9.5-24 正体24
『——っていうことになったから、ユリアは、私たちが戻ってくるまでの間、カタリナの補佐をお願いね?』
『あ、はい。いいですね……宇宙。私も一度で良いから行ってみたいものです』
『また今度ね。……って言ってたら、永久に行けなそうだから……そうね。次、ボレアスに行くときとか、ちょっと寄り道していく?』
『上方向に数百キロとか……ちょっと寄り道ってレベルじゃないですよね……。ボレアスに行った方が近いかも知れませんよ?』
『まぁ、地図を上から見る限りは、直線みたいなものよ。……ってなわけで、そっちの伝令は頼んだわね?』
『分かりました。お任せ下さい』
そう言って、無線機の通信を切断するユリア。その通信相手が誰だったのかは、言うまでもないだろう。
そんなユリアは、つい先ほどまで、ワルツたちと共に王城にいたのだが、人に擬態する虫たちの一件があってからと言うもの、ひとり町の中を飛んでいたようである。そしてその行き先は——
「(……うわー、ダリアの家、連絡通り無残に崩れてるわね……。よくやったわ。マリー!)」
——ダリアやローズマリーたちがいた、”ダリアの花屋”だった。
シュタッ!
「お待たせ!」
花屋にかろうじて残っていたテラスへと舞い降りて、その場にいた者たちにそんな言葉を向けるユリア。なお、内心では何か違うことを考えていたようだが、説明は割愛する。
すると、その瞬間。彼女の姿を見たローズマリーが——
「ユリアお姉ちゃん……!」
ぽふっ
——と、どういうわけか、ユリアの胸の中に飛び込んだ。それも泣きそうな顔をして……。
「どうしたの?マリー。虐められたの?……犯人はダリアね?」ちらっ
「ちょっ……」
「もちろん冗談だけど……でも、災難だったわね?ダリア。まさか花屋が襲われるなんて……。あなたもいつの間にか有名になっていたってことかしら?」
「……職業柄あまり有名になりたくないんだけどね」
「そりゃそうでしょうね……。だけど、被害は家だけで済んだんじゃない?家の中身は随分と片付いているみたいだし」にやり
「……早速バレちゃったわね。ボレアスに帰ろうと思って片付けをしていたのよ。そうしたら変なやつに襲われて、そこをマリーちゃんたちに助けられた、ってわけ。家は……ね。命には代えられないでしょ」
そう言って、全壊した、と言っても過言ではない自身の花屋へと視線を向けるダリア。そこにはそれなりに思い出や思い入れのようなものがあったのか、彼女は目尻に小さく皺を寄せていたようだ。
一方、ユリアの胸に飛び込んだローズマリーは、依然として姉に抱きついたまま、何故か小さく震えていたようである。それを見て、ユリアが事情を問いかけた。
「どうしたの?マリー(理由は何となく分かるけど……)」
「ユリアお姉ちゃん……ごめんなさいです……。マリー、ダリアお姉ちゃんのお家を壊しちゃったです……。まだ、お茶の道具、仕舞ってなかったのに……」
「そ、そう……。マリーは優しいのね……。でも、ボタン——ダリアにはもう謝ったんでしょ?」
「はいです……」
「許しても貰ったんでしょ?」ちらっ
「…………」こくこく
「はいです……」
「なら、このお話はもう終わり。マリーが気に病むことは何も無いわよ?(むしろ、よくやった、って褒めたいくらいだけど……)」ちらっ
「…………?」
「分かったです……。今度からは気を付けるです……」
と言いながら、悲しげな表情を浮かべつつ、お茶セット、お茶セット、と呪詛のような言葉を口にしながら、ユリアから離れていくローズマリー。そんな彼女は、家を一刀両断した際に、ダリアが使っていたティーセットも犠牲にしてしまったことを、よほど後悔していたようだ。
それからローズマリーがイブの所に行って、そしてイブにも何やらなだめられている様子を眺めてから……。ユリアは、その場にいた2匹のUMAたち——狩人が操作するマクロファージと、アトラスが操作するクマの人形に対して話しかけた。
「お二方はワルツさんから連絡を受けていますか?」
『あぁ。直接ではないが……隣でワルツとコルテックスが話しているのを盗み聞きしていたよ』
『俺の所にはまだ何も来てないな……』
『すまない、アトラス。落ち着いたら話そうと思っていたんだが、期を逃してしまったようだ……』
『いや、気にしないでくれ、狩人姉。で……動くのか?姉貴』
「そうですね……。ワルツさんだけではないですけど、班を2つに分けて、ちょっと宇宙に行ってこようか、という話になりました」
『ちょっと宇宙に、な……。班を2つに分けるってんだから……さては姉貴のやつ、1人で行くのを嫌がったな?』
と、ワルツたちのところで繰り広げられていただろう話の内容を想像して、一人納得したような反応を見せるアトラス。その言葉を聞いていたユリアと狩人、それにイブが、「あぁ……」と口にしていたのは、ワルツが駄々をこねている様子をリアルに想像できたためか……。
「私はその場に居合わせたわけではないので、詳しい話は分かりませんが……私たち大人組は、ライスの町でお留守番です。イブちゃんとマリーちゃんは……もう大人かも知れませんけど、ワルツさんに付いて行って下さい」
その言葉を聞いて——
「うん……なんか……ユリア様に気を遣わせちゃって申し訳ないかもだね……」
——と、微妙そうに返答するイブ。対する大人たちも何とも言いがたい空気を漂わせていたようだが、少なくともその場にいたローズマリーには——
「はいです!」
——あまり関係のない話だったようだ。
「それじゃぁ、一旦、城に戻りましょう。皆さん、待っていますので」
『あぁ。それじゃぁ、イブかマリー。また頼めるか?クマのことを持って行って欲しい』
「うん……。マリーちゃん持つ?」
「えっと……マリー我慢して、イブ師匠にお譲りするです……」
「……わかったかも(譲らなくても良いかもなんだけどね……)」
そう言って、二足歩行していたクマの人形を持ち上げて、胸に抱えるイブ。その際、彼女は、まるで助けを求めるかのように、その場にいたダリアへと視線を向けるのだが……。その先でダリアが全力で左右に首を振っている様子を見て、仕方なく自分でクマを持ち運ぶことにしたようだ。
と、そんなときだった。
ドゴォォォォォン!!
6人がいたテラスから見えていたライスの街並みの中から、突然、真っ赤な色の光が、空へと向かって立ち上った。
急転直下な展開を書くというのは、何度書いても、難しいのじゃ。
話が変わると言っても、あまりに変わりすぎると、何が何だか分からなくなるからのう……。
……え?手遅れじゃと?
…………zzz。




