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4中-15 バングル2世代目

次の日。


晴れ。

それも、快晴である。


もしもこの世界に週間天気予報があったなら、アレクサンドロス領だけずっと降水確率0%の晴れマークが続くに違いない。


「狩人さんたち、どうしてるかなぁ・・・」


ルシアが空を見上げながら呟く。


「・・・元気よ。たぶん」


すこしぐったりして、投げやりな感じでワルツは返した。

何故、ぐったりしているのだろうか。


(くっそう、テンポめ!)


ワルツは内心で妹に向かって叫んだ。

この時ほど、無線通信機能を搭載していなくて後悔したことは無かっただろう。


・・・要は、テンポがお金以外の全てのアイテムを持って行っているため、ルシアの換えの服すらここには無かったのだ。

というわけで、朝から3時間に渡って皆の服の購入に付き合わされたのである。


いくらユリアが裁縫できるからといって、道具も材料も無しにしかも宿屋で服を作れるわけではないのだ。

その上、直ちに服を必要としている者が3人もいた。

ワルツにはどうやってもルシアとの買い物を回避できなかったのである。


とはいえ、今回は上下2着分しか服を選ばなかったので、3時間で済んだ。

前回の買い物では、午前で足りなくて、午後も服の購入に付き合わされたのである。

その点は、ワルツにとって不幸中の幸いと言えただろう。


結局、3人共まだ選び足りないのか、昼食の時間ギリギリまで何を買おうか悩んでいた。

ワルツが、昼食時よ、と声を掛けなければ、恐らく3人共、今もなお選び続けていたことだろう。

時間を掛けて選んでも、新しい服が出てくるわけではないのに、一体何を探しているというのか。


(やっぱり、見つけにくいものなんでしょうね・・・)


ワルツは考えるのをやめた。


ところで、ルシア達が服を探していたのは古着屋であった。

一方、テレサは曲がりなりにも王女だ。

本来なら、仕立屋、それも相当高級な店に行くべきだろう。


ワルツも最初はそのつもりでいたのだが、


『こうして、色んな服を見て回るのも楽しいものじゃのう』


と言って服を漁っている内に、着たい服が見つかったらしい。

テレサ本人も、


『うむ、これで十分じゃ。むしろ、これを着たいのじゃ』


と言っていたので、無理強いはできまい。


(でも、購入した服が浴衣っていうのも・・・なんか似合いすぎね)


今度、ルシアにも着せてみせようかしら、と服選びを嫌厭しているとは思えないような事をワルツは考えているのだった。




その後、昼食はカフェで摂った。


店は、宿同様、以前行ったことのある店だ。

前来た時に、美味しかったから、とか、サービスが良かったから、といった理由ではない。

理由はワルツの一身上の都合、といえば分かるだろうか。




さて、武具店である。

以前、ルシアと服を買いに来た時も同じ展開だったが、別に計ったわけではなく、単にカフェから近かったためだ。


ところで、例によって例のごとく、店に入る前にワルツは悩んでいた。

店の入り方?

それは以前、悩んだことがあるので今回も悩むことではない。

では、何を悩んでいたのか。


旅に出ると言って、たった3週間程度で戻ってきたら、普通の人なら、本当に旅に出てたのか?、と疑うはずである。

そして、武具店の扉の向こうには顔見知りの店主がいる。

つまりワルツとしては、本当に旅に出ていたというのに疑われるのが嫌だったのだ。

故に、どうすれば旅に出ていたと信じてもらえるか、と悩んでいたのである。


(やっぱり、最初の印象が重要よね。長い間、旅に出ていたかのように話しかければいいかしら)


と思い、ワルツは武具店のドアを開いて言った。


カランコロン


「おやじー!」


「・・・誰だよ」


「ワルツです」


「いや、見れば分かる。はぁ・・・で、今日は何の用だ?」


ワルツが危惧した問題は全く起こらなかったようだ。

むしろ、変なテンションで話しかけたがために、嫌な顔をされた。


「・・・新しいバングルを作りに来ました。・・・ところで、どうです?以前作ったバングルは?」


読んだ通りの展開に話が進まなくて憤りを感じたワルツは、武具屋の店主にジャブを送った。

ワルツたちの予想通りなら、店主は口には言えないことにバングルを使っているはずである。


「あぁ、すごく喜んでもらえたぜ。ありがとうな」


(えっと・・・すごく喜んだ・・・?)


ワルツを始め全員が、ぽかーんと疑問の表情を浮かべる。


店主はそれに気づいて、補足する。


「・・・うぉっほん。甥っ子の成人のプレゼントだ」


「プレゼントだったんですか・・・」


「いやな、俺には子どもがいない分、甥っ子が可愛くてな。ずっと成人の誕生日にどんなプレゼントを渡すかを考えてたんだが、ギリギリまで決まらなかったんだ」


ということらしい。


(誰よ、如何わしいことに使ってるって言ったやつ・・・)


カウンターの側にあった大きな鏡には自分(ワルツ)の姿が写っていた。


「それで、バングルを作りたいっていうのは、そこのお二人さんの分かね?」


「いえ。まぁ、二人の分もそうですが、今回は全員分作る予定です。なので6個ですね」


「そうかい。まぁ、好きに使ってくれ。心配はいらないと思うが、機材を壊さないように注意してくれ」




というわけで、作業場を借りられることになった。


「さてと。じゃぁ、作りますか」


作業場に入ったワルツは、早速カーゴコンテナから取り出したオリハルコン塊を素手で練り始めた。


「カタリナお姉ちゃんがいないけど、できるの?」


「えぇ。まぁ、細かいデザインとかは無理だけど、バングル自体なら普通に作れるわよ?」


そう言いながら、粘土のようにオリハルコンを加工していくワルツ。


「温めてないの、良く形を変えれるね」


「まぁ、そんなに硬いわけじゃないからね」


とはいえ、焼きが入ってない鉄程度の硬さはあった。


こうして出来上がったバングルは、まるで工作機械によって削られたように、完全な円形をした何の飾り付け(レリーフ)もないただのリングだった。

繋ぎ目も、ザラつきも、歪みも無いシンプルな物だ。

だが、シンプル故の美しさがあるといえるだろう。


そんな新しいバングルを6つ作るワルツ。


「で、これを水に付けると・・・」


ジュッ・・・


作業場にあった焼入れ用の水桶にバングルを入れた途端、加熱も何もしていないはずのバングルから湯気が上がった。

だが今回は、焼入れをするわけではなく、単に冷やしただけである。


「もしかして、熱いの?」


「まぁ、無理やり捏ねてたからね」


ここに武具屋の店主がいたなら、その怪力に顔を青くしていたことだろう。

だが、ここには、オリハルコンがどういうものか分からないユリアやテレサ、それにワルツの正体を知っているルシアしかいないので、驚く者はいなかった。

ワルツとしては、誰かに驚いて欲しいかったようだ。


「・・・じゃぁ、ルシア?これにエンチャントを頼める?」


水につけて冷却が終わったオリハルコンリングをルシアに渡す。


「えっと、何を付けるの?」


「そうねー、まず自己回復+10かな・・・」


「+10じゃと?!」


「えっ?!」


テレサとユリアが驚く。


「・・・今更じゃない?テレサがつけてるそのバングルだって・・・」


バングルの異常なエンチャントを説明するワルツ。


『・・・』


すると、バングルを視線の高さまで上げた状態でフリーズするテレサ。

そして、そのバングルを見て固まるユリア。


「・・・まぁいいわ。じゃぁ、次なんだけど・・・」


2人を放置して、ワルツは次々とエンチャントの内容を告げていった。


自己回復+10

物理防御+10

魔法防御+10

火耐性+10

冷耐性+10

雷耐性+10

風耐性+10

異常耐性+10

エレメント無効

妨害無効


天使との戦闘でエンチャントが無効化されたことを踏まえ、《妨害無効》というエンチャントをつけた。

だが、本当に効くかは不明である。

あとは、ユリアの毒を使った自殺の件があったので、毒を無効化する《異常耐性》を付けた。

普通の毒なら自己回復+10で十分に相殺だが、強い毒の場合はどうなるのか分からないので予防措置として付けることにしたようだ。


「魔法攻撃は付けなくてもいいの?」


「このバングルは、みんなに常に付けていて欲しいの。昔のバングルだと、修練の邪魔になるでしょ?」


前回作ったバングルも皆の身を守るために作ったはずなのだが、異常に攻撃力が増強されるため、修練の邪魔になることもあって、今ではあまり使う機会が無かった。

それに、特にルシアの場合は魔法攻撃力が増強されると、なにかと使い勝手が悪すぎたのである。

なので、今回は攻撃系の強化を付けないでいくことにした。

同様に、狩人専用の物理攻撃力増加のエンチャントも付けない。


「ふーん。分かった」


メシウマを付けないの?とは聞かないルシア。


「あとは・・・テレサとユリア?何か付けて欲しいエンチャントってある?」


エンチャントベースの近くにあった一覧表を渡して考えてもらう。


「ふむ・・・」


「魅了無効っていうのもあるんですね・・・」


ユリアは自分の天敵となるエンチャントを発見したようだ。


「あ、ルシア?魅了無効も入れておいて」


「うん」


「い、いえっ、皆さんのことを魅了なんてしませんよ?」


「貴女は良くても、他の夢魔が魅了をしてこないとは限らないでしょ?」


「あ、はい・・・そうですね」


(ところで、異常耐性とどう違うのかしら)


とワルツが考えていると、ユリアも決まったようだ。


「妾はこれを付けて欲しいのじゃ」


テレサが指を指した先には・・・


「縁結び・・・却下ね」


「んな・・・乙女の夢を奪おうというのか?!」


「だって、目的は私でしょ?」


「ぐ・・・」


どうやら図星だったようだ。


「はいはい、じゃぁ、もうこれでいいわね・・・あれ?」


悔しいのか唇を噛みしめるテレサから一覧表を取り上げ、元にあった場所に戻そうとした時だ。

ワルツは、一覧表の後ろに書いてあったことが気になった。


「自作エンチャントについて?」


「え?自作のエンチャント?そんなことできるの?」


(そういえば、ランダムでエンチャントが掛かる的なことを前に店主が言ってたような気がするわ・・・)


「えっと・・・魔力をありったけ込めて、鑑定台の水の中に沈めるらしいわよ?・・・試してみましょうか」


「うん。でもいいの?新しいバングルで試しても?」


「まぁ、気に食わなかったら作りなおせばいいし」


また材料に戻して、である。


「それに、魔力をありったけ込めるって書いてるけど、ルシアがやったらどうなるのかしらね?」


ニヤッと笑みを浮かべるワルツ。


「魔力をありったけ・・・」


ルシアも笑みを浮かべる。

だが、ニヤッっとではなく、新しいおもちゃを見つけた子どものように目を輝かせて、だ。


「やってもいいの?」


「えぇ、でも無理しないでね」


すると、ルシアは目を瞑ってバングルに魔力を込め始めた。


ゴゴゴゴゴ・・・


地面が小刻みに揺れ始める。


「ちょ、ちょっと・・・地震魔法とか発動してないわよね?」


だが、ルシアは集中しているのか、返事は帰ってこなかった。


更に魔力を込めていくルシア。

すると、徐々にバングルから青白い液体のような、あるいはドライアイスから出る煙のような、実体を持たない何かが()()()()()漏れだしてきた。


「・・・これ以上は無理かな」


どうやら、バングルの限界まで魔力を注いだようだ。


「これ、触っても大丈夫よね?」


「んー、わからないけど、大丈夫じゃない?」


一方、テレサは、


「・・・じょ・・・冗談じゃろ・・・」


獣耳を両手で抑えながら驚愕の視線をルシアに向けていた。

相当な()()として聞こえていたようだ。


ユリアの方は、特に変わった様子は無かったが、バングルから漏れ出る何かに怪訝な表情を浮かべていた。


「ん?」


ワルツがとあることに気づく。


「ルシア?まだ、魔力は残ってる?」


「うん。まだ全然だよ?」


「じゃぁ、もっとバングルに魔力を注いでくれる?」


「えっ?もう、漏れてるのに?」


「えぇ、いいの」


「うーん・・・分かった」


納得いかない様子だが、姉の言葉に従うルシア。


「・・・」


再び、地響きが起こり、バングルから魔力が漏れだしてきた。


「これを・・・」


そして、ワルツは重力制御を駆使し、流れ出てきた魔力を堰き止め、バングルに押し返した。


「・・・水みたいに垂れてるから重力が効いてるのかなと思ったら、その通りだったみたいね」


つまり、魔力は重力に影響を受けるのである。


「重力?」


普段からワルツは重力制御を駆使しているが、ルシアの前で重力という言葉を使ったのは、これが初めてではないだろうか。


「星が、みんなを引っ張る力よ」


『?』


全員が怪訝な表情を浮かべていた。

どうやら誰も重力を理解できなかったようだ。


「まぁ、細かいことは今度説明するとして、どう?まだ魔力が漏れてる感じはある?」


重力制御で腕輪の中に魔力を押し留めているのである。

漏れることはないだろう。

その代わり、


「漏れてはいないけど、入り難くなってきたみたい・・・でもこれくらいなら・・・!」


すると、バングルに注ぐ魔力量を増やしたのか、ルシア自体も青白い光を放ち始めた。


ゴゴゴゴゴ・・・!


同時に、地響きも強くなってくる。


「・・・」


テレサは、両耳を抑えることも忘れて、口を開けたまま固まっていた。


獣耳の無いユリアも、目の前の異常な光景にトンデモナイことをやっていることに気づいたようだ。

机の下に隠れて、ガタガタ震えていた。

念のため言っておくが、地鳴りの原因はユリアの震えではない。


「・・・まだまだ!」


ルシアが更に出力を上げる。


(これ・・・大丈夫かしら・・・)


ワルツ自身も何となく危険な予感を感じ始めていた。

ルシアの身体から漏れていた魔力は、最初は青色だったが、今ではオレンジを超えて赤くなっている。


バングル自体も、魔力が漏れ出ないように重力制御を行使した結果、30000Gを超えて光も逃さない真っ黒な物体へと変わっていた。


「ルシア?これくらいにしておきましょ?」


「えっ?・・・うん・・・」


彼女には未だ余裕があるようだ。


「注いだ魔力やオリハルコンが無駄になっても困るじゃない?」


「分かった」


こうして、魔力の注入が終わった。

いよいよエンチャントである。


ワルツは超圧縮したままの状態のバングルを鑑定台の水に沈めた。


ジュッ・・・


まるで焼石を水に入れたような音が鳴った後、真っ黒なバングルが鑑定台の水を全て吸い込んだ。


すると、光すら逃さないほどの超重力が掛かっているはずのバングルから一瞬だけが光が漏れる。

どうやら、エンチャントに成功したらしい。


・・・だが、ワルツにとっては、エンチャントが成功したことよりも気になることがあった。

鑑定台の水が全て無くなったことである。


「・・・店主さんに怒られないかしら・・・」


もしも普通の水じゃなくて、高いものだったらどうしよう・・・、と一抹の不安がワルツの脳裏を過った。


・・・だが、今の問題は目の前のバングルだ。

ワルツは鑑定台の中で重力制御の出力をゆっくりと弱めていったのだった。


ランダムのエンチャント・・・ん?マイ○ラ?


修正:幻術耐性+10 を消去

↑消すの忘れてた(術者も何やってるか分からなくなるじゃん・・・)

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