表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
118/3387

4中-11 狩人のターン?

旅をはじめて3日が経過した。


その間、ルシアと狩人による魔物の大間引きが行われたのだが、アルクの村からサウスフォートレスへの街道も随分と安全になったのではないだろうか。


狩人といえば、2ヶ月前に大怪我を負ってから普通に魔法が使えるようになっていたのだが、ワルツの読みだと、もう既に使えなくなっているはずだった。

これが狩人の鍛錬の結果なのか、それともワルツも知らない人体の不思議が起こったのかは定かではない。

ただ、怪我をした直後と全く同じように、火魔法などの攻撃魔法が今でも使えているか、というとそういう訳でもなかった。


では、何の魔法が使えるのかというと、身体強化の魔法だ。

狩人のダガーを使った攻撃スタイルを考えるなら、最適な魔法だったので、本人も好んで・・・、というより無意識のうちに使っているようだ。


ところで、勇者パーティーでは賢者が身体強化の魔法を使っていたようだが、つまり狩人は賢者の素質があるというになるのだろうか。




さて、他の者達の話は後日するとして、ワルツ達は目的地であるサウスフォートレスに昼過ぎ頃、到着した。


入城検査の際、テレサは町娘の服装、変身魔法は無しの状態で検査を行った。

こんな辺境では誰もテレサの顔など知らないだろう、と言う狩人の言葉通り、何の問題も起こらなかったのだが・・・。

変身魔法を使って他人に化けていた方が余程安全だというのに、何故変身魔法を使わなかったのか。


それは、テレサがバングルを付けた状態だと、変身魔法に余計な効果(幻術)が付随するからだ。

しかも、彼女の意思とは無関係に、勝手に発動するのだから(たち)が悪い。

まさか、サウスフォートレスの町を誰も脱出不可能な迷宮にするわけにもいかないだろう。


では、バングルを外せばいいのでは、と言う話になるのだが、王女である彼女の身を守るという意味ではあまり勧められた方法ではない。

バングルを付けているだけでも、物理・魔法防御のエンチャントが勝手に守ってくれるのだから、付けっぱなしでいることに越したことはないのだ。


一方、ユリアの方は、サキュバスの姿のままでは拙いので、アルクの村に来た際と同じ姿に変身してもらっていた。

とりあえず、これでバレていなさそうなので、問題は無いだろう。


しかし、変身していてもしなくても、パーティーの中で最もスタイルの良い女性が雑用というのはどうなのだろうか。




ところで、ワルツと狩人は2人だけで伯爵邸に足を運んでいた。

今回も宿の代わりに伯爵邸にお世話になる予定ではあるが、別に到着して早々に休憩する訳ではない。

伯爵に用事があったのである。


他、ルシアとカタリナは武具店で新しいバングルの製作。

テンポとテレサとユリアは、服を買いに出かけている。


ワルツは狩人と歩きながら口を開く。


「やっぱり、変わりませんね」


この町の見た目が、である。

ずっと晴れ続きで干からびていてもおかしくはないのに、2ヶ月前に訪れた際と同じく、噴水は枯れず、市場には瑞々しい野菜が並んでいた。


「だから言ったろ?地下水脈があるって」


(地形から考えると、水脈がありそうな場所ではないんだけど・・・地底湖かしら・・・)


「まぁ、念のためですし、伯爵と話をしてみましょう」


「あぁ。問題はないと思うが、雨が降らない事は私も気になるからな」


街の中の様子を見ながらしばらく歩いて行くと、伯爵邸に到着する。


門番に顔パスで通してもらい、以前、談話会を開いたリビングのような場所に来た。


「じゃぁ、父様を呼んでくるからここで待っててくれ」


「分かりました」


すると、狩人がリビングから出ていった。




「・・・」


チックタックチックタック・・・


リビングでは振り子式の時計の音だけが響いていた。


(この音、落ち着くのよね・・・)


ふと、元の世界の自宅にあった古時計を思い出すワルツ。


(姉さんたち、元気かしら・・・まぁ、私が心配することじゃないわね)


そう、他のガーディアンの心配をする前に、ワルツは自分自身の心配をすべきなのだ。


と、ワルツがホームシックになりかかっている時だった。


ゴゥン・・・・・・


低い地鳴りが響いた。


ワルツはソファーに座ったまま、目を閉じ、周囲の状況を確認する。


(敵性因子、10000弱。さっきまでレーダーには反応が無かったから、転移か何かを使ったのね)


敵性因子とはいっても、IFF(敵味方識別装置)があるわけではない。

町の正門付近を攻撃する生体反応があったのだ。

敵、と判断しても問題はないだろう。


ワルツが情報を収集していると、


カーン、カーン・・・


という鐘の音が聞こえてきた。

どうやら、敵襲を知らせる鐘のようだ。


その音が聞こえるかどうかのタイミングで、狩人が部屋に戻ってきた。

だが、伯爵(父親)は一緒ではないようだ。


「ワルツ、敵だ!」


「そうみたいですね」


「そうみたい・・・って、随分と悠長だな」


「でも数は大したことは無いみたいですよ?敵は1万です」


「1万・・・」


ゴクリ、と唾を飲み込む狩人。

そんな狩人にワルツは笑みを浮かべて言った。


「とりあえず、皆がやってきたようなので、私達も外に出ましょう」


「・・・そうだな」


ワルツ達2人は伯爵邸の外に出た。




家の外に出ると、仲間がワルツ達を待ち構えていた。


皆と分かれてからそれほど時間は経っていないので、新しいバングルの作成や服の購入はまだのようだ。

雑用であるはずのユリアが何も持っていないので、間違いないだろう。


「お姉ちゃん、魔物がいっぱい攻めてきたみたい!」


どうやら、人間ではなく、魔物が攻めてきたようだ。

残念ながらワルツの生体反応センサーでは、反応した生体が何であるかまでは特定できないのである。


「えぇ、そうみたいね。でも、実はもう作戦を決めてあるの」


(っていっても、作戦ってほどでもないんだけど・・・)


「作戦?」


ルシアが頭を(かし)げる。


「作戦・・・って、1万の敵と戦うのか?」


「えぇ・・・戦わなくてもいいの?」


「いや、むしろありがたい」


この町は狩人の故郷である。

魔物に対する策を講じていない今、1万もの魔物が一変に襲ってきたら、要塞であるこの街とて無傷で済まないだろう。

故に狩人はワルツ達の参戦を喜んだのだ。

これで、町は安泰だ、と。


・・・だが、


「そう。じゃぁ頑張ってね狩人さん」


「・・・は?」


ワルツは狩人に丸投げした。

町を守るために戦うつもりではなかったのか。


「今日は、狩人さん一人に頑張ってもらおうと思うの」


「いや、ちょっと待て。まさか1人で1万の魔物と戦えって言うのか?」


「えぇ。拙そうだったら援護するから、大丈夫よ?」


「・・・」


ワルツが本気で言っている事を察した狩人は俯いた。

・・・だが、消沈した訳ではない。


「そうか・・・全力でやれ、っていうんだな?」


「えぇ、今の狩人さんなら出来ると思うわ・・・なんなら、バングルを使ってもいいわよ?」


「いや、使わない。・・・見てろよワルツ」


するとニヤッ笑みを浮かべる狩人。


「えぇ。楽しみにしてるわ。もしも武器がダメになったらいつでも言ってちょうだい・・・テンポが交換してくれるから」


「・・・人任せなんですね」


「これも修練よ」


「・・・分かりました」


テンポは渋々承諾した。


「装備はそのままでいいの?」


「あぁ、甲冑なんて着たら重くて動けんからな」


「そう・・・じゃぁ、行きましょうか」


ワルツ達は街人が流れていくるのとは逆の方向、即ち、町の正門に向かって歩き出した。




正門まで来ると、普段は開いている大きな観音開きの金属製の門が閉まっていた。

騎士団や衛兵、自警団の人々が辛うじて正門の閉鎖に成功したようだ。

だが、既に地面に伏せて息絶えている騎士や、冒険者、それに町の住人と思しき者達を見る限り、それなりの代償を払ったようである。


更には魔物の死骸が眼に入ってきた。


「・・・彼らも魔王の使いなの?」


ワルツが死んでいる魔物を指してユリアに問いかけた。


「い、いえ。我が主は魔物を人にけしかけたりはしません!」


ユリアが必死になって否定する。


(普通、魔王って、人と魔物を戦うように仕向けるのが仕事じゃないの?)


正しくは、魔物を使って自分の領地を拡大することが魔王の目的、ではないだろうか。


「とりあえず、殲滅しても問題ないわよね」


「えぇ。いいと思います」


ユリアは言い切った。

どうやら、ユリアの主である魔王とは本当に関係が無いようだ。

なら、この魔物たちをけしかけているのは、別の者ということになる。


(もしかして、魔王って、たくさんいるのかしら・・・)


可能性としては無い話ではなかった。

まぁ、ユリアのような魔族(?)が住む国を統括する者がいれば、魔王、ということになるのだろう。


ワルツが魔王の存在について、思慮を巡らしていると、騎士の一人から狩人に声が掛かる。


「団長!」


(団長?)


一人の若い騎士が狩人に向かってそんなことを言い始める。


「済まんな。いつも任せっきりで」


「いえ、町のピンチに駆けつけてくれたんですね。助かります!」


「えっと・・・どういうことですか?」


「あぁ、ワルツ達には言ってなかったか。私はサウスフォートレスの騎士団長を兼任してるんだ」


『はぁ?』


仲間たちから疑問の声が上がる。


「いや、隠してたつもりはないんだが・・・って、何するワルツ!」


狩人がしゃべっていることもお構いなしにワルツは狩人を重力制御で持ち上げた。


「まぁ、騎士とか団長だとかって言う話は何となく分かったんで、これ以上犠牲者を出さないためにも、さっさと片付けに行って下さい」


と言って、正門の上まで持ち上げてから、ゆっくりと魔物のど真ん中に狩人を下ろした。

ついでに仲間たち全員も城壁の上に移動させる。


「うわぁあっ!!団長が魔物の中に!」


「貴様ぁぁぁ!!何をする!!」


「おい待て、この人って例の・・・」


「・・・お前、殺されるぞ?」


「えっ・・・」


騎士団の中でそんな会話が繰り広げられていた。

最早、誰も狩人のことなど見ていない・・・。

普段、町に居ないだけあって、人望は無いようだ。

何やらワルツのことを恐れている者もいるようだが、無理矢理に血を抜かれた経験でもあるのだろうか・・・。


そんな彼らを無視して、ワルツは狩人にエールを送る。


「じゃぁ、狩人さん!頑張ってください!」


「・・・ちょっと多い気がするが・・・まぁ、やってやるさ!」


こうして、狩人の戦いは唐突に幕を開けた。




フラッ・・・


そんな表現が的確だろうか。

狩人の姿がブレる。

とは言っても、高速で移動したことによる残像ではない。

存在自体が希薄になったのだ。


目の前に見えているはずなのに、注意深く意識を向けないと次の瞬間にはどこに行ったのか分からなくなる。

最早、特殊能力といっても過言ではない領域に足を踏み入れているようだ。


「ここまで陰が薄くなるなんて・・・流石狩人さん」


「えっと、ワルツさん?別に普段の狩人さんの陰は薄くないと思うのですが・・・」


「そうですね。私ほどでは無いと思います」


カタリナが指摘し、テンポが明後日の方向へ話を持っていく。


と、そんな戦闘とは関係のない話の裏では・・・


サク、サク、サク・・・


まるで軟らかい野菜を裁断機で切るかのように、魔物の首が飛んでいた。

切ったのは狩人だが、その存在は認知出来ない。


「・・・ごめん、何が起こってるのか説明できるやついるか?」


「・・・突然、血しぶき上がって魔物が絶命する。これでいいか?」


「・・・あぁ、どうやら、俺の認識が間違っていたわけではないみたいだな」


・・・常人である騎士や衛兵たちには、既に何が起こっているのか分からなくなっているようだ。


(510、520、530・・・)


次々と魔物の殺害数が増えていく。

すると、ワルツにすらどこにいるのか分からない狩人から声が掛かった。


「今、何匹だ?」


「600弱です」


「いや、1万とか無理だろこれ」


いきなり狩人が音を上げる。


「歯が保たん・・・テンポ!」


「どうぞ」


先ほどまでワルツの隣に居たはずのテンポが、いつの間にか狩人の隣に立ってダガーの刃を交換していた。

こちらは、隠密の技術・・・ではなく、単に陰が薄いだけである。


(どうやって、存在自体が薄くなっている狩人さんの位置を特定したのかしら・・・)


実は、やっぱり影が薄いだけじゃないの?と、ワルツは疑惑を深めた。


「お、おう。済まないな」


突然現れたテンポに驚きながらも、魔物の解体を再開する狩人。

だが、身体強化をしているとはいえ、徐々に彼女にも疲れが見え始めた。


即ち、気配が濃くなってきたのである。


((やっぱり、1万は多かったかぁ・・・))


ワルツも狩人も自分の言った言葉に反省する。


「1000まで行ったらカタリナと交代な!」


「・・・いいでしょう」


というわけで、ワルツが介在すること無く、選手の交代が決まった。


「カタリナか・・・」


テレサが少し嫌な顔をした。


「・・・うわぁ・・・」


ユリアもこの町に来るまでのカタリナの戦い方を思い出したのか身震いをしていた。


(970、980、990・・・)


「1000匹行ったわよ!」


「・・・もう無理、交代!」


1000匹の魔物を屠殺した狩人を重力制御で引き上げる。

この頃には、交換したダガーの刃も既にボロボロになっていた。


(もう少し、耐久性を考えたほうがいいかもしれないわね)


ワルツは、ダガーの新しい替え刃の材質を考えながら、狩人の代わりにカタリナを戦場に下ろした。

ちなみに、カタリナは狩人と違って、バングルを付けている。

パーティー唯一の女医(?)に何かあっても、誰も治すことが出来ないからだ。


「っ!行きます!」


そしてカタリナの戦いが始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ