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4後-17 行く末

王都全体が水のベールのようなもので包まれた後、結界は完全に透明化して見えなくなった。

これまでの都市(サウスフォートレスしか行ったことはない)でも同様だが、結界は不可視なのである。

だが、何かが広がっていたことは間違いないので、無事に展開されたようだ。

これで一先(ひとま)ずは転移による攻撃を受けずに済むのではないだろうか。


「カタリナ?この結界ってどれくらい保つの?」


「えっと、ちょっと待って下さい」


すると、カタリナは球体に手を触れて、眼を瞑る。

何らかの魔力的な情報を、球体との間でやりとりしているらしい。


「3日・・・ですね。ルシアちゃんが膨大な魔力の持ち主だったので簡単に充填は済みましたが、本当は10人ほどの魔法使いが2時間ほどかけて行うようです」


つまり、3日後までにその担当を用意できない場合は、再びルシアが結界に対して魔力を注がなくてはならないということである。


「勇者パーティーの魔法使いさんにでも頼んでみようかしら・・・」


「えっ・・・私じゃダメなの?」


「うん。出来れば王都のことは王都の人達でどうにかして欲しいかな。ルシアは自由な時間が無くなって、魔法の練習をしに外に出られなくなっちゃうけど、それでもいいの?」


ルシアが都市結界の維持担当になってしまうと、後々、行動を制限されないとも言い切れない。


「・・・魔法使いさんにお任せします」


どうやら、ルシアなりに察したようである。


だが、混乱の中にあった王都からまともな能力を持った魔法使いを10人も集められるわけがなく、結局暫くの間、ルシアが魔力を注ぐことになるのだった。


そう、勇者パーティーの魔法使いとは、根本的に魔力量が違うのである。




というわけで、会議室に戻ってきたワルツ達。

するとワルツは部屋に入るなり、使えそうな椅子と机を残して、瓦礫を全て窓から外へと放り出した。


ドゴゴゴゴゴ・・・


窓から王城前の広場に落下していく瓦礫の山。

すると30秒も経たない内に、部屋の中が綺麗になった。


「さて勇者。そこに座りなさい」


突然の命令口調である。


「・・・な、なんだよ急に」


そんなワルツに怯える勇者。

そして、逆らうことなく、用意された椅子に腰掛けた。


「みんなも席について。これから会議を行うわ」


「会議?」


疑問を口にしながらも席についたのは狩人である。

他、ルシア、カタリナ、テンポ、ユリアも席につく。


「さてと、勇者?色々と聞きたいことはあるんだけど、単刀直入に聞くわね」


「・・・」


ワルツ達は長机を挟んで座ったのだが、何故か勇者側には一人も座らずに、全員がワルツ側に座った。

圧迫面接・・・だろうか。

そんな少女たちの行動に、勇者は怒られる少年、といった様子だった。


「もっと強くなりたい?・・・いえ、異世界ならこう言うべきかしら・・・」


ワルツは言い換えた。


「力がーーーーーー欲しいか?」


『ー』の部分は長音符である。

つまり、『がー』と伸ばしたのだ。

どうしてそうなったのかは、彼女に色々と間違った知識を教えた兄に問いただすべきだろう。


『?』


皆、ワルツの発言に戸惑っていた。

それを彼女も、何かおかしいわね?、と異変を感じ取ったのか、


「・・・要は強くなりたいか、なりたくないのか聞いてるのよ!」


と、無理やり誤魔化す。


「・・・それはもちろん、強くなりたいが・・・」


そう簡単に強く成れるなら誰も苦労しないだろう、と言いたげな勇者。


「なら、私達に協力しなさい」


と、勇者に迫るワルツ。


昨日までの勇者なら、額に青筋を立てて、即決で拒否していたことだろう。

だが、今日一日で、ワルツの仲間達の強さや、彼女自身の異常さが分かり始めていたので、直ぐには答えられなかったようだ。


「何を協力するんだ?それによっては考えなくもない」


勇者なりの妥協である。

どうやら、ワルツの前では()敢な()で無くなるらしい。


「そうねぇ・・・本当は同意してくれたら教えるつもりだったけど・・・」


まるで、今なら特別大サービス!と言わんばかりだが、ワルツにそういった意味合いで言ったつもりはなかったので、素直に内容を言う。


「2隻、航空戦艦を作ろうと思うの」


『はぁ?』


ワルツの言葉に、ほぼ全員から声が上がった。


「だって、ずっと私がみんなを連れて、アルタイルの情報を集めるために飛び回るわけにはいかないでしょ?」


この場合の飛び回るとは、本当の意味で、飛んで回る、と言う意味だ。

それはそうと、ワルツの頭の中は、既にアルタイルの情報を集める方向で話が進んでいるらしい。


「それで、航空戦艦を作ろうと思ったのよ。あ、2隻っていうのが肝ね。1隻は勇者たちが自由に使えばいいわ。で、もう1隻は私達が使うって感じね。そうすれば、空を飛んでいても『あ、勇者だ』程度にしか思われないと思うし・・・」


「そういうことですか」


テンポは理解したようだ。


「それで、工房も戦艦に移そうと思うの。出来れば都市結界も搭載してね」


アルタイルをどうにかしないとアルクの村に帰れないかもしれない、ということを考えると、工房自体を安全な場所(?)に移すことは至上命題だった。

都市結界を航空戦艦に載せることが出来れば、アルタイルの攻撃に気を揉むことなく、工房を使ったワルツ自身の修復や、アルタイルに関する情報収集が可能になるのだ。


そして、


「あと、私自身、必要だし・・・」


ボソッとワルツが呟く。

だが、それに気づいた者はいなかった。


「で、どうなの?」


ワルツが勇者に答えを催促する。


「航空戦艦・・・」


そう呟いた勇者の眼は輝いていた。


だが、


「・・・本当に作れるのか?」


至極当然の疑問である。


「そうね・・・簡単ではないけど、不可能でもないってところね。全ては勇者、貴方達の協力に掛かっていると言っても過言ではないわ」


勇者の隣に一瞬で移動して、ガシッ、っと彼の肩に手をやるワルツ。


そんな彼女に、勇者は驚いた表情も見せず、半眼で溜息をついた後、口を開いた。


「・・・仲間が起きて相談してからでもいいか?」


「えぇ、構わないわよ」


「すまない」


そんな勇者の様子に、ワルツは内心でほくそ笑んだ。

どうやら、勇者の籠絡には成功したらしい。


そう、全ては、余計な面倒事を回避するための策略なのである。





さて、戦艦を作るにしても、旅をするにしても、解決しなければならない大きな問題があった。


「で、話は変わるんだけど・・・この王都・・・いえ、この国をどうしようかしら・・・」


既に、国を収めていた国王やその取り巻きはこの世に居ない。

このまま、何もせずにワルツ達が去って行ったら、この国は混迷の度を深めることにだろう。


開いてしまった政治の大きな穴を、どうやって塞げばいいのか。


今現在、この国を管理する立場にある者を挙げるとすれば、地方に点在する都市を管理している貴族や、今も戦場で戦っているだろう騎士達位なものであろう。

だが、戦いで忙しい彼らが、直ちに王都へ戻ってきて政務を執ることは些か難しいのではないだろうか。


中でも忘れてはならないのが、第4王女のテレサの存在だ。

恐らく彼女は、王族の唯一の生き残りである。

もしもそうだとすると、彼女は現在、この国の王座に最も近い人間ということになるだろう。

だが、その身分を証明してくれる者が、既にこの世にいない可能性はあった。

言い換えるなら、王位継承という言葉自体が意味をなさない、ということである。


そもそも、テレサは自分の意志でワルツ達と行動を共にしているのだ。

国が傾いたから、テレサにその尻拭いをさせるというのは、少々酷なものがあるだろう。


つまり、考えようによっては、王位を継ぐことも、拒否して別の道を歩むことも、選ぶことが出来るというわけである。


というわけで話を戻す。


「どうするって・・・地方に散らばってる貴族たちを集めなきゃならないんじゃないか?」


「そうだな・・・だが、この国は今、対外的に不安定な時期にある。そんな状態で貴族たちを集めたりなんかしたら、戦線が崩壊するんじゃないか?」


勇者の疑問に、狩人が指摘し、疑問で返した。


「そうねぇ・・・じゃぁ、まさかの議会制を導入してみる?」


「議会制?」


疑問を口にするカタリナ。


「えっと、ある一定の人数の議員を王都の一般市民(?)から集めて、その人達が国の行く末を話し合いで決める、って感じ?」


「はあ・・・」


よく分からなかったようだ。


「要は、王様の代わりを国民から選んで、一定期間、国の(まつりごと)を代行させるのよ」


「あ、そういうことですか」


いずれにしても端折りすぎて分かりにくい説明だったが、カタリナは理解したらしい。


「でも、お姉さま」


テンポが割り込む。


「革命には国民の間で十分な下地の共有が必要になりますよ?」


つまり、国民の間で現政権に対しての不満が蔓延していたり、誰かカリスマ性を持った指導者が国民を率いる必要がある、ということだ。


「っていうか、革命じゃ・・・いや革命・・・?」


倒すべき政府は既に無いが、執政の形が変わると言う意味では革命なのだろうか。


「でも私、こういう知識無いから、本当のことを言うとやりたくないんだよね・・・」


「ですが、国の中枢が無くなっている以上、どうにかして国を安定させなくてはならないのも事実ですよ?」


「うん。そうなんだけど・・・もっと簡単な方法は無いかしら・・・」


ワルツは、勇者に全て放り投げられれば楽なのに、と考えていた。

だが同時に、国がこんな状態になったのは自分のせいであり、責任を負わなくてはならないとも考えていたのである。


(全くもって、面倒この上ないわね・・・)


ワルツが楽な方法は無いか考えていた時、ふと思いついたことがあった。


「箱庭・・・とか?」


「箱庭?」


「えっと、表向きは国王がいたり、議会があったりするんだけど、実は背後に隠れてる者が全てをコントロールしてる、的な?」


「独裁政治と変わらないのでは?」


「普通は、ね。だけど、現代の知識を持った管理者が、背後でそれとなく皆を操作するんだったら、よっぽど下手に政治を行うよりも豊かな国になると思わない?」


と、現代世界の知識を持っているテンポに同意を求めるワルツ。


「で、国のトップに、テレサを据える・・・っていうのもいいんだけど、多分、本人は嫌がるでしょうね」


空中に持ち上げて寝かせているテレサを見て、ワルツは行った。


「というわけで、新しい『国制御用AI』を作って、それに国を管理させる、っていうのはどう?」


AIという言葉に反応できない者が半数ほどいたが、何となく理解したようだ。

ワルツパーティーではない勇者には、彼女が何を言っているのか分からなかったようだが。


「テンポ・・・のようなものですか?」


カタリナが呟く。


「まぁ、テンポみたいに、人の身体を持っている必要はないと思うけど・・・機動装甲を作るわけにもいかないしね」


AIに就かせる立場を考えると、暗殺の可能性があるので、できるだけ堅牢な身体を与えたほうがいいのではないか、とワルツは思ったようだ。

まぁ、カタリナと協力して作る場合、人の細胞を利用してプラットフォーム(ホムンクルス)を作るため、否が応でも人型の身体になってしまうのだが。


「お姉ちゃんみたいな人が、王様をやるの?」


ルシアが呟く。

その言葉に何故か、納得したように頷く仲間達。

どうやら、ワルツが王様をやればいいと思っているようだ。

もちろん、彼女にその気はない、というよりも、任されそうになったら全力で逃げ出すことだろう。


そんなことになったら嫌よね、などと思いながら、ワルツはルシアの質問に答えた。


「そうよ?きっと、この国からヘルチェリーを絶滅させてくれるわ」


・・・余程、嫌いらしい。

ワルツの言葉に、苦笑いを浮かべる仲間達。

もちろん、勇者には何がなんだか分からない様子だった。


「で、他に異論がある人?」


だが、異論が出るわけもなく、結果、ワルツの案でいくことになった。


こうして、この国の未来は、独裁政治(?)という暗黒の歴史を辿ることになるのである(?)。


・・・実は4章は2章なんじゃないか疑惑が・・・

で、1〜3章が1章、的な?

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