4後-11 全力?
結局、昼前だというのに、メンバー全員が揃ってしまった。
普段通りなら、ここで昼食、という流れになる所だが・・・
「中の人達が無事か気になるから、このまますぐに突入ね」
「うむ、すまぬ」
テレサの心情や、王都内部の人達の安全を考えると、当然のことだろうだろう。
「じゃぁ、そちらの剣士さんも起きたようだし、行きましょうか」
先ほど意識を戻した剣士も、今では僧侶の少女の回復魔法を受けて、立ち上がっていた。
ただ、記憶に混乱が見られるようで、どうして自分が気を失っていたか思い出せないらしい。
(高重力で脳細胞が・・・残念ね・・・)
ワルツは人知れず、剣士に向かって哀れみの眼を向けるのだった。
・・・もちろん、ワルツなりの冗談である。
「おい、待て」
勇者から声が掛かる。
「策も無しに突入して大丈夫なのか?」
「策って?」
「・・・例えば、そこの結界が掛かった正門をどうするかとかだ」
幻術に掛かっている勇者たちの眼には、未だに、正門が健在であるかのように映っていることだろう。
「あぁ・・・門なら、真ん中に大きな穴が開いてるわよ?」
すると、ワルツは門の方へ歩いて行って・・・そのまま中に入った。
「扉をすり抜けた!?」
驚く剣士。
「そう・・・やっぱり私達、幻術に掛かってるみたいね」
今まで半信半疑だったのだろう。
魔法使いはワルツが扉をすり抜けたことを見て、自身が幻術に掛かっていることを確信したようだ。
ちなみに、騙そうと思えば、ワルツのホログラムを駆使して、本物の壁があるところをあたかもすり抜けたように見せることもできる。
もちろん、今回は騙しているわけではない。
一度王都に入ったワルツは同じ入口から皆の元へと戻った。
「ね?策なんて要らないわよ。というか、中で何が起こってるか分からないのに、策なんて練りようが無いじゃない」
「いや・・・だがしかし・・・何かあった時、仲間の命を保証できん」
ワルツはベガの言葉を思い出す。
(あぁ・・・だから、魔王と戦おうとしないのね。悪いとは言わないけど・・・)
つまり、安全第一過ぎて、冒険できていないのだろう。
その割には、ワルツ達に2度も戦いを挑んで来ていたのだが・・・1度目は見た目に騙されて、2度目は飛行艇を撃墜された怒りからだろうか。
そう考えると、ワルツから共闘の申し出があったときに、潔く同意した彼らの懐は相当に深いのかもしれない。
「ま、その辺の安全管理は任せるわ。なんだったら、私達が前衛で、貴方達が後衛でもいいのよ?」
「うぐっ・・・それは・・・」
見た目は普通の少女たちを前衛にする。
もちろん、勇者は彼女達がどれほどの実力を持っているのか薄々理解している。
だが、勇者である彼にとって、それは耐え難いことだったのだ。
「いや、俺達が前に行こう。だから、後ろは頼んだ」
「まぁ、いいわ。まぁ、私達も全員が後衛役というわけじゃないから、狩人さんと私も前衛を努めましょう。で、テンポが殿ね」
「あぁ、分かった」
「殿ですか・・・暇ですね」
「暇って・・・」
剣士はいつも殿を務めさせられているのか、テンポの言葉に唖然としていた。
勇者パーティーでは、毎回、酷い目に遭っているのだろう。
「それで、そっちの人選は?」
「こちらは俺とビクトールが前衛で、あとは後衛だな」
つまり、前衛が4人、後衛(中衛)が7人、殿(後衛)が1人という比較的大きなパーティーになったわけである。
一体、何を倒しに行くというのだろうか。
本来なら、バラバラに分かれて幻術の原因を探った方が効率はいいのだが、勇者が安全を第一に考えている以上、そう簡単にメンバーを割くことはできないだろう。
「ま、魔王はもういないんだし、気楽にやりましょう」
こうして、ワルツ-勇者の統合パーティーは王都へと突入した。
・・・のだが、いきなり躓く。
「これ、どうやって入るんだ?」
ワルツが先に正門に開いた穴から入り、後ろから勇者がついてこようとして・・・入れなかった。
ワルツからすると、勇者が見事なパントマイムをしているように見える。
「幻術が掛かってると、現実に壁はなくても、そちらが優先されてしまうのね」
ワルツは扉の向こう側に戻った。
「じゃぁ、こうしましょ」
そう言って、荷電粒子砲を使って正門ごと破壊する・・・が、
「・・・おい、破れてないぞ?」
「えっ?」
ワルツの視点(現実)からは既に正門自体、跡形もなくなっている。
「えっと、みんなもそう?」
自分の仲間達に聞いてみた。
「見た目には変化ないな・・・」
「・・・テンポは?」
「既に門の形は留めていません」
といって、ワルツと同じように門から入って出てくるテンポ。
「昨日、王都に入るときは、ちゃんと門は壊れたし、出てくるときも問題なかったはずなのに・・・もしかして、幻術の効果が変質してる?」
幻術が効く者に対して、物理的な耐性が強化されている可能性はあった。
「・・・考えたくないけど、私達への対策・・・じゃないわよね?」
「可能性としては決して低くないのでは?」
テンポも肯定する。
(うわぁ・・・これ、面倒・・・)
つまり、何者かに目をつけられた可能性がある、ということだ。
「で、どうするんだ?」
「どうする・・・ね。じゃぁ、もう、ダメ元ね!」
ワルツはルシアに目をやった。
「え?いいの?」
「えぇ。でも、水平に撃っちゃダメよ?王都が無くなるから斜め30度位でお願い」
「強さは?」
「・・・最強で」
「うん!」
すると、テンポがそっと旧バングルをルシアに渡す。
「初めての全力〜♪」
「あ、皆?ルシアより前に行かないでね?あと、カタリナ?全員に結界をお願いできる?一応、私もダメージコントロールをするつもりだけど、足りなかったら困るし」
「分かりました」
すると、周りのもの全てに対魔法結界を張るカタリナ。
「・・・」
「・・・これが今のカタリナの力・・・」
魔法使いと賢者は、嘗ての仲間の力を見て驚嘆しているようだ。
「じゃぁルシア。お願い」
すると、一人正門前に残ったルシアが手を前に向ける。
フィーン・・・
そんな音が辺り一面から聞こえ始めた。
嘗てルシアが魔力粒子ビームを打ち出した時のように、ルシアの掌に光の粒が集まってきたのだが、その集まり方が尋常ではなかった。
光の粒は、ワルツや仲間達、そして勇者たちの身体を何もないかのようにすり抜け、ルシアに向かって流星が殺到するかの如く、集っていく。
最初は手のひらサイズだったそれは、ルシアが力を貯めれば溜めるほど大きく成長し、今ではルシアよりも大きな蒼い光の玉となっていた。
そして、光の玉から、ドライアイスから出る煙のような蒼い何かが漏れ始める。
すると、ルシアは言った。
「うーん、まだいけるんだけど、やっぱり漏れだしちゃうみたい。お姉ちゃん?どうする?」
つまり、重力制御で補助してほしい、と言う意味だ。
「いや、それで十分よ?じゃないと、とんでも無いことになるわ」
嘗てバングルを作った時のように、赤くなるまで圧縮する必要はないのである。
「うん・・・分かった!」
まだ全力じゃないと言いたいのか、すこし残念そうなルシア。
「じゃぁ、いくよ!」
そして、現状でルシアが持てる力の全てを注入した塊がルシアの手を離れた。
・・・速度はそれほど早くない。
100km/h程度と高速道路を走る車くらいの速度だ。
放物線を描かないところを見ると、何らかの力によって推進しているのだろう。
それが幻術で出来た王都の正門を何の抵抗もなくすり抜けていく。
「えっと、どうなの?」
「・・・穴が開きましたね」
カタリナがどこか歯切れ悪く答えた。
突破口は開けたようだが・・・
「・・・思ったよりも威力が小さい、って思ってる?」
「はい・・・ワルツさんもですか?」
「えぇ、奇遇ね・・・」
「もしかしてですけど・・・」
「そうね・・・これで終わるわけがないわね・・・」
撃った本人であるルシアが正門前で仁王立ちして胸を張っているのだ。
これが失敗した魔法であるはずが無い。
「これ、ヤバいわよね・・・」
恐らくは花火のように爆発するタイプだろう。
ワルツは何があってもいいように、反重力リアクターを戦闘状態で起動した。
その際、変装が解け、髪が白くなっていたが、本人は気づいていない。
それを見た勇者達が何か言いたげだったが、状況がそれを許さなかったので、結局、誰も何も言わなかった。
しばらく正門の向こう側へ飛んでいった光球を眼で追いかける。
・・・が、何も起こらない。
5分を過ぎて王都の上空を通り過ぎたあたりで、流石のルシアも『あれ?おかしいな・・・』といった表情を浮かべていたのだが、10分を過ぎると、泣きそうな表情を浮かべ始めていた。
その後も、念のため更に10分で待ったが、結局何も起こらなかった。
「一応、正門に穴は開いたから、失敗じゃないわよ?」
ワルツがルシアを宥める。
「・・・うん」
「ちなみに、どんな魔法だったの?」
「・・・えっと、ビーム?」
ビームの割に随分と遅かったようだ。
魔力を注入しすぎて性質が変わってしまったのかもしれない。
「そうね・・・今まで全力で魔法を使ったこと無かったから、こうなっても仕方ないわ」
「・・・海で・・・練習するの?」
ルシアは、前にワルツと交わした約束を思い出したようだ。
姉と一緒に海に行くことを楽しみにしているのだろう。
「えぇ。もしも練習するなら海ね。これが終わったら行きましょう?」
「・・・うん!」
ルシアの機嫌が戻ったようだ。
一方、
「な、何なのあれ・・・」
声の主は魔法使いだ。
どうやら、ルシアの大魔力に相当驚いたようで、魔女帽子を取って獣耳を塞いでいた。
発射してから20分以上経過した今も、である。
・・・耳の形状を見る限りどうやら、狸の獣人らしい。
もちろん、髪色は緑だ。
(なるほど。カタリナとは反りが合わない訳ね)
カタリナの赤っぽい髪の色を見ながら、またも、失礼なことを考えるワルツ。
他にも、
「(ガクガクブルブル)」
剣士が甲冑のヘルムを取って獣耳を塞いで震えていた。
(こっちは犬ね。秋田・・・いえ、柴かしら?)
その他、勇者と賢者と僧侶は特に変化がないところを見ると、普通の人間のようだ。
「ま、色々あったけど、壁に穴は開いたようだし、先に進みましょうか」
「あ、あぁ・・・」
勇者には具体的な魔力の大きさは分からないようだったが、光が集まっていく様子が普通ではなかったので、どんな規模のものだったのか薄々感じているようだ。
ちなみに、ワルツの仲間達はほとんどが獣人であったが、発射した瞬間こそ耳を抑えていたものの、今では普段と変わりない。
どうやら、いつものことなので慣れたらしい。
というわけで、魔法使い達が落ち着いた後、ワルツ達は改めて王都内に侵入することとなった。
ところで、この時、ルシアが放った魔力粒子ビーム(超圧縮)だが、ワルツの予想通り、大爆発を引き起こした。
問題は、どこで爆発を起こしたか、であるが・・・それは後日、判明することだろう。