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4中-08 拷問2?

さらに次の日。


今日も晴れである。

今がもしも小学校の夏休み期間なら、課題の日記が書き易いのではないだろうか。


ところで、最近、ワルツは一日の流れが早いと感じていた。

というより、今までが色々ありすぎて、忙しかったのだ。

たまにはこういうゆっくりした日々を過ごすのもいいのではないだろうか。




・・・というわけで、朝食を食べた後はサキュバスの尋問である。

サキュバスを捕らえてあるのは、工房の地下にあるカタリナの研究部屋、通称『生体魔法研究施設』だ。


「で、何か言いたいことある?」


捕らえたサキュバスは、金属製のベッド(作業台)の上に縛り付けてあるので、全く身動きが取れない状態にある。

ちなみに今の姿は人間の姿ではなく、コウモリの羽を生やしたサキュバスの姿になっているようだ。

まぁ、どちらにしてもワルツにはサキュバスはサキュバスにしか見えないのだが。


「なんで・・・どうして・・・」


どうして自殺したはずなのに生きているのか、あるいは、バラバラにされたはずなのに何で生きているのか。

何れにしても、自分がどうして生きているのか分からないようだ。


「えっと、死にそうだったから、治した?」


中間を端折(はしょ)って説明する。


「そ、そんな・・・」


サキュバスは最後の手段(自殺)を選択した同志達の中で、生き残った者の話など聞いたことはなかった。

使ったら絶対に死ぬ。

だからこそ最後の手段であって、敵に捕まっても情報を吐かずに逝ける。

まともな戦闘能力を持たないサキュバスにとっては、魔王の配下として生きて、そして死んでいくための唯一の手段だったのだ。


だが、死ぬことすら許されなかった。

それほどまでに、目の前の者達は別格の存在だったのだ。

彼女がそれに気づいた時には既に遅かった。


「んじゃぁ、質問するから答えてねー。あっ、ちゃんと答えないと、死ぬより辛い目に遭わせるから」


とワルツが言うと、カタリナが笑みを浮かべて白衣のポケットに手をツッコミ、何かを(まさぐ)り始めた。


(なんか、怖っ!)


表には出さないが、ワルツもドン引きである。


「ひっ!!」


ワルツやカタリナの技術がどれほどのものなのか、その身を持って知っているサキュバスにとっては、目の前の2人が悪魔か何かに見えていることだろう。


「んじゃ、一つ目。この村に来た理由は?3、2、1、はいアウトー」


3秒カウントダウンを1秒で終わらせる。

そもそも、ワルツはサキュバスに答えさせる気が無かったのだ。


(まずは恐ろしさを体験してもらいましょう)


すると、ワルツはサキュバスの腹に手を当てて、重力制御で内臓を揺すった。

もちろん、傷つけるつもりは全くない。


(腸を揺さぶられると、副交感神経が刺激されてリラックスできるとかどっかで聞いたような・・・)


「いやっ!やめてっ!お願い、何でも話すから!」


ワルツが手を触れるだけで、腹の内部が(うごめ)くのだ。

サキュバスはあまりの恐怖に、涙やら鼻水やら、その他色々なものを垂れ流した。

どうやら、リラックスどころの話ではないようだ。


「で、何でこの村に来たの?」


恐怖体験(?)が終わったので、話題を戻す。


「ぐすっ・・・王都から・・・逃げ出した・・・うえっ・・・魔法使いを追って・・・ぐすっ・・・」


それ自体は、昨日、聞いている。

問題は、


「どうして、追う必要があったのか知りたいのよ」


ということだ。


「わ、分かりません!本当です!魔王様に命じられただけなんです!し、信じて・・・」


だが、国を2つ超えて向こう側にいる魔王が、こんな南端のド田舎まで身元不明の魔法使いを追いかけて来るものだろうか。


「ふむ・・・カタリナ?自白剤ある?すっごい強いやつ」


「えぇ、試作段階でしたら。蟲を脳に寄生させるんですけど、どうしても実験体が発狂してしまうんですよ・・・」


事前に打ち合わせをしたわけではないが、カタリナはワルツの話に乗ってきた。

すると、ポケットの中から、何かが入った蓋付きの試験管を取り出す。


(ほ、本物じゃないわよね・・・?)


「じゃぁ、ワルツさん、頭を抑えてくれますか?耳から入れるので・・・」


「い、いやぁ!!!」


全力で嫌がるサキュバス。

だが、前記の通り、身動きは取れない。


「・・・さっさと話したほうが楽になるわよ?」


「本当に知らないの!お願い!信じて!」


ガクガクと震えることしかできないサキュバス。

・・・どうやら、本当のことを言っているようだ。


「・・・まぁいいわ。質問を変えましょう」


余程怖かったのか、サキュバスが過呼吸になりかかっていたので話題を変える。

ついでに、カタリナには下がってもらった。


「貴女はどこから来たの?」


「王都から・・・です・・・ぐすっ・・・」


実は王都に魔王が潜んでいたりするのだろうか。


「で、魔王も王都にいるの?」


「居ないです・・・ぐすっ・・・魔王さまは祖国の城にいらっしゃいます・・・ぐすっ・・・」


「じゃぁ、魔王からは通信魔法的なもので指令を貰ったってこと?」


「はい・・・そうです・・・」


どうやら魔王は自分の居城でふんぞり返って命令を送っているようだ。

まぁ、自ら敵国のど真ん中までやってくる王など、そうそういるものではないだろう。


「分かったわ。では、最後の質問よ。私達をどうやって付けてきたの?」


サキュバスの背中にある羽で、時速600kmで飛行していたワルツに付いていける訳は無いのだが・・・。


「そこは・・・頑張りました」


(ん?頑張りました?)


「ぐすっ・・・飛んだり・・・転移したり・・・ぐすっ・・・匂いを辿ったり・・・」


・・・犬だろうか。


「本当?」


「本当でしゅっ・・・!」


舌を噛んだようだ。


そんなサキュバスにワルツは、ふと思うことがあった。


「・・・あなた、魔王城で、物を壊しすぎて怒られた・・・とか無いわよね?それで前線に送られた・・・とか」


「っ?!ど、どうしてそれを・・・」


図星のようだ。


(ドジっ子ね・・・)


ワルツはどうやら、言葉遣いと舌を噛む、という点から、このサキュバスがドジっ子であると思ったらしい。

確かに、まともなサキュバスなら、太陽が出ている昼間から、敵地のど真ん中で魔眼(魅了?)など使わないのではないだろうか。

何と言っても『夢魔(サキュバス)』なのだから。


「ま、いいわ。しばらくそのままでいなさい」


「うぅ・・・ぐすっ・・・」


ワルツは、目の前のサキュバスが、どうやらまともな情報を持って無さそうだと判断して、尋問(拷問?)を止めることにした。




「・・・というわけで、あのサキュバスどうしよう?」


サキュバスの尋問を終えた後、工房1階のリビングにメンバーを集めて、対策会議を開くことにした・・・。


「どうしようと言われましても・・・」


「だって、いつまでも地下に捕らえておくわけにもいかないじゃない?地下工房は牢屋じゃないんだから」


「ん?地下工房?」


だが、脱線が始まる。


「地下に工房なんてあったのか?」


テレサと狩人が反応した。

彼女らは、この工房に住み着いて(?)から時間が浅いので、ワルツ達の本当の工房の存在をまだ知らない。


「えぇ。トイレの横の部屋から繋がってるから好きに見てもいいわよ?あ、だけど、地下にある部屋の扉は開けないでほしいかも」


ワルツとしては、クリーンルームの扉を不用意に開けられると非常に困るところだ。

また、カタリナの部屋にはサキュバスがおり、捕らえられているとはいえ近づくと魔眼の影響を受ける可能性があるので、そちらを開けるのも危険である。


「わかったのじゃ」


「私も見てくる」


そういって2人は地下へと降りていった。




・・・しばらくして、


「な、なんじゃこりゃーーーー?!」


地下からテレサの声が上がった。


地上では・・・


「まぁ、普通の人が私達の工房をみたら、そう思うわよね」


「そうでしょうか・・・慣れてしまったので・・・」


「カタリナお姉ちゃん・・・それはちょっとまずいんじゃ・・・」


何に慣れたのか?

それは地下に行った2人が語ってくれるだろう。


叫び声が聞こえてから、10分ほど経って2人が戻ってきた。

どこかげっそりしているようだ。


「・・・この世のものとは思えん」


「何なんじゃ一体・・・どうして壁一面が真っ白に光っておるのじゃ・・・しかも広いというレベルではないぞ」


そう、地下工房は、いつの間にか近代化改修を受けてテクノロジーの塊になっていたのである。


「あぁ、壁が光ってるのは、有機ELパネル・・・まぁ錬金術によるものね」


電源は、水素燃料電池である。

ルシアの水魔法と雷魔法によって生成された水素を利用しているので、燃料はいくらでもあるのが利点だ。

10年は充填しなくても使える設計になっている。


その上、工房のサイズも自体も大きくなっていた。

地下工房を作成した当時は工房の建物から酒場の地下程度の距離(30x10mx3m程度)だったのだが、今では村の地下が全て工房というサイズにまで拡張されていた。

(さなが)ら、人工ダンジョンといったところか。

もちろん、モンスターは湧かないが。


その他にも色々と改造されているのだが・・・割愛しよう。


「お主・・・錬金術ってレベルではないぞ?」


「まぁ、この世界にある材料を的確に使えば、そんなに難しいことじゃないわよ?」


「・・・」


いや、それはどうなのか、という顔をしながらテレサは黙った。


「それに、地下工房を作るときは、私・・・というより、殆ど、ルシアとカタリナがやってくれたのだし・・・」


実際、ルシアの火魔法と氷魔法によって高速で建材を生成して、カタリナの結界魔法の応用で溶接していったのだ。

穴を掘ったのもルシアだし、空調などの細かい設備を作ったのもカタリナである。

ワルツが手を加えた部分は、材料を運ぶところと、金属を圧延する部分、それとELパネルの生産と設置、水素燃料電池発電設備の敷設、配電設備に・・・・・・おや、意外と関与しているのではないだろうか。


「じゃぁ、折角だし、テレサと狩人さんの部屋も用意しましょうか?」


「えっ?いいのか?」


「ほう?あの場所に妾の部屋が・・・」


「・・・お姉さま。私の部屋も欲しいのですが」


「あ、ごめん、忘れてた。・・・じゃぁ3人分の部屋が必要ね」


というわけで、地下()工房に新しい入居者が増えるのだった。




「・・・で、サキュバスの件なんだけど」


完全に放置状態のサキュバス。


「ご飯とか、何を食べるんだろう・・・人の血?」


「・・・それは吸血鬼じゃなかろうか?」


「本人に直接聞いて見るのが一番早いのでは?」


「それもそうね」


「・・・って、サキュバスは魔王の手下なんだろ?・・・まぁ、ワルツはそんなこと気にしないか・・・」


敵に食わせる飯はない、と言いかけた狩人。

だが、ワルツと共にいると『敵とは何なのか』という禅問答が始まるようだ。

そもそも、ワルツにとって脅威になる敵などいないのだから。


「後で本人に聞いとくわ。で、どうしましょ?少なくとも、逃がすと言う選択肢は無いわね」


工房の場所を知られてしまった以上、逃すわけにはいかない。


「・・・やっぱり、サクッとヤってしまったほうがいいんじゃないか?」


まぁ、食事の準備や管理を考えるなら、早々に処分したほうが楽ではある。


「ですが、先日、毒物の対処をした際に見た彼女の身体は、私達の身体と全く同じ作りをしていました。見た目は違いますが、恐らくは人間に類する種族なのではないかと。なら、簡単に殺す、というのは如何なものかと思います」


と口にしたのはカタリナである。

つい2ヶ月前まで、勇者たちと共に世界中の魔族(?)と戦ってきた者とは思えない発言である。


「ふむ・・・」


狩人も頭が固い訳ではないので、カタリナの言葉は理解できていた。

だが、相手は自分の国に敵対している魔王の手下である。

そう易々と処遇は決められないのだろう。


「わたしは、お姉ちゃんに任せるよ・・・もし、逃げようとしたら・・・」


ルシアの掌の上で何か光る粒が渦巻いていた。

つまり、消す、ということなのだろう。

昨日、自分達に対して攻撃を加えようとしたことを根に持っているのだろうか。


「・・・うん。分かったわ。分かったから、とりあえずそれを仕舞いましょ?」


姉の言葉に、魔法を霧散させるルシア。


「・・・ルシア嬢は凄いのう・・・。妾も頑張らなくては!」


一体、何を頑張るのだろうか。


「妾も、お主に一任するぞ」


テレサは一応、この国の王女なのだが、敵国の間者の処遇をそう簡単に他者に委ねてもいいのだろうか。

ワルツがそんな疑問を頭に浮かべていると、テレサが補足する。


「そう簡単に逃げ出せたり、裏切ったりできるものではないじゃろう?むしろ、このパーティーから本気で逃げ出そうと考えるなら、妾はサキュバスのことを見直すがのう」


まるで、このパーティーが難攻不落の要塞か牢獄のような言い方である。

確かに、逃げ出そうとしたり、謀反を起こそうとした瞬間、生きていることを後悔させられることだろう。

主に穏健派であるカタリナが、である。


「・・・分かったわ」


後は、狩人次第なのだが・・・


「まぁ、テレサがそう言うなら、私もワルツに任せるよ」


「いいの?」


「あぁ。国として戦っているのは分かっているが、私自身は特に恨みがあるわけではないからな」


王女が別に良いと言っているのに、一介の騎士である自分がいつまでも反対するのはどうか、と考えたようだ。


「そう・・・じゃぁ」


「あの・・・私のことを忘れていませんかお姉さま」


一人だけ意思表示のしていなかったテンポが口を開く。


「でも、反対意見を出すわけではないでしょ?」


「まぁ、そうですが、一言だけ言わせて下さい」


「何?」


「・・・提案なのですが、サキュバスを雑用に使う、というのは如何でしょうか?」


「雑用?」


「はい。例えば、家の周りの草むしりとか、川への水汲みとか、荷物持ちとか、酒場の店主さんの対応とか・・・」


酒場の店主の対応は雑用なのだろうか。


「なるほどね」


と、納得しかけたところで、ふとあることを思い出すワルツ。


「あ、でも、あの娘、ドジっ子属性があるわよ?」


カマをかけて聞き出した本人談だが、魔王城で粗相をして前線に送られてきた(らしい)のだ。

そんなサキュバスに仕事を押し付けても大丈夫なのだろうか。


「・・・つまり、お姉さまは、人には向き不向きというものがあると仰りたいのですね?・・・ですが、私は思うのです。人間死ぬ気になれば何でもできる、と」


「・・・拷問ね・・・」


粗相をする度に、命の危険を感じるような躾でもするのだろうか。


「・・・じゃぁ、サキュバスを雑用として使う、と言う方向で、みんないい?」


すると皆が頷いた。




こうして、暫定的ではあるが、ワルツパーティーの雑用としてサキュバスが組み込まれる事になった。

あとは本人の意向次第である。


もちろん、拒否権は無いが。


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