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4後-07 不審死

すっかり暗くなった王都の中を、ワルツ達は全身甲冑装備(厨二スタイル)のまま歩く。


「どこに居るのか、分かるの?」


「えぇ。離れてからずっと追いかけてるから分かるわよ?」


生体反応センサやレーダーに映ったテンポとユリアの姿にマーカーを付けてあった。

このマーカーの難点は、レーダー上の像が他の者と重なると見分けがつかなくなり、どっちがどっちか分からなくなるのが難点である。

とはいえ、重なった瞬間に《ロスト》というわけにもいかないので、重なった他のものにもマーカーが付与される。

つまり、人の多い街の中でこの機能を使うと、次の日にはユリアが100人に増えていた、なんてこともあり得るのだ。


王都では幸いな事に、厳戒令が敷かれていたことや、魔物や魔族を怖がって住民が家の中から出て来ないこともあって、そんなことは起こらなかったが。


「えっ・・・追いかけてる?」


「んー、魔法みたいなものよ」


「・・・ふーん」


どこか歯切れの悪いルシア。

すると、彼女は頭の上にビー玉サイズ大の光の粒を作り出し、自在に動かし始めた。


「・・・それって、危なくない?」


「・・・そんなことは・・・ないよ?」


と、ルシアは言うが、ワルツの記憶が正しければ、先日、ホーミングレーザーの如く、魔物数千匹を串刺しにしたトンデモ魔法のはずである。


「まぁ、人に当てなきゃなんでもいいけど・・・」


「大丈夫だよ?」


すると、


ブォォォォン・・・


という唸りを上げ、右へ左へと目にも留まらぬ速さで移動する光球。

通りにある家の壁にギリギリで当てないところをみると、相当、コントロール性は良いようだ。


「これ、人を追いかけることもできるんだよ?」


「へぇ・・・でも、出来れば、仲間達は追いかけてほしくないかな」


「うん。ユリア以外は追いかけようと思わないよ?」


・・・やはり、ルシアの中でユリアの印象は最悪なようだ。


「・・・できれば、ユリアも追いかけないであげて・・・って、もしかして、今も追いかけてるの?!」


「うん!」


どうやら、手遅れだったらしい。


「いつから追いかけてるの?」


「えっと、街に入ってから直ぐ?」


随分と長い間、追いかけ続けていた。


「っと、ここを曲がった所ね」


路地を曲がると、(かつ)てワルツが王都の壁に穴を開けて侵入したエリア、すなわち倉庫街に入った。

すると、2ブロック先に複数の人影が眼に入ってくる。

その中の一人の頭の上で、天使のリングのように光が高速で回転しているのが遠くからでも見て取れた。


「テンポ、ユリア」


「お姉様」


テンポから返事が返ってきた。


「どう、首尾は?」


「それが・・・」


「ま、見れば分かるわ・・・」


ワルツの眼には沢山の人影が映っていた。

ただし、立ってはない。

地面に倒れているのである。


皆、ユリアと同じ、サキュバスやインキュバスといった夢魔の類であった。


「・・・何があったの?」


ワルツの顔色が変わる。


「分かりません。私達が来た時にはもう既に・・・」


ユリアは、そんな嘗ての仲間達を前に、地面にへたり込み、俯いている。

だが、ワルツ達が来たことに気づき、ユリアも口を開いた。


「・・・アジトの倉庫に行ったら誰も居なかったんです・・・それで周りを探したら・・・」


皆、事切れていた、というわけである。


「・・・ベガの仕業?」


(でも、敵である人間ですら無闇に手をかけてないのに、異国の者とはいっても同じ魔族を殺すかしら・・・)


あるいは、どこぞの原住民族よろしく、『戦士』という理由で殺害した可能性はある。


「・・・犯人の可能性として一番高いのは・・・人間?そういえば、勇者が居ましたね」


勇者が突入してきた際に、巻き添えを喰った可能性は否定出来ない。

あるいは、アルクの村の酒場の店主のように、魅了系の魔眼が効かない者もいるので、一概に勇者を犯人と決めつけるのも拙いだろう。


「ちょっといい?」


そう言うとワルツは死体を触り、温度を計る。


体温は既に下がりきり、死後硬直も無かった。

更に、下腹部と血管の外見的特徴から、死亡日時を推定する。


「・・・亡くなってから2日ね」


「よく分かりますね」


「そうね。カタリナはまだ生きている人間しか扱ってこなかったから分からないかもしれないけど、死体もモノを言うのよ?」


・・・もちろん、ワルツにもそんな経験は無い。

彼女の場合は、機動装甲内部に蓄積された、データベースによる知識だ。

尤も、魔族に対しても同じことが言えるかは疑問が残る所だが。


「2日間もここに放置されていたのか?」


「・・・そういうことになりますね」


狩人の疑問にそうとしか答えようのないワルツ。


「なら、ベガ達が犯人じゃないのか?」


「んー、でも、王都に入ってからここまでの道中に、反攻したはずの兵士たちの死体は無かったですよね。多分、ちゃんと処理したんだと思うんですけど、そうなると何故この人達だけ処理されてないのか、分からないんですよ・・・」


「ふむ・・・実は兵士たちが適当じゃったという可能性も考えられるのう」


「・・・そうね」


いろいろな可能性はあるが、分かっている情報が少なすぎて確たることは言えなかった。

なので、死体から何か情報が得られないかと近づくワルツ。


「で、死因は・・・・・・うん、分からないわね」


外傷はない。

首に圧迫された跡もない。

苦しんだ跡もなければ、窒息した形跡もない。


(考えられるとすれば、毒殺か、あるいは原因不明の心不全?)


色々と調べては見たものの、結局、こちらも得られるものは無かった。

強いて言うなら、普通に死んだのではない、ということくらいか。


「・・・とりあえず分かったことは、勇者が犯人ではないということくらいね。だって、彼らが王都に入ってきたのは今日なんだし・・・」


「そうですね。まさか、一度突入してから、また戻ったわけではないでしょうし・・・」


(そういえば、壁に穴が開いているのってこの近くよね)


と思い出し、もしかしてやっぱり勇者が犯人?、と思ってから、否定材料があることに気づく。


「まぁ、勇者達なら、切り傷や魔法の跡が残るはずだけど、それも無いみたいだし。ちなみに、即死系の魔法ってあるの、カタリナ?」


「なんですか、その便利そうな魔法は?」


「うん。分からないならいいわ。ということは、勇者って線は完全に消えたわね。そう考えると、ベガ達も町の人間も同じゃない?」


「ふむ・・・こんなところで、ワルツ殿にも分からぬ特殊な殺し方をするとも考えられぬしのう・・・」


(ホント、どうして死んだのかしら・・・)


ワルツは、死因が分からないことに言い知れぬ不安を感じるのだった。




その後、地面に無造作に倒れていた亡骸をルシアの火魔法で丁重に葬る。


「ユリア。大丈夫?」


蒼い炎に包まれながら灰に変わってく仲間達を静かに見つめるユリアに、ワルツは声を掛けた。


「・・・そうですね。大丈夫かどうかと言われると・・・ショックなのは間違いないですね。ただ、現実味が無いというか・・・。何度も仲間達が失われて・・・私の感覚もすり減ってきたのかもしれませんね・・・」


「・・・ひどい顔ね」


「ははっ・・・よく言われます」


そう言って笑顔を浮かべる彼女の顔は、涙と鼻水の痕が残っていて酷いことになっていた。

ワルツの指摘に顔を袖で拭う。


「・・・辛いなら、貴女の国に帰ってもいいのよ?」


するとユリアはワルツから視線を外し、灰になった仲間達を見つめてから言った。


「・・・いえ、私の使命は、あの時、王都を出て行った魔女(ワルツ)を監視することですから」


「そう、後悔しないのね?」


「はい」


「そう・・・」


ユリアの返答を聞いて、ワルツは内心で溜息を吐いた。

そして告げる。


「・・・なら、私の姿を見せましょう」


「・・・えっ?」


仲間達の火葬が終わり、辺りも暗くなった頃、ワルツは自分のホログラムを消し、機動装甲の光学迷彩を解除した。


「こんばんは。小さなコウモリ(ユリア)さん」


「・・・」


暗闇の中、ユリアはいつの間にか隣に立っていた巨人を見上げたまま、口を開けて固まっていた。


「・・・って、テンポ!いつまで私の腕を使ってるつもりよ!返しなさい!」


「忘れてました」


頭をポリポリと掻きながら、ワルツにオーバーライドされる前に、腕のアクセス権を返すテンポ。


「折角の自己紹介なのに台無しよ」


「圧迫感が消えてちょうどいいのでは?」


「何その言い方?まるで私からプレッシャーが出てるみたいな口調じゃない。今はちゃんと切ってあるわよ」


テンポの言った圧迫感とは、もちろん、プレッシャー(ロックオン)の事ではない。


「ま、いいわ。さてと・・・はじめまして、ユリア。私がワルツよ」


そう言ってから、機動装甲の右手を差し出すワルツ。


だが、


「・・・」


ユリアには意識がないようだ。


「・・・何、この娘。また気絶してるの?!」


眼に光が無いとは、こういうことを言うのだろう。


「ちょっと・・・誰か、気付けをしてあげて」


「・・・仕方ないですね」


「はっ!」


カタリナが近寄ろうとすると、急に意識が戻るユリア。

余程、苦手らしい。


そして、ワルツの姿と差し出している右手を交互に見てつぶやいた。


「あぁ・・・主様(あるじさま)・・・」


この場合の主は、魔王シリウスのことである。


「私は足を踏み入れてはいけない領域に来てしまったようです・・・」


どこのバミューダトライアングルだろうか。


「それで、ユリア?これが私の正体なんだけど、それでも一緒に来る?一応、貴方達の故郷に向かう予定だけど、いつになるか分からないし、もしかすると魔王とも戦うことになるかもしれないわよ?」


「・・・」


無言のユリアは、意識こそ失っていないものの、機動装甲(ワルツ)の手を見て、考えこんでいるようだ。

そしてしばらく考えた後に口を開いた。


「・・・考えを変える気は無いです。じゃないと、仲間達に顔向け出来ないし、故郷の主様にも会うことが出来ません」


「なら、一緒に来るのね?」


「・・・はい。よ、よろしくお願いしま・・・す!」


「こちらこそ、よろしくね」


というわけで、ワルツパーティーにユリアが正式に(?)参加することになった。

とは言っても、何かが変わるわけではないのだが。




ユリアとの顔合わせを終え、元の姿に戻ったワルツは声を上げた。


「さて、帰りましょうか」


『えっ』


ここに来る前にルシアとの間で交わされた会話の続き・・・ではない。


「いやね?なーんか嫌な予感がするのよ」


「嫌な予感とは?」


「こう、なんというか、王都からベガはいなくなったけど・・・うーん、モヤモヤしてる感じ?」


ユリアの仲間達がどうして死んだのか、脳裏から離れなかったのだ。


「・・・まだ終わっていない、と言いたいんだな?」


「そう、それ」


魔王ベガのことにしろ、サウスフォートレスのことにしろ、あるいは、魔女として捕まったことにしろ、ワルツはどこか王都と絡むところが多い気がしていた。


「・・・考え過ぎじゃないのか?」


「うん・・・考えすぎならいいんだけどね・・・」


「ま、今日くらいは王都に泊まっていってもいいんじゃないか?」


「んー・・・まぁ、一日くらいならいいかしらね」


と言うワルツの顔は優れないが、悩んでいても仕方がない、と深く考えることを止めたのだった。


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