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9.6-02 魔王たち2

 そして扉を出てすぐのところで——


「あ、そうでした。陣形はどうしましょう?」


——ユキが後ろから付いてくる四天王たちに対し、そんな質問を投げかけた。


「もしもよければ、普段、勇者さん方と狩りをしている時と同じように、ボクが前衛を務めたいのですが……」


「「「「 ?! 」」」」


「あの……やはりダメでしょうか?」


 四天王たちの反応があまり優れなかった(?)事もあって、心配そうに問いかけるユキ。

 一方の四天王たちは、実のところ反応が優れなかった訳ではなく、ユキに対して、色々と言いたいことがあっただけのようだ。まぁ、勇者と一緒に狩りをしているなどという話を聞けば、そんな反応を見せても無理はないと言えるだろう。

 そんな中、湧き上がってきた疑問をどうにか押さえることに成功したのか、四天王のリーダーであるカリムがこう口にした。


「魔王……ではなくて、ユキ様を先頭に立たせて戦うなど、アルボローザ四天王の名折れ……。ここは我らが前衛となり盾となりますので、僭越ながらユキ様には、後方からの魔法による援護をお願いいたします」


 それに対しユキは、何か言いにくいことでもあるのか、口をもごもごと動かした後……。どこか恥ずかしそうに返答する。


「実はボク……事情があって魔法が使えないんですよ……」


「「「「えっ?!」」」」


「もしも後方から援護して欲しいという事でしたら……あ、ちょうどいいタイミングですね。実演します」


 ユキはそう言うと、間者が持っていたと思しき短剣を拾い上げて、それを、ちょうど廊下の先に見えた黒装束の人物に向かって——


「こんな感じの援護になりますが、それでも良いでしょうか?」ブゥンッ


パァンッ!!

ズドォォォォン!!


——と、音速を遙かに超えた速度で投げつけた。その結果、黒装束の間者は、言葉で表現するのを躊躇われるような見た目へと変わり、その上、城の壁も、無数の刃か何かに切り刻まれたかのように、傷だらけになってしまったようである。どうやらユキが投げた短剣は、投擲時の衝撃に耐えきれず、空中分解して、ショットガンの弾のようになってしまったらしい。


「「「「…………」」」」ぽかーん


「えっと……あの……どうします?」


「「「「…………」」」」しーん


「あっ、衝撃波で耳が聞こえていないんですね?じゃぁ、聞こえるように大きな声で言いますけど……」


「い、いえ結構です。聞こえています。ユキ様には是非、前衛で戦っていただきたく思います……」


「そうですか……わかりました。じゃぁ、ボクが前衛やりますね?」


 カリムの返答を聞いて、ユキは間者が現れた廊下の先を向き直すと、さっそく先頭を切って歩き始めたようである。それも、前衛を任せられた事が嬉しかったのか、鼻歌を歌いながら……。


 その結果、四天王たちはユキの後ろを付いて歩くことになったのだが——


「(なんなんだ……この人……)」

「(ボレアスを敵に回したら終わるな……これ……)」

「(やべぇな……俺たち、ここで死ぬかもしれん……。それも、この人に殺られてな……)」

「(ランディー……すまない……。どうやら俺は、ここまでのようだ……)」


「〜〜〜♪」


——と、4人とも何故か深刻そうな表情を浮かべていたことに、前を歩くユキは気付かなかったようである。



グシャァッ!!

ズドォォォォン!!

ベチャァッ!!


「脆いですね……。こんなに脆い間者を城に送り込んでくるとは……敵には本当に攻める気があるのでしょうか?」


「「「「…………」」」」がくがく


「……ん?皆さんどうかされましたか?」


「「「「…………」」」」ふるふる


「そうですか……。それでは、そろそろ前衛と後衛を交代しましょうか?」


「「「「 ?! 」」」」びくぅ


「ふふっ……おかしな人たちですね」


「「「「…………」」」」げっそり



 そして城の最上階をしばらく歩き回って……。

 一行は、部屋の中に閉じこもって間者をやりすごそうとしていた執事やメイド、それに戦意を喪失した兵士たちを助けながら、ついにベガの部屋へと到着した。もちろん、避難誘導を兼ねて、他の皆のことも引き連れながら……。

 するとそこには——


「……さすがカタリナ様の殺虫剤。容赦ないですね……」


——まるで壁のように積み重なって通路を塞ぐ虫たちの死体があったようである。そんな彼らは、カタリナによって設置された強力な殺虫剤の餌食になってしまったらしく、そのすべてが身体の内側に足をたたみ込むようにして死んでしまっていたようだ。


「この分だと……部屋の中には入っていなさそうですね?」


「えぇ、助かりました。ですが直接見るまでは気を抜けません。とにかく部屋の中を確認しましょう。万が一、その”さっちゅうざい”という”お香”が効かない虫がいた場合、厄介ですから」


 そう言って、躊躇すること無く、自分の大剣をスコップ(シャベル)代わりにして、虫の死体の中に通路を切り開こうとするカリム。その後ろを他の四天王たちだけでなく、兵士たちも追いかけて……。余力のある者たち全員で、通路の虫たちを取り除き始めた。その際、ユキが手を貸さなかったのは、そんな彼らの後ろ姿に、何か思うことがあったからか。


 そして作業を始めてから数分後。


「扉に辿り着いたぞ!」


「「「おぉ!!」」」


 一行は虫の山に、どうにか人が通れるほどの通路を開けることに成功する。


「では、皆の者たち、それにユキ様。扉を開けます……!」


「「「…………」」」こくり


ギギギギギ……


 そして、皆の先頭にいたカリムが開けた扉の向こう側には——


「……あれ?扉……2つもあったか?」


——カタリナたちが設置した2つ目の扉があって……。しかし、その存在を知らないカリムたちは、首を傾げてしまったようである。



……え?もう先の展開が予想できるじゃと?

さぁ、どうかの?


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