表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
145/3387

5前-02 憑き物?

「さてさて、魔法使いちゃん?」


「・・・なんでちゃん付けなんですか?」


「じゃぁ、魔法使いさん?」


「・・・どちらでもいいです」


「・・・じゃぁ『さん』で」


「えっ・・・」


ならどうして・・・、といった顔でワルツを見返す魔法使い。

理由はいつも通り、特に無い。

彼女の気分である。


「さてと。私たちは鉱物の採取に出かけるわよ?もちろん、工房を作るための、ね」


「鉱物・・・ですか?」


「鉄、シリコン、ゲルマニウム、ヒ素、リン、錫、亜鉛。それに、クロム、ニッケル、マグネシウム、アルミニウム、チタン。そして、オリハルコン・・・とか」


「・・・鉄とオリハルコン以外、分からなかったんですけど」


「ま、そういう物質があるのよ。それを採取(とり)に行くわけ」


つまり、普段、ルシアとやっていることを魔法使いと共にやるわけである。


「というわけで、魔法使いさんには、これを進呈します。あ、貸すだけだからね」


そういっていつもの旧バングルを貸与するワルツ。


「・・・これは?」


「えっと・・・まぁ、お楽しみってことで」


「はぁ・・・」


「それじゃ、早速だけど、ここから南西に400km程度離れた位置にある火山に転移してもらえる?」


「・・・あの、一度行ったことのある場所じゃないと転移できないんですけど」


「え?ルシアは大まかな位置を指定すると、どこでも転移できたけど・・・」


サウスフォートレスから王都まで、ルシアが仲間達を転移させた際のことを思い出すワルツ。


「・・・なんですか、その便利な魔法は?」


「・・・もしかして、ルシアの魔法って、転移魔法じゃない?」


「いや、私に聞かれても・・・」


「うーん・・・そうよね」


他の魔法使いと関わりを持ったことがなかったので、ルシアの魔法が普通だと思っていたワルツ。

ただし、魔法の性質のことであって、強さのことではない。


「ま、いいわ。じゃぁ、知ってる火山でいいから飛んでくれる?」


ワルツは、結界魔法についてカタリナに教えてもらった際、嘗て、勇者たちと火山に行ったことがあるという話を聞いていた。


「おそらく、火竜の巣のことですね。分かりました」


すると、杖を横に持ち、目を瞑って、何か詠唱を始める魔法使い。


「・・・行きます!」


・・・そしてワルツ達は王都から遠く離れた火山へと旅立った。




「・・・凄いわね、転移魔法。実は初めてなのよ」


というのも、パーティーで唯一転移魔法(?)を使えるルシアが自身を転移できないため、これまで、ワルツが彼女に付き合って一緒に空を飛んで移動してきたためである。

その上、ワルツ自身が重力制御を使った『空間跳躍もどき』な移動手段を持っていることも、今まで転移したことがなかった理由としてあげられるだろう。


さて、ワルツが気づいた時には火山にいた。

それも洞窟の内部である。


至るところからマグマのような液体が流れ出ていて、川や滝のようなものを形成していた。


(自然に出来たものにしては、随分と()()()な流れ方をしてるわね・・・それに火山性ガスも検出されないし、もしかすると魔法に関係する何か、なのかもしれないわね)


ワルツは周囲の状況を注意深く観察して、結論を出した。

つまり、訳が分からない、ということだ。


(町の外だからアルタイルからの攻撃にも備えないとね)


どういう方法かは分からないが、アルタイルはこちらの様子を監視しているらしく、必要に応じて攻撃を加えてくるようだったので、念のため警戒するワルツ。

ただ、転移で杭が飛んで来るシチュエーションは、大抵がアルタイルの関係者と接触した直後なので、何らかの制約があるだろうとワルツは考えているのだが。


「さてと、鉱物を探しましょうか」


「えぇ、ですが・・・」


ゴゴゴゴゴ・・・


地鳴りが辺りを包み込む。


「・・・火竜の巣って言ってたわね?」


「はい。ここは安全地帯ですが、この洞窟の部屋から一歩でも外に足を踏み出せば、そこは生きるか死ぬかの世界です。気をつけて下さい」


「そう・・・なら、問題ないわね」


「・・・えーと、私の話、聞いてました?」


「ま、付いてくれば分かるわよ」


そう言って、ワルツは外へと歩き出した。


すると、


ゴォォォォォン!


という鳴き声(?)のような音が聞こえてくる。


「あ、処理する前に聞いておきたいんだけど、火竜って知性はあるの?」


ワルツの後ろから付いてくる魔法使いに問いかける。


「随分と長い年月を生きた火竜であれば、喋ることもあるらしいですが、私は見たことが無いですね」


「そう・・・ならいいわね」


すると、生体反応センサーを參考に、半径200m以内にいる巨大な生体、合計6匹に対して、荷電粒子砲をお見舞いする。

もちろん、壁や岩盤などは障害物になりえない。


チュィィィィィン・・・


・・・


鳴き声が聞こえなくなった。

さらに地鳴りも止まる。


「はい、邪魔者は形付けたわよ。さてと、採掘しますか」


「・・・」


ワルツのあまりの理不尽さに絶句する魔法使い。


「で、土魔法とか使える?」


「は、はい。穴を掘ればいいんですか?」


「そうよ。場所は・・・」


そう言ってワルツは辺りの鉱脈を探査した。

すると・・・


「んな!・・・すごい・・・」


あまりの非常識さに、ワルツは驚く。

何に対してか?


「金だらけ・・・」


そう、周囲は金鉱脈だらけだったのである。


「金ですか?そうですね、このダンジョン(火山)は金が発見されることで有名ですから。まぁ、火竜がいるので、そう簡単には掘り出すことはできないですけどね・・・普通は」


すると、斜め右下の方を向いて自嘲する魔法使い。


「うーん、腕がなるわね。じゃぁ、この方向、斜め20度くらいに200mほど、穴を掘ってくれる?」


「に、200m?!無理ですよ」


「え?ルシアだったら、村の下に大空洞を作るのだって簡単にやってたけど・・・」


「・・・それ、ルシアちゃんが異常なんだと思います」


そう言ってから魔法使いは地面に手をやって、土魔法を行使した。

すると、


「う、嘘っ・・・」


絶句する魔法使い。


「あー・・・さすがに掘りすぎね」


200m程度で良かったのに、500mは掘ってあるだろう。

もちろん、バングルの効果である。

幸いなことに、採掘しようとしている方向にはマグマが存在しないので、突然噴き出してくるということはなかった。


「ま、初めてバングルを使った時はこんなものよね」


そう言って、ワルツは絶句している魔法使いを置いて、穴の中へと入っていった。


しばらくすると、魔法使いも穴の中へ入ってくる。

その頃、ワルツは、


ドガガガガガ!!!


と言う音を立てながら、多量の金鉱脈と鉄鉱脈、ついでに少量の銀鉱脈を掘削していた。

見た目は素手で、である。

まぁ、実際には機動装甲の腕を利用しているのだが。


しかし、魔法使いにはその原理が分からないため、重機張りのワルツの掘削作業を見て、再び固まっていた。

どうやら、これまでに積み重ねてきた自分の価値観が、大幅に崩れて、強制的に書き変わっていっているらしい。


そんな魔法使いを放置して、さらに30分ほど掘削すると、10t以上の金や鉄、それに銀、クロム、ニッケルなどを含む鉱石が大量に採掘できた。

ワルツがこの火山に来て最初に見た溶岩は魔法に関係するもののようだったが、採掘できる鉱物は普通の火山のソレと大差はないようだ。

まぁ、硫黄は無かったが。


「さてと。帰りましょうか」


「・・・え?」


「だって、とりあえずは必要な分が揃ったわけだし」


短時間で大量の鉱物の採掘が終わったことは驚くべき点ではある。

だが、魔法使いが驚愕した点はそこではなく、放心していて気づくと採掘が終わっていたことに驚いたようだ。


「それで、この鉱石を王城の広場まで送ってほしいんだけど・・・できる?」


「いや・・・えっと・・・いっぺんには・・・っ・・・いえ、出来るかもしれません」


まだ状況をつかめていないのか、しどろもどろな魔法使い。

その上、バングルがどれほどの効果を持っているのか測りかねているようだ。


「大丈夫よ。ダメだったら、また来ればいいんだから」


「・・・はい。やってみます」


すると魔法使いは、鉱石とワルツを視界に捉えて、再び転移魔法を行使した。


結局、ワルツ達が火山にいる間、アルタイルからの攻撃は無かった。

四六時中監視しているわけではないのか、何か条件があるのか・・・。

諦めた、ということだけはないだろう。




「・・・うん、やれば出来るじゃん」


王城の広場に戻ってきたワルツは、山のように積まれた鉱石を見て、魔法使いに笑みを送った。


「・・・はい。ありがとうございます」


そう言って、顔を赤らめる魔法使い。


「礼を言うのはこっちよ」


ワルツも、一度にほぼすべての鉱物を転移できるとは思っていなかった。

だが、それを実現してしまうところは、流石勇者パーティーの一員なのだろうか。


というわけで、


「次は精錬ね」


「精錬・・・ですか?」


「物は試しよ。私が空中に鉱石を浮かべるから、そこに向かって火魔法を掛けてみて」


すると、ルシアと一緒に精錬を行う時のように、空中に鉱石を浮かべるワルツ。


「・・・行きます!」


すると、魔法使いは杖で何かを宙に書いた後、火魔法を行使した。

・・・所謂、火球である。

ただ、バングルで強化されているためなのか、随分と大きな火球だった。

それが、浮かんでいる鉱石に向かって飛んでいき・・・そのまま吸い込まれた。


本来なら、鉱物の周囲を無酸素状態にするために、重力制御で斥力を発生させている。

そのまま何もしなければ、恐らく、魔法使いの放った火球は、重力制御で作られた障壁に阻まれて、弾かれてしまったことだろう。

だが今回は、ワルツが魔法の特性を予想して、火球が鉱石に衝突する時だけ、一部の重力制御を弱めたのである。


ちなみに、ルシアが火魔法を行使する場合は、対象物体が直に加熱されるため、こうした工夫は必要ない。

言うなれば、魔法使いの火魔法はガスコンロのようなもの。

そして、ルシアの火魔法は電子レンジのようなもの、といったところだろうか。


火球が鉱石にあたった後、一応鉱石が赤熱し始めるのだが・・・


「うーん、まだ足りないわね。もっと撃ちこんでもらえる?」


「は、はい!」


すると、一度に5個の火球を作り出し、鉱石に向かって撃ちこむ魔法使い。

採掘に出かける前は、ブスッとした表情の彼女だったが、今ではイキイキと火魔法を行使していた。


「もういいわよ〜」


全部で20発投入した辺りで、ワルツからストップがかかる。


「はぁはぁ・・・」


魔法使いは息が切れているようだったが、随分と憑き物が取れたような顔をしていた。


「それで、これをこうして・・・」


ワルツは、いつも通り、重力制御で金属の分離を行った。

そして成分別に小分けにする。


「で、完成〜。魔法使いさん?余裕があったらでいいんだけど、水魔法か氷魔法をこれにかけてもらえる?」


「はいっ!」


すると、空中に大きな水の塊を作り出す魔法使い。

そして、成分の分離を終えた金属目掛けて放った。


ジュワァァァ!!


重力制御の圏内に取り込まれた水が、溶けた金属に触れた瞬間一瞬で蒸発する。


蒸気が発生しなくなるまで冷却したところで、


「私達が火山で採掘してきた鉱物はこれよ?」


そう言ってワルツは、魔法使いからよく見えるように、空中に浮かべてあった金属を地面に下ろした。


そこには、光り輝く金や銀、それに黒光りする鉄やニッケル、クロムと言った金属が並んでいた。


「まだ熱いから、触っちゃダメよ?」


「うわぁー・・・これを私達が・・・」


まるで無垢な少女のように眼を輝かせる魔法使い。


(・・・キャラ変わってない?)


勇者パーティーでは、余程刺激のない生活を送っていたのか・・・。

もしかすると、戦うことと日常生活以外で魔法を使ったことが無かったのかもしれない。


「ま、そういうことね」


ワルツも魔法使いに向かって笑みを送った。


すると、そんなワルツを見た後に、難しい顔をして俯く魔法使い。

そして、上げた顔には鋭い視線が宿っていた。


「ワルツさん!私を弟子にして下さい!」


(・・・またこの展開?いや、予想は付いてたけど・・・)


「えっと・・・勇者パーティーは?」


「抜けます!」


即答した。


ワルツは少し考えた後に口を開く。


「あのね、魔法使いさん。流石に、今の勇者パーティーから貴女が抜けるようなことになったら、みんな困ると思うの。だから、勇者パーティーを抜けると言うなら、弟子には出来ないわ」


すると、ワルツの言葉に、俯いて泣き出しそうな顔をする魔法使い。


そんな彼女に、


「でも、しばらくは一緒に行動するんだし・・・それに貴女は転移魔法で移動できるんだから・・・まぁ、勇者たちに時間があるときに師事を請うっていう程度なら、別に構わないわよ?」


とワルツは声を掛けた。


「はいっ!」


泣きそうな顔から一転して、満面の笑みを浮かべる魔法使い。


(でも・・・何を教えればいいのかしら・・・)


弟子ができる度に、悩むワルツだった。


あれ・・・どっかで電子レンジネタを書いたような気がしたんだけどな・・・

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ