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4後-06 薔薇

ワルツは王城に入る前に、敵の逃亡を防ぐ目的で逃げ道を封じていた。

しかも、魔王の装備は全て奪ったのだ。

普通なら逃げることなど不可能だろう。


だが、それが分かっていて、ワルツは參考までに聞いてみた。


「自力で逃げる手段ってある?」


するとベガは隠す様子もなく即答する。


「我が城にある依代に身を移せば可能だ」


「・・・そうですか」


今後の魔王対策で考慮しようと心に決めるワルツ。


(それにしても、依代ねぇ・・・魂を移す・・・とすれば、ここに死体が残るから、カタリナに死体製造を頼んだ意味が無くなるし・・・)


「ちなみに、どんな魔法?もしかして、魂だけ移動するとかじゃないわよね?」


「ふむ。貴女の考えていることは大体予想が付くが、殆ど転移魔法と同じだ。城にある依代をこちらに引き寄せる代わりに、私が向こうへと移動するという生贄の魔法の一種で、転移防止結界で防ぐことはできん。結界が貼られた敵地から逃げるには優れた方法だ」


カタリナに視線を送りながら答えるベガ。


(生贄ねぇ・・・)


悪魔(じぶん)と契約でもするのだろうか。


「ふーん。なら、なんで今まで転移して逃げなかったの?」


「・・・(トップ)が部下を置いて逃げられる訳が無いではないか」


「あ・・・うん。そうね」


周りの惨状(部下だったもの)が目に入ってくる。


「・・・じゃぁ、前線に来たのも部下が大切だったから?」


「あぁ・・・だが、それだけではない。勇者に会いに来たのだ」


と魔王らしいことをいうベガ。


(あれ?さっき、勇者と語る口はなんたら、って言ってたじゃん・・・)


乙女心と秋の空・・・いや、今は初夏である。

そしてベガの口調は徐々に愚痴の様相を呈してきた。


「これまでの勇者は皆、迷うこと無く真っ直ぐに我ら魔王の元へとやってきていた。だが、当代の勇者は、挨拶にすらこない。魔王と勇者は戦う運命にあるというのに・・・何故来ぬのだ」


「いや、私に聞かれても・・・って、城の外まで来てるわよ?」


レーダーに映った勇者の位置を教えるワルツ。


「くっ・・・間の悪いやつめ・・・」


今の魔王は完全に素裸だ。

防具もなければ、武器もない。

そして、ワルツ達は彼女を逃がす気でいるのである。

たとえ、ここ(謁見の間)まで来ても、それこそ挨拶だけで終わってしまうことだろう。


「ま、今度、機会が会ったら連れてくから、城で大人しく待ってなさい。いいこと?間違ってもこの国を攻めようなんて考えないでちょうだい」


「はっ!」


『・・・』


ワルツに頭を下げる魔王。

そして、そんな魔王を見て、微妙な顔をするパーティーメンバー達。


「・・・さてと、それじゃぁ帰ってもらえる?私達も逃げなきゃならないし・・・」


「分かりました」


すると、魔力を付加した指笛を吹くベガ。

どうやら、王都内にいる部下たちに撤退を指示したようだ。

ワルツ達が王都に入る前に予定していた王都内の魔物を一掃は、必要無くなったのではないだろうか。


「それでは、またお会いしましょう。機会がありましたら我が城へお立ち寄り下さい」


(って、どこにあるのよ・・・)


と、ワルツが言う前にベガは光りに包まれ・・・次の瞬間には一輪の立派なバラが生えた植木鉢が現れた。


「依代ね・・・」


あるいは、生贄と言うのかもしれない。




ベガがいなくなった後、ワルツは玉座にベガの生首のレプリカをそっと置いた。


「角度はこんな感じで・・・口は今にも叫びだしそうな開き方をしていて・・・血の涙を流していて・・・目は見開いてたほうがいいわよね・・・」


「・・・おい、ワルツ。死体で遊ぶなよ」


「・・・やっぱりこれ、死体かしら?」


見た目は死体だが、実際はレプリカである。

だが、材料はベガの細胞なので、死体と言っても過言ではない。


「で、何してたんだ?」


「ん?国王に対する嫌がらせ?」


「なんで・・・」


「狩人さん?こういうタイミングくらいしか、お偉いさんに対して嫌がらせをするタイミングって無いと思うんだけど?」


ワルツは普段から真面目な狩人のために、悪戯の極意について語ろうと思っていると、テンポが割り込んでくる。


「おや、お姉さま。随分と面白そうなことをしてますね?」


碌な死に方はしなかっただろうと思わせるような表情を浮かべる生首(レプリカ)を見つけたテンポ。


すると、地面に滴る血を指で撫で、それを生首の載っている玉座の背もたれ部分に擦りつけた。

つまり、血文字を書き始めたのである。


「えっと・・・」


しばらくして書き終わった後にワルツが文字を読んでみた。


「ニコラ惨状?」


ニコラ・・・即ち、アルクの村の酒場の店主である。


「これだけなら、ばれないでしょう」


「・・・きっと、国中のニコラさんが大変なことになるわね」


よほど嫌いらしい。


この後、ルシアも姉の真似をしようとしていたが、全力で止めさせたのだった。




「さて、勇者が来そうだから、私達も逃げましょうか。・・・そういえば、テレサは今もフェンリルの格好なの?」


「うむ。もちろんじゃ。どうやら、魔王には変身魔法は通じなかったようじゃな」


「あまりに自然に会話してたからから、変身魔法を解いたのかと思ったわ」


「妾だって、お主の微妙な立場は把握しているつもりじゃ。そんな愚かな真似はせぬ」


「・・・じゃぁ、自分の姿を国王や王妃に見せたり、話したりしなかったのよね?」


「・・・ぐふっ」


もしも、テレサの喉の粘膜が薄ければ、血を吐いていたことだろう。


「・・・まぁ、いいけど。村のことや、私たちのことは言ってないんでしょ?」


「うむ、それは誓って言っておらぬ」


「ならいいわ。何なら、しばらく、王城でゆっくりしてもいいのよ?」


「いや、いいのじゃ。妾にもやらねばならぬことがあるからの」


「そう・・・」


(まだ未成年なんだから、そんなに遮二無二にならなくてもいいと思うんだけど・・・)


1歳しか違わないテレサにそんなことを思うワルツだった。




こうして、王城での一件はとりあえず幕を下ろした。


・・・だが、王都での話はまだ終わらない。

飽くまでも王都での出来事は、旅の途中の出来事に過ぎないのだ。

つまり、旅の途中で王都に立ち寄ってやりたかったことが山積しているのである。

・・・主にワルツ以外にとって、だ。


王城から飛び出し、囚われた人々が(たむろ)している堀を超えて、町の中の人気のない場所に着地する。


(王城から出たら、町に繋がる橋が全部無いんだから、相当びっくりしてるわよね・・・)


とワルツが考えていると、ルシアから声が掛かった。


「お姉ちゃん!王都だよ王都。2週間位ゆっくりとしていこう?」


まだ変身したままのルシアが提案してくる。


「・・・ねぇルシア?貴女、稲荷寿司が食べたいだけでしょ?」


「うん!」


迷う素振りを見せず、即答するルシア。


「・・・えっと、サウスフォートレスで食べなかったのですか?」


カタリナが問いかける。


「え、う・・・いや・・・」


「・・・」


ルシアのテンションが、今度は一気にどん底まで落ちる。


「何かあったのですね?」


不審なワルツとルシアの様子に推理を始めるカタリナ。


「・・・サウスフォートレスにいて稲荷寿司を食べていない・・・それにワルツさんとルシアちゃんの言葉から察するに・・・稲荷寿司屋が王都に移転してきた、といったところでしょうか」


推測できるパーツは揃っていたようだ。


「ご、ご明察・・・」


「さすが、カタリナお姉ちゃん・・・」


「どうして隠すような真似をしたのです?」


「・・・ええと、カタリナも稲荷寿司が好きだったから、あまりに衝撃的過ぎるニュースかな・・・と思って。ルシアも、相当取り乱してたし・・・」


「まぁ、好きかそうでないかと言え、大好きですが、それならそうと言って欲しかったですね」


(これ、言っても言わなくても、何かフラグが立つんじゃ・・・)


なら、フラグた立つ前に対策しないと、とワルツは矛先を変えることにした。


「・・・というわけだから、あと数週間もすれば、寿司屋さんも王都で営業を始めると思うのよ。それまでは狩人さんのお手製稲荷寿司で我慢して?」


「ん?何の話だ?」


急に自分の話が出てきたので、対応が遅れる狩人。

すると、


「あっ!」


ホログラムの帽子のしたから額に手をやるルシア。

ホログラムには実体がないので、つばの部分に手が貫通していて異様な光景である。


「狩人さんに作ってもらうの忘れてた!」


あぁ、なんてことをしてしまったんだろう・・・、と言わんばかりに、自分の行動に後悔するルシア。

そして目を光らせて、ギュン!、と狩人の方を振り向き、一瞬で近づいた上で彼女の両手を握って頼み込むルシア。

最早、稲荷寿司お化けである。


「お願い狩人さん!稲荷寿司を作って欲しいの」


「うっ、いや、分かった。今度作ってあげるから、少し落ち着こう。な?」


「絶対だよ?」


「あぁ、絶対だ」


もしも狩人が約束を破ったりしたなら、この世界に未来はないだろう。


「・・・本当にどんな見た目で味なのか気になるのう・・・」


テレサも興味津々である。


「そうですね。私としても、1日3食、全て稲荷寿司でも構わないのですが・・・」


「お願い。それはやめよう?世の中には、色々美味しい食べ物があるんだから、バランスよく食べようよ?」


ワルツには、テレサも稲荷寿司フリークになる確信があった。

そうなると、パーティーの内、半分弱が稲荷寿司勢力に占領されたことになる。

その上、原材料がカタリナであるテンポは、未だ態度を明確にしていない。

元となった人間と趣味嗜好が似ていてもおかしくはないだろう。


つまり毎食、本当に稲荷寿司になる可能性は十分にあったのである。


「たまにならいいけど、私としては、毎食、肉か魚の方がいいな」


「・・・今だって、そうじゃないですか。私は一向に構いませんけど」


狩人の料理にはほぼ必ず、タンパク質系の何かが出てきた。

猫の獣人である狩人は、肉食女子なのである。


「む?そういえば、また寿司の話に脱線してしまったが・・・何か忘れてはおらぬか?」


「えっと、後は帰るだけ?」


「お姉ちゃん!」


「・・・稲荷寿司はちゃんと覚えてるわよ。でも、直ぐに寿司屋が開店するわけじゃないんだから、急いでも仕方ないわよ?」


「うぅ・・・」


どうにか、ルシアを説き伏せるワルツ。


「で、忘れてること・・・?」


「・・・ユリア殿達のことじゃ」


「あ・・・」


テンポ共々、ワルツの記憶から消し飛んでいたようだ。


追記:(王城から出たら、町に繋がる橋が全部無いんだから、相当びっくりしてるわよね・・・)


これがないと、ワルツによって落とされた橋がリスポーンしたように思えてしまう・・・

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