5前-05 確認
広場にあった鉱石の山の内、半分ほどを精錬した辺りで、リアに限界が来た。
やはり、ルシアのようにはいかないようだ。
ちなみに、何故ルシアに頼まないのかというと、まぁ、ワルツなりにリアのことを考えた結果、とだけ言っておこう。
それにルシアには、これから大きな(拡声器という)仕事が待っているのである。
仮設工房を作るよりも、まずはそちらを優先したほうがいいだろう。
というわけで、夕方になった。
日が沈むまではあと1時間半といったところだろうか。
テレサは既に、王城の中にある、町が一望できる見晴らしの良いテラスに陣取って、演説に向けた調整を行っていた。
「わ・・・わたしは・・・ミッドエデン王国第四王女のテレサ=H=アップルフォール・・・です。・・・うぅ・・・ダメじゃ・・・普通に喋れぬ・・・」
嘗て、ワルツたちと初めて出会った頃のような吃り口調で演説の練習をするテレサ。
どうやら、テレサとしては、普通の喋り方で演説をしたかったらしい。
国民の前で話すことを考えるなら、当然だろうか。
そんな彼女を見てワルツは言った。
「・・・いや、普通に喋ればいいと思うわよ?」
「う、うむ・・・」
「何なら、この国中の一人称を『妾』にするような法律でも作っちゃえばいいんじゃない?」
「それは無理じゃろ・・・」
そう言って、笑みを浮かべつつも肩を落とすテレサ。
「ま、変に気を負って硬くなるくらいなら、いつも通りに話したほうがいいわよ」
本来なら、十分な練習の時間をとって、演説に臨みたいところだった。
だが、ゆっくり時間をかければ掛けるほど、ワルツたちの知らないところで国は傾いていくのである。
それに、王都の人々は、未だ町が魔王に占領されていると思っているはずなので、急いで情報を周知する必要があったのだ。
こういう状況下なら、多少(?)の口調の乱れ程度なら問題にはならないだろう。
「実はのう?」
テレサが口を開く。
「妾にとって初めての演説なのじゃ・・・」
「そりゃ、その歳で演説に慣れてる娘がいたら、びっくりよ」
「隣国の女王は妾よりも年下じゃが、よう喋っておるのう」
「・・・うん、それはびっくりね」
恐らくは、まだ小さい内に、テレサと同じような大変な惨事に見舞われたのだろう。
「あ、そうだ。テレサに許可を貰いたかったことがあったの」
ワルツは思い出したかのように、言った。
「何じゃ?」
「・・・地下の埋もれた人達なんだけど・・・私が火葬していい?」
「・・・?」
何故ワルツが火葬するのか、と疑問を浮かべるテレサ。
だが、
「まぁ、ワルツ殿なら、無下にはしないじゃろうから、任せるのじゃ」
ワルツが何かを用意してくれている、と思ったようだ。
「うん、ありがとう」
ワルツはテレサに礼を告げてから、これ以上練習の邪魔をしても拙いと思い、その場を後にした。
そして、隣の部屋にいたルシアとテンポのところにやってくる。
「テンポ?セリフの方は大丈夫?」
「えぇ。というより、テレサ様が殆ど考えてくださったので、私の役目はほとんどありませんでしたね」
「で、シナリオの方は?」
「問題は、火葬をどうするか・・・でしょうか。恐らく、お姉さまかルシア様が何かやるのだと思っていましたが?」
「私?」
「ルシアは今回、拡声担当だから火葬には参加しないわよ。火葬は私がやるわ」
「・・・そうですか。程々にお願いします」
「?お姉ちゃん、火魔法を使うの?」
ルシアはワルツが火を使って攻撃したところを見たことがなかったので、不思議に思ったようだ。
「もちろん出来ないから、私なりの方法でやるわよ」
「ふーん・・・」
レーザーで焼くのかな、などと思っているのかもしれない。
「では、タイミングはどう致しましょう?」
「・・・もう、大々的に燃やすっていう前提なのね?」
「違うのですか?」
「いや・・・その通りだけど・・・」
「では、タイミングが分かるように話の内容をこちらで調整しておきますので、演説の内容を聞きながら、空気を読んで燃やして頂けますか?」
「・・・私が空気を読めないの知ってて言ってる?」
「大丈夫です。それほど、逸脱しているわけではないと思いますので」
というわけで、ワルツは、空気を読みながら火葬することになった。
空気が読めなかった場合、どうなるのだろうか・・・。
ところで、である。
「あれ?狩人さんとか勇者たちは?」
テレサのところにも、テンポのところにも、3人の姿は無かった。
「・・・恐らくは鍛錬場ではないでしょうか」
(あまりにやることがないから、お互い鍛えてるってことかしら?)
王城から出るための橋が全て落ちている上、彼らの仕事が生まれるのは主に演説をした後なので、暇なのだろう。
ルシアも同じだったのか、
「・・・演説終わったら、お寿司屋さん開店してくれるかな・・・?」
窓から見える王都を見ながら呟いた。
「・・・そうね。王都が正常に戻ったら、皆で探しに行きましょう」
「うん!」
既に、入町を管理している者もいないのだ。
ワルツ達が王都の中で大手を振って歩いていても、捕まることはないだろう。
こうして、ワルツがテンポとスケジュールについて話し合っていると、遂に、その時間が訪れた。
王城に居た全員が、テレサのいる部屋に集まって、最後ミーティングを行う。
「それじゃぁ、始めましょ?指揮はテンポがお願い」
「かしこまりました。それでは皆様、手筈通りに」
『はい!』
ワルツを除いた全員がテンポの言葉に切れの良い返事を返す。
(えっ?手筈?いつの間に話し合ったの?)
とはいえ、ワルツも手筈と言われて理解できないわけではない。
彼女の仕事は、タイミングよく火葬することなのだから。
狩人、勇者、剣士からも返事が飛んでいたところを見ると、鍛錬場で鍛えていたわけではないようだ。
「ではルシア嬢。よろしく頼むのじゃ」
「うん、よろしくねテレサちゃん」
「リティア。俺達も行くぞ」
「は、はい。勇者様!」
こうして4人はテラスの方へ向かっていった。
どうやら、人事の異動があったようだ。
「じゃぁ、俺達は、鍛錬場だな!」
「あぁ、最初の合図は任せてくれ!」
などと、ワルツには分からないことを言った後に、剣士と狩人は鍛錬場に向かった。
「では、私達も行きましょう」
「あぁ。リア。手伝ってくれるな?」
「えぇ、もちろん」
ワルツとずっと居たはずのリアにも、役割があるようだ。
カタリナ、賢者、リアも何処かへと行ってしまった。
こうして、残ったのは、テンポとユリア、そしてワルツの3人になった。
「ユリアは何するの?」
「えっと、伝令ですね」
空を飛べるユリアが、城中に散らばった仲間達の伝令を行う。
「なるほどね。で、テンポがプロデューサー兼ディレクターで、皆に指示を与えるってわけね」
「そうです」
「じゃぁ、私も持ち場に付くわ」
「あ、それで1点お願いがございます」
食堂に向かおうとしたワルツをテンポが呼び止める。
「何?」
「火葬ですが、出来れば日付が変わるくらいまでの間、長く燃やすことは可能ですか?」
「んー、まぁ、できるけど・・・」
「では、お願いします」
ワルツがその理由を聞く前に、テンポはユリアの方を振り返って行ってしまった。
(なんか・・・私なんかよりもリーダーに向いてるんじゃないかしら・・・)
どこか疎外感と劣等感(?)を感じるワルツだった。