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5前-15 転移攻撃のパターン

ここまでのメンバー紹介が追加された模様・・・

未だ沈んでいない大きな月と、透き通った夜空の向こう側に浮かぶ星々が、王都の外を歩くワルツ達を控えめに照らしていた。

辺りの草むらでは、夏真っ盛りといった様子で、虫達のオーケストラがBGM(そうおん)を奏でている。

どうやら、環境汚染が無いこの世界では、多種多様な動植物たちが夜でも夏を謳歌しているようだ。


ガーディアンであるワルツは、そんな生き物たちが溢れかえっている世界が嫌いではなかった。

現代世界では、残念なことに生物の多様性が徐々に失われつつあり、例え山奥に行ったとしても、ここまで様々な虫たちの鳴き声を聞くことはできなくなっていたのだ。


(人類の発展の代償に失ったもの、か・・・)


まだ、近代化の進んでいない異世界の真っ只中で、ワルツは自分の存在と世界のアンバランスさに、少し自嘲しながら目を伏せるのだった。




さて、アルタイルの転移攻撃のパターンを調べるべく、誰もいない草原へとやってきたワルツ達。

皆、いつ転移攻撃が飛んできても良いように、ワルツを中心として全員が円陣を組みながら備えていた。


ちなみに、ここは6人でやって来た。

さきほどまで一緒にいた剣士と賢者は、旅支度をするために、一度王城の貴賓室へと戻っている。

また、ホムンクルス3兄弟とテレサも、引き継ぎやスケジュールの最終確認のために、同じく王城に戻っていたのだ。


というわけで、ワルツ、ルシア、カタリナ、狩人、テンポ、ユリアで実験することになったのだ。


「一応、流れを確認しておきたいんだけど・・・」


アルタイルに攻撃を加えられた後どうするのか、である。


「名前を言った後に、王都に逃げこむのではダメなのですか?」


と、カタリナ。

つまり、ピンポンダッシュである。


「いや、それだと単に確認だけで終わっちゃうじゃない?折角なんだし、色々調べてみましょ?」


「例えばどんなことを?」


「そうね・・・名前を言ってから、どのくらいの間、攻撃の対象として見られるかとか、攻撃が飛んでくるまでのタイムラグがどれくらいとか、何時頃なら寝てるとか起きてるとか、どれくらい頻繁に名前を呼ぶと無視されるとか・・・」


「徹底的に攻略する気ですね・・・」


()()()()()のせいで辛酸舐めさせられたんだから、嫌がらせの1つや2つしないと気がすまないのよ!」


『あっ・・・』


ドゴォォォッ!!


『・・・』


「・・・えっと・・・大丈夫ですか?」


飛んできた杭をプルプル震えながら受け止めているワルツに、心配そうな視線を向けながらカタリナが話しかけた。


「・・・ま、名前を呼んだらダメってことは分かったわね」


「流石ワルツだな。考えるよりも前に行動するなんて・・・。普通はできることじゃないぞ?」


(狩人さん。なんか、それはそれで傷つくんですけど・・・)


うっかり『アルタイル』と言ってしまったなどとは言えないワルツ。


「そうだったんだ・・・さすがお姉ちゃん!うっかり言っちゃったのかと思った」


(うぅ・・・みんなの言葉が痛い・・・)


ワルツは、テンポがどんな表情を浮かべているのか大体予想がついていたので、敢えて彼女の方を見ないようにして、次の行動について口を開いた。


「・・・じゃぁ、次は、どれくらいの数が飛んでくるのか調べるために、名前を連呼してみましょう」


「お姉ちゃん。私が言ってみてもいい?」


と、ルシア。


「えぇ、でも気を付けてね?さっきみたいに杭が飛んでくるかもしれないから」


「うん分かった」


悩む素振りも見せずに、即答した。

彼女は、突如として轟音を上げながら飛んでくる杭が怖くないのだろうか。


「じゃぁ行くよ?」


そう言ってルシアは大きく空気を吸い込み、夜空の彼方に向かって叫んだ。


「アルタイルのばーーーーーか!!」


『ばっ・・・!?』


ドゴゴゴゴゴォォォォ!!!


一度に6発飛んできた。

どうやら、バカにされたことに対して、相当腹を立てたらしい。


「じゃぁ、もう1回行くよ?」


「えっ・・・えぇ・・・」


「アルタイルのばーーーーーか!!」


そう、重要な事は2回以上言わなくてはならないのだ(?)。

だが、


シーーーン・・・


何も飛んでこなかった。


「えっと?じゃぁ、短時間で飛ばせる本数は7本ってことでいいのかしら?」


「・・・そういうことになりますね」


カタリナも同意見のようだ。


(なんか、切りの悪い数字ね。後何本か隠し持ってるけど、万が一のために取ってある・・・とか?)


ワルツが杭の本数について考えていると、


「確認のために、もう一回言ってみていい?」


ルシアから声がかかった。

どうやら、随分とすっきりするらしい。


「うん・・・いいけど・・・」


「それじゃぁ、行くよ!!」


そう言うと、ルシアは自分の周りに魔力を集中し始めた。


「ま、まさか・・・」


そして、ワルツの懸念の通りになる。


《アルタイルのばーーーーーか!!(ばーーーーーか(ばーーーーーか(・・・)))》


反射するものが無いというのに、こだまして響くルシアの声。

風魔法に乗って、世界中に拡散していく彼女の声は、恐らくアルタイルの耳にも直接入ることだろう・・・。


すると、


チョロン・・・ポテッ・・・


先ほど飛んできた杭を50分の1くらいにしたサイズの棒切れが、突然現れた・・・。

ただし、全く威力は無かったが。


「・・・えーと、これって杭のなりそこない?」


「・・・恐らくは・・・余程、ルシアちゃんにバカにされたのが悔しかったんでしょうね」


「・・・まぁ、自業自得よね」


さて、この杭からも分かることがある。


「もしも、この杭を()()させたものが転移攻撃の杭だとするなら、大体、2時間くらいで再装填が終わるって考えていいみたいね」


(成長途中で放つことも出来るみたいだけど・・・)


小さな杭を見ながら、考えるワルツ。


(この小さな杭(?)って、どこか苦し紛れな感じがするけど、実際はどうなんでしょうね?演技か・・・それとも、本当に7本しか撃てないのか・・・)


結局ワルツは、皆の安全を考えて、アルタイルはまだ数本杭を隠し持っていると考えることにした。


「大分パターンが分かってきたけど、どのくらいの距離を離れると攻撃の対象から外れるかが分からないのよね・・・それと、目をつけられている時間がどのくらいなのかっていうことも・・・。ま、その確認は今度でもいっか」


「えーと、それを確認せずに、ワルツ様がルシア様を連れてサウスフォートレスまで飛行しても大丈夫なのでしょうか?」


とユリア。


「私が王城から飛んで、直接サウスフォートレスの結界の中に降り立てば、攻撃するチャンスは無いはずよ?」


『アルタイル』と口にした瞬間をアルタイルに認知された瞬間と仮定するなら、認知されてから杭が飛んでくるまでの時間はおよそ6秒。

空を時速数百キロ〜超音速で飛行するワルツを、6秒のタイムラグがある状態で攻撃する事は、誘導する性質を持ったミサイルでもない限り、ほぼ不可能である。

尤も、ワルツに認識された時点で、誘導・無誘導問わず、撃墜されるのだが。


「それならいいのですが・・・」


ユリアは納得していない様子だが、ワルツが大丈夫だというので、渋々引き下がったようだ。


「そういえば、アルタイルの攻撃って、普通の転移魔法とは違うみたいよね」


「え?どの辺がですか?」


「リアが言ってたんだけど、普通の転移魔法って、一度行ったことのある場所じゃないと転移できないんでしょ?なら、何もない空中や、関係者以外入ったことのないはずの王城地下に転移攻撃ができるはず無いじゃない?」


そういう意味では、場所を指定すればどこでも転移させることの出来るルシアの転移魔法(?)に近いと言えるだろう。

現時点でそのことに気づいているのは、ルシアの転移魔法の事情を知っているワルツとカタリナ・・・そしてルシア本人である。

なお、狩人は、魔法について余り知識がないので、気づいていはない。


「そう言われればそうですね。あと、可能性を考えるなら『千里眼』と転移魔法を組み合わせるという方法も考えられます。ただ、両方共希少な能力や魔法なので、実際に組み合わせている確率はすごく小さいですけどね」


とユリア。


彼女の眼は《魅了》の魔眼なのである。

そのことを考えれば、《千里眼》の魔眼があってもおかしくはない。

ただ、『アルタイル』と言う名前に反応しているところを見ると、単に《千里眼》というわけでもないようだが。


「・・・千里眼ね」


自分に搭載されているレーダーのことを考えるワルツ。

もちろん、単なる航空用のXバンドレーダーである。


「ま、とりあえずは、今回のサウスフォートレスの件には大きく関係しなさそうだから、『例の魔王』については名前さえ言わなければ問題ないということにしましょ」


というわけで、アルタイルの攻撃の件は、名前を言わなければ問題はない、ということで一段落の兆しを見せるのだった。


「でもカタリナ?念の為に、都市結界をサウスフォートレスに持って行きたいのだけど、できそう?」


サウスフォートレスの外で作業をする際に、仲間の安全を確保するためには、やはり都市結界を使う事が最適であろう。


「はい。既にテンポに持ってもらっています」


「はい。持ってます」


「さすがね」


「えぇ。ワルツさんの弟子なので」


と胸を張るカタリナ。


(師匠らしいことをした記憶は無いんだけど・・・)


そんなカタリナの様子に、ワルツは内心で頭を抱えるのだった。




その後、王城に戻ってきた6人は工房経由で議長室へと入った。

すると、普段着ではなく、サイズのピッタリ合った甲冑(恐らくオーダーメイド)を着込んだテレサが、議長専用デスクの向こう側から話しかけてきた。


「どうじゃった?なにかアルタイルを罵倒する声が聞こえた気がするのじゃが・・・」


「やっぱり、名前を言ったら拙いみたいよ?結界の中で話す分には大丈夫そうだけど」


「ふむ・・・それは、一般市民も同じなのじゃろうか?」


「勇者たちがアルタイルの名前を知らなかったところをみると、もしかしたら、これまでにアルタイルの名前を口にした人達って皆殺しになっていたのかもね」


「・・・ふむ。そうなると、下手に発言禁止令も出せぬのう」


どこの世界にも、面白がって不用意に発言する者がいるのである。


「まぁ放置していても、今まで問題にならなかったんだから大丈夫じゃない?・・・って、会話の中でアルタイルって出てきたらどうなんだろ・・・そこに()()()()()取って、とか・・・」


「・・・今度試してくれぬか?」


「えぇ、いいわよ。確か、勇者がダジャレ好きだったはずだから、代わりにやってもらうわ」


「・・・程々に、のう?」


と、ワルツとテレサが、アルタイルの話をしていると、


「待たせたな」


「すまん、準備に手間取った」


賢者と剣士も議長室にやってきた。


「さてと、じゃぁ、行きましょうか」


ワルツが皆に向かって告げた。

すると、


「では、皆様〜。お気をつけていってらっしゃいませ〜」


「お土産待ってるぞ?」


「何か美味しい食べ物があったらお願いね?」


居残り組から挨拶と土産の要求が飛んでくる。


「ま、考えとくわ」


こういう場合、間違いなく忘れる自信のあるワルツだった。


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