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5中-03 ぶっつけ本番?

さらに3日後の昼時。

大空洞で食事を摂っているワルツたちの元に、2つのニュースが入ってきた。


まず1つ目は、カノープスたちが兵站輸送用の飛行艇を撃墜したという話だ。

未だ情報が錯綜した状態なので詳しいことは分からなかったが、彼が空を飛んでドッグファイトをしたとか、あるいはドラゴンを使役して戦ったとか・・・。

更にはどこからか野太い光線が飛んできて飛行艇ごとカノープスの乗ったドラゴンを撃ち落とした、などといった出所不明の情報が出回っているようだ。


(何なの?ビームがどこからともなく飛んできたっていう話。そんな物騒なものが飛び交う世界なら、とっくの昔に滅びてるはずじゃない・・・。一体どこの誰がそんな危険な物を乱射してるのよ・・・)


ワルツはそう思いながら、隣で半解凍稲荷寿司を美味しそうに頬張っているルシアに目を向けた。


「?」


急に視線を向けてきたワルツを見上げて、首を傾げるルシア。


「・・・よく噛んで、ゆっくり食べなさい」


「うん!」


ワルツはルシアにやさしく微笑(ほほえ)みかけるのだった。


さて、ニュースはもうひとつある。

・・・あと1日で80万の兵士たちがサウスフォートレスへと到着するというものだ。


「やっぱり、相手は人間みたいね・・・」


魔物だったらよかったのに、と思うワルツ。


「俺・・・なんか怖くなってきた・・・」


小者臭漂う剣士。


「今回、私達が戦うことは無いのですから、そんなに心配することは無いと思いますよ?」


賢者の方は冷静である。


「実は私も怖くなってきたんですよ・・・」


無表情なので怖そうには見えないテンポ。


「やはり、お姉さまが80万人を皆殺しにしてしまいそうで・・・」


「失礼ね!ちゃんと出力は抑えるつもりよ」


文字通り要塞化した、サウスフォートレス周辺の防衛システムの出力を、である。


「楽しみだねー?お姉ちゃん!」


そう言って、尻尾を振りながら、8個目の半解凍稲荷寿司に手を伸ばすルシア。


「そうね。でも、本当にちゃんと動くかは、やってみなきゃ分からないっていうのがちょっと不安だけどね。ま、テストはするけど」


一応、ワルツのシミュレーション上では罠は問題なく作動していたが、それでも自信のない彼女もやはり小者なのかもしれない。

大物は、ピリピリとした空気の中でもいつも通り稲荷寿司を頬張る、ルシアくらいなものだろう。


「はぁ・・・兵站の輸送手段を破壊したんだから、自国に戻ってくれないかしらね・・・」


「ここまで来たんですから、自国に帰るよりも、サウスフォートレスを占領したほうが早いと考えているのでしょう」


と賢者。


「そうよねー。普通、80万もいれば、サウスフォートレスなんて一瞬で落ちると思うわよねー。・・・させないけど」


そう言って、ニヤリと笑みを浮かべるワルツ。

・・・一体、自信があるのか、無いのか・・・。




そんなワルツが、自分の分の食事(屋台で買ってきた怪鳥の串焼き)に手を付けようとした時だった。


「わ、ワルツ様!敵です!敵が見えました!」


『えっ・・・』


ユリアが凶報を持って飛んできた。


「いや、まだ1日あるんじゃないの?試験とかまだよ?!」


「でも、なんか、土煙を上げてスッゴイ沢山の人達が押し寄せて来てますよ?」


どこかで伝令のミスがあったのか、あるいは、相手が速度を上げたのか・・・。


「えっと・・・うん、もうぶっつけ本番ね」


四の五の言っていても仕方がないので、ワルツは作戦を決行することにした。


(これでダメだったら、私がどうにかするしか無いわね)


ワルツは、準備不足感が否めないことに苦虫を噛み潰した様な顔を浮かべつつも、仲間達に指示を飛ばしていった。


「カタリナ?結界の制御をこの空洞の内側まで押さえて、地表を結界の外側に露出させて。それが終わったら、テレサのところに行ってもらえる?」


「分かりました」


「テンポは手筈通り、炉の起動をお願い」


「承知しました」


「ルシアは・・・万が一のために、町にいる狩人さんのところで、町の防衛をしてくれる?でも、兵士たちを殺しちゃダメよ?」


「うん!雷魔法でいい?」


「えぇ、近づいて来たら、ね」


「分かった」


「剣士さんも、ルシアと一緒に狩人さんのところへ行ってくれる?」


「おう、任せとけ!」


「あと、賢者さんはカタリナの補佐でいいわね」


「・・・特にやることが無い気がするが・・・」


「男なんだから、レディーの1人や1万人くらい守って見せなさい!」


「え?・・・あぁ、分かった」


そもそも、2人が向かうだろう伯爵邸まで兵士が入ってきたら、作戦は完全に失敗であるが。


「あと、名前を呼ばれていない人?いないわね」


ユリアは、対策本部(伯爵邸)にいるテレサや伯爵のところで伝令役として働いているので、既に役割がある。

狩人は、今回、町を防衛する騎士団のトップとして地上で指揮にあたっている。

水竜は子守(?)だ。


というわけで、ワルツパーティー全員に何らかの役割があった。


そして、仕掛けた罠を操作するのは、


「お姉さま、炉の起動を無事完了しました。およそ1時間ほどで、沸騰が始まるかと思います」


テンポだ。


彼女が言った炉とは、即ち核融合炉である。

勇者たちのために設計した航空戦艦に搭載されているものよりも、更に大型のもので、出力的には10倍といったところだ。

これを一体何に活用するのか・・・。


「とりあえず1つ目の関門は突破ね」


ワルツの懸念の内1つは、この核融合炉が上手く動くかどうかだったのだ。

何度もシミュレーションを重ねて、間違いなく動くことを確認していたのだが、現代世界、そして異世界通して実際に核融合炉を作り稼働させることは初めてだったので、自信が無かったのである。


「熱交換用のコンプレッサは?」


「順調に稼働しています」


核融合炉で作り出された電力を使って、コンプレッサ・・・要は、エアコンの室外機を稼働させたのだ。

とはいえ、エアコンなどというサイズではなく、ビルほどの大きさはある巨大なものだったが・・・。


エアコンの室外機と違う点は、その熱の逃げ道にあった。

ワルツ達は現在いる地底よりも更に地下深くまで穴を堀り、そこに水を流して循環させることで、地中に熱を逃がす仕組みにしたのだ。

所謂、液体循環式の地中熱交換器である。

通常、エアコンを冷却モードにして稼働させると室外機から熱気が出てくるのだが、この方式だと、(熱容量の大きな地面に熱を逃がすので)周辺の気温が上がるということはない。

逆もまた然りである。


「ニードルの露出は?」


「圧縮空気を送ってテストします」


ジャキン!


・・・そんな音が地表の方から聞こえてきた。


「うん、大丈夫そうね。あとは・・・放電用の電極に漏電がないか確かめて」


「通電します」


バンッ!


そんな音がして、テンポの握っていた巨大なスイッチの接点から盛大に火花が飛び散った。


「発電用タービンの負荷62%・・・許容範囲内です」


そしてスイッチを切るテンポ。


「うん、設置した機器のテストは成功ね」


どうやら、地下にある機器は正常に動いているようだ。


「後は待つだけですね」


「えぇ・・・」


だがワルツの表情は暗い。


「何人くらい、死んじゃうかしらね」


できるだけ死人が出ないように罠を作ったとはいえ、戦いに来た兵士たちの足を止めるためのものなので、安全な作りであるとはいえなかったのだ。


「ですが、それを気にしていたら、守れるものも守れなくなってしまいますよ?」


「10万の人々を救うために、80万の人々を犠牲にする・・・それを守るっていうのかしらね・・・ま、こんなこと言ってても始まらないけど」


そしてワルツは自分の顔を両手でパンと叩いて気合を入れた。


「さてと、私達も見晴らしのいい場所に行きましょうか」


そしてワルツ達は地下を離れ、皆の後を追って地表へと上がっていくのだった。




ワルツとテンポは、以前、サウスフォートレスに1万の魔物が押し寄せた際に仲間達の戦いぶりを見物していた、正門入口上にある通路へとやってきた。


「えっと、どこかしら〜?・・・あ、いたいた」


と、ホエールウォッチングに来た観光客のようなことを口にするワルツ。


「随分な、凄い勢いでこちらに向かっていますね・・・」


土煙を上げながら、尖兵隊と思わしき一団がこちらに向かってまっすぐと向かってくるのが見えていた。


「ではお姉さま。私は指揮所がある伯爵邸に向かいますので、何かありましたら声をお掛けください」


そう言うとテンポは、塀を降りて、地下設備の遠隔制御装置(リモコン)が設置されている伯爵邸へと歩いて行った。


そして、塀の上にはワルツが一人だけになった。

・・・何故か?

彼女の存在を察してか、他の兵士たちが近寄って来なかったためである。

そう、彼女はこの街で有名になっていたのだ。

・・・そのことに本人は気づいていないようだが。


(それにしても、なんであんなに急いでるのかしら・・・)


システムの動作確認が終わったため、心にある程度の余裕が生まれたワルツは、ゆっくりと兵士たちを観察し始めた。


それによると、尖兵隊はおよそ5万。

皆、軽装で武器を持っている様子はない。

一見すると、5万人規模で行うマラソン大会と言った様子だ。


(もしかして、あれ全員が魔法使いとか?)


相対的に、ミッドエデンよりも魔法使い人口の多いエンデルシアのことを考えるなら、否定はできない。


(ん?尖兵隊の直ぐ後ろに、20万人位、人が続いているわね・・・)


こちらも、軽装で武器は持っていなかった。


(じゃぁ、30万近い人達が全員魔法使い?すごいわね・・・)


その後も見る見るうちに人数が増えていき、ワルツの視界には60万人の人々が大挙して押し寄せてくる姿が映っていた。


(・・・皆、我先にって感じね。・・・っていうか、全員、武器を持ってないんだけど、まさか80万人全員で魔法の飽和攻撃とか?)


この時点で、陣形は全く意味を成していなかった。

まるで、指揮が無いかのように・・・。


そんな敵兵たちの姿に、何か違和感を感じ始めるワルツ。


だが、周りに居た兵士にとっては違ったようだ。


「俺、この戦闘が終わったら・・・」

「明日は娘の誕生日なんだ・・・」

「2日後に除隊だっていうのに・・・」


皆、フラグを立て始めた。

勝てない敵を前にするから、フラグを立てるのか。

それとも、フラグを立てたから勝てないのか・・・。


ともあれ、兵士たちの士気は0を超えて、マイナスに突入しているようだ。


(・・・ま、なんでもいいけどねー)


わざわざ、フラグの回収に付き合うのも面倒なので、そのまま放置する。


そして敵兵たちが、罠が仕掛けた領域に足を踏み入れた頃。

彼女は、伯爵邸にいるだろう仲間達に向かって、パラメトリックスピーカを用い、宣言した。


『それじゃぁ、始めましょうか』


こうして、地獄の蓋が開かれたのである。




・・・だが、彼女達は大切なことに気づいていなかったのだ。


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