9.5-25 正体25
ドゴォォォォォン!!
ドゴォォォォォン!!
ドゴォォォォォン!!
赤い光——炎の柱は、ライスの町の中で断続的に立ち上っていた。それも1カ所だけではなく、不定期に様々な位置で……。
「な、なに?!」
「爆発です?!」
その様子を見て、戸惑うイブとローズマリー。2人はその言葉通り、町の中で何が起こっているのかすぐには理解できなかったようである。
一方、多かれ少なかれその光景を見たことのある大人たちは、1人を除き、すぐに事態を察したようだ。
「爆発?!まさか……」
「まさかって……何よ?マーガレット……」
『あぁ、おそらく、その”まさか”だ。……あの虫たちの集合体が、町の中にまだいたんだろう』
『ということは……エクレリアだな……』
『エクレリア?どういうことだ、狩人姉?』
『さっき、隣で別のマクロファージを操作しているコルテックスが、ワルツたちと話していたんだ。実はこのアルボローザって国……2つ以上の勢力によって攻撃を受けているのではないか、ってな?』
『2つ以上の勢力……なるほど。それがエクレリアと、世界樹の天辺にいるやつ、ってことだな?』
『…………』
『ん?どうした?狩人姉』
『いや、何でもない……(ワルツは分かっていなかったみたいだが、アトラスには分かるんだな……)』
『そうか……。まぁ、とにかく今は、町の人々の安全を確保しよう』
『あぁ。だけど、どうするんだ?アトラス。私たちはミッドエデン人であって、アルボローザの者ではないんだ。ウチの連中を派遣して、救援活動するわけにもいかないぞ?』
と、そこから見える惨事に、ただ手をこまねくしかなかった様子の狩人。
そんな彼女は本当なら、今すぐに自分の部下たちをアルボローザに送り込んで、救援活動をしたかったようである。しかし、現状において、ミッドエデンの兵士を派遣した場合、この地が大きな戦場になってしまう可能性だけでなく、そもそもアルボローザ側の兵士たちに侵略行為と勘違いされてしまい、救援活動どころの話ではなくなってしまう可能性が否定できなかったのだ。
それを考えて、狩人は判断を迷ってしまったようだが……。ただ、幸いなことに、アトラスには考えがあったようだ。
『安心してくれ、狩人姉。実はもう、対策は考えてある。なにしろ、その策を講じるために、ここに連れてきて貰ったんだからな』
『……どういうことだ?』
『風、地形、天候、人の位置、それに問題が生じている場所……。それだけ情報が揃っていれば、対策のしようもあるってもんさ?それに……実はな?こんなこともあろうかと、秘密兵器を用意しておいたんだ。まぁ、見ていてくれ』
そう口にすると——
ドシュッ!
——と、クマの人形から空に向かって何かを発射するアトラス。その何かは、少し大きめの皿くらいの大きさをした黒い円盤状の物体で……。射出された後、町の上空で、ピタリと動きを止めた。
その直後から、アトラスが呪文のような言葉を唱え始める。それも、ただ言葉を口にするのではなく、まるで、何人かアトラスがいて、同時に喋るかのようにして……。
『——姿勢制御完了。大気観測——完了。熱源探知——成功。FCS制限解除。魔導ジェネレータ定格出力。ターゲット78箇所ロックオン。距離補正——完了』
そしてアトラスが一息吐いた後——
『Fox2!』
ドシュゥゥゥゥゥン!!
——宙に浮かんでいた黒い物体が、全方位に向かって、青白く光る何かを吹き出した。
その様子を例えるなら、青白い回転花火、と表現できるだろうか。もちろん、黒い物体が射出していたのは、人々を感動させるような綺麗な火花などではなく、何かを傷つけるために作り出された醜悪とも言うべき魔力的な飛翔体ではあったものの……。ただ、夜空を流れる星のようにも見える青い放物線に見入っていた者は、少なくなかったようである。
そしてその大量に放たれた放物線は、それぞれが誘導されるかのように火柱に向かって飛んでいき……。そして”ターゲット”に当たった瞬間——
キィィィィィン!!
——と、町の中に、甲高い音が響き渡らせた。
キィィィィィン!!
キィィィィィン!!
キィィィィィン!!
地面に落ちるたびに、まるで砕けるガラスのように高い音を上げる青白い放物線。それは、宙に浮かぶ黒い皿のような物体から吹き出した、無数の氷魔法だったようである。それも超強力な氷魔法だったらしく、町で立ち上っていた火柱は、炎のまま凍り付いてしまった。その他、何も無さそうな場所にも落ちていったのは、アトラスが誤射したわけではなく、そこに虫の集合体がいたからなのかもしれない。
その様子を見て——
『すごいな……あれ……』
「幻想的な光景ですね……。地面から氷の柱が生えてきたみたいです……」
「アトラスお兄ちゃんすごい……」
「…………」ぽかーん
——と、それぞれに驚いたような反応を見せるその場の者たち。
そんな彼女たちに対し、アトラスが状況を説明した。
『あれな……この町に虫が大量に発生してるって聞いて、ブレーズたちに急いで作らせた魔道具なんだ。虫っていう生き物は、温度に敏感で、周囲の気温が低ければ低いほど動きが鈍るから、虫ごとその場の空気を冷やす魔道具を作って欲しいって頼んだんだよ。そうしたら、ブレーズのやつ、あんなとんでもなく強力な魔道具を作り上げてきてな……。聞いたら、エンデルシア国王も一枚噛んでいたらしい。ただ、難点は、いっぺんにターゲッティングしなきゃならないから、ちょっと制御が大変って事くらいだが……どうだ?今ので全部片付けられたとは思わないが、とりあえず当面は、これを使えば、虫たちを押さえ込むことが出来るんじゃないか?』
すると、アトラスのその説明に対し——
『私も欲しいな……』
「でも制御が難しいって言ってましたよ?多分、アトラス様方じゃないと、まともに扱えないんじゃないでしょうか?」
「アトラスお兄ちゃん、やっぱりかっこいいです!」
「…………」ぽかーん
——と、それぞれ感想を口にするその場の者たち。その際、アトラスが何も返答しなかったのは、恥ずかしかったためか、それとも謙遜していたためか。
……あるは、もう1つ、原因として考えられることがあるとするなら——
「……ア、アトラス様……い、いきなり何するかもなの?!」ぷるぷる
——クマのことを抱きかかえていたイブが、突然射出された”黒い皿”に驚いて、今にも泣きそうな表情を浮かべながら、小刻みに震えていたせいか……。
……いやの?
言いたかっただけなのじゃ。
Fox2。
例えそれが空を飛んでいく汚い鉄の塊だったとしても、狐は狐じゃからのう……。




