5前-06 演説と葬儀
そして、演説、兼葬儀が始まった。
ドーーーーン・・・
ドーーーーン・・・
ドーーーーン・・・
・・・
連続しておよそ20回、大砲が発射されたような大きな音が轟く。
どうやら、修練場にあった大砲を使って、狩人と剣士が空砲を発砲したらしい。
空気を割って鳴り響いたその音は、王都の隅々まで届いたことだろう。
そして全ての空砲を打ち終わった頃、テレサの演説は始まった。
『妾はミッドエデン王国第四王女、テレサ=H=アップフォールじゃ。王都の民よ。どうか妾の声に耳を傾けてくれないじゃろうか』
そんな声がワルツの耳にも届いてきた。
彼女の声を聞く限り、普通に喋ることにしたようだ。
それはそうと、ワルツが食堂までやってきたところで、彼女は眉間に皺を寄せていた。
食堂の入り口に飾ってあったはずの花が全て無くなっていたからである。
尤も、皆忙しく、花を手向ける者がワルツくらいしか居なかったので、あまり影響は無かったのだが・・・。
テンポの仕業ね、と当たりをつけつつも、ワルツは食堂の中に足を進め、自分の仕事をすべく所定の位置についた。
彼女が立っている場所は地下から脱出する際に通った穴のあった場所だ。
真上の天井にも穴が開いており、夕暮れの空がのぞいている。
ワルツが移動しているその間も、演説は続いていた。
『我が父、ハルバート=W=アップルフォール、そして我が母のルーテシア王妃は、先日、魔王との戦いの末に崩御した』
(うん、嘘ではないわね。まさか、実験台になって亡くなったとか言えないし・・・)
その後も、宰相などの大臣の名前を上げていくテレサ。
そして、
『我が国の危機を救ってくれたのは・・・・・・勇者レオナルド』
勇者の名を告げるまでに、妙な間があった。
(・・・まぁ、私は救ったというよりも、国を滅茶苦茶にした方だけどね)
テレサはその後も、リアや剣士、賢者、僧侶の紹介を行っていった。
『じゃが、妾達の国はまだ、窮地から脱したわけではない!国王達を失った今こそ、妾たちは立ち上がらなければならないのじゃ!』
テレサの演説にも力が入り始める。
それとは逆に、ワルツは不安になってきた。
(えっと、テンポは空気を読んで火葬して欲しいって行ってたけど、いつやればいいの?・・・もしかしてタイミングを見失った?)
今のテレサの演説の空気を読みながら、まだ大丈夫よね?、と自分に言い聞かせるワルツ。
そしてテレサの演説が核心部分へと至る。
『臨時的に国政を仕える者を王都民の中から若干名募集する。要項と選出方法については後日知らせるので、それに従って欲しいのじゃ』
選挙を行うのはワルツ達だけでは流石に無理だった。
というより、選挙をするつもりはそもそも無かったのである。
いずれにしても、一日や二日で準備が出来るものではなかったので、後日公示(?)ということにしたのだ。
テレサの演説は続き、最後の部分になった・・・。
『妾からの話は以上じゃ』
「ちょっ・・・えっ?完全にタイミングを逃した!?」
ワルツの口から、思わず声が出る。
そして、額からは(仮想的な)冷や汗が噴き出てきた。
だが、もちろん、タイミングを逃したわけではなく、
『今日は献花台を王城の前に設けたのじゃ。王都民よ。願わくば国王や王妃、そして亡くなった者たちへの冥福を妾たちと共に捧げてはくれぬじゃろうか』
テレサのセリフはまだ続いていた。
どうやら、カタリナと賢者が献花台を準備して、食堂前に飾っていた花を移動させ、リアが転移魔法で堀を飛び越えて設置してきたようだ。
「このタイミングねっ!」
そしてワルツも自分の仕事を遂行し始めた。
ワルツの火葬。
それは、質量-エネルギー変換の応用だった。
質量をエネルギーに変換した場合、その大半は熱エネルギーへと代わり、一部はガンマ線などの放射線や光、電波などに変わる。
これを人が浴びると危険なので、ワルツは普段、重力制御で周りに飛び散らないように隔壁を作って、宇宙へと放出しているのである。
いや、正しくは、宇宙へと放出しているのではなく、空に向かって放出していると言うべきか。
光の代わりに放射線が出る懐中電灯があるとすれば、それを空に向けて光らせているのと同じである。
だが、今回は、空へと放出しているという点では同じだが、その方法が異なっていた。
放出されるエネルギーをただ放出するのではなく、出口を絞ることで加速して放出したのである。
すると、高密度で放出されたアルファー線やベータ線などが空気の分子に衝突した瞬間、分子がプラズマ化し、発光する。
所謂オーロラと同じ現象だ。
その上、放出する方向を細かく制御することで、できるだけ同じ方向へと飛んでいかないようにしたのだ。
すると、どうなるのか。
見た目は、地上からランダムの方向に打ち上がっていく流れ星、といった様子だ。
見方によっては、魂が空へと還って行くようにも見えるかもしれない。
つまり、ワルツは、地面に埋まっている人々を、落下した岩盤ごと光の粒子へと変換したのだ。
(これを夜半までやるのよね・・・燃料が足りないと思うんだけど・・・)
この場合の燃料は、ワルツの体内にある燃料、ではない方のことである。
今はブースト状態ではなく、通常状態で少しずつ質量-エネルギー変換を行っているので、ワルツ内のエネルギーがガス欠になる心配は無かった。
(余計に地面を削れってことなんでしょうね・・・この際だから、ジオフロントを作っちゃおうかしら・・・って、それだと流石にガス欠を起すわね)
ワルツがそんなことを考えていると、そこにユリアが現れた。
「ワルツ様?テンポ様からの伝言です。『グッドタイミング、お姉さま』とのことです」
「そう。良かったわ。タイミングを見失ったかと思ったから」
「いえ、外から見ていましたが大丈夫でしたよ。それにしても幻想的な光ですね・・・」
「あ、この光に近づきすぎると死ぬから注意してね」
「・・・ひぃぃぃ!!」
ユリアが全力で後退する。
「あ、ユリア?一つ頼める?」
「・・・は、はひぃ。な、なんでしょう?」
離れた場所から受け答えをするユリア。
「何か食べ物を持ってきてくれない?それもあるだけ大量に」
「えっと・・・何かするんですか?」
「そうね・・・工房作り?」
工房を作るのに食事を要求するワルツ。
そして、それを訝しむユリア。
ユリアはワルツのブーストブースト状態に、大量の食料が必要になることを知らないのである。
「えっと・・・わ、分かりました。すぐにお持ちします」
そう言ってユリアは一度、食堂から出て行った。
そして、5分ほど経ってから戻ってくる。
両手で大きな盆を持っており、その上には厨房から持ってきたであろう保存食などが載っていた。
「ありがとうユリア。それじゃぁ、本気を出そうかしら」
「えっと、テンポ様がほどほどにと・・・」
「え?見た目がほどほどなら、別に全力を出してもいいんでしょ?分からないけど」
既に、彼女に細かいことを考えるつもりはない。
「ユリア?危険だから、食堂から出て行ってもらえる?」
ワルツの重力制御で生成した障壁を超えてエネルギーが漏れ出る恐れがあった。
つまり、このまま食堂にいると、死ぬと言う意味である。
「は、はひぃ・・・!」
ユリアは気が抜ける声とともに、全力で食堂の外へと逃げ出していった。
(それじゃぁいくわよー!!)
こうして、ワルツによるジオフロント作りが始まったのだった。
ちなみに、外から見ると・・・
「うぉっ!?何だあれ!」
「王城から光が吹き出してる?!」
「一体、どれだけの人達が死んだんだ・・・」
「この世の終わりじゃぁ・・・」
皆が混乱したのは言うまでもない。
それでも、目立った事件が起こらなかったのは、ワルツが出来るだけ目立たないように作業したからか、あるいはテレサが自分の役割を上手く全うしたからか。
というわけで、王都の地下には人知れず、巨大な空間が出来上がるのだった。
惑星の軌道が変わるって?さぁ?