「落ち・・・てない?」


「私が(重力制御で)支えてるから、落ちないわ」


そう、ワルツが重力制御でこの無重力空間を作り出したのだ。

高度20km程度では地表と重力の大きさは然程(さほど)変わらない。

なので、擬似的にワルツが宇宙空間を再現したのである。


最初はワルツの腕に相当な力で捕まっていたルシアだったが、どうやら、自分が落下していないことに、気づいたらしく、ワルツから恐る恐る手を離す。

そして、空中を泳ぐようにして移動し始めた。


「うわぁ・・・飛んでる?」


普段、地上では、ワルツの重力制御で空中に浮くことはあっても、自分の意志で移動することはできない。

要は、ワルツに掴まれている様な状態なのである。


だがここでは違った。

ルシアを取り囲むようにしてある程度の広さをもった範囲が無重力化されているのである。

余り大きな空間とは言えなかったが、ワルツが作り出したこの場所は、翼を持たない彼女でも自由に飛び回ることのできる『鳥かご』だったのだ。


自由に飛び回ることができるという初めての経験に、ルシアは(はしゃ)いでいた。

そんな彼女にワルツは言った。


「本当はもっと高いところ・・・宇宙まで行けば、もっと自由に飛べるんだけどね・・・」


静止軌道よりも外側に行けば、(地表との相対)速度が0でも落ちてくることはない。

尤も、空気が無かったり、宇宙線が降り注いだりするので、何れにしてもワルツのアシスト無しには生存することすら(まま)ならないのだが。


「私もお姉ちゃんみたいに自由に飛びたいな・・・」


縦にグルグルと回りながら、ルシアは呟いた。


「・・・そうね。でも多分、飛べるようになるわよ」


「本当?」


「えぇ。諦めなければね」


そう言うとワルツは、ルシアから視線を外し、遠い宇宙(そら)へと視線を移すのだった・・・。

・・・まるで、自分の追い求めているものが、そこにあるかのように。




たっぷり2時間ほど無重力体験をした後、ワルツとルシアは地上へと降りてきた。


そこには、先程までいたはずの敵兵たち、そして伯爵や騎士たちの姿は消え、仲間たちが心配そうに空を見上げている姿だけが残っていた。

伯爵達は恐らく、街に戻って、捕まえた敵兵の尋問をしていることだろう。


「あ、戻ってきましたよ?」


ユリアが一番最初に声を上げた。

そして地面を飛び立って、一気に地上300m位まで上昇してくる。


「お出迎え?」


「はい。なかなか帰って来ないんで心配しました」


「ごめんねユリア。私がわがまま言ったの」


と謝罪して、事の顛末を打ち明けるルシア。


「いえ、そんな謝らなくても大丈夫ですよルシア様。戦いも終わったんですし、たまには息抜きも必要ですから」


そう言って、ユリアは八重歯を見せながら笑みを浮かべた。


そんなやり取りをしていると、3人は地面に到着する。


「お疲れ様なのじゃ」


最初に声をかけてきたのは、ワルツ達に駆け寄ってきたテレサだ。


「ま、私はルシアを連れて行っただけだけどね」


「じゃが、ワルツがおらぬとルシア嬢も魔法を行使できなかったのじゃろ?半分はお主の手柄じゃ」


まるで大捕り物があったような口調のテレサ。


「そんなものかしら?」


「そんなものじゃ」


と言いながら、彼女も随分と嬉しそうな笑顔を見せた。

やはり、ミッドエデンを代表する議長としては、何事も無く戦闘が終了したことが嬉しかったのだろう。


「ワルツ」


今度は、狩人が改まった様子で声をかけてきた。


「・・・今回は本当に助かった。全く、礼の言葉も無い」


そう言ってワルツに頭を下げる狩人。


「・・・伯爵邸に戻ったら、伯爵にも同じようにされるのね・・・きっと」


「あぁ。なんたって、町の英雄だからな」


「それを言うなら、罠を仕掛けるのに協力した皆が英雄じゃないの?もちろん、狩人さんもよ?」


「・・・そうか?」


「えぇ。そうですとも」


「・・・ふふっ、ワルツと同じ英雄か・・・」


心底嬉しそうに笑う狩人。


(英雄ね・・・)


狩人とは対照的に、心の中で頭を抱えるワルツ。

もちろん、面倒、と言う理由からだ。


「さぁ、町のみんなが待っている。帰ろう!」


そう言うと、狩人は先頭を歩き始めた。


「ワルツ殿、お疲れ様です!・・・あ、姉さん、待ってください!」


一瞬だけ挨拶した後、完全に狩人の下男化した剣士は狩人の後を追いかけていった。

まさに小者である。


「ワルツさんはこれから大変ですね」


次に話しかけてきたのはカタリナだ。


「・・・逃げていい?」


「・・・いいのではないでしょうか?」


皆と同じように笑顔を見せるカタリナ。


「・・・そうね。考えておくわ」


ワルツは溜息を吐きながらそう口にした。


「ワルツ殿。溜息を吐くと幸せが逃げていくという話があるぞ?」


と賢者。


「うん、知ってる。でもね・・・」


そう言った彼女の顔はあまりすぐれなかった。

そして眼を伏せる。


「えっと、どうかしたのですか?」


カタリナが心配そうに声をかけてくる。


「お姉ちゃん?」


ルシアもワルツの異変を察したのか彼女の顔を覗きこもうとする。


「・・・いやね・・・なーんか、すっごく嫌な予感がするのよね・・・」


「・・・おや、お姉さまも同じでしたか」


とテンポ。

ワルツと同じようにして彼女の顔色も優れなかった。


「これ、すぐに王都に戻ったほうがいいわね」


『えっ・・・?』


皆がワルツの言葉に疑問の声を上げた。


「私も同感です」


だが、テンポは同意見のようである。


「・・・なんか余りにも、サウスフォートレスでの戦闘があっさりし過ぎている気がするのよ。コルテックスが言っていた罠かもしれないわ・・・」


・・・どうやら、ワルツパーティーには、休息のための時間は無いようだ。

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