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4中-13 手違い

ルシアにしては魔物の倒し方が非常にスマートだった。

普段の彼女なら大艦巨砲主義よろしく大規模魔法を使って吹き飛ばすところだっただろう。


だが、彼女が使った魔法は、レーザー魔法だ。

レーザーは当たっても爆発したりはしない。

もちろん、超高出力のレーザーを照射して、対象物を瞬時に蒸発させれば爆発の真似事はできるが、そこまで強い光源をルシアが作れるかどうかは・・・いや、作れるか。

兎も角、今回の攻撃で、爆発は起こらなかった。


だが、ワルツにとって不可解な現象が起こっていた。

別々の場所にいた複数の敵を突き抜けていくかのように、光が曲がったのだ。

ホーミングレーザーというやつだろうか。


そんなレーザーが一度に100本以上放たれたのである。

それだけで、約半数の3000の魔物が絶命した。


「天使と戦うときはこれでいいとして・・・次はこれかな?」


まるで、戦い方に迷うワルツのようなことを口にしながら、次の魔法を行使する。


ドシャン!!!!!


ただひたすらに、ドシャンという音が周囲から聞こえた。


「ひぃっ!!」


ユリアが怯える。


「う・・・おぇぇぇぇっ!!」


周囲の人々が吐瀉物をまき散らす。


「・・・」


カタリナも生体実験を繰り返していたカタリナも黙りこむ。


「・・・ルシア・・・それは拙いと思うの」


「・・・うん・・・やり過ぎたかも・・・」


一体、何をしたのか。


残り3000匹の生きている魔物、さらには既に仲間たちの攻撃で絶命していた魔物全てを爆散させたのである。


ドシャン、という音は火魔法によって、魔物の内部から()ぜた音である。

それもただ爆破したわけでなく、まるで魔物の全身が爆発物になったかのように、まさに粉々になるように吹き飛ばしたのだ。

虫眼鏡を用いて辺りを探しても、肉や骨の痕跡すら残っていないだろう。


後に残っているのは、血だまりと死臭だけだ。


「誰にも迷惑はかけてないけど・・・これじゃ、魔物を回収してお祝いも何もできないわね・・・」


「うぅ・・・ごめんなさい・・・」


ルシアは獣耳をぺたっとさせて謝った。


「まぁ、魔物を回収するっていう話はしてなかったし、仕方ないわね」


「うん・・・」


力の調整が苦手であることで、結果として姉に迷惑を掛けてしまったと思っているルシア。


「(もっと、魔法をうまく使えるようになりたい・・・)」


魔法をうまく扱いたいのに、練習すればするほど、より強力になって操作し難くなっていく。

まさに悪循環だった。


だが、ルシア自身、それに気づいてはいなかった。

ワルツも、仲間たちもだ。




さて、サウスフォートレスへの襲撃は終息した。

・・・とは問屋がおろさない、というやつだろうか。


ーーーーーー!!


擬音では表せない鳴き声が周囲を包み込む。


「今度こそ本物のドラゴン・・・」


一人だけ疲労困憊(ひろうこんぱい)状態だった狩人が呟いた。


そう、サウスフォートレスの空の一点が輝いた途端、一匹の巨大なドラゴンが姿を現したのだ。

今度は地竜ではなく、空を飛ぶタイプ(飛竜?)のようだ。


「転移魔法ですね」


獣耳をしきりに動かしながら、カタリナが言った。

どうやら、頭の上のドラゴンは魔法で飛ばされてきたらしい。


「随分と使い勝手がいい魔法ね。でも、どうせ町を攻めるなら、街の中に転移したほうがいいと思うのだけど・・・」


ワルツが指摘し、カタリナが答える。


「基本、町の中には、魔紋を登録された者しか転移できません。あ、魔紋というのは、個人特有の魔力パターンのことですね」


つまり、指紋と同じである。


「じゃぁ、犯罪に魔法を使うと、直ぐにバレるってこと?」


「いえ、そういうわけではないんですが・・・」


カタリナは、頭の上で旋回しているドラゴンに目を向けながら、魔紋について矢継ぎ早に説明する。


「町には魔物の侵入を防ぐ結界装置があるのですが、それが転移魔法による侵入も防いでくれているんです。それで、その結界装置に転移者の魔紋を登録しておくと、自由に出入りできるようになります。ちなみに、内側から外に出るのは自由ですが、出町手続きを踏まないと再度街に来た時に追加で手数料を取られたりするので注意して下さい」


そう言いながら、ルシアに視線を向けるカタリナ。


「・・・なんか、爆弾だけ転移させれば、酷いことになりそうだけど」


「そうさせないために、転移装置への登録には厳重な審査があるんですよ」


「ふーん」


(魔法使いを捕まえて洗脳するとか考えないの?それとも、何か対策でもあるのかしら・・・)


対策があったとしても、それは国家機密だろう。

まぁいいわ、とワルツは転移について考えることをやめた。


・・・ところで、である。

ワルツは先程から疑問に思っていることを口にした。


「ねぇ・・・何で攻撃してこないか、分かる人いる?」


もちろん、頭の上で旋回しているドラゴンのことだ。


「いや、おらんと思うぞ?」


カタリナと無駄話しながらも、いつ攻撃されても対応できるよう、監視を続けていたワルツ。

攻撃できる時間はいくらでもあったのだが、今もなお、ドラゴンは攻撃してこなかった。


「もしかして、敵じゃないとか?それはないか」


「聞いてみればいいのではないでしょうか」


「ドラゴンって喋れるの?」


「近所に居たお爺ちゃんは喋ってましたね」


どうやら、カタリナの家の近所にはドラゴンが住んでいるらしい。


「ふーん・・・でも、あれって、どう見てもさっきの魔物たちの親玉よね?・・・ちょっと尋問してみましょうか」


「尋問って・・・拷問の間違いじゃないのか?」


「だって、捕まえたら一応捕虜じゃない?なら相応の扱いをするべきよね」


狩人は口まで出かかっていた、今更だろ、と言う言葉を飲み込むのだった。




というわけで、直接聞くことになった。

のだが・・・。


「てぁっ!!」


ワルツの気の抜けた掛け声と共に、ドラゴンに重力制御がかかる。


ドゴォォォォン!!


すると、城門の前200m程度の場所にドラゴンが凄まじい勢いで落下して、地面にクレーターを形成した。


「あ、尻尾と羽が千切れちゃったけど、まぁいいわよね、そのくらい」


「ひぃっ!!」


一歩間違えていたら、自分もそんな目に遭っていたのかもしれないと思い、震えるユリア。

だが、実際にはもっと酷い目に遭っていたことを本人は知らない。


「ワルツ・・・あれ、生きてるのか?」


おおよそ時速300kmで地面に衝突したのだ。

傍目から見れば、たとえドラゴンであっても即死したと思うレベルである。


「ドラゴンだし、あのくらいじゃ死なないんじゃない?」


(私なんて、もっと酷い目にあったけど問題なかったし、大丈夫でしょ・・・たぶん)


徐々に自信が無くなってくるワルツ。

そもそも、自分と比べることが大間違いである。


ワルツは、ルシアがそんな(じぶん)を見て成長していることに、気づいていないようだ。


「ま、様子を見れば分かるわよ」


といって、地面にめり込んでいるドラゴンを引っ張りあげた。


「・・・ドラゴンって、首が直角に曲がるか?」


「・・・そういう種族じゃない?」


「し、死んでる・・・」


そう死んでる。

ワルツが何と言おうと死んでいる。

たとえワルツの言う通り、首が直角に曲がる種族のドラゴンがいたとしても、脳はもちろんのこと、心臓などの内臓も破裂していることだろう。


「・・・つ、つい、手が滑って・・・」


ワルツは地面に膝と手を付いて項垂れた。


「ま、まぁ、これでこの街も安全だろう」


「そ、そうだよね。あっ!このドラゴンのお肉、食べられるんじゃない?」


「では、私が解体しましょう。一度ドラゴンをバラして見たかったんです」


「私も手伝わせて頂きます」


「うむ。ウマそうなトカゲじゃのう・・・」


「えっと・・・」


「うぅ・・・みんな酷い・・・フォローしてくれてもいいのに・・・」


皆、ワルツを置き去りにして各々好きなことを言い始めたところで、ワルツが起き上がった。




と、ドラゴンの件が一段落したその時である。


「あっ!忘れてた!」


狩人が何かを思い出したらしい。


「急にどうしたんですか狩人さん。一瞬、ドラゴンが目を覚ましたかと思いましたよ」


そう言ってチラッとワルツの方を見るテンポ。

どうやら、姉を煽っているようだ。


(ぐぬぬぬ・・・)


心のなかでワルツが唸っていると、狩人が続きを話した。


「ワルツ!今、父様や騎士団の仲間たちが、戦いに出てるらしい」


「・・・それって、人間相手の戦いじゃ・・・無いですよね」


わざわざ、人との接触を避けている彼女に言うのである。

相手は人ではないのだろう。


「あぁ。1週間ほど前から、海の方で魔物が上陸してきているらしい」


(ということは、そっちが陽動で、さっきの魔物たちが本隊ということ?)


「・・・どうします?援護に向かいますか?って、聞くほどのことでもないですね」


「・・・すまん」


「ですが、もうこの街が攻められないとは限りません。ここは、パーティーを二分したほうがいいのではないでしょうか」


テンポが提案する。


「そうね。じゃぁ・・・狩人さんとカタリナとテンポが伯爵のところに行って、私とルシアとテレサがここに残るっていう方向で」


「ええと・・・私は・・・」


一人、名前を呼ばれたかったユリアが不安そうに口を開く。


「テンポが出かけちゃうから、()()係の貴女にはここに残って貰おうかしら・・・」


そう言いながら、テンポの方をチラッと見るワルツ。

だが、テンポが気にした様子はない。


(ぐぬぬぬ・・・)


ワルツのただならぬ気配を感じたのか、ユリアは萎縮しながら返事を返す。


「は、はひぃ・・・」


どうやら、ワルツから殺気が漏れていたようだ。

もちろん、火器管制システム(ロックオン)によるものではない。


「・・・って冗談よ。あなたには用意するものがあるから残ってもらうわ」


「わ、わかりました」


なんとか、誤魔化せたようだ。


というわけで狩人たちとは別行動が決定した。




ところで、ドラゴンが襲ってこなかった理由は何だったのか。


相手側の視点から、作戦の流れを簡単に説明するとこうである。

1、魔物を町にけしかける

2、しばらく時間を置いて、籠城する兵士たちとにらみ合いになった辺りでドラゴンの登場

3、ドラゴンが突破口を開いて総力戦で町を落とす


だが、2の時点で、味方が誰もいないとなったらどうだろう。

しかも、味方の死骸は何もないのだ。

つまりドラゴンは、場所を間違えたんじゃないか、と不安に駆られたのである。

それで、様子を伺うために攻撃もせず、街の上空を旋回していた、というわけだ。


戦場で迷いを見せると狩られる、という典型例ではないだろうか。

まぁ、ワルツやルシアがいる時点で、逃げられはしないのだが。


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