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5前-03 花

精錬が終わった後、ワルツは処理が終わった金属を空中に浮かべたまま、魔法使い共に王城の中を歩いていた。


なぜ、金属を城の中まで持ってきたのか。

精錬した金属の中には、野ざらしにしておくと錆びやすいものもあったので、どこか城内に置き場所はないかと思い持って入ってきたのだ。 

とはいえ、どこに置いておくべきか、まだ決めてはおらず、今現在、置き場所として最適な場所を探している最中だった。


そんな折、ワルツ達が食堂の近くまで来ると、そこには、テレサとユリアが2人で何かを話している姿が眼に入ってきた。

そう、ワルツはユリアに対して、テレサが何か手伝いたいと言ったら食堂まで来るように、と言っておいたのだ。


どうやらテレサは無事に起きてこれたらしい。

二人とも笑顔で話し合っているところを見ると、ワルツが思っていたよりも持ち直しているのだろう。


(ずっと塞ぎ込んでいたらどうしようと思ったけど・・・この分なら大丈夫そうね)


ワルツは心の中で呟いた。

そして2人に声をかける。


「テレサ?もう起きていても大丈夫なの?」


「うむ。心配をかけたのう」


ワルツが見る限り、テレサに無理をしている様子はない。


「さて、それじゃぁ・・・」


ワルツはそう言いながら、空中に浮かべていた金属を、王城の廊下の床へと下ろした。

この分だと、食堂前の廊下が、精錬済みの金属置き場になりそうだ。


「ってこれ、とんでもない量の金じゃないですか!」


ユリアが反応する。


「まだ沢山あるわよ?・・・何に使うか分からないけど・・・」


この分だと、電気回路の材料だろうか。


「ま、それは置いておいて、ここにいるメンバーだけでちょっと気分転換に行かない?」


『えっ・・・』


この大事なときに、この人は何を言っているんだろう、と言わんばかりの仲間達。


「じゃぁ、リア。転移魔法をお願いしたいんだけど・・・」


ワルツの言葉に、今まで考えていたことを全てリセットして反応する魔法使い。


「えっ・・・名前で呼んでくれるんですか」


「・・・魔法使」


「名前で呼んで下さい!」


まるで、先輩に告白する女学生(?)のような口調である。

そんな2人のやりとりと、魔法使いの変わり様に唖然とする他2名。


(そういえば、リアとユリアって名前が似てるわね・・・)


そう思うのは日本人だけである。

ちなみに、スペルだと、リアがRiaで、ユリアがJuliaだ。


「じゃぁ、リア。どこか花が沢山咲いている場所に転移してもらえる?」


「あっ・・・はい」


その言葉に、3人はワルツの意図を察した。


「・・・ありがとう、なのじゃ」


そう呟いたテレサの頭に、ワルツは手をおいて、無言で撫でたのだった。




リアが転移した先は、どこか高原のような場所だった。

空は晴れ渡っていて、雲がだいぶ近い。

標高2000mといったところだろうか。


時折流れてくる風は、王都のものよりも随分と冷たく、だが寒いというほどでもなかった。


そして、ワルツ達の眼に飛び込んできたのは、色とりどりの花々だ。


「わぁ・・・」


ユリアが花を踏まないよう、翼をはばたかせて飛んで行く。


その光景を見た魔法使いは、


「・・・人って・・・飛べるんですね・・・」


思わず呟いた。


「うん、無理よ。普通は」


ワルツが即答する。


「ユリア!ちょっと来て?」


「はーい」


ワルツの呼びかけに応じてユリアが飛んでくる。


「貴女、今、人のカッコでしょ?ちょっと元の姿に戻ってくれる?リアが混乱してるから」


「あ、はい」


すると、サキュバスの姿に戻るユリア。


「さ、サキュバス・・・」


彼女を見て後ずさるリア。


「・・・大丈夫よ?ちょっとした事故とか不運とかが重なって酷い目に遭った後、紆余曲折あって私達の仲間になったから」


「なんか、むちゃくちゃ言われてる気が・・・」


その言い方では、何も説明していないことと同じではないだろうか。


「ま、細かいことは気にしないの。それよりも、気分転換よ!・・・っていっても、みんな?やることは分かってるわね?」


『はいっ!』


すると、皆、思い思いに花を摘み始めた。


ワルツもそれに加わって花を摘む。


「へぇ・・・ここにもブロワリアが咲いてるのね・・・」


ワルツはそう言いながら、紫色の花を一輪摘んで、指先で(もてあそ)ぶ。


「その花がどうしたのじゃ?」


「私の誕生花。ふるさとの世界(家の庭)にも咲いてたんだけど、ここにも咲いていて意外に思ったのよ」


その言葉を聞いたリアが、ん?、といったような反応を見せていたが、すぐに作業(お花摘み)に戻る。

どうやら、ワルツの言葉に、何か気になることがあったようだ。


「ほう?ちなみに誕生日はいつなのじゃ?」


「ふふっ。秘密」


というより、この世界の日付と元の世界の日付を一致させることが出来ないので、いつが誕生日に当たるのか答えられなかったのである。


「ぐはっ・・・」


そんなワルツの返答に、ダメージを受けるテレサ。

どうやら、また、良からぬことを考えていたようだ。


「・・・はぁ・・・その様子なら大丈夫みたいね」


「うむ。心配をかけたのう。妾はワルツや皆が共にいてくれるだけで、今は嬉しいのじゃ」


「・・・そう」


ワルツは、いつか来るだろう別れの日を想像しながらも、テレサに笑顔を返すのだった。




その後、2時間ほど掛けてゆっくりと花を摘んだ一行は、両手と空中に沢山の花を持って、王城へと戻ってきた。


(いったい、どういった状況の時にアルタイルは攻撃してくるのかしら・・・)


ワルツは、一緒に戻ってきた3人と一緒に、食堂に向かって歩きながら、アルタイルが攻撃してくる条件について考えていた。


朝に出かけた火山でも、花を摘みに行った際も、アルタイルは攻撃をしてこなかった。

残念ながら、今の状況では、材料不足で確たることは何も言えないだろう。

・・・実は、暇な時に、思いついたように攻撃してくるのかもしれない。


ワルツがアルタイルのことを考えながら歩いていると、いつのまにか食堂の扉の前に着いていた。


「ちょっと、聞き難いことなんだけど、この世界の葬儀ってどうやるの?土葬?それとも火葬?」


「基本的には火葬ですね。放っておくと、アンデッドになって黄泉帰りするので・・・」


リアが答える。


(そういえば、前に、狩人さんか、カタリナが言ってたわね)


死体と土地の魔力が反応して、死者たちがアンデッドに変わるのである。

王城の地下からアンデッドが湧き出すという状況は、ワルツとしても避けたいところだった。


「そう・・・ならテレサ?火葬してあげるってことでいい?」


「・・・よいのか?そこまでしてくれて」


「えぇ。本当は埋もれている人達を一人づつ掘り起こして、丁寧に埋葬してあげたいの。だけど・・・」


首が無くなっていて誰が誰だか分からない死体を、ゆっくりと一人ひとり埋葬する時間は無かったのだ。


「・・・うむ、分かっておる。妾はその気遣いだけで嬉しいのじゃ」


「・・・ごめんね」


笑みを浮かべて自分のことを見上げてくるテレサに、ワルツは自然と謝罪の言葉をつぶやいていた。


「あの・・・テレサ様?」


ユリアが遠慮気味にテレサに問いかける。


「私も、一緒に弔ってもよろしいでしょうか・・・?」


彼女のその言葉に、テレサは一切の曇もなく、微笑を浮かべて言った。


「もちろんじゃ。むしろ、一緒に弔ってくれなかったら恨んでやるのじゃ」


冗談気味に言う。


「は、はひぃ・・・」


どうやら、テレサとユリアの間の関係が悪くなっている、ということは無さそうだ。


そんな二人のやりとりを見ながらワルツは言った。


「なら、葬儀を行いましょう」


「うむ。よろしくなのじゃ」


こうして、仲間内だけだが、犠牲になった者達を弔う葬儀が行われることになった。


この後、ワルツ達は、採取してきた花々を廊下においてあった大きな壺(?)に飾って、食堂の入り口に置いておいた。

この花々は、火葬(葬儀)の際に亡くなった者達に対して手向けられることだろう。


ところで、ワルツには気がかりな事があった。


(・・・国王が亡くなったんだから、国葬とかするのよね・・・死体もないのにどうするのかしら・・・)


まぁ、今回の火葬に限ってはアンデッドになる前に火葬が必要だったので仕方がないとはいえ、まさか、国民を差し置いて、ワルツたちだけで内々に葬儀を終わらせる、というわけにもいかないだろう。

順当に行くなら、王都に貴族たちが集まってきてから、執り行われるのではないだろうか。


(ま、勇者に全部投げればいっか)


結局、面倒なことは全て勇者任せである。 




というわけで、葬儀の件を皆と話し合う事になった。


昼食のために、皆が集まったところでワルツは切り出す。


「・・・ってわけなのよ」


「何も説明してないですよ?お姉さま」


「要するに、火葬をすることになったのよ」


多少情報が増えただけだったが、


「そうだな・・・亡くなった人々をそのまま放置して、国王のアンデッドとか現れても困るしな・・・その場合はリッチになるのか・・・?」


と狩人はワルツの言葉を理解したようだ。

他の仲間達も、大体把握したようである。


「それで、急いだほうがいいと思うから、今晩とかどう?」


「まぁ、俺達だけでやるならそれでいいかもしれないが・・・」


「国葬が必要になるんじゃない?って話でしょ?それは、後日、貴族たちが集まってからで十分だと思うのよ」


「・・・まぁ、それもそうか」


納得する勇者。

そんな彼に対して、


「じゃ、後は勇者が頑張ってね」


そう言ってキラッ・・・とウィンクを飛ばすワルツ。


「・・・もしかして、俺に全部投げるつもりか?」


「よく解ってるじゃない」


「ちょ・・・なんでお前がやらないんだよ?」


「どこの馬の骨とも分からない私が国葬に関与できるわけがないでしょ?」


「・・・」


ワルツに言いくるめられる勇者。


「ま、影から応援してるから、頑張んなさい」


「なんか、うまく利用されてるだけな気がしてきた・・・」


(さすが勇者ね。ちゃんと理解してるみたい)


ワルツは、生暖かい視線を勇者に送るのだった。


ところで、一方・・・。


ワルツと勇者が仲良さそうに言い合いをしている姿を側から見ていた剣士と賢者は、気が気でなかった。

何故なら、リア(魔法使い)がニコニコとしながら、そんなワルツと勇者のやりとりを眺めていたからである。


本来なら、彼女の幼なじみである勇者が異性と話しているだけで、謎の黒いオーラが身体から染み出してくるほど嫉妬するというのに、今日は何故かその真逆だったのだ。


これから突如として発狂するか、あるいは天変地異が起こる前触れなのか・・・。

剣士と賢者はそのように感じているのではないだろうか。


2人がそんな時限爆弾のような彼女を(いぶか)しんでいると


「あ、そうだ。レオ(勇者)?」


遂にリアが口を開いた。

そんな彼女にビクリと反応する剣士と賢者。


「ん?どうしたリア?」


勇者は特に気づいていないのか、いつも通りの反応である。


そしてリアは、笑みを浮かべながら言った。


「あのね、私・・・ワルツさんのところに弟子入りすることにしたから」


『・・・えっ?!』


その場に居た半数の者達が驚きの声を上げる。

もちろん、剣士、賢者もその中に入っていた。

勇者も、予想外の展開に、ようやく彼女の異常を察したらしい。

まぁ、僧侶の少女は、一人だけ状況が掴めないのか、ポカーンとしていたようだったが。


「そうですか・・・なら、私が先輩ということになりますね」


カタリナの反応である。

彼女はそれほど驚いているわけではないようだ。


「はい。よろしくおねがいしますね、先輩!」


リアとカタリナの仲が悪いことを知っている勇者、剣士、賢者の3人からすると、この2人の会話は、この上なく恐ろしいやり取りをしているように聞こえていることだろう。


だが、


「お互い、切磋琢磨して強くなりましょう」


カタリナは何事もないかのように答えた。


「はい。よろしくおねがいします」


「こちらこそ、よろしくね。リア」


良きライバルの誕生・・・だろうか。


「どうして・・・こうなった・・・?」


勇者は呟く。


「さぁ?強くなりたかったんじゃないの?」


二人の関係がよく分からないワルツは、適当な感じに答えた。


「あ、一応言っておきますけど、勇者パーティーを抜けるつもりはないから、安心してね?ワルツさんとの約束でもあるし」


『お、おう・・・』


リアのあまりの変わりように、固まる3人。


一方で、


「ぐぬぬぬ・・・これが恋敵(ライバル)じゃな・・・!?」


テレサは戦々恐々としていた。


「・・・私も先輩?」


ルシアは7歳上の姉弟子に対して、どう接しようか考えていた。


「えっと・・・もしかして、弟子じゃないのって、私だけですか?」


「私も弟子じゃないぞ?友だがな」


「私も弟子ではありません。妹ですが」


なおユリアは、今でも雑用係である。


こうして、リアの弟子入りが、現弟子たちに周知されることになったのだった。


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