4後-03 勇者気分
西日を横に受け、王都へ向かうワルツ達一行。
観天望気を信じるなら、明日も天気がいいに違いないだろう。
ちなみに王都周辺は、アレクサンドロス領都は違って雨が降らないなどといったことは無いので、明日が晴れであっても、異常な天候というわけではない。
さて、一行がしばらく歩みを進めていくと王都の入り口に到着する。
そこでは、王都の門が閉ざされているせいか、入れない多数の商人や冒険者達がテントを張って野宿していた。
王都から魔族や魔物が出てきて襲われると考えないのか、それとも魔族すらも商売の対象としているのか。
そこにいた人々の中に、ワルツは意外な人物を見つけた。
「あれ?勇者じゃない?」
狩人装備よりも金属をふんだんに使って防御力を上げつつ機動力を犠牲にしない高級な装備を着込んだ勇者。
彼はテントの近くで仲間達と何やら話し込んでいるようだ。
王都奪還作戦に関する話し合いでもしているのだろう。
メンバーは、いつもの、剣士、賢者、魔法使いである。
だが、見たことのない少女が一人増えていた。
格好を見る限り、新しい僧侶らしい。
「はい、勇者ですね」
元僧侶も気づいたようだ。
「どうする?話しかける?」
今のところ、向こうはまだこちらには気づいていない。
「お任せします」
「・・・なら、話しかけなくてもいいわね」
・・・とはいえ、今のワルツ達は『超』が付くほど目立った装備をしているのだ。
そのうち気づかれることだろう。
「ねぇ、どう思う?この王都の雰囲気・・・」
「どうと言われましても・・・ただ、占領されているのは間違いないでしょうね」
「そうよね・・・これは侵入する以前の問題ね」
正門上の旗が、ミッドエデンの国旗ではなくなり、別の旗が掲げられていた。
緑の下地に、刺々しい植物と赤いバラ(?)が描かれた旗だ。
もしも魔王の旗だとするなら、植物系の魔王なのかもしれない。
「そうじゃな・・・どうするのじゃ?」
「正面から強行突破?」
ルシアはやる気満々のようだ。
「いえ、その前に、勝利条件を決めておきましょう」
「ほう?目的をはっきりさせておくのじゃな」
「えぇ。いくつか達成目標があっていいと思うんだけど・・・王都内から魔物・魔族の排除・・・は拙いわよね?」
ユリアの仲間達も王都に潜んでいることを思い出したワルツ。
尤も、生きている保証はどこにもないのだが、生きていてそれをワルツ達が排除した場合、ユリアとの間に禍根を残すことは避けられないだろう。
「すみません。殲滅は遠慮していただけると・・・」
「じゃぁ、ユリアが仲間を連れ出すって出来ないの?」
「えっと・・・たぶんできると思います。ですけど、説得に時間がかかるかもしれません」
2週間、連絡のなかった仲間が突然戻ってきたら、何かあると疑われて当然だろう。
説得にも相当の時間が掛かるのではないだろうか。
「誰が味方か分かればいいだけだから、最悪、避難させなくてもいいわよ?」
「すみません。ありがとうございましゅっ!」
「じゃぁ、念のため、テンポと一緒に行動かな?問題ないわよね?」
「はい、もちろんです!」
「承知しました」
「なら、ユリア達の避難?が終わるまで王城内部のお掃除ね」
するとテレサが口を開く。
「父や母を・・・助け出して欲しいのじゃ・・・いや、助けたいのじゃ!」
(重鎮の人達とか、兄弟はいいの?)
とは思いつつも、口にはしない。
「・・・そうね。王城内部の間取りは分かるわね?」
「我が家じゃぞ?任せておくのじゃ」
「じゃぁ、テレサの任務は家族を助け出すこと。カタリナと狩人さんが付いて行ってあげて」
「分かりました」
「任せとけ」
残るはワルツとルシアだが・・・
「私達は・・・敵将の処理かしら・・・」
「うん!」
元気よく頷くルシア。
だが、いつもなら尻尾をかなりの勢いで振る所だが、今日は静かなままだった。
魔法を使うことは好きでも、戦いや戦争は好きではないのだ。
「じゃぁ、そういう方向で。王都内に突入したら、ユリア達は別行動。そこからテレサ班と私班は、王城まで一緒に行って、城内に入ったら別行動でいきましょ」
「はい」「分かりました」「あぁ」「承知しました」「うむ」「はいっ」
ワルツの怪しい造語に反応する者もなく、3班に分かれて行動することが決まった。
7人は野営地を抜けて、王都の正門の前に並ぶ。
すると、
「おい、お前ら。王都奪還の騎士達か?」
勇者に話しかけられた。
どうやら、ワルツ達がこれから王城に乗り込もうとしていることを気づかれたらしい・・・が、背後からだったので、ワルツ達の顔は見えていないようだ。
その上、ワルツを含め、誰も振り返ろうとしなかったので、素性は今のところバレいないだろう。
「その扉は強度な結界に守られてるから、攻撃してもびくともしないんだ。別の場所で壁に穴が空いている部分があるらしいから、そこから侵入したほうがいい。それでだ、もしも奪還する気があるなら協力してくれないか?」
(壁に穴が開いてるって・・・私が開けた穴?)
以前、子どもを助け出す際に開けた穴を思い出すワルツ。
(ま、どうでもいいけどね。さて、結界とやらの強度を確認しましょうか?)
ワルツは正門から王城の反対側まで生命反応が無いことを確かめる。
そして、
チュウィィィィーーン・・・
ノーモーションから荷電粒子砲を発射した。
出力はこれまでで最も小さいものである。
しかし、まるで最初からそこには何もなかったかのように扉を蒸発させながら、地面を削り、城門の鉄製の扉を貫き、王城を貫き、その後ろにあった家を削り、商店を削り・・・さらには王都の反対側の壁まで貫通した。
(てへっ、やりすぎちゃったっ(星))
まぁ、いつも通りである。
「さてと、いきましょうか」
ワルツが先頭を歩き出した。
「お、おまっ、お前っ・・・その声は!!」
荷電粒子砲で扉を吹き飛ばしたこと、ではなく、勇者は声でワルツ達の正体に気づいたようだ。
ワルツはすこし帽子をあげてから、笑みを浮かべ、流し目を勇者に送る。
そして何も言わずに王都の中へと入っていくのだった。
「結界って、思ったほどじゃないじゃない・・・何か掛かってたの?」
「さぁ?」
恐らく、今のカタリナのほうが強固な結界を張れることだろう。
「おい、貴様ら!止まれ!」
「侵入者だ!鐘を鳴らせ!」
「生きて返すな!」
などという声が聞こえてくるが全て無視である。
「じゃぁ、ユリア達はここで・・・」
「分かりました。行ってきます」
「お姉さま。左腕だけ借ります」
「えぇ、いいわよ。気をつけてね。あ、ユリア?距離が離れるとテレサの変身が解けちゃうから、代わりにお願い」
つまり、ワルツのホログラムの照射範囲から離れると、元の見た目に戻ってしまう、ということである。
「え?あ、はい」
挙動不審な返答をした後、ユリアはテンポと共に町の入り口から直ぐの交差点を曲がっていった。
「それじゃ、私達もいきましょう」
「それにしても本当にでたらめだな・・・」
と、近寄ってくる魔族を牽制しながらワルツの攻撃について感想を述べる狩人。
「私もやる?」
ルシアが手に魔力を貯め始める。
「いえ、一般市民も巻き添えを喰うからやめましょ?」
「うん・・・」
「でも、レーザーで、足を貫くくらいならいいわよ」
「うん!」
すると、ワルツ達を取り囲んでいた魔族が一斉に倒れた。
「うがぁ・・・足がぁ!!」
「くっそ、なにも見えなかった・・・」
「どうなってやがる・・・」
(赤外レーザーね)
赤外は人の目で見ることは出来ない。
それは魔族たちにとっても同じだったようで、気づいたら地面に伏せていた、という様子だった。
こうして一行は、一瞬で掃除の終わった大通りを、散歩するかのように、王城に向かって歩いて行くのである。
そして王城の城門前にたどり着く。
王城は幅30mほどの堀で囲まれており、3つの橋で王都とつながっていた。
そして一番大きな中央の橋から繋がっている鉄製の閉ざされた城門には、人なら楽に通れる3mほどの穴が空いていた。
もちろん、ワルツの攻撃が貫通した跡である。
「えっと・・・カタリナ?転移防止結界って、使えたりする?」
度々耳にすることはあっても、実際に使ったことはない結界だ。
「えぇ。王城にかければいいんですか?」
「うん、そう」
すると、結界魔法を行使するカタリナ。
「これで、大丈夫だと思います。ですが、私達も転移が使えないので注意して下さい」
「うん。わかったよ」
パーティーで唯一、転移魔法が使えるルシアが答えた。
「よし、急ぐのじゃ!」
目の前の王城に、テレサは逸る気持ちを押さえきれないようだったが・・・
「ちょっとたんま。まだやらなきゃならないことがあるわよ?」
そう言うと、ワルツの眼の色を赤に変えた。
反重力リアクターを戦闘状態で起動したのである。
「とうっ!」
ドゴゴゴゴゴォォォォォォ・・・
という轟音を上げながら3つあった橋が全て崩落する。
更には、堀にあった水が全て抜けてどこかに消えた。
「よし、これで逃げ道は消えたわね」
そう言って、ワルツは眼の色を普段の碧眼に戻した。
「む?・・・何をしたのじゃ?」
「多分、テレサが知らないだけで、抜け道自体は王城のどこかに隠されてたと思うの。例えば地下通路が鉄板かしら。で、王様が逃げるならいいんだけど、敵に使われると厄介だから、事前に潰しておいたってわけ」
つまり、堀全体に超重力をかけ、橋ごと地下通路を潰したのだ。
その下にあるだろう通路も、一緒に潰れたことだろう。
「念入りじゃのう・・・」
「だが、橋を落としてしまっては私達も渡れなく・・・って、空を飛べるからいいのか」
「そういうことっ」
そう言って、ワルツは皆を浮かせ、堀を渡った。
そして、遂に王城に辿り着いたのである。