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1.1-12 村6

――狩りは終わった。

獲物は大量だ。

すると当然、この後に残っているのは、想像するのも嫌になるほどの量の血抜き作業、ということになるのだが……。

しかし、その処理に手を焼く心配は無さそうである。

――何しろ、その場一帯は、地獄にあるという赤い液体の溜まった池のように、赤黒い液体で染め上げられていたのだから……。


そんな、眼を覆いたくなるような光景を前に、ワルツは首を傾げて考えていた。

ただし、機械である自分が、地獄に落ちる可能性を、ではない。


「(やっば……どう考えても狩りすぎよね……)」


確保した大量の獲物たちを、どうやって保存するか、ということもそうだが……。

これを村へと持って帰っていった時に、問題にならないか、と悩んでいたのだ。


これほどまでの大量の獲物を、一度に村へと持ち帰ったなら、一体ならどうなるのか……。

獲物を見た村人たちから飛んで来るだろう言葉は、おそらくこうである。


――どうやって狩ったのか、と。


「(力を利用されても嫌よね……)」


自分たちが力を持っていることを知られたなら、それを利用されるかもしれない……。

ワルツはそんな懸念に頭を悩ませていたのだ。


結果、彼女は、とある選択をすることにしたようである。


「(……うん。後は狩人さんと店主さんに頼もっ!)」


……ようするに。

彼女は、雇用主(?)である酒場の店主と、共に狩りを行った狩人に、面倒なことはすべて押し付けてしまおう、と考えたのだ。


そして彼女は、それを行動に移すために、隣りにいた狩人に対し、話しかけた。


「あのー、狩人さん?今回のことなんですけど……皆さんには黙っててもらえますか?」


その問いかけに対し――


「…………」ぽかーん


固まっている様子で、反応を見せなかった狩人。

どうやら彼女の意識は、ここではないどこか別の世界へと旅立ったまま、未だ戻ってきていなかったようである。

それほどまでに、目の前で繰り広げられていた光景が、ショックだったらしい。


「もう……狩人さんったら……。早く自分の世界から戻ってきてください。話があるんですって……」ゆさゆさ


と、口にしながら、狩人を掴んで揺するワルツ。


ちなみに。

その場にはルシアもいたが……。

彼女は、目の前に広がる凄惨な光景を見ても、気持ち悪がっている様子は見せていなかった。

そればかりか、ワルツに混じって、狩人をのことを揺すっていたようだ。


とはいえ、もちろん、慣れている、というわけでもなく……。

魔法を使った直後こそ、ルシアも眉を顰めていた。

しかし、いつまでも、気持ち悪がっているわけにも行かず……。

ワルツからの自立を考えて、受け入れなくてはならないことだ、と割り切ることにしたようである。


それから間もなくして――


「はっ?!な、何なんだ?あれは……!」


まるで時間を止めていた動画が動き出すように、狩人が復活した。


そんな彼女に対し、ワルツは改めてこう口にする。


「ですから、あれは私たちの魔法のようなものです。で、話を戻しますが……あまり私たちの力を大勢の人たちに知られたくないので、この獲物の山は、できれば、皆で頑張って捕まえた結果、ってことにしてもらえませんか?」


「まぁ、ワルツがあまりおおやけにしてほしくない、って言うなら黙っていよう。ワケアリだ、って話も聞いてるからな。しかし、その力……勿体ないな。騎士団に入ればいいのに……」


「ごめんなさい。ちょっとそれだけは本当に……嫌です」


と真顔で答えるワルツ。

彼女としては、自分の力を利用されるのも、時間を大きく束縛されるのも、御免被(ごめんこうむ)りたかったらしい。

何しろ、彼女には、これからやらなければならないことが、もうすでに山ほど積み上がっているのだから……。


「そうか……。まぁ、無理強(むりじ)いはしないさ。さて……これ、どうする?」


ワルツが嫌がっているのを察したのか、話題を変えて、山積みの肉塊へと眼を向ける狩人。


そこには3人だけで運べないほどの大量の獲物が置いてあったわけだが……。

そんな獲物を持って、ここから村まで2キロメートル程度の距離を、どうやって移動すれば良いのか、狩人にも見当が付かなかったようだ。


「そうですね……。少しずつ運ぶしかないのでは?」


「流石に手で運ぶのは無理があるだろ……。馬車もないし……仕方ない。誰かに手伝ってもらって、荷車でも引っ張ってくるか……。どうせ、村長とか、暇を持て余してるだろうし……」


そう言ってその場を去ろうとする狩人。


と、そんな時。

獲物の山をしげしげと眺めていたルシアが、おもむろに口を開いた。


「ねぇ、狩人さん?この獲物って、どこに運ぶの?」


と、獲物の山に向かって指を差しながら、狩人へと問いかけるルシア。


それに対し、狩人は、その足を止めて返答した。


「村の倉庫だ。酒場の隣に……青い屋根の建物があったのは覚えてるか?」


「うん。結構遠いね?」


「あぁ。だから荷車を取ってくる。ちょっと待っててくれ」


そして狩人は今度こそ、そこから立ち去ろうとするのだが……。


「えっとー……狩人さん?」ブゥン


ルシアが再び彼女の事を呼び止めると――


「もう送っちゃいました」


そんな、良く分からない言葉を口にした。


その途端――


「「…………えっ?」」


唖然として固まる狩人と、そしてワルツ。

なぜなら、彼女たちの前から――肉の山が消えていたからだ。

それもこつぜん、と。


「ま、まさか、私がちょっと背を向けている間に、ドラゴンが肉を……?!」ちらっちらっ


「いや、無いですって……」


と、狩人の豊かな想像力(?)を前に、ワルツが思わず頭を抱えていると……。

ルシアが、何が起ったのかについて、その種を明かした。


「実は私……転移魔法が使えるんです!」


「「えっ……?!」」


「でも、下手くそだから……自分が転移することは出来ないんですけどね?」


「(それ……本当に下手って言うのかしら?)」


「すごいじゃないか!ルシア!転移魔法が使える人間なんて、そうそういないぞ?」


「えっと……そうかなぁ……?」ぽっ


と、狩人に褒められたためか、顔を赤くして、モジモジと自身の指を絡ませるルシア。


対して、ワルツの方は、あまり大げさな反応を見せてはいなかったものの……。

その内心では――


「(転移魔法が何時でもどこでも使えるって言うなら……色々出来るんじゃない?あんなことやこんなことが、さ?でもまぁ、自分が転移できないっていうのは、考えものだけど……)」


と、早速、その力を利用して、何が出来るかを考えていたようだ。


どうやら、彼女の場合、自分たちの力が誰かに利用されるのは嫌だが、自分がルシアの力を利用することについては、また別の話だったようである。



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