4後-10 類はなんとやら
勇者という避雷針を獲得したワルツは、この件を仲間達に話そうと、仲間を探した。
・・・だが、
(みんな、買い物を楽しんでいるわよね・・・)
折角の休暇(?)をするのは良くない、というわけで思いとどまる。
「ごめんなさい。行動開始の時間なんだけど、仲間達が集まってからでもいいかしら?」
勇者に問う。
「あぁ、構わない。こちらも、昏倒したビクトールが起きるまで、待たなきゃならんからな」
勇者が、嫌味を込めて強調した。
が、ワルツはどこ吹く風である。
「あらー?大変ねぇ。雨だけど、熱中症?」
「ねっちゅ・・・なんだそれ?」
「まぁ、病気の名前ね」
「・・・!」
リティアと呼ばれた僧侶の少女は、ワルツの言葉に興味津々である。
(根はカタリナに近いのかもしれないわね)
と考えてから、ふと思いだす。
(あれ・・・カタリナって勇者達に捨てられたって言ってなかった?)
なのに、勇者たちと行動を共にして大丈夫?、と思ったのだ。
数十秒前までは勇者達のことを仲間に言いたくてウズウズしていたというのに、今では180度真逆である。
ワルツが一抹の不安を抱えていると、運が悪いことに、カタリナ本人が近づいてきた。
テンポも一緒だ。
「お久しぶりです皆さん。・・・えっと、どうしてワルツさんが一緒にいるんです?」
(えっと・・・これは・・・)
とワルツは言い訳を考えたが、隠してもしかたがないので、素直に答えた。
「ちょっと問題が起こって、勇者たちと一緒に行動することになったのよ」
「問題・・・」
すると何か考えこむカタリナ。
ワルツが勇者たちとのことを言っても特に反応を見せないところを見ると、彼女の中では既に吹っ切れたことなのだろう。
「そういえば・・・」
カタリナが口を開く。
「正門の穴が塞がってましたね」
「いえ、カタリナ。穴は今でも開いたままですよ?」
と、否定するテンポ。
やはり、彼女にも幻術は通用しないようだ。
「・・・そうですか。やはり、幻術ですね」
どうやら、カタリナ自身、何かおかしいと気づいていたらしく、テンポの言葉とワルツの様子から確信を持ったようだ。
すると、カタリナが直ぐに幻術であると言い当てたことに、魔法使いと賢者が驚いた。
「・・・貴女、本当にカタリナ?」
「えぇ。私は昔も今も、そしてこれからもカタリナですよ?」
それが何か、と言わんばかりである。
魔法使い達の眼には、彼女がまるで別人のように映っているのだろう。
もしかすると、カタリナに酷いことを言ってパーティーから追い出したのは魔法使いなのかもしれない。
一方、勇者は、どこか安心したような表情を浮かべていた。
抜けていった仲間のことを心配していたのだろうか。
ちなみに、僧侶の少女は、この人誰?、といった反応を見せている。
恐らくは全く面識がないためだろう。
カタリナの洞察力に嘗ての仲間達が驚いていると、次は狩人とテレサが現れる。
この時、テレサは猫の獣人に変身していたので、一見すると狩人と兄弟のように見えていた。
ただ、残念なことに、ワルツの眼にはいつも通りのテレサにしか映っていなかったが。
彼女はワルツを見るなり声を上げた。
「ワルツ殿!何かおかしいのじゃ!」
「幻術でしょ?」
「う、うむ。流石はワルツ殿、気づいておったか。先ほど、武器の商人に王都について色々と聞いておったのじゃが、皆、王都は開放されてないと申すのじゃ。あれだけ大事になっていたはずなのに、だれも知らないとも言っておった。絶対におかしいのじゃ!」
皆、何かに騙されている、そう思ったのだろう。
その原因が幻術にあると考えは、普段から変身魔法(幻術魔法?)を使う彼女らしい考え方であった。
「・・・ん?おや、ワルツ殿?何故勇者と一緒におるのじゃ?」
昨日、勇者の顔を見て覚えたのか、それとも、王城に来た勇者の顔を覚えていたのか、テレサは目の前の人物が勇者であるとすぐに分かったようだ。
「これから、勇者と一緒に幻術を解こうと思ってね」
「だから、勇者たちがいたのか。てっきり、また絡まれたかと思ったぞ?」
テレサの隣にいた狩人である。
「んー、まぁ、強ち間違いじゃないけど、今回は共闘することにしたわ」
・・・ところで、狩人がこちらに近づいてきてからというもの、何か勇者の様子がおかしい。
彼女が近づいてきても視線を合わせずに、どこかビクビクしている。
前に狩人に吹き飛ばされたことでも思い出しているのだろうか。
「なら、これからは勇者達とも仲良くしなくてはならないな。よろしく、勇者殿」
そう言って手を差し出す狩人。
「よ、よろしくおねがいします!」
妙に力の入った感じの勇者。
しかも敬語である。
その上、顔が赤い。
『勇者』を目の前にする少年、といった感じの反応だが、酒場の店主がテンポに見せる表情にも似ていた。
(・・・いやね。そんなわけないじゃん)
ワルツの脳裏にとある一文字の漢字が浮かび上がってきたが、すぐに否定する。
何故か魔法使いの方から、真っ黒なオーラが出ていたが・・・まぁ、気のせいだろう。
と、近くにいた商人たちが思わず距離を取ってしまうくらい、勇者達を怪しげな空気が包んでいたところで、ルシア達が何の気なしに戻ってきた。
ユリアの手には色とりどりの布が入った袋が下げられ、他にも何やら細い棒や櫛のようなものも持っている。
機織機でも作るのだろうか。
「テンポ様?荷物を仕舞って頂けませんか?」
「いいですよ、ユリア様」
お互いに『様』付けて呼び合う二人。
といっても、余所余所しい訳ではない。
テンポはユリアの持っていた荷物を素直にアイテムボックスに仕舞いこんだ。
「やっぱりいいですね。手が疲れないって羨ましいです」
「では、ユリア様がアイテムボックスを持っていただけるのですか?命を狙われたり、野営の度にこき使われたり、なのに戦わなければならなかったり・・・。まぁ、大した問題では無いですが、どうぞお受取り下さい」
そう言って、指輪を外そうとするテンポ。
「ひ、ひぃ・・・」
そして、全力で逃げるユリア。
意外に仲は良さそうである(?)。
「・・・残念です」
どうやら、テンポは本当に残念なようだ。
ワルツにこき使われて、ストレスが溜まっているのだろうか。
「あ、ワルツ様?」
逃げていたユリアが戻ってきた。
「幻術の話?」
「そう、そうなんです!もう、びっくりしましたよ。正門は治ってるし、商人さん達も冒険者の人達も魔王を撤退させたことを知らないし・・・それで、色々と調べてみたんです」
とユリア。
諜報部隊の一員らしく、情報収集は欠かしていないらしい。
自分の得意なことを話す今の彼女には、いつものドジっ子のような雰囲気は無かった。
「えっと、まず、この幻術?の効果なんですけど、記憶が1日しか続かないみたいですね。記憶が消えるタイミングは夜に寝て、そして起きたら、のようです。しかも、寝て起きると、何故か前日の朝に寝ていた場所で眼を覚ますおまけ付きみたいです」
本人たちにその自覚はなくても、延々と同じ日々を過ごさせる箱庭にような幻術らしい。
(嫌な幻術ね・・・)
勇者たちの場合も、最初は王都内で寝ていたはずが、目を覚ますと壁の外で野宿していたのだろう。
果たして、夜に寝た場所が王都内だったのか、それとも、最初から外だったのか。
周りの商人たちの場合は、そもそも王都内に入らなかったのかもしれない。
もしも王都内に入ったのなら、『時は金なり』な大半の商人達は、前日の内に積み荷を下ろすはずだからである。
まさか、夜に寝た後、下ろした積み荷を夢遊病のように再び馬車に搭載して、外まで出てきたわけではあるまい。
「もしかして、ユリアが商人さんに色々聞いてたのって、それを調べてたの?」
ルシアがユリアの意外な一面に気づいたのか、驚いた表情を見せている。
「はいっ。私にはこれくらいしかできることがないので」
「そう・・・私も驚いたわ。それで、他に気づいたことは?」
「えっと、ここにいる商人さん達や冒険者の皆さんだけでなく、王都の中の人達も同じ状態みたいですね。内部の人達と手紙のやりとりをしてた商人さんがいて、手紙を見せてもらったので間違いないと思います」
毎日、同じことを書いていたのだろうか。
「つまり、王都全体が幻術の効果範囲内ってこと?」
「そうです。逆に、王都の外側の何処までが効果の範囲かは分かりませんでした」
「私達には効いてないみたいだから、それほど遠くまでは広がっていないのかもね」
ワルツ達は王都から少し離れた場所で野営したので、影響を受けなかったらしい。
「あっ、あと、いつから魔法がかかり始めたかですが・・・」
そう言って少し暗い顔を見せるユリア。
しかし、直ぐに元の表情に戻る。
「3日前です」
つまり、ユリアの仲間達が死んだ頃、である。
「そう・・・分かったわ。ありがとう」
「はいっ!」
満面の笑みを見せるユリア。
無理をしているのは分かっていたが、ワルツにはただ見守ることしか出来なかった。
「・・・貴女達のパーティーはすごい人たちばかりのようですね」
賢者が口にする。
「えっと、みんな普通の女の子よ?」
・・・書き出してみると、
面倒くさがりのガーディアン、
魔力の化け物、
白衣の天使(?)、
三度の飯より狩りが好きな貴族令嬢、
ホムンクルス兼アンドロイド、
王女、
そして諜報部隊のサキュバス。
・・・ワルツにとっては、普通の女子らしい。
「どうやってメンバーを集めたのでしょう」
「あーそれ、俺も気になるな」
賢者の疑問に勇者も絡んできた。
一言で答えるなら、類は友を呼ぶ、というやつである。
だが、ワルツはこう言った。
「仲間を大切にすることね」
ユリアを雑用に、テンポを荷物持ちに、狩人をコックにしているワルツの言葉だったが、何故か反論が出ることはない。
「・・・そう、ですね」
そう答えた賢者の言葉には・・・後悔が含まれているようだった。