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5前-12 不如意

あ、そういえば、カタリナの転移防止結界の特性について「4後-16」に書き足したことを報告するのを忘れてました。

ちなみに、どんな特性かというと以下のとおり。


・結界の内側から外へは出れない。

・結界の外側から内側へは入れる。


的な。orz

都市結界の逆の特性といった感じです。


王城直行エレベーターから降りたワルツは、300mほど離れた仲間達のところに、()()()()と足を進めていった。

何故か?

ユリアがエンデルシアの件を皆に話すための時間を稼いでいるためである。

要は、何度も同じことを説明することが面倒だったのだ。


というわけで、ゆっくり歩きながら、目の前の巨大な物体の様子を改めて見ていくワルツ。


(・・・こんな武装、何に使うのかしら)


全幅1200mm、全長40mのレールガンが左右に3門ずつ計6門搭載されたソレを見ながら、ワルツは頭を抱えた。

もちろん、作ったのは彼女自身である。

これなら、落ちてくる隕石も撃ち落とせそうだ。


(それに、何と近接戦闘する気よ・・・)


前後と左右に合計40門搭載された近接戦闘用レーザー発射口に、大工房内のライトが反射していた。

これなら数千の敵も、10秒かからず蒸発させることが出来るに違いない。


(他にも、ショックウェーブジェネレーターに、パルスメーザー砲に、重粒子ブラスター・・・)


この世界にあってはいけないものが、てんこ盛りだった。


(これ、絶対、神様に眼を付けられるわね・・・ま、勇者のものにするつもりだから、別に問題無いと思うけど)


これが全て勇者のもの。


そう、この大量の武装まみれの大きな金属の塊は、勇者達のためにワルツが設計した、航空戦艦である。


内部のフレームは不燃マグネシウム合金製で、外装はニッケル-チタン合金製だ。

シールドといった類の防御システムは搭載していないが、ワルツ特製のナノマシン(目で見えるサイズなのでミリマシン?)による自己修復機能を搭載している。


主機は大気による熱交換式のレーザー核融合炉を3機搭載した。

なお、核融合には重水素が必要なので、燃料は海水である。


推進システムは、超大型電動モーターに接続された軸流式コンプレッサとタービンとの間で、核融合炉で発生した熱を放出するものを6機搭載した。

いわば、核融合炉を用いたジェットエンジンである。

もちろん、外に放射性物質が出るような構造ではないので、環境を汚染する心配はない。

欠点といえば、高効率であるがために、それほど速度が出ないというところだろうか。


そして、その巨体を浮遊させるためには、ワルツに搭載された反重力リアクターとは()()()重力子制御システム用いている。

これは、電力を重力波に変える素子を利用したシステムで、重力波の方向を制御することによってポンプで水を吸い上げるのように船体全体を上方向に吸い寄せ、浮遊するというものだ。

なので、自分自身を浮かせることはできても、ワルツのように他の物体を浮かせることはできない。


全長約200m、全幅約140m、全高約50m。

そんな巨大なものが、王都の地下で建造されていたのだ。

それも2隻。


一方、ワルツ達が乗る予定の航空戦艦については、まだ完成しておらず、フレームしか出来上がっていない。

ワルツは、一応、同型艦にするつもりだったが、性能や機能はまるで異なるものにする予定だった。

そもそも、フレームの材質から異なるのだが・・・まぁそれは、完成した際に語られることだろう。


というわけで、勇者達が乗る戦艦は、細かい艤装を残して、ほぼ完成していた。

ただ、ワルツが懸念している通り、航空戦艦に搭載する都市結界の開発はまだ終わっていないため、このままだとアルタイルの攻撃から逃れることができないということもあって、飛行試験は行われていない。


まぁ、何れにしても、ポータブル都市結界システム自体は、戦艦に搭載するだけでなく、ワルツたちが王都やサウスフォートレスの結界の外で安全に活動するためには必要不可欠なものであるので、開発が急がれるところだった。




一通り戦艦を眺めた頃、ワルツはカタリナたちのところに到着した。

どうやら、ルシアとリア、それに僧侶はここにいないらしい。


「というわけなのよ」


いつも通り、説明を端折るワルツ。


「ユリアに話は聞きました」


「説明しましたっ」


と返すカタリナとユリア。


「・・・すみません、聞いてなかったので、もう一度お姉さまの口から説明してくださいませんか?」


どうやらテンポは、ワルツが説明を面倒がってユリアにさせたことを見抜いたようだ。


「ひ、ひどいです、テンポ様・・・」


テンポの言葉をそのまま真に受けるユリア。


「なら、ユリア。テンポにもう一度聞かせてあげて」


「は、はい!」


「ぐぬぬ・・・」


テンポは説明する気満々のユリアを断りきれなかったようで、2周目の説明を聞く羽目になったようだ。

その際、テンポがワルツに対して殺意を込めた笑みを浮かべていたようだが、ワルツはどこ吹く風である。


さて、


「・・・で、どう?結界システムは?」


ワルツは単刀直入に状況を聞いた。


「まだ、難しいですね。本来、都市結界は動かない物を守るものなので・・・」


「我々も努力しているつもりなんですが、都市結界はメルクリオ神国製なので、内部の情報が全く無いんですよ・・・」


と、カタリナ、そして彼女の横にいた賢者。


メルクリオ神国。

この世界では、神が治める国として名を馳せていた。

すべての国に対して中立的な立場をとり、誰もコピーすることが出来ないオーバーテクノロジーとしか思えないような魔道具を周辺諸国にほぼ無償で提供している国でもあった。


ただ、本当に神が治めているかどうかは、大抵の国が国王のことを神の末裔だと語っているので定かでない。


「ちなみに、どんな問題があるの?」


ワルツの問に、賢者が答える。


「発動した結界をその場所から動かした瞬間に、内部の魔力を発散させて、結界自体を停止してしまうんですよ」


盗難防止のために、加速度センサーでも内蔵しているのだろうか。


原因はさておき、この問題があるために、固定設置以外の用途で都市結界を流用することは難しかったのである。


「うーん、だとすれば、戦艦への搭載は無理かしらね・・・」


とワルツは言うものの、結界がもしも完成していたとしても、今回のサウスフォートレスの件に、各種テストをまだ終えていない戦艦を出すつもりは無かった。


「何とも言えませんね・・・せめて、設計図(ブループリント)があれば何とかなりそうなんですが・・・」


そう言いながら、賢者は近くの机の上に置かれていた王都用都市結界(予備)に眼を向けた。


予備の結界も、王城の上部に設置されているものと同じデザインで、直径50cm程度の透明なガラス球、といった外見だ。

中には、何か形のあるものが入っている、というわけではなく、単に透明な気体が閉じ込められているといった様子である。


ワルツがこれまでに見てきたミッドエデンの技術者が作るガラス細工と比べ、段違い・・・というより異次元のレベルで、透明度と真球度が高かった。

中のガスのことも考えると、この世界の一般的な方法で作られたものではないことは明らかである。


「・・・この際、奪っちゃう?」


メルクリオ神国から設計図を、である。


『えっ・・・』


ワルツのまさかの発言に思わず声を挙げる3人。


「いや、流石にそれは・・・」


と賢者。


だが、


「・・・確かに、それもやむなしかもしれませんね」


カタリナは前向きだった。


「偵察任務ですかー?」


ユリアも否定的ではなさそうだ。

というより、こういう時こそ、彼女の本領発揮ではないだろうか。


「ま、それもエンデルシアの件が無事終わったらだけど、ね」


「・・・そうですね」


斜め下を向いて、全くどうしてこんな時に・・・、といった様子を見せるカタリナ。


「まぁ、設計図を奪うという話はどうかとは思いますが、エンデルシアのことが方付かないと、どうしようもないのは確かですね」


とまるでエンデルシアの事を他人ごとのように言う賢者。

勇者は顔色を変えていたというのに、彼にそういった様子は見られなかった。


「ん?賢者さんって、エンデルシア出身じゃないの?」


「えぇ。私はカタリナやユリアさんと同じ街の出身ですよ」


どうやら、2回目に勇者と邂逅した際に、カタリナのことを気にかけていたのは、これが原因だったようだ。


「ふーん。じゃぁ、他の皆は?って、聞いちゃいけないことかしら・・・」


「いえ、特に問題はないと思いますよ?」


と、カタリナ。

出身地は機密情報ではないらしい。


「勇者とリアは、エンデルシア出身です。ビクトール(剣士)は、ミッドエデンからずっと東に離れた小国の出身って言ってましたね。あとリティアはこの国の出身ですよ」


カタリナの言葉通り、出身地が漏れることを気にした様子もなく、賢者は言った。


「・・・東の小国の名前って、日本とか、Japanとか、ジパングっていう名前じゃないわよね?」


念のため聞いてみるワルツ。


「えーっと・・・なんて言ってたかなぁ・・・」


「ちょっと思い出せないですね・・・」


二人とも日本という言葉に特に反応を見せないところを見ると、やはり関係のない国なのだろう。


(でも、面白そうだから、今度聞いてみようかしら)


ロングソードを操る極東出身の剣士・・・未だ知らぬ剣術を学ぶためにここまでやってきたのだろうか?


ところで、である。


「あれ?そういえばルシアは?」


カタリナ達と一緒に作業をしているはずだが、姿はなかった。


「えっと、早めにお寿司を買いに行ったようです。最近は随分と混むみたいですよ?」


「ふーん。寿司屋も繁盛してるみたいね」


ワルツ達がルシアの話をしていると・・・


「ただいまー」


ルシアが両手に手提げ袋を持って返ってきた。


「よく飽きないわね・・・毎日・・・」


ふとワルツの脳裏を、カップラーメンの開発者の逸話が(よぎ)る。


「うん!でも本当は、朝ごはんと晩ごはんもお寿司にしたいんだけど・・・」


そう言って彼女はワルツを上目遣いで見てきた。


「・・・ダメよ?ルシア。ちゃんと野菜やお肉も取らなきゃ。炭水化物だけじゃ太っちゃうわよ?」


なお、本音は、3食全て稲荷寿司とかやめて・・・、である。


「う、うん。残念だけど、太るのは嫌だから我慢する・・・」


そう言いながらも買ってきた稲荷寿司を机の上に展開し始めるルシア。

もちろん、食事に参加する全員分の用意だ。

・・・つまり全員、毎日昼食は稲荷寿司ということである。


ルシアが食事の準備(?)をしている間、ワルツは行方の知らない他2人のことについても聞いてみた。


「あと、リアと僧侶ちゃんは?」


「えっと、勇者様達に用事があるとかで、ワルツさんがここに来る少し前に出て行きましたが・・・」


「・・・」


その言葉を聞いた瞬間、ワルツは何となく嫌な予感を覚えた。


(まさか、80万人を殺されたくなければどうにかしろって言ったことを真に受けて帰ったわけじゃないわよね・・・?)


「・・・ちょっと探してくるわ」


「えっと・・・はい」


もうすぐ食事の時間だというのに工房を離れようとするワルツに対して、何かを感じ取ったカタリナは眉を(ひそ)めるのだった。




「さてと・・・どこにいったのかしら?」


意気揚々と王城へ戻ってきたワルツだったが、彼女たちを探す宛がない事に気づいて、考え込んでいた。


こういう時に生体反応センサーを使えればよかったのだが、以前勇者に付けたマーカーは既に色々な人々と重なって、増殖していた。

ざっと2000人といったところだろうか。


(一人ひとり虱潰しに当たってくしか無いのかしら・・・)


面倒ね・・・と考えるワルツ。

尤も、彼女の不安が当たっていた場合は、完全に骨折り損になる可能性があるのだが。


と、彼女が食堂前で考え込んでいると、剣士がやってきた。


「ワルツ殿!」


(殿、ね。これで一人称が拙者なら、サムライ決定なんだけど・・・)


と、剣士が帯刀しているロングソードを見ながら思うワルツ。


それはさておき、剣士の取り乱した様子を見る限り、ワルツの予感はどうやら当たっているようだ。

なので、剣士が喋り出す前に、ワルツは言った。


「・・・勇者とリアと僧侶ちゃんが3人だけでエンデルシアに帰った、とか?」


「えっ・・・どうしてそれを・・・」


「はぁ・・・」


ワルツは深い溜息を吐くのだった。


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