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5中-01 意外なもの

次の日の朝。


伯爵が(とも)の騎士たちを連れて戻ってきた。

ちなみに、何故か全員、猫の獣人である。

王都では一緒にいたはずの伯爵夫人がいないところを見ると、未だ湯治場から戻ってきていないのか、あるは伯爵とは別個に用事があったのか。


それはともかく、


「・・・どうして、リーゼがここにいるんだ?」


王都にいるはずの愛娘が、何故か自宅で朝食を摂っている光景に、彼は状況が飲み込めない様子だった。


(あ、これ、サウスフォートレスが侵略されそうになってること知らないわね?)


「ふむ。それは妾から説明するのじゃ」


「ひ、姫・・・議長!?」


驚いて後退りした歳、後ろに立てかけてあった燭台を倒してしまいそうになる伯爵。


ワルツ達に一応気づいていたようだが、その中にテレサがいることまでは気づかなかったようだ。


「国境警備隊からの話じゃと、ここに80万の敵兵が向かっておるようじゃぞ?」


「・・・はい?」


やはり予想通り、伯爵の耳までエンデルシアによる侵攻の話が届いてなかったようだ。

というわけで、テレサは自分の知り得た情報を余す事無く説明する。


・・・


「す、直ぐに対策を・・・」


テレサの言葉に、顔色を悪くした伯爵が声を上げた。


「あ、伯爵?流石に今回はどう頑張ってもサウスフォートレス側に勝ち目はないと思うので、私達がどうにかします。なので、この町の守りだけでも固めてもらえますか?」


と副音声で『お前たちにはこの町を守ることは出来ない!』と、町の守護たる伯爵に失礼なことを言うワルツ。


彼らにできることは敵の進路上にある小さな集落に対して避難勧告をするくらいなのだが、これについては昨日の内に狩人が伝令の兵士たちを派遣済みだ。

町の守りを固める以外にワルツ達が彼らに頼めることと言えば、雑用くらいだろうか。

だが流石のワルツでも、雑用をしろ、とは頼めなかったようだ。


一方、伯爵も、冷静になって考えてみると、80万の敵兵とどうやって戦っていいのか分からないことに気づいたらしく、ワルツ達に任せることにしたようだ。


「よろしいのですか?」


「えぇ。そのためにやってきたのですから」


「・・・分かりました。ではお願い致します」


そう言って伯爵はワルツ達に向かって頭を下げてきた。


これが他の貴族だったのなら、プライドや面倒な(しがらみ)のせいで、こう簡単に事は進まなかっただろう。


「と、父様・・・なんか恥ずかしいのだが」


礼の対象に自分が含まれていることに、どこか居心地の悪そうな狩人。


「いや、下げれる頭がある内は下げるべきだ。減るものではないのだからな」


そんな彼女に、さぞ当たり前であるかのような口調で伯爵は告げた。

もちろん、貴族がそう簡単に頭を下げるなど、当たり前のことではない。


「あまり気しないでもらえると助かるんですけど・・・」


(サウスフォートレスのために戦うわけじゃないんだし・・・)


とは言わないワルツ。

その代わり、本題を口にする。


「それで、罠を作りたいんですが、この町の周辺に大規模な穴を掘ってもいいですか?」


と、領地大改造の許可を伺うワルツ。


とはいえ、議長(テレサ)の許可さえあれば大抵の無茶は(まか)り通ってしまうのではあるが、それでも彼女が許可を貰おうと思ったのは、狩人の親でもあり顔見知りである伯爵を蔑ろにするわけにもいかなかったからだろう。


「あぁ、それは構わんが・・・できれば、畑などは破壊しないように配慮してもらえると助かる」


「えぇ、それはもちろん」


というわけで、二つ返事で伯爵の許可は貰った。


(これで、罠が作り放題ね)


内心で笑み・・・それも邪悪な部類のものを浮かべるワルツ。


こうして、この国始まって以来の、壮大な○タゴラスイッ○が始まる・・・はずだった。




食後、サウスフォートレスの外へと出てきたワルツ達は、アルタイルの攻撃の対策として円陣を組んだ状態で、南の国境線につながる街道を歩いていた。

そして、町から2kmほど歩き、周りに畑が無くなったところまでやってきて、(おもむろ)に立ち止まる。


「さてと。じゃぁここに拠点を作りましょうか」


ワルツのその言葉を合図に、カタリナと賢者、それにルシアは、王都から持ってきた都市結界(予備)を起動する。

これで、この周囲(半径5km程度)にはアルタイルの攻撃どころか、魔物すら入ってこなくなることだろう。


「やっぱり拠点って言えば、地下基地よねー。じゃぁ、ルシア?この下に500mくらい深さで穴を開けてもらえる?大きさは・・・10mくらいで」


「うん、分かった」


地面に手を当て、土魔法を行使するルシア。

すると、突如として巨大な穴が地面に開いた。


(やっぱり、リアとは出力が段違いね)


バングルを装備した状態で直径3m程度の穴を数百m掘るので精一杯だったリアと違って、バングルなし(但し、杖有り)の状態でも、ルシアはワルツの注文通りの穴を簡単に開けてしまうのだ。


そんなルシアの姿を見て、剣士と賢者が固まっていたが、今更気にすることでもないだろう。


「それじゃぁ、皆はちょっとここで待っててくれる?今から横穴を拡張してくるから」


「あぁ、気をつけてな」


と、ワルツに対して声をかける狩人。


「あ、絶対に穴を覗いちゃダメですよ?多分、死ぬんで」


「・・・あぁ、気をつける」


どうやら気をつける人物は逆だったらしい。


狩人のその言葉を聞いたワルツは、迷うこと無くルシアの開けた穴の中へと飛び込んでいった。




しばらく200mほど降下した辺りでワルツは異変に気づく。

どうやら地下が開けてるようなのだ。


そして彼女は、サウスフォートレスの地下で、まさかの物を目の当たりにした。


「・・・え・・・大空洞・・・?」


ワルツが目にしたものは水が大量に溜まった、巨大な空間だった。

所謂、地底湖である。

彼女から見える範囲では、湖の部分が4割、陸地の部分が6割といった様子だ。


地上よりも空気はひんやりとしており、まるで鍾乳洞や洞窟の中のような環境であった。

ただその形状は、鍾乳洞とは違い天井や地面から伸びる鍾乳石の類はなく、そして洞窟のように入り組んでいることもなく、少しいびつな形をしたドーム状の空間だった。


ダンジョン(の中にあるボスステージ)。

簡単な言葉で説明するなら、その一言に尽きるだろう。


(地中を探査したことは無かったけど、まさか、本当にこんな場所があるなんて思わなかったわ・・・)


天井までの高さは300m、地表までなら500m程度。

奥行きと幅はレーダーの反射が激しく、正確な距離を計ることは出来なかった。


(ということは、地表に変な罠を作ると、下手をすれば陥没してここまで敵兵が落ちてくるってことになるのかしら・・・)


中々思い通りに事が進まないわね、とワルツは一人頭を抱えるのだった。




しかたがないので、外へと出てきたワルツ。


「ん?随分と早かったんじゃないか。もう終わったのか?」


彼女に最初に反応したのは狩人だ。


「・・・ちょっと、面倒なことになったわ」


ワルツが『面倒』と言う時は、基本的に碌なことがないので眉を顰める狩人、そして仲間達。


「ま、実際に来れば分かることね。カタリナ?移動したいんだけど、転移防止結界って、移動したら魔力が発散してしまうのよね?」


「えぇ。なら、結界を停止させます。停止した状態なら、無駄に魔力が発散されることはないので」


「ふーん。じゃぁお願い」


すると、結界を停止させるカタリナ。


「じゃぁ、みんな?舌を噛むかもしれないから注意してね?」


『うわっ・・・』


ワルツはそこにいた全員を問答無用で浮かべ、そして先程の穴の中へとゆっくりと降下していった。




「・・・ってわけなのよ」


「・・・なるほど、ワルツさんにもわけが分からないってことですね」


「そういうこと」


ワルツは仲間達地底に降ろした後、周りの様子を皆と共に見て回っていた。


なお都市結界は地底に着いた際にカタリナが再起動してあるので、不意にアルタイルから攻撃を受けることはない。

一応は『アルタイル』と名前を言わなければ攻撃を受けることはないのだが、今もなお目を付けられている可能性はあるので、念のための予防的措置である。


「これって、ダンジョンでいいのよね?」


目の前に広がる大空洞と地底湖を指してワルツは言った。


「こういった場所に来るのは初めてですが、ダンジョンの一つとして捉えても問題ないように思います」


と賢者が答える。

隣にいるカタリナも同意見のようだ。


普通のダンジョンと異なる点は、魔物が1匹もいないというところだろうか。

どうやらこの空間に入り込むための入り口が無かったらしい。


「まさかこんな空間がサウスフォートレスの下にあるとは・・・」


『思わなかった』とは言わない狩人。

続け様に、


「どうする?このままだと、罠も作れないんじゃないのか?」


ワルツも考えていた懸念を口にした。


「そうですね・・・ここに大勢の敵が入り込んで、サウスフォートレスの井戸の水質が変化したりしても嫌ですしね」


青く透き通った地底湖が濁る様子を想像して、眉を顰めるワルツ。


ワルツがそんなことを考えながら地底湖を眺めていると、とある者の姿が脳裏を過る。


「あ、そういえば、水竜のこと忘れてた」


「・・・そのような動物もいましたね」


と水竜の胴体を短縮させた本人であるテンポ。


「まさか、ここの地底湖に水竜を移動させるのですか?」


彼女の言葉に、少し考えたものの、ワルツは否定する。


「いや、水竜をここに放ったら、やっぱり排泄物とかで水質が汚染されるから、それはナシね」


「私もそれに賛成ですね。匂いのする井戸水など、飲みたくないですし」


知性ある水竜をまるで、ペットの動物のように考えているワルツとテンポ。


「それによく分からないけど、マスコット化してるんでしょ?もう、下手に町から動かせないんじゃない?」


一応、伯爵との約束では、しばらく経ったらワルツ達が回収するという話だった。


「私も一体どういう状況なのか分からんから、今度、父様と話し合ってくれ」


と狩人。


一応、父親(伯爵)とは手紙での情報交換を行っていたようだが、ワルツたち同様、水竜がどうなっているのか直接見たことが無かったので、なんとも言えなかったようだ。


「ま、それはこの件が方付いたらでいいわね」


というわけで、脱線した話が、罠の設置の話に戻ってくる。


「・・・ここは私達が利用するためだけの空間にして、罠は地表の極薄い部分だけに仕掛ける・・・と言った感じかしら」


「それでいいのではないですか?」


それとも、跡形が無くなるくらい、地面をデコボコにする気ですか?、と言いたげなテンポ。


「うん・・・私としてはウォータースライダーを設置したかったから高低差が欲しかったんだけど、ちょっと計画変更ね」


ワルツは、まるで遊園地を作るかのようなことを口走った。

どうやら、本当に地面をデコボコにする気だったらしい。


ただ、地底湖が存在したお陰で、頓挫したようだが・・・。


「じゃぁ、早速作業を始めましょうか」


予想外(内?)の空洞発見ではあったが、横穴を掘削する手間が省けた、ということで納得することにしたワルツ。


こうして、この大空洞を拠点にサウスフォートレス周辺の土地が改造されていくのである・・・。


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