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4中-18 魔王≧3人

ワルツ、ルシア、それにカタリナの3人は、サウスフォートレスの正門近くにある倉庫までやってきた。

本来ならこの倉庫は町を出入りする貨物の検査・徴税を行う場所で、馬車がUターンすること無く出入りできるように前後の入り口は開かれた状態になっている。

大きな屋根付き車庫と言ってもいいだろう。

しかし、今はその両方の出入口とも分厚い扉で閉ざされ、中で何が起こっているのか外から窺い知ること事は出来なかった。


ワルツ達が側面にあった小さな入口から入っていくと、狩人、テンポ、そしてこの町の騎士たちが一斉に振り向く。


「あ、ワルツ。すまない。本当なら先に会いに行きたかったんだが、見ての通りでな・・・」


そう言った狩人の前には、無残な姿になった水竜(シーサーペント)が横たわっていた。

傷を負う前は50mはあっただろう巨体が、今では20mほどまで短縮されており、見る影もない。

だが、出血などが無いところを見ると、カタリナによって回復魔法が掛けられていたのだろう。

胴体を切断したのは狩人・・・ではなく、テンポか。


「こんなになってるのに、生きてるなんて・・・」


「よく分かったな。さすがはワルツか・・・」


生体反応センサーのおかげである。


「今って喋れるの?」


「いや、生きてはいるが無理だな。意識が無い」


「カタリナ?原因は?」


「恐らく、出血多量に伴うショックではないでしょうか。水竜に合わせた生理食塩水を注入したので血圧は安定しています。なので今のところ命に別状はないでしょう」


「そう・・・なら、どうやって尋問したの?気を失う前に聞き出したとか?」


相手が意識のない状態なのに、どうやって、王都が陥落したという情報を聞き出したのか、という意味である。


「いや、なんか戦う前に、”メイドの土産”とか言ってたな・・・どういう意味だ?」


「・・・死ぬ間際の相手に最期だから教えてやる、という意味で言ったのではないでしょうか」


狩人の隣にいたテンポがワルツの代わりに答えた。


「そうか。つまり、私が弱い相手に見えたってことだな。でもメイドはどこから出てきたんだろうか・・・私がメイドに見えたとかじゃないよな・・・もしかして、この水竜がメイドだったのか?」


狩人が混乱していたが、ワルツもテンポもそのまま放置することにした。


ところで、


「あれ?伯爵は?」


狩人と共にいるはずの伯爵の姿が見えなかった。


「のぼせて倒れた」


もちろん、エンチャントのやり過ぎで魔力が足りなくなって倒れたわけではない。

ワルツ達はバングルの効果やルシアの冷却魔法があるのであまり気する事は無いが、雨が降らない上、夏のような暑さなのだ。

鎧を着込んで戦えば、直ぐに熱中症にもなるだろう。


「大丈夫なの?」


「あぁ、カタリナが治療してくれた。でも、何故か身体に針を刺して水を注入してたな・・・」


「点滴です。相当危なかったので・・・」


「まぁ、お大事に・・・」


これからの季節はもっと暑くなるので、対策は必要である。


・・・それはそうと、


「どうしようかしら・・・どうやったら起きると思う?」


起すためのアイディアが無いか、ワルツは皆に問いかけたが、誰からも返事は帰ってこなかった。

だが、このまま起きるまで待つわけにもいかないだろう。

王都の事を考えると、時間を無駄にするという選択肢は無いのだ。


(無理やり気付けをして起きなければ、直接王都に乗り込むしか無いわね)


最早、水竜を穏便に起すことを諦めたワルツ。

そして、水竜の口付近に近づいた。


『おい、危なくないか?』

『いや、待て、あの人は・・・』

『うぉっ、こっちが危ないところだったぜ』


水竜を監視していた衛兵(もぶ)たちが何か話していたが、ワルツは気にしない。


「これね」


ワルツは水竜の顎の下に一枚だけ逆さに付いている鱗を発見した。

所謂、逆鱗である。


(これを抜いてもいいんだけど・・・そうなると、別の気付け(拷問)手段を考えないとならないから・・・やっぱり、電流を流す?)


「ちょっと借りるわよ?あ、返さないけど」


すると、ワルツは近くにいた衛兵の剣を重力制御で抜き取った。

どうやら、電流を流すための端子にするらしい。


「それで・・・」


ザクッ・・・


逆鱗目掛けて突き刺した。


「ギャァァァァァ!!!」


その瞬間、電流を流すまでもなく、水竜が目を覚ました。

そして激痛の余り、渾身の力でのたうちまわろうとしたが・・・ワルツの重力制御に押さえつけられ、動くことは一切叶わなかったようだ。


「さてと」


逆鱗に刺さった剣の様子を確認しながらワルツは口を開く。


「貴方に聞きたいことがあるんだけど・・・ってその前に、カタリナ?奥歯の毒物は排除した?」


ユリアの件があるので、念には念を入れたほうがいいだろう。


「はい、狩人さんが闘いながら抜いてくれました・・・ですが、毒は仕込んで無かったようです」


「そう・・・それじゃぁ、改めて聞くけど、貴方の主は誰?」


予想では魔王だが・・・


「グァァァァァ!!!」


本当に言葉は通じているのだろうか。


(それにしても五月蝿いわね)


目の前には逆鱗に刺した(端子)がある。

これを使わない手はないだろう。


「うーん・・・ルシ・・・いやテンポ?この剣に向かって雷魔法をお願いできる?出来ればすっごく小さいやつで」


「分かりました」


するとテンポはワルツの言った通りに弱い雷魔法を剣に流した。


「ガわわわわわァァぁぁ」


感電する水竜。

これがルシアの雷魔法なら、剣ごと水竜も蒸発して原型を留めていなかっただろう。 


「さて、もう一度聞くわ。貴方の主は誰?」


すると、感電して大人しくなった水竜が口を開いた。


「ま、魔王アルタイル様だ・・・!貴様ら弱小で小賢しい人間どもなど、我等の手にかかればばばばばばばぁぁぁぁ」


人間になりたいと思っているテンポにとって、水竜の言葉は癪に障ったようだ。

ワルツの指示とは関係なく、勝手に電流を流した。

だが、ワルツとしては悪くないタイミングだった。


「もう、聞いてもいないこと、勝手にしゃべらないでくれない?(あなた、テンポに殺されるわよ?)・・・で次の質問なんだけど、最近雨が降らない理由、なんか知らないかしら?」


「知っていても話すと思うのか!」


「何か勘違いしてるみたいだけど・・・」


そう言って、ワルツは髪の色と眼の色を変えた。


「話すか、話さないかじゃなくて、話させるのよ?」


そう言うと、倉庫の天井を遠慮無く破壊するワルツ。

そして水竜を持ち上げて空高く上がっていった。


本来なら雲のある高さまで上がってから口を開く。


「そうね・・・貴方が喋らないなら、魔族のいる領域ごと、こんな風に消しちゃおうかしら」


チュウィィィィィン・・・


人や生き物がいないところを狙って、光線のようなものを打ち出した。

着弾地点は、サウスフォートレスから北西に20km程度離れた山岳地帯である。


ピカッ・・・


光が辺りを包み込む。

だが、音は無い。

そして、そのまま静かに山が消し飛んだ。


最初の勇者戦でも使った荷電粒子砲である。

ただし出力はその時の比ではない。


「んな・・・」


ばかな、と言いたかったのだろうか。

だが、驚きのあまり、固まる水竜。


しばらく様子を見ていると、着弾地点を中心に大きな泡のようなものが広がっていくのが見えた。

衝撃波である。

そしてそれはワルツ達がいる場所にも到達した。


ドゴォォォォォ!!!!


突如として辺りを突風が吹き荒れる。

空から見ているとサウスフォートレスの一部の家の屋根が吹き飛ぶのがよく分かった。

恐らくは広範囲にわたって同じような被害が広がっていったことだろう。


(うわぁ・・・ごめんなさいっ!)


表には出さず、心の中だけで謝るワルツ。


「・・・で、故郷をこうしてほしくなかったら、さっさと雨が降らなくなった原因を吐いたほうがいいわよ?」


『ガーディアン』とは思えないような発言をして水竜を脅した。

だが、


「・・・言えぬ・・・言えぬのだ」


水竜は断固として喋ろうとはしなかった。


「ふーん。じゃぁ、滅びてもらおうかしら。そうすれば、雨が降らない原因も無くなるでしょうし・・・」


(んー、多分、こっちね)


と北の方に掌をかざす。

北にはカタリナの実家がある街、即ち、魔王城があるはずだ。

尤も、水竜の主人と同じ魔王の城とは限らないが、魔族が住む領域と言うのであれば、ほぼ同じ方向だろう。


ワルツが(かざ)した掌には、ルシアが魔力粒子ビームを発射する際に集める粒子とよく似た光の粒が収束し始めた。


「や、やめてくれ。魔法がかかっていて、何も言えぬのだ!」


「え?」


その言葉に、ワルツは遥か彼方に向けていた腕を下ろす。


ちなみに、ワルツが荷電粒子砲を発射するためは、手を向ける必要もなければ、出力を上げるためにチャージする必要も無い。

つまり、完全にハッタリだったのである。


だが、水竜はそんなワルツの演技に耐えられなかったようだ。


「・・・我が主は、大変用心深い方で、情報が漏れることを極度に嫌っておるのだ」


(なにそれ、私みたいな奴ね)


「それで、部下すべての者の言葉を、《言霊》で縛っておられる・・・」


(へぇ・・・やっぱり言霊ってあるんだ・・・)


この世界では、言霊は魔法の一種なのだろう。


「ふーん。なら、言葉じゃなきゃいいわよね。『イエス』なら頷き、『ノー』なら首振りで答えられるんじゃないの?」


「あぁ・・・質問に答えても構わない。だから、故郷や仲間達を無闇に殺すのだけはやめてくれ・・・」


「・・・そうね、貴方がちゃんと答えてくれるなら、やめてあげましょう。もちろん、『あれは嘘だ』なんて言わないから遠慮無く答えてね」


まるで最後には裏切る悪者(?)のように答えるワルツ。

というわけで、まともに会話できるようになった水竜に改めて質問をする。


「んじゃぁ、最初の質問。この地方に雨が降らない原因って知ってる?」


水竜は首を縦に振った。


「・・・それは、魔物の仕業?」


首を横に振る。


「・・・ということは魔族・・・いえ、もしかして、魔王本人とか?」


再び横に振る。


「じゃぁ、貴方とか?」


「・・・質問する気はあるのか?」


「何?折角空気を和ませてあげようと思ってたのに・・・・・・冗談よ。つまり、人・・・ってことは無いだろうから、魔道具ね?」


すると、今度は首を縦に振った。


「そう・・・それはどこにあるの?」


すると、水竜はとある方向に視線を向けた。


・・・一方、ワルツはその方向を見なかった。


「・・・もしかして、魔道具の近くって、人払いとかしてた?」


首を縦に振る水竜。


「実は、山の中だったとか?」


肯定する。


「もう、跡形も無いとか」


水竜はかなりいい勢いで肯定していた。


そう、つまり既にワルツが破壊していたのだ。


ワルツが荷電粒子砲で狙った場所は、|生体反応センサで反応が少なかった《人や動物の少ない》場所だ。

そして、魔道具の近くには人払いが施してあった。

偶然の一致とはいえ、ワルツにとっては『狙って下さい』と言っているようなものであったのだ。


「それならそうと、最初に言ってくれればよかったのに・・・」


「だから、言えぬと・・・」


と水竜が口にした時だ。


ギン!!


突然、金属と金属が高速で触れ合うような音が辺りに響く。

水竜が気づいた時には、自分の眉間まで50cm程度の場所を黒い矢のような物体が迫ってきて来ていた。

最早、回避する手段はない。

口封じのための殺刃だろうか。


シーサーペントとはいえ曲がりなりにも竜である彼は、その優れた頭脳をフルに活動させて、矢が突き刺さるまでの短い時間の間で自らの竜生(じんせい)を振り返った・・・。

しかし、幼少期の思い出から今までのことを一巡するほど考えても、矢が自分を貫くことは無かった。

いや、そもそも水竜の命を奪うことは永久に無いのである。


「あっぶな・・・、転移でゼロ距離攻撃とか、普通の人間には反応できないわよ・・・」


そう言ったワルツの両手には、自身よりも遥かに大きな炭素製(?)の矢が抱えられていた。


その姿に唖然とする水竜。

どう考えても、庇えるような位置にいなかったはずの少女が、一瞬の内に移動して、巨大な矢を受け止めているのである。

しかも・・・


「・・・それ、毒が塗ってあるぞ?」


普通の生物が触れれば即死するような猛毒付きである。


「え?うわぁ・・・」


すると、ワルツは矢を超重力で明後日の方向に吹き飛ばした。


バァン!!


第二宇宙速度を大きく超えて飛んで行く矢。

先ほど飛んできた時よりも速く飛んでいき、空の彼方へと消えるのだった。


この世のものとは思えない物を見るような目で、ワルツをじっと見つめる水竜。


「ん?・・・いや、なんかこっち見ないで欲しいんだけど・・・」


と、1人と1体しかいないというのに、そんな失礼なことを言う。


「・・・あまり余り細かいことを気にしていたら、早死するわよ?」


ワルツ的には特に深い意味はなかった。

単なる戯言と言ってもいい。


だが、水竜にとってはこう聞こえた。

今のことを誰かに言ったら殺す、だ。


水竜は、軽く笑みを浮かべながらそんなことを言うワルツが恐ろしくなっていた。

圧倒的な戦力を持った目の前の少女を怒らせたなら、故郷どころではなくこの世界が無くなってしまうのではないか、と。


そして極めつけが、神の姿についての伝承である。

白い髪、赤い瞳、そして身に纏う白と黒の服。


既に、彼にはワルツが神にしか見えなかったのである。


畏怖を感じ、軽く頭を下げる水竜。

しかしワルツは、首が疲れたのかしら、程度にしか思っていなかった。


「さて、これで貴方は・・・魔王にとって用済みってことね」


「・・・そうなりますな」


そう、先ほどの攻撃は水竜の口を封じるための一撃だったのだ。

口を開いて困る者など、水竜の主である魔王しかいない。


ところで、水竜は急にしおらしくなったのだが、ワルツはやはり気づいていなかった。

いや、気づいていて半ば諦めているといった感じだろうか。


「ま、あとはゆっくりと余生でも過ごすのね。・・・その尻尾で生きていけるなら、だけど」


「ん?尻尾・・・んな!?」


どうやら、自分の体が半分以下になっていることに今更気づいたようだ。


皆、自分のことについては盲目なのだ。




というわけで、水竜への尋問が終わった。


・・・いや、一番重要な事を忘れていたことを思い出す。


「そうそう、王都が貴方の主・・・だった者の手に落ちたって、本当?」


空から降りてきた後に、カタリナとルシアの治療を受けて、元の姿の6割程度まで長さが戻った水竜に問いかけた。


「いや、アルタイル様ではありません。魔王ベガでございます」


(なんか、夏の大三角形みたいな名前の魔王ね)


つまり少なくとも2名の魔王がいるようだ。


「じゃぁ、国の北側からベガとかいう魔王が攻めてきていて、南からはアルタイルっていう魔王が攻め始めたってこと?・・・って答えられないわよね」


「・・・申し訳ございません」


つまり、こういうことである。


魔王ベガと魔王アルタイルは互い別々に、このミッドエデン王国を攻めようとしていた。

魔王アルタイルの場合は、アレクサンドロス領を日照りにさせて弱体化させた後に、海と空から攻め入って、植民地化しようとしていたようだ。

小競り合いが多い分、国の北側の守りは硬いので、まだ戦闘が起こっていない南側から攻めようと考えたのだろう。


一方、魔王ベガは、武力に頼ったものではなく、時間を掛けて王都に間者を忍び込ませ、機会を狙って王都を内側から陥落させたのだ。

正攻法が通じない時の常套手段である。

しかし、そう簡単に間者に乗っ取られるとは、国のセキュリティーについて再考したほうがいいのではないだろうか。


いずれにしても、後者はワルツの行動が幸いしたようだが、前者は災いに転じて失敗した、というわけである。


(ということは、ユリアは魔王ベガの下僕ってことになるのかしら)


機会を狙っていた者達の仲間なら、意外に(したた)かなのかもしれない。

そう考えると途端にテレサのことが心配になってくるワルツ。


「・・・急いで帰りましょ!」


「えっ?どうしたの?」


「うん・・・テレサが危ない気がするの」


「えっと、どういうことですか?」


「・・・ユリアがもしかしたら思った以上にやり手かも知れないのよ」


「・・・分かりました」


「なら、ワルツ達は先に帰ってくれ。私は、この水竜ともう少し話をしてみる」


「私も狩人さんにお付き合いしましょう」


狩人とテンポは残るようだ。


「じゃぁ、また後で」


こうして、2人を残してワルツ達は宿へと急いで帰るのだった。




ところで、吹き飛ばした倉庫の屋根と、町の家々の屋根の弁償はどうするのか。

・・・ワルツは考えるのをやめたようだ。

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